■ いつまで続く? MPEG-2テレビ録画 現在、パソコン上でのテレビ録画といえば、MPEG-2がデファクトスタンダードになっている。今やコンシューマ向けメーカーPCの過半数を占める「テレパソ」だが、その歴史はそれほど長いものではない。 例えば今から5年ほど前、2000年頃のPC Watchの年末には、チューナ付きのMPEG-2キャプチャカードを特集している。この時代には、まだ先端PCユーザーの視線だけを集めていたものだった。5年以上経った今、読み返してみると、いかにMPEG録画が使いやすく、一般的になったのかと思う。 MPEG-2がここまでの普及を果たしたのには、様々な理由があるだろうが、DVDビデオでの採用と、それにともなうデコーダ/エンコーダの普及と低価格化、という点は非常に大きい。DVDが歴史的な成功を収めたがゆえ、関連デバイスやソフトウェアの普及が進み、MPEG-2というコーデックの普及も急速に進んだ。 近年ではさらに成熟が進み、エンコード技術の進化により、SD解像度であれば3Mbps程度でもかなりの画質が実現できるなど、かつてのMPEG-2からは考えられない性能を実現している。 ただ、MPEG-2の急速な普及の間にも、さらに高圧縮なコーデックも続々と登場している。MPEG-4 Simple Profileをはじめ、MPEG-4系のDivXや、オープンソースなXviD、さらにWindowsでは標準コーデック的な位置づけとなるWMVなどが代表例だろう。その中には消えていったり、特定用途で生存の道を探るコーデックも数多くあった。 HDD容量の飛躍的な増大もあり、MPEG-2の完全なリプレースとは至っていないが、ポータブルプレーヤーや携帯電話などへの転送/再生など、用途の多様化への対応などが求められる昨今、新コーデックの期待は高まっている。画質や伝送帯域、ファイル容量などの観点からより、圧縮率の高いコーデックが求められているといっていいだろう。 そうした中、注目が集まっているのは、WMVとH.264(MPEG-4 AVC)だろう。かつての高圧縮コーデックの代名詞であったDivXは、家電分野での支持を集めつつあるものの、若干勢いを失ないつつある。 その点、DVDの次世代、HD DVD/Blu-rayでもWMV(VC-1)とH.264の対応が決まっている。また、H.264はワンセグ放送でも採用されるなど、対応の幅を広げている。しかし、WMVはもちろん、さらなる演算性能を求められるH.264に関しては、従来コンシューマ用のハードウェアエンコーダが存在せず、それ故テレビ録画には利用されていなかった。 しかし、バッファローが6月末より発売した「PC-MV9H/U2」は、ハードウェアエンコーダを搭載し最大720×480ドットのH.264録画に対応したという。まさに新コーデックの可能性を探るにはもってこいの製品だ。実売価格は約25,800円。普通のUSB 2.0キャプチャユニットと比較するとやや割高だが、それでも待望のH.264ハードウェアエンコーダの初値と考えると、リーズナブルに感じる。
■ 重量感のある筐体デザイン。チューナスルー出力も装備 同梱品は付属ソフトのCD-ROMのほか、USBケーブルや縦置きスタンド用の脚部などシンプル。
本体の外装は金属製で、同社のHDD製品などで採用されているという「コーベホーネツ」を採用。近年のPC周辺機器としては、質感がしっかりしており、黒を基調とした一見地味なデザインだが、業務機器のようなハードで質実剛健な外装はなかなか格好いい。外形寸法は170×180×38mm(幅×奥行き×高さ)。重量も890gと、2万円そこそこの製品とは思えない重量感がある。 前面には外部入力用のS映像、コンポジット、アナログ音声の各端子とUSB、電源ボタンを装備。USBは後面とあわせてUSBハブとしても動作する。背面にはチューナ入力と出力、USBと、PC接続用のUSBミニ端子、さらにサービスコンセントを備えている。 チューナのスルー出力や、PC-MV9H/U2の拡張用ながらサービスコンセントがついているというのはPC周辺機器としては珍しい。なお、1台のPCに対して最大10台までの同時接続が可能で、複数番組の同時録画/視聴が行なえる。
■ 約2Mbps強でD1録画。H.264のクオリティはまずまず
録画ソフトは同社開発の「PCastTV2」を利用する。iEPGを利用した録画予約はもちろん、ジャンルやキーワード指定による番組検索/予約や録画番組の管理機能などを装備。視聴画面も3タイプが用意される。 複数台の同社製キャプチャ製品の管理や、サムネイル付きの番組管理機能など、機能は非常に充実している。対応OSはWindows 2000/XP。なお、ハードウェアエンコードながら、パソコンの要求スペックは高く、Pentium 4 2GHz以上相当のPCが必要となる。今回は、Athlon 64 3500+(2.21GHz)、メモリ2GB、HDD 200GBのPCを利用した。
録画可能なフォーマットはH.264のみ。録画モードは[H.264]、[iPod]、[PSP]の3モードで、H.264には高画質/標準/低画質の3段階、PSPとiPodではそれぞれ2段階の画質設定が可能となっている。ビットレートや解像度の手動設定も可能で、解像度は最大720×480ドット。 iPod/PSP用の録画時には、接続したiPod/PSPへの直接コピー機能も搭載。デバイスがPCに接続されていれば、録画終了後に自動的にコピーを行なう。 PCastTVに大きな不満はないが、気になったのは予約一覧には録画形式がiPod/H.264などとモード表示されるのに、録画済み一覧では単に[MPEG-4 Video]としか表示されないこと。できれば録画終了後も録画モードをすぐに判別できるようにして欲しかった。 また、テレビチューナのほか、S映像/コンポジットの各外部映像入力も備えており、VHSなどからの実時間でのH.264録画などにも利用できる。
肝心の録画品質は、個人的にはもう一歩という印象が残る。低画質モードでブロック状のノイズがかなり多く見られるのはしかたないとしても、標準でも解像感が今ひとつ。高画質では解像度はあるが、ディテールが消えてしまいツルっとした画になっている。 もっとも、録画したドラマやスポーツ番組を見ている限り、H.264であることを意識するほどMPEG-2と違う訳ではなく、同等画質のMPEG-2に比べビットレートはかなり低く抑えられており、2Mbps程度の画質としては破綻は少ない。 しかし、XCode搭載キャプチャカードなど、最近のMPEG-2では4~5Mbps程度でかなりの画質を実現していることを考えると、H.264にしても容量的には半分程度にしかならないことになる。ファイル容量と画質、さらにその後のファイルの使い回しを考えて、どこまでファイル容量の小ささにメリットを見いだせるか、が活用のポイントになるだろう。 一方、PSP用やiPod用については、いずれも解像度が320×240ドットになるものの、発色が良く、ディティールが残っており、満足度は高い。特に700kbps程度の高画質モードでは不満は感じなかった。
コンシューマ製品では世界初のD1解像度(720×480/640×480ドット)でH.264ハードウェア録画というのは技術的には興味深いものの、ファイルサイズの低容量化以外にも魅力がほしいところ。個人的に気になっていたのは、PSPにD1解像度のファイルを転送して再生できるのかということ。 というのも先日の「映画テレビ技術2006」取材時に、UMDビデオのオーサリングツールについて、「現在のUMDビデオのほぼすべてが720×480ドットのMPEG-4 AVC」との話を聞いていたからだ。従来のPSP用変換ツールの多くが320×240ドットだったため、UMDビデオでも低解像度に変換してオーサリングしていると考えていたのだが、D1解像度で800kbps程度の映像を収録しているのだという。
UMDとメモリースティックと、メディアは異なるが、「VGAサイズのH.264がPSPにそのまま転送できれば、PCで録画したファイルをPSP向けにコンバートする必要が無くなるのでは無いか」ということ。 テレビキャプチャカードでのPSP対応というと、通常録画したMPEG-2ファイルを、録画後にPSP用にソフトウェアでコンバートして転送、というのが一般的。PC-MV9H/U2ではPSP用のファイルを直接録画できるわけだが、さすがに320×240ドットをPCで鑑賞するのは厳しい。そこで、PC上で鑑賞・保存用にD1解像度で録画し、それをそのままPSPに転送して再生できれば便利だと考えたのだ。 実際に、メモリースティックのROOTフォルダに[MP_ROOT]-「101ANV01」とフォルダを作り、「MAQ0000*(*は任意の1文字)」とリネーム。録画したH.264モードの高画質/標準/低画質ファイル、PSP、iPodの各ファイルを、転送してみた。 しかし、やはり、PSP側で認識/再生できたのはPSP用プロファイルで録画したファイルのみ。iPod用は認識はされるものの再生はできなかった。 なお、PSP用ファイルを録画後に、直接転送した際にも、番組名などは付加されない。一方、iPod用プロファイルで録画して、iPodに直接転送した場合は、番組名もPCastTV上のファイル名と同じで、きちんと確認できた。 D1のH.264ファイルが認識されないのは残念だが、メモリースティックとUMDのビデオの扱いが違うということなのだろう。PSPがファームウェア 2.00でH.264再生に対応したように、ファームウェア 3.0あたりでD1解像度のH.264をサポートしていただけると大変ありがたいのだが……。
■ H.264トランスコーダとしても利用可能
PSPでD1解像度のH.264を扱えないのは残念だったが、PC-MV9H/U2では、もう一点注目したいポイントがある。それがH.264のハードウェアトランスコーダ機能だ。H.264のハードウェアエンコードが可能な民生用カードなどは、ほとんど発売されておらず、そうした意味でも使い勝手が期待される。 H.264トランスコードには、専用アプリケーション「PCastTV2トランスコーダ」を利用する。なお、PCastTV2でのH.264テレビ録画時にはトランスコーダを利用することはできない。 読み込み可能なファイルはMPEG-1/2のみ。今後のAVIやWMVへの対応も期待したいが、通常の用途としては変換元のファイルがPCで録画したテレビ放送と考えれば、まずはMPEG-2に対応していれば十分ともいえる。 変換可能なモードはH.264/iPod/PSPの形式で、PCastTV2での録画と同じH.264が3モード、iPod/PSP各2モードを用意。そのほかにもWMVやAVI、MPEG-4の項目も用意されているが、これらはソフトウェアエンコードとなる。
まずは、640×480ドット/5Mbpsで、約20秒(14.1MB)のMPEG-2ファイルをH.264の最高画質(640×480ドット/平均2.5Mbps)で変換してみると86秒かかった。H.264標準で83秒、低画質で89秒と、VGA解像度では画質モードの違いはほとんど出ない。
予想外に遅い。実時間より大幅に遅いのでさすがにちょっと面食らった。ビットレートを8Mbpsや3Mbpsのファイルに変えても、あまり速度は変わらず。iPodやPSPの低解像度ファイルでは速いのか? と思ったが、若干変換時間は短縮されるもの、あまり変わらない。USBでの転送などさまざまな点でボトルネックがあるのかもしれない。
【訂正】
しかし、7分31秒/約8MbpsのMPEG-2ファイルを[H.264 高画質]変換してみたところ、約15分35秒で終了した。実時間の約2倍強での変換終了となった。[標準]でもほぼ同程度で変換終了した。20秒程度のファイルではかなりのオーバーヘッドが発生していた模様だ。実用的かと言われると微妙ではあるが、ソフトウェアエンコードよりはかなり高速ではあるだろう。 さらに、QVGA解像度の[iPod 高画質]では約11分30秒と実時間の1.5倍強、[PSP高画質]でも約11分20秒と、かなり速度的には向上した。リアルタイムとはいかないものの、出張前に一気にMPEG-2をH.264化してPSPに、などといった時には活用できるかもしれない。しかし、テレビ番組がリアルタイムで録画できるのを考えると、もう少し高速化を期待したいところではある。 なお、変換モードでfor iPodを選択した場合は、PCastTVへの登録のほか、変換後のiTunesライブラリへの転送、iPodへの転送処理までも設定可能。PSPの場合でも、[PSPへの転送]のチェックボックスが用意されており、録画/転送までの作業の簡略化が図れるなど、iPod/PSP転送に関しては、ツールの機能としてはしっかりしている。それだけにもう少し高速な変換が可能になると面白いのだが……。
なお、PCastTV2の[録画済み番組]で、再生番組を選択する際に、右クリックで、再生などのほか[トランスコード]という項目が現れる。しかし、これは同社のPCIキャプチャカードでAVI/WMVのトランスコードを行なうためのもので、PC-MV9H/U2では特に使わないようだ。 また、H.264ファイルに対応する編集/オーサリングソフト「PowerDirector5 for BUFFALO」も付属。録画したH.264ファイルを読み込んで、カット編集などが可能となっているほか、DVD化機能も備えている。
■ “初物”としては機能充実で、安価だが…… 初のH.264テレビキャプチャユニットで、価格も3万円以下で“初物”としてはかなり安価。機能的には同社のPCastTV2をそのまま利用しているため、バッファローのMPEG-2キャプチャ製品と遜色ない使い勝手を実現しており、初物にありがちな機能の不足などは感じない。 製品としてはユニークなのだが、H.264をどのように生かすか、によって評価が分かれそうだ。「単純にHDD容量を節約したい」、といった人にはすでにかなり充実した機能と、画質のバランスを実現している。ただし、それ以上を求める場合には、どうやって活用するかをしっかりと検討したいところだ。 トランスコーダとしてもう少し活用できると、非常に魅力的になるのだが、今のところ、その点ではかなり微妙な変換速度と言わざるをえない。一方、iPodやPSPを活用しており、PC用ファイルもQVGAファイルの拡大再生で構わないのであれば、録画から転送までのかなりの部分の省力化が可能な製品になっている。 ただ、MPEG-2ファイルのトランスコーダとして利用したいとか、高画質で汎用的なフォーマットを望むのであれば、もう少し周辺環境の整備などを待った方がいいのかもしれない。使い勝手的には初物感はあまり無いが、いろいろ使い方を考える、という初物らしい楽しみは結構あるかもしれない。 □バッファローのホームページhttp://buffalo.jp/ □ニュースリリース http://buffalo.jp/products/new/2006/000203.html □製品情報 http://buffalo.jp/products/catalog/item/p/pc-mv9h_u2/index.html □関連記事 【6月14日】バッファロー、H.264録画専用のTVキャプチャユニット -D1解像度で録画可能、PSP/iPodに自動転送 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060614/buffalo.htm 【6月7日】「映画テレビ技術2006」開催。HDカメラや新プロジェクタなど -SCEはUMDビデオオーサリングツールを出展 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060607/eigatv.htm (2006年7月14日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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