■ Digital Cubeの新作 映像や音楽、写真などが見られるというものをポータブルプレーヤー(PMP)だと広く定義するならば、今やそれ自体がいろいろな「出身」を持つようになったのだという考え方ができる。「iPod」は音楽プレーヤー出身だし、「PSP」や「プレイやん」はゲーム機出身。これらの製品は、ベースとなる機能が存在するとこで、そこのユーザー層にアプローチすることができる。その一方で、最初から映像コンテンツが見たいのだ、というビデオプレーヤーの流れを汲む製品も存在する。2004年頃にはWindows PMCが音頭をとっていくつか製品が出たが、国内ではあまりパッとした成績を残さなかった。日本はMCEが流行らなかったこともあって、映像とWindowsがイコールで結ばれない世界なのである。 Windows系ではない汎用性の高いPMPは、過去iRiverなど韓国企業が製品化したが、中でも個人的に印象に残っているのは韓国Digital Cubeの「PMP-1000」である。日本ではNEXXが「PMP-1200」という型番で、2005年4月に製品をリリースした。非常に完成度が高く、奇麗な作りなのが特徴で、愛用していた。 そして今回その後継モデルと目される「BMP-1430」が、日本でもBLUEDOTから7月10日に発売された。想定市場価格は約7万円。既に韓国では「i-Station V43」という名前でリリースされている製品を、日本向けにローカライズしたもののようだ。 作りが奇麗なDigital Cube製品ということで期待が高まるBMP-1430を、さっそく試してみよう。
■ 細かいところまでしっかりした作り ではまずデザインから見ていこう。光沢感のある白で全体をまとめてあり、全体的に上品な印象を持つ。本家i-Station V43にはほかにもクロームブラック、ブルーブラック、ピアノレッドといったカラーバリエーションがあるようだが、日本向けにはこのスノーホワイトモデルをチョイスしたということだろう。搭載液晶がワイド画面になっており、それが表面の大部分を占めるというのは、これからのPMPのあるべき姿だ。液晶画面の解像度は480×272ドットで、画素数比ではほぼ16:9となっている。 実際にPMP-1200と比較してみると、ボタンの構成やバッテリの実装方法、タッチスクリーンを使ったGUIなど、製品の作りの方向性が同じであることがわかる。
本体右側にはACアダプタとミニUSB端子が、上部にはリモコンとヘッドフォン端子がある。本体左側にはUSBのA端子があり、ここにデジカメなどを直結すれば、写真を吸い出すことができる。また底部には、AVケーブルやクレードルを接続するための集合端子がある。
内部的には、30GBのHDDを搭載し、OSはLinux。CPUはAMDがPMP向けに開発、昨年中頃から出荷を開始した「Alchemy AU1200」の400MHzを搭載している。このCPUは、内部にMPEG-1/2/4、WMV9、DivXといったデコーダを内蔵しており、別途DSPなどのチップが必要ないのが特徴だ。
ちなみに前作のPMP-1200では、デコーダにSigma Designsの「SMP8510」を採用していた。PMPやSTBの世界では、DSPとCPUが一体化する傾向があり、Sigma Designsも最近のチップではCPUを内蔵している。 機能としては、動画再生、オーディオ再生、写真表示の3つを基本として、FMラジオ、電卓、手書きメモ、カレンダー、アラーム、ストップウォッチ、テキスト表示機能など、かなり豊富。FMラジオには、録音機能もある。バッテリの充電に約4時間、連続再生時間はビデオが約7時間、音楽が約10時間となっている。
付属のイヤフォンは、韓国CRESYN製のもので、形状から判断するに「AXE599」の色違いモデルではないかと推測する。CRESYNのイヤフォンは日本製品でも多くの採用実績があり、音質的には悪くない。 別売のリモコンも見てみよう。本体と同じく光沢感の強い白をベースにしたデザインで、モノクロの液晶画面を備えている。液晶横には本体と同様ジョイスティックを備えているが、リモコンの画面を見ながら操作するためのもので、上下左右にアサインされている動作は、本体のものとは異なっている。
リモコンから選択できる機能は、ビデオ再生、音楽再生、FMラジオの3つだけ。リモコン上部には、電源ボタンが付けられているのはユニークだ。多くのポータブルプレーヤーでは、電源だけは本体で入れるようになっているものだが、大きめの本体をバッグにいれたままで音楽だけ聴きたいといった用途を想定したものだろう。なかなかよく考えられている。 リモコン底部にはボリュームボタンがあり、また録音ボタンもある。FMラジオを聴いているときに、このボタンで録音ができる。またイヤフォン端子部分にはマイクもあり、ハードウェア的にはボイスレコーディングも可能なのかもしれない。ただ、現在のところはソフトウェアとして、そういう機能はないようだ。
別売のクレードルも見てみよう。こちらも本体カラーに合わせた作りで、なかなかしっかりしている。面白いのは、バッテリを外して充電できるというところだ。 多くのバッテリ駆動製品がそうなのだが、ACアダプタを接続しても、本体を使用しているときには充電されないものが多い。だがこうしてバッテリを外して充電できれば、本体はACで別途駆動させつつ、バッテリも充電できるというわけである。このあたりはかなり力ずくではあるが、国内メーカーではなかなか出てこない発想だろう。
■ アニメに弱い? 動画再生 まず動画の再生から試してみよう。本機で再生できるのは前出のようにMPEG系、WMV系、DivX系である。転送はUSBでPCに接続し、ファイルをドラッグしてコピーするだけだ。再生はトップ画面からVIDEO PLAYERを選択して、ファイルを選択する。チェックマークによる複数選択も可能で、その場合はテンポラリ的にプレイリストが作成される。
30GBのHDDを搭載しているからには、MPEG-2で録画したテレビ番組をそのまま転送して視聴するというのが、一番手っ取り早いように思える。そこでまず、NECのAX-300で録画したMPEG-2ファイルを視聴してみた。 これがまあ再生自体はできるのだが、早送りやシークバーを使った再生位置の変更が全くできない。マニュアルには一部のファイルではできないことがあると書かれているが、それがもっとも使用頻度が高いと思われるMPEG-2だとは思わなかった。
また転送したファイルは720×480ドットなわけだが、アニメ動画に関してのみ盛大なコムノイズが発生する。同じフォーマットの動画でもビデオカメラ撮影による実写の映像では発生しないので、どうもI/P変換周りとスケーラーとの兼ね合いに起因するのではないかと想像する。 またせっかくワイド液晶なのに、それを生かすための再生モードがないというのは勿体ない。例えば現状で入手できるワイド画面の映像というのは、アナログ放送で上下に黒が入った、いわゆるレターボックスの映像ぐらいである。いやもちろんデジタル放送ではワイドで放送しているが、転送できないのでこれは論外だ。 で、このレターボックス映像を、16:9のモニタにフィット表示させるモードがないのである。表示モードを「フル」に変更すると、画面アスペクトを無視して、上下に黒が入った状態で横長の映像になるので、これは使えない。 ワイド液晶にフルに表示させるには、あらかじめ映像系の変換ソフトなどを使って、上下を切り取った映像ファイルを作らなくてはならない。こういうのは日本の放送事情特有の問題なのかもしれないが、ぜひ対応して欲しいものである。 次にDivXの動画を試してみた。公式発表では後日正式に対応するということだそうだが、現時点でも再生は可能だ。おそらく公式ライセンスの発行待ちといったところではないかと思われる。DivXのオフィシャルサイトにある映画のトレーラーをいくつか再生してみたが、画像自体がほぼ16:9に近いサイズで作られているため、ワイド液晶の全域を使った表示が楽しめた。 またMPEG-2ファイルからVGAサイズのDivXやWMVファイルを作成して試してみたが、事前にデインターレース処理を行なっておけば、VGAサイズのアニメ画でもコムノイズは発生しないようだ。 製品には変換用のツールとして、「Orange」というソフトウェアが付属している。複数のファイルを順次変換する等の作業で使うためのソフトウェアだ。なおDivXとWMVでは、早送りなどのトリックプレイは問題なく動作した。
■ そつのないオーディオ再生 続いてオーディオ系を試してみよう。まずオーディオプレーヤーだが、これも映像と同じくメインメニューからプレーヤーに移動したのち、再生ファイルを選択する。もちろん音楽の場合は複数選択が基本となるわけだが、こちらは再生ボタンを押したときに、現在のプレイリストに追加するか新規で作成するかを選択することができる。
つまり複数のプレイリストを作成することが可能で、作ったプレイリストは本体のHDDに保存できる。だがプレイリスト名を自分で入力することができず、日付と連番名になる。 本体からの音声出力は、若干低域寄りのややもっさりした傾向がある。付属のイヤフォンもどちらかと言えば低域寄りのクセがあるので、そのままではちょっと組み合わせが悪い。イコライザで補正してやるといいだろう。イコライザはノーマルのほか7つのプリセットと、1つのユーザープリセットがある。ユーザープリセットは、10バンドのグラフィックイコライザだ。
曲間は結構空く方なので、ライブ音源などは辛いだろう。もっともこの手のプレーヤーで、曲間が空かないものはほとんどないので、平均的な出来と言えないこともない。 FMラジオは、「TOOL BOX」の中にまとめられている。受信状態のいいところで「Scan」を実行することで、上部のボタンに周波数が登録されるというスタイルだ。受信感度は、専用のラジオに比べれば大したことはないが、受信状態が良好な場所ではなかなか綺麗に聞こえる。ただFMラジオではイコライザが使えないのは残念だ。
■ デジカメからの取り込みもできる 続いて写真機能を見てみよう。本機にはUSBホストコントローラが搭載されているため、デジカメとUSBで直結して画像を取り込むことができる。実際に接続してみると、ファイルマネージャが起動して、デジカメのメモリがDドライブとしてマウントされるのがわかる。だがやってくれるのはここまでで、HDDへの取り込みは、自力でコピー&ペーストしなければならない。いくらGUIがあるからといっても、パソコンやPDA並みに使いやすいわけではない。取り込みぐらいは自動でやってくれてもいいだろう。 取り込みが終わったところでフォトビューワを起動して、写真を確認する。サムネイルでも確認できるほか、全画面表示も可能で、ジャギーなどは思ったよりも感じられない。
また取り込んだ写真はメインメニューやオーディオプレーヤーの背景画に指定することができる。スライドショー表示も可能で、このときにミニプレーヤーを起動させて、プレイリストの音楽を再生しながら写真を楽しむといった、ちょっと気の利いた機能も備えている。
一応テキスト表示機能なんかも試してみたが、文字の見え方などは問題ない。またテキストを自動スクロールしたり、これまた文書を読みながらミニプレーヤーで音楽が聴けたりという機能がある。 そのほかの機能も、簡単に紹介しておこう。何に使えるかビミョーではあるが、とりあえずできること全部やっときました的なところだろうか。
■ 総論 「BMP-1430」は、製品の出来としては外装やデザインは綺麗だし、質感は非常に高い。ただ日本人的な感覚としては、もう少しソフトウェア細部の詰めが甘い感じがする。また動作も、ファイルを選んでから再生されるまで一拍待たされたり、設定中にタスクが詰まって無反応になったかと思うと、しばらく経って一気に実行されるようなところがある。これを「おおー、AMDプロセッサでLinux動いてるなぁ、楽しいなぁ」と見るか、「それってまずプレーヤーとしてどうなの? 」と見るかで、評価が分かれるところだろう。Linuxで動いているということで、既存ユーザーのあいだではゲームやPIMソフトをインストールしたりという動きもあるようだ。つまりLinuxマシンでもあるPMPという面白さがもう少し日本でも伝わってくると、また受け止め方も違ってくるように思う。 もう一つのネックは、やはり7万円という価格だろう。モノとしては決して悪くはないのだが、これまでのPMPがだいたい5万円程度であったことを考えると、ワイド液晶にプラス2万円の価値があるかは微妙だ。単純に映像を楽しみたいだけなら、PSPとメモリ1GBとロケフリ買ったほうが安くないか? と考えてしまう。 クレードルのアイデアなど、今後のポータブルデバイスのあり方として見るべきところも多い。ただ日本では、映像コンテンツ視聴の興味がデジタル放送やホームネットワーク、IP伝送にシフトしつつある。 これがデジタル放送の暗号化にも対応といったことができればまた話は違うのだろう。 だが、いわゆるアナログ放送録画ベースの純粋なPMPデバイスは、日本では需要がなくなりつつあるのではないか、という気がする。これからのPMPは、その出自を上手く利用してして、コアユーザーを確保していく必要があるだろう。
(2006年7月5日)
[Reported by 小寺信良]
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