■ で、VARDIAってなんだっけ? 松下はTechnics、日立はLo-D、と昔のオーディオブランドを回想してみたことがあったのだが、東芝の昔のブランドがどうしても出てこない。2日ほど考えて、ようやくAurexだったと思い出したわけだが、読者諸氏はAurexの名前を知っているだろうか。今頃なんでこんなことを言いだしたかというと、東芝は昔からブランディング戦略が上手くできないよなぁと思い出したからである。その理由は、東芝自身がブランド名を訴求するのをよく忘れるからじゃないかと思うのだが。 史上初HD DVDレコーダ「RD-A1」の記事はいろいろ上がってきているが、フロントパネルに刻まれた「VARDIA」に言及したものは、ほとんどない。VARDIAは、そのブランド立ち上げの記者発表会では、「HD DVDレコーダでもVARDIAブランドが使用されるか否かについても検討している段階」としてきた。 それがフロントパネルに正式に刻まれたのだから、VARDIAはHD DVDも含めて東芝のレコーダとしてのブランドという位置付けになったと理解していいだろう。ところがRD-A1の発表会の質疑応答の席で、価格について質問された東芝DM社藤井社長が「それなりにVARDIAシリーズとは中味も違っとると思っておりますし」と発言しており、こちらとしては「じゃあVARDIAってどれなのよ」と苦笑せざるを得ない。 VARDIAよりもRDのほうがよほど知名度は高いが、アルファベット2文字の組み合わせでは登録商標にできない。東芝としては次世代DVDを目前にして、ブランド戦略に焦りが見られるように思える。 さて今週は、そんなHD DVD レコーダ「RD-A1」のレビューをお送りする。HD DVD陣営として初の録再機、そして398,000円という価格、また7月14日の発売予定が生産の遅れから7月27日に延期されるなど、いろんな意味で話題豊富なこのマシンを早速試してみよう。 なお今回お借りしているのは試作機であるため、製品版とは動作・仕様が違う可能性があることをあらかじめお断わりしておく。
■ 重厚だが重すぎない外観 まず全体的なデザインから見ていこう。さすがに398,000円という価格から連想できるように、ボディーの作りの良さはレコーダとして前代未聞と言っていい。過去にも「RD-Z1」というすごいモデルが出たが、あきらかにそれを超える。
外寸では高さが159mmと、従来のレコーダのほぼ2倍である。太い脚部があることからシルエットとしては重厚だが、全身アルミの外装に助けられて、それほど重すぎる印象は受けない。ただ重量としては15.2kgあり、世界初のBlu-rayレコーダであるソニー「BDZ-S77」よりも1kg程度重い。 フロントパネルは電動でスライドオープンするようになっており、パネル内にはHD DVDドライブのほか、USB互換のEXTENTION端子が3系統ある。マニュアルによれば、ここにUSBキーボードを接続できるほか、Bluetooth USBアダプタを接続することで、Bluetooth搭載携帯電話から本体が操作できるようだ。ただここにアダプタを接続すると、フロントパネルが閉まらなくなっちゃうのが惜しいところである。 操作系のボタンはシンプルで、停止・再生・録画ボタンしかない。表示部には、HDDとHD DVDそれぞれにTS、VRの録画状態、再生状態を示すLEDが仕込まれている。
背面に回ってみよう。チューナはアナログ地上波、地デジ、BSデジ、110度CSの4つ。デジタルとアナログのW録は可能だが、デジタル放送のW録はできない。 アナログAV入力は、背面に2、前面に1の3系統。そのうち入力3のみD1入力に対応している。出力はかなり豊富で、HDMIはもちろん、D4端子とBNC端子のアナログコンポーネントがある。またS映像/コンポジットのアナログAV出力が3系統、音声出力はデジタル同軸・光の両方を備え、アナログの5.1ch出力を持つ。i.LINK端子は、MPEG-2 TS用に背面に2系統。前面にもDV接続用の端子が一つある。 さすがにお借りしている物をバラすわけにはいかないが、6月22日の記者発表時に分解モデルが展示されていたので、実機と合わせてみていこう。内部は二重構造になっており、底部は電源とオーディオ回路、ドライブ類が搭載されている。HDDは2基で、合計1TB。
その上にHD DVDの記録再生用基盤が乗っかる形になる。パッと見る限り、PC用のマザーボードのような雰囲気だ。その2層のあいだに、ビデオ信号処理基板が挟み込まれる形だ。展示では2枚になっているが、これは裏表を展示してあるだけで、実際に搭載されているのは1枚である。
背面の端子は中央部の横一列が映像出力となっており、下部に音声出力が集まっているが、これは内部がこのように基盤が分かれているからである。 続いてリモコンも見ていこう。本体が力一杯奢っているのに対し、リモコンは従来のRDシリーズとほとんど同じである。強いてあげれば、十字キー部分が銀色になっているぐらいだろうか。 HD DVDプレーヤー「HD-XA1」のリモコンはアルミパネルを採用するなどだいぶ高級感があったのだが、レコーダのA1ではほぼ従来のRDと同じ操作系であることから、従来型のリモコンが採用されたようだ。
■ RDと同じ操作体系を実装
では早速機能をチェックしてみよう。とは言うものの、藤井社長が発表会の席で強調していたように、基本的にRD-A1はHDDレコーダなのである。したがって番組の予約録画などのメソッドは、以前レビューした「RD-XD92D」とほとんど変わりがない。 この部分での目新しさは感じられないが、レコーダは安定動作が一番である。ここで冒険しなかったのは、賢明な判断だろう。 ただXD92DはTSのダブル録画が可能であったが、RD-A1はTS録画が1系統だ。したがってデジタル放送で予約が重複したときは、重複をどうするかの選択画面が出る。デジタル放送をTSではなく、SD解像度に落とすVR録画することもできるが、デジタル放送がW録できるわけではない。 XD92Dでは、番組表や検索結果の表示でレスポンスの悪さが気になっていたが、RD-A1ではまずまず快適に動作する。また「見るナビ」のサムネイル表示やフォルダ移動のレスポンスも、かなり高速に動作する。この点は安心して良さそうだ。
一度起動してしまえば動作はそこそこ速いのだが、スタンバイ状態からの復帰動作は相当待たされる。まず電源ボタンを押して、赤いスタンバイ表示が緑の電源投入表示に変わるまでに23秒、本体ディスプレイが点灯するまで45秒、東芝ロゴが画面に出力されるまでで54秒、テレビ映像が表示されるまで1分1秒。それから空のDVDドライブを延々スキャンし始め、何も入ってないということがわかってユーザーの操作を受け付けるまで、2分かかる。 舵を切り始めて実際に曲がり出すまで5分かかりますみたいな、まさに豪華客船並みの足回りの遅さである。まあ初号機だからこんなものなのかもしれないが、今後の改善には期待したいところだ。
■ 期待のHD DVDダビング機能 RD-A1最大の特徴は、なんといってもハイビジョン番組をそのままの画質でメディアに保存できるというところにある。以前ソニーと松下からBlu-rayレコーダが発売されたが、HDDが搭載されておらず、Blu-rayメディアに直接録画する方式であった。そういう意味では、いったんHDDに録画して編集したのち保存用メディアに記録できるRD-A1は、メディアの違い以上に機能的な意味がまったく違う。現時点で入手可能なHD DVD用の録画メディアは、一層のHD DVD-Rのみで、三菱化学メディアと日立マクセルから発売されている。価格はだいたい1,300円前後のようである。 メディアのパッケージには75分/15GBと表記してあるが、これは24Mbpsで計算した場合の記録時間である。したがって地上デジタル放送や、最近は地デジに合わせてビットレートを下げているのではという噂のあるBSデジタル放送では、75分以上記録できる可能性もある。 ちなみに二層HD DVD-Rメディアは、三菱化学メディアが7月末に発売すると表明している。またHD DVD-RWは、規格策定完了が今年の秋頃と見られており、それを受けてメディアが発売されるだろう。ただし、RD-A1では、HD DVD-RWをサポートできるかどうかは、今のところ未定だ。 本機に未使用のHD DVD-Rメディアを挿入すると、初期化を実行するよう表示が出る。「簡単メニュー」からDVDの初期化画面に移動すると、初期化することができる。時間にして30秒程度で初期化は完了する。
HD DVDへのダビングは、これまでDVDメディアに対して行なってきた操作と変わりない。つまりDVDへのダビングの一環としてHD DVDがあるという扱いであり、そういう見せ方がHD DVDはDVDメディアの延長線上であるというアピールに繋がっているわけである。 HD映像のチャプタ編集は、サムネイルの作成に若干手間取る感じがあるものの、映像ファイルの操作系に関してはそれほどストレスは感じない。編集点を探すのにスローも使えるため、リモコンのボタンの位置さえしっかり把握できれば、それほど難しい操作ではない。 ダビングの指定は、チャプタ単位で行なうこともできるし、いったんプレイリストを作成してそのプレイリストをダビング対象とすることもできる。ちなみに30分番組からCMカットして実質23分30秒の番組をムーブするのに、12分44秒かかった。だいたい2倍速程度で書き込めるようだ。
作成したHD DVDには、ROMメディアのようなメニューは作成されず、タイトルのリストが表示される。DVD-Rのときは、DVD VideoモードかDVD VRモードを選択する必要があり、それぞれにできることが違っていたわけだが、記録型HD DVDでは基本的にDVD時代のDVD VR相当のモードしかない。使う側も混乱しないだろう。 またHD DVD-Rメディアであっても、ファイナライズする前であれば追記もできるし、削除もできる。もちろんRであるから削除したからといってメディア残量が増えるわけではないが、このあたりの使い勝手も、DVD VRと同じだ。 ただ今回は追記中にダビングに失敗するというトラブルに見舞われた。メディアをファイナライズしてみたが、このメディアは再生もできなくなった。
メディアを換えたり番組を換えたりしてムーブを行なってみたが、これ以降一度も書き込みには成功しなかった。結局メディア3枚が破壊されたのみである。もちろん製品版ではこんなことはない、と思いたい。お願いだから。
■ 高品質の旧メディア再生機能 RD-A1は、HD DVDレコーダだから高いのだというのはまあそうなのだが、ドライブ部や再生部のコストは、これからの普及次第だろう。だがRD-A1を構成する要素の中で、今後もコストが切り詰められないだろうと思われるのが、高品質なスケーラーやDAコンバータである。今後デジタル放送が視聴の中心となり、テレビはHDMI接続でサラウンド音声まで伝送と言った具合に、すべてがデジタル化していけば、コストは飛躍的に下がることは予想される。だがその一方でデジタル接続は、規格のバージョン違いなどが発生した場合、もう何がどうあっても伝送できないということは起こりうる。 だがアナログ出力を用意しておけば、とりあえず今後どんなデジタル規格が出てきても、ハイエンドモデル同士であれば接続できる可能性が残るだろう。RD-A1はある意味、そこに集約したモデルであると考えることもできる。コンポーネント出力をBNCコネクタにしたり、アナログの5.1ch出力を用意したりといった部分に、そのあたりの思想が垣間見える。 そこで旧メディアの再生能力をテストしてみた。まずはRD-XD92Dで2層DVD-Rに録画したSD解像度の映画を再生し、HDMI出力で視聴してみたところ、非常に良好なアップコンバート出力が得られた。過去にもアップコンが良好なレコーダはいくつかあったが、アンカー・ベイ・テクノロジーズ製の10bitスケーラー「ABT1018」による解像感のナチュラルさは、かなり満足できる。ただ、メディアを挿入して再生が開始されるまで1分25秒もかかる。 アップコンバート出力では、MPEG-2録画時に十分なビットレートを取って記録していないと、いくらアップコンが良好でも画質に響いてしまう。ブロックノイズが出ているような画質のものは、そのアラが目立ってしまって、違和感があるだろう。 また車のテールランプや赤色灯のようなクロマの高い赤に関してはIP変換のミスからか、スダレ状のノイズを感じる。だがこのあたりは再生系のチューニング不足ではよくある現象なので、製品版では修正されるかもしれない。一方で市販DVDビデオソフトでは、最初からプログレッシブで作られていることもあって、このようなノイズもなく良好な再生結果が得られる。 HD DVD搭載ということもあって、HDコンテンツの録画・再生機能にばかり気を取られがちだが、SDコンテンツの再生機としても高水準である点は見逃せない。 また音声出力では、アナログ・デバイセズの192kHz/24bit DAC「AD1955」を採用、2chの音声入力に対してもこのDAC4台をパラレルで動作させ、高速加算アンプで2chにマージするという構成になっている。これにより、大幅なダイナミックレンジが見込めるという。 そこで試しに、音楽CDを再生してみた。DACやアナログ出力部の構成から見て、高域のヌケがいいクールなサウンドをイメージしていたのだが、実際の出力はかなり骨太で、アツい音となっている。 特に低域の表現力が素晴らしく、音の押し出しの強さをモロに感じさせる出音が特徴だ。大抵ロックにおけるベースはコンプレッサが強めにかかっており、細かいニュアンスなどは潰れてしまっているのが普通だが、RD-A1で聴くと「あれ、ここんとこ、こんな細かいパッセージで弾いてたのか」という発見がある。 全体的にメディアのマウントに時間がかかるのが難点だが、RD-A1はいつかレコーダとしてお役ご免になったあとでも、上質なアナログ出力を活用した高級CD/DVDプレーヤーとして、末永く楽しめるだろう。
■ 総論 次世代DVDは、ついに統一の夢も虚しく別々のフォーマットでリリースされることとなった。HD DVDとBlu-rayの戦いは、レコーダの発売によってついに火ぶたが切られたわけである。すでにBlu-rayレコーダが発売されているのは事実だが、現時点でのBlu-rayとは互換性がないため、いったんリセットというのが正しいだろう。一方HD DVD陣営では、ドライブ自体は他社からも供給されるだろうが、レコーダとしてのハードウェアを作れるのは、今のところ東芝一社である。この図式の中で正しく競争の原理が働くかどうかが、今後のポイントになるだろう。東芝も今は売られた喧嘩に勝つために鼻血を出すほど頑張っているが、いつかは利益体質に事業転換しなければならない。そのときの製品が、魅力あるものであり続けられるだろうか。 現時点でRD-A1がいい買い物であるかどうかというのは、正直なところ何とも言えない。ただこのようなフォーマット戦争がなければ、これだけ充実したDACやスケーラー、アナログ回路、電源を搭載した機器が登場することなど叶わなかっただろう。CD、DVDまで含めた旧来のデジタルメディア集大成レコーダ/プレーヤーとして、RD-A1を世の中に出せたという意義は大きい。 デジタル技術は、今後もどんどん進む。アナログチューナも含めアナログ回路をすべて排除して、フルデジタルのプロダクツとなれば、次世代DVD搭載レコーダも早い時期に入手しやすい価格まで下がってくることは予想できる。 RD-A1は、そんな時代と今を繋ぐブリッジとして、我々の記憶に長く残るだろう。
□東芝のホームページ (2006年7月19日)
[Reported by 小寺信良]
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