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第255回:フィジカルコントローラが使いやすくなった「SONAR 6」
~ 細かな使い勝手やプラグイン強化も ~



 毎年恒例となってきたが、DAWの秋の新バージョンがリリースされはじめた。先陣を切ったのはCakewalkの「SONAR 6」。続いて、SteinbergのCubase 4も発表された。Cubaseは、まだ国内での正式アナウンスはないものの、年末までには日本語版がリリースされる見込みだ。

 Logicの新バージョンについてはまだ動きはないものの、年明けのMacWorld Expoで登場するのでは、といった噂が流れている。そんな中、ベータ版ではあるもののCakewalkのSONAR 6の日本語版を入手した。どんな点が強化されたのかを紹介しよう。


■ ACTでフィジカルコントローラ操作が快適に

 各DAWとも成熟しきって、もうそろそろバージョンアップする必要もないのでは、というレベルに達した感はあるが、今年も新バージョンが登場した。MIDIシーケンス機能もオーディオレコーディング機能も備わっている今、どんなバージョンアップになるのかと思っていたが、各社とも結構いろいろなことをやってきている。11月下旬に国内でも発売されるというSONARは、使い勝手の向上を前面に打ち出してのバージョンアップとなっている。

SONAR 6

 製品としては従来のSONAR 5と同様に、上位版のSONAR 6 Producer Editionと、標準版のSONAR 6 Studio Editionの2つをラインナップ。発売はともに11月末の予定で、オープン価格。実売予想価格は、それぞれ、85,000円前後と50,000円前後の見込みだ。

 使い勝手の向上のために打ち出したのが「ACT=Active Controller Technology」という技術。これはフィジカルコントローラと組み合わせたとき、最大限のパフォーマンスを発揮するというもので、なかなか便利な機能だ。

PCR用のコントローラ

 簡単にいうと、ミキサーコンソールでもソフトシンセでもエフェクトでも、現在アクティブになっているウィンドウに対し、フィジカルコントローラのは各ツマミ、フェーダー、ボタンが自動的にアサインされ、細かな設定をしなくても、そのまますぐに使えるというものだ。

 最近はEDIROLのPCRシリーズなど、フィジカルコントローラ付きのUSB-MIDIキーボードが主流になってきているため、これを利用して、SONARを存分にコントロールできるのはかなり快適。バンドルされているソフトシンセやエフェクトは、あらかじめ使えそうなパラメータが割り当てられているので、何の準備もいらないというのが大きなポイントとなっている。

 もちろん、後からインストールしたプラグインに対しても、自分で設定できるので、心配はいらない。

 ただし、ベータ版であるためか、Rolandでデモを見せてもらったときはうまく動いたが、手元のマシンで、PCR-30に接続した際は、あまりうまく使うことができず、文字化けもあった。非常にグラフィカルな画面としてはPCR用のものが用意されているほか、さまざまなフィジカルコントローラを割り当てることができる汎用のACT MIDI Controllerという画面もある。ここでの設定を見て分かったのは、KORGのmicroKONTROLやM-AudioのOxygen8、Ozone、またEvolutionのUC-16/33などかなりいろいろな機材に対応していることだ。

ACT MIDI Controller microKONTROLやOxygen8、Ozone、UC-16/33などに対応

 このプリセットを簡単に増やしていけるのか、またRoland以外であっても、新たなフィジカルコントローラが登場したら、ネットでデータをダウンロードしてアップデートできるのか、など気になることはいろいろあるが、実現してくれることを期待したいところだ。

 この使い勝手という面で、もうひとつの大きなポイントは、自分だけのSONARにカスタマイズできるようになったこと。従来からもいくつかのカスタマイズ機能はあったが、今回は画面の表示カラーをパーツごとにカスタマイズできるようになったこと。さらに、各シチュエーションで右クリックした際に表示されるコンテキストメニューなどを変えられるようになった。標準でのコンテキストメニューは、できる機能がすべて表示されるが、自分にとって不要なものを非表示にしたり、うまくグルーピングすることで、使い勝手は大きく向上する。

画面の表示カラーをパーツごとにカスタマイズできるようになった 右クリックメニューなども変更可能に



■ クォンタイズ強化や、ストレッチ時の音質対策も

 機能面での向上は「オーディオ・スナップ」がある。簡単にいえばオーディオをスライスして、非破壊のクォンタイズをかけるという機能だ。そういえば、この点について、SONARは他のDAWにやや出遅れていた感があるが、今回の強力なオーディオ・スナップによって、一発逆転を図っている。

 感覚的には、ReCycle! のような単純に大きいレベルを検知してスライスするというだけのものではなく、MIDIのクォンタイズにかなり近い感覚のものだ。しかもドラムデータに限らず、ボーカルや生楽器であっても、うまくリズムを検出して、そのノリを自在にエディット可能になっているのだ。

「オーディオ・スナップ」画面 MIDIのクォンタイズに近い

 MIDIと同様に、ドンピシャのタイミングにクォインタイズすることができるだけでなく、グルーブクォンタイズもかけることができ、かなりいろいろと料理することができる。また、一番心配なオーディオをストレッチした際の音質面でもケアされている。ここにはiZotopeのRadius Technologyが採用されており、極端なタイムストレッチやピッチシフトを行なった場合にも自然な音色を極力保つよう設計されている。

 iZotope自身もiZotope Radius for LogicというLogic用のプラグインを出しているほか、Digidesignのプラグイン、X-Formにも採用にも採用されている定評ある技術で、ナチュラルなサウンドを維持しながら最大で12.5%~800%のストレッチ、-36~+36セミトーンのピッチシフトを実現するという。実際、いろいろなクォンタイズを試してみたが、それほど極端なタイムストレッチでなかったためなのか、リズムは大きく変わっても、音質の変化にはまったく気づかないほどだった。

 一方、ミキサーコンソールには、見た目のデザインがよりカッコイイ感じに仕上がって、視認性、操作性も向上。また機能的にはStudio EditionにもビルトインEQが搭載されるなど、かなり強力なものになっている。

ミキサーコンソールは視認性や操作性も向上 Studio EditionにもビルトインEQを搭載

 使い勝手の面では、マウスホイールが有効活用できるようになっているのもひとつのポイント。そう、細かく動かしたいパラメータをマウスで選択した後、マウスホイールを動かせばフェーダーやつまみを操作できるようになっているのだ。単純な機能で、ACT&フィジカルコントローラを活用していれば、それほど重要ではないものだが、マウスだけで操作する場合、これはかなり重宝する。

 また、オートメーションについても1つ機能強化された点がある。それはレコーディング時においてもフェーダーやパンなどの動きを記録することができるようになったのだ。従来はまず録音し、その後オートメーション操作を記録するという手順だったが、それを一気にできるようになったのだ。


■ チャンネル・ストリップやドラム音源などのプラグインを追加

シンセラックは、ソフトシンセを読み込むと、そのアイコンが表示されるように

 さて、今回プラグイン関連もいくつか変化している。まず注目したいのは、従来からあったシンセラックが、より使いやすいものになったこと。一見して大きくなったこのシンセラックはソフトシンセを読み込むと、そのアイコンが表示されるため、どのソフトシンセなのか視覚的に確認できるとともに、音源ごとにフリーズのオン/オフが可能になった。

 また、このシンセラック上にパラメータを割り当てることができるので、いちいち、ソフトシンセ画面を起動しなくても、ここからコントロールできるというのもユニークな点。また、ここでオートメーションの記録もできるようになっている。


VC-64 Vintage Channel

 そして、Producer Editionのみとはなるが、SONAR 6の目玉ともいえるのが新たに追加されたプラグインである、チャンネル・ストリップのVC-64 Vintage Channelとドラム音源のSession Drummer 2だ。

 まずVC-64 Vintage Channelは見た目どおりのアナログな音を出すチャンネル・ストリップで、独立2基の4バンドEQおよびコンプレッサを核に、ノイズゲートやディエッサーも装備したというもの。

 非常にユニークなのは、その2つずつあるEQとコンプ、ゲート、ディエッサーの6つのユニットをどう接続するかのルーティングが10種類も用意されており、それらを切り替えて使うことができるという点。何をどう動かせばいいのか、ちょっと混乱する面はあるが、これによって、かなりいろいろなサウンドを楽しめるようになっている。

2つずつあるEQとコンプ、ゲート、ディエッサーをどう接続するかというルーティングが10種類も用意

 ちなみに、このアナログ風なサウンドを作り出している秘訣はACLM(Advanced Component Level Modeling)というモデリング技術にある。このACLMとSONARの64bit浮動小数点フォーマットのオーディオ処理が、このきめ細かいリアルな音を作り出しているのだ。なお、このACLMそしてVC-64 Vintage ChannelはデンマークのKjaerhus Audioが開発したプラグインのようだ。

 もうひとつのSession Drummer 2はかなり使える強力なサウンドのドラム音源。サンプリングタイプの音源で、ロック系やジャズ系、Drum'n'Bass系など多彩なドラムキットが用意されており、それぞれ100~300MBとサンプリングデータの容量もかなりある。また、これらのドラムキットのデータを読み込むと、同時にそれにマッチしたリズムもMIDIデータとして何パターンかSession Drummer 2にいっしょに読み込まれるのも大きな特徴。そのMIDIデータがA~Hまであるパッドに読み込まれるので、これらを選択すると、そのリズムをすぐに再生できる。

Session Drummer 2 ドラムキットはそれぞれ100~300MBとサンプリングデータの容量も豊富

 SONARのシーケンサ側からもコントロールできるので、簡単にリズムパートを作成することが可能。もちろん、通常のドラム音源のようにゼロから組み上げていくこともできる。また、ドラムキットとして読み込まなくても、1つ1つのドラム音をWAVやAIFF、またOggVorbisやSoundFontといった形式で読み込むことも可能であり、それらの音のチューニングすることもできるようになっている。

Analyst

 なお、国内ではアナウンスされていないが、アメリカのCakewalkではこのSession Drummer 2を単体でリリースすることも発表されている。現在、Cakewalkでは国内でもCakewalk Instruments Seriesとして、いくつかのソフトシンセを単体販売しているが、そのうち、このSession Drummer 2もその仲間入りをするかもしれない。

 そのほかプラグインでは、Producer Edition、Studio Editionの双方に、Analystというスペクトラムアナライザが追加された。

 これは基本機能として付いていてもおかしくなかった機能だが、プラグインの形で搭載されたため、最終段でのスペクトラムを見るだけでなく、必要あれば、チャンネルごとのチェックも可能になっている。

各CPUコアの負荷を個別に確認できるメーターが

 SONAR 6には、そのほかにも細かく見ていけば、デュアルCPUやデュアルコアなどの場合、各CPUコアの負荷を個別に見ることができるメーターが搭載されたり、不意なクラッシュやフリーズからプロジェクトを守るクラッシュ・リカバリー機能を搭載するなど、いろいろな点が強化されている。

 発売までにはまだ1カ月あるが、11月11日には、ユーザー向けのSONAR 6デビューイベント「MEET THE SONAR 6 Premium Day」が、秋葉原UDX 4FのAkiba 3D Theaterで開催されるので、そこで新機能を自分の目と耳でチェックすることができる。



□cakewalkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/SONAR6/
□関連記事
【10月10日】【DAL】2006楽器フェスティバルレポート
~ Roland「SONAR 6」や「R-4 Pro」などを発表 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061010/dal253.htm
【2005年10月24日】【DAL】64bitに対応した「SONAR 5」
~ 音質向上に加え、処理速度や編集機能も向上 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051024/dal209.htm

(2006年10月23日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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