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第257回:ヤマハのモバイル向けFireWireオーディオ
~ シンプル設定重視でmLAN非対応の「GO44/46」 ~



GO46

 1カ月前にFireWireオーディオインターフェイス「GO44」、「GO46」を発売し、11月1日にはCubase 4を発表と、YAMAHAがここのところかなり積極的に動いている。2段鍵盤のD-DECKは前宣伝があまりにも派手だったため、賛否両論あるようだが、とにかく活発だ。

 Cubase 4の国内発表直前というタイミングではあったが、YAMAHAのコンピュータ・ミュージック系の担当者であるPA・DMI事業部MP推進部マーケティンググループの主任、石川秀明氏に話を聞くことができた。


■ 「繋いで、すぐに使う」ためmLANには非対応

藤本:今春にUSBインターフェイス搭載のアナログミキサー「MW10/MW12」を出して以来、ずいぶん活発に製品をリリースしてきていますね。DTM・デジタルレコーディングといったジャンルにおいて、とくにハード関連ではHello! Music!シリーズが終わって以来という感じでしょうか……。

PA・DMI事業部MP推進部マーケティンググループの石川秀明主任

石川:一応、MU2000などは、まだ現行商品ですし、ハードにおいては2003年にO1X、ソフトでは2002年にSOL2を出してはいるんです。とはいえ、ここのところ、しばらく息を潜めていたのは事実です(笑)。社内的な事情ではありますが、新しい製品を出せなかったこのしばらくの期間、軸になるシンセとPAの業務用音響に力を入れようと、そちらの開発にリソースをシフトしていました。

 その結果もあって、MOTIFやMOTIF-ES、またES90などを出して、米国でもシンセにおいて4割のシェアを取ることができ、トップの地位を得ることができました。また従来のDTM関連製品は、国内市場に偏っていました。

藤本:確かに、SOLも海外では出していませんでしたよね。

石川:その通りです。そういう意味も含めて、社内的な再編が必要と考えました。国内市場だけに頼った形で、これ以上、製品を出していていいのだろうか、と。もっとワールドワイドに伸びている、音楽制作市場を幅広く見ていくべきだろう、と。それが01Xなどへ繋がってくるわけです。

藤本:O1Xも出てずいぶん時間がたったイメージがあります。もしかして、mLANもO1Xが最後で終わってしまったんじゃないかと思っていました。

石川:とんでもない。mLANは地味に見えるかもしれませんが、着実に進めています。また、O1Xはそんな数年で買い替えをするような製品ではないので、ロングセラー製品として位置づけています。もっとも、ドライバ関連ではリリース当初、不安定で、ユーザーの皆様にいろいろとご迷惑をおかけしてきたことは事実です。Windowsのほうはわれわれもブラッシュアップを続け、ようやく使えるものへと仕上がってきました。

藤本:Mac版は、どうなっていますか?

石川:Macのほうは、まず公開するまで1年近くがたってしまいました。それも、いろいろ、紆余曲折があって……。mLANドライバはMac OS Xに取り込まれた仕様になっているので、Appleさんとの協業でいろいろやってきています。最新のドライバが1.06.まだ公開している既知の問題が、残念ながら解消できていません。ここについてはAppleと協力しながら、きちっとやっていきましょう、と。どれだけ時間がかかっても最後までやりきる所存です。

藤本:その辺は、本当に大丈夫なんでしょうか? mLANも第一世代からO1Xなどの第二世代に切り替える際に、互換性を切り捨てていたので、また切り捨ててしまうのでは、という心配がありますが……。

石川:そういった事情をしっかり踏まえ、一生懸命取り組んでいます。その意味でも、ドライバはキッチリ使えるものへと仕上げていきます。また、mLAN機器については、われわれがずっと言い続けているのは、これはmLANネットワークありきの製品であるということです。

 i88XのインプットをO1Xの拡張にすることができるし、並列に並べることもできるなど、自由度の高さがポイントとなっています。トータルなシステムとしてのmLANという位置づけで、それは今後も変わりません。

藤本:そんな中、今回のGO44、GO46をリリースされました。これはFireWireのインターフェイスを採用しながら、mLAN対応ではないですよね。これを見て、あれ? mLANはやめてしまったの? と思ったのですが……。

石川:mLANはネットワークを組んでシステムを作るには非常に優れたプロトコルになっていますが、そんなシステムにしなくても、すぐに繋いで、簡単に録りたい、というニーズがあることも事実です。そこで、ユースケースに合わせてプロトコルを選択できるようにしよう、というのが我々の考えです。

 単純にマイクを繋いで録るだけなのに、パッチベイを使ってルーティングの設定をして……というのはやはり現実的ではありません。GOは繋いで、すぐに使って欲しい。ノートPCなどと組み合わせて持ち歩いたり、機動力高く使っていただきたいと思っています。それに対して、パーソナルスタジオでのシステム構築などはmLANを利用していただくことで、快適な環境が実現できると考えております。

藤本:mLANはいわゆるDTMユーザー向けのものではない、という理解でいいですか?

石川:一言でDTMユーザーといっても、軽く使いたいという人から、マニアックにシステム構築したい人までいろいろいます。その意味では、mLANは後者のほうですね。個人ユーザー向けと考えると、mLANの規格自体ややオーバースペックな部分もありますが、ソフト中心で音楽を作り込んでいるユーザー向けと考えています。また、日本でも小規模なスタジオが増えてきているので、そうしたところへもmLANを使ったソリューションを提供していきたいですね。

藤本:つまりmLANはProTools対抗製品である、と?

石川:ProToolsは業界スタンダードといえるものですから、当然意識はしていますが、現状では、そこにぶつけられる製品構成にまではなっていません。やろうとしているところが、近い面はありますが、今後ラインナップについては検討していきたいと思います。


■ TerraTec製品と「スペック値は同じでも、全く別の製品」に

藤本:さて、今回の主題であるGO44、GO46についてお伺いします。まず、これはmLAN製品ではないわけですよね。

石川:その通りです。モバイル用などを中心に考えており、シンプルな使い方をする際はmLANを使わないほうがユーザーにとって分かりやすいだろうという考えから、mLAN非対応の製品にしています。

藤本:この2製品、TerraTecのPHASE 24FW、PHASE X24FWとソックリですが、どういう関係になっているのですか?

石川:そんなに似てますか?

藤本:まあ、シャーシのデザインはまったく違いますが、大きさや端子の配置位置などは、ソックリですよね? これはTerraTecからのOEMなんですか?

石川:そうです。正確には単なるOEMではなく、TerraTecとYAMAHAの共同開発となります。YAMAHAは過剰品質と言われますが、品質や安全性などに、非常に力を注いでいます。品質検査や電波の検査などを、すごくきっちりやる。GO44、GO46は、それの対策をしてあるモデルなのです。そのため、TerraTecのものと見た目は似ているけど、ぜんぜん違う製品なのです。YAMAHAのQC(Quality Control/品質管理)を通って出てくるという意味で、できてくる過程がまったく異なるのです。

藤本:プレスリリースを出してから、実際の発売まで、ずいぶん時間がかかりましたよね。当初の発売予定も8月だったと思いますが……。

石川:当初約束した時期より遅くなってしまった点では、本当に申し訳ないと思っております。これはまさにQCの部分で時間がかかってしまったのです。ただ、その結果として、いい製品、安心できる製品に仕上げることはできました。

藤本:実際、PHASE 24FWやPHASE X24FWと比較して、スペック的に違う面はありますか?

石川:数値的なスペックは同じです。ただ、見れば分かるとおり、ボディーはまったく異なるもので、これはYAMAHAがデザインをしています。またドライバのコントロールパネルの顔も異なります。

藤本:なるほど。でも、技術のYAMAHAがどうして自社設計をしないの? とも思いますが……。

石川:特に今回のGO44、GO46が特例というわけではありません。UX16やUW10もOEMでしたし、お客様にいいものが提供できるのであれば、必ずしも自社設計にこだわっているわけではありません。OEMのときもあれば、今回のような共同開発をすることもあります。

藤本:このGO44、GO46をTerraTecのドライバで動作させることは可能なのでしょうか?

石川:それはできません。もっといえば、GO44とGO46を同じコンピュータで同時に使うこともできません。ニーズとしては2つ繋いで、マイクプリ4つで、という人もいないではないでしょうが、そういう仕様です。

藤本:まあ、192kHz対応だと、FireWireの帯域から考えて無理ですもんね。TerraTecはmLAN対応のドライバを出すというアナウンスをしていたと思いますが、仮にそれが出ても、GO44、GO46で使うことはできないわけですね。ちなみに、YAMAHA側で、GO44、GO46のmLANドライバを出す予定はないんですか?

石川:ありません。Terrateh側がどうするかは他社のことなのでわかりませんが、GO44、GO46は手軽に扱う製品という位置づけなので、mLAN対応はさせません。

藤本:ちょうど計ったようなタイミングで、Cubase 4も登場してくるようですが、やはり計算して相乗効果を狙っているわけですか?

石川:もちろん、われわれも効果的に進められるよう考えてはいます。Steinberg関連については、また別の機会に詳しくご紹介できればと思っております。


■ 出力の自由度が高い。再生音は解像感があり硬め

 さて、このインタビュー後、GO46を借りることができたので、その使用感などをレポートしよう。

 パッケージを開けると、PHASE X24FWとは明らかに異なるボディーのGO46に加え、YAMAHAのACアダプタが入っているなど、確かにYAMAHA製品になっている。ほかには、CD-ROMが2枚とDVD-ROMが1枚入っている。

 CD-ROMの1枚目はドライバ、マニュアルおよびHALionSE、GrooveAgentSEが収録され、もう1枚はCubase LEが収録される。DVD-ROMはMEGA PACKという名称で、IK MULTIMEDIAのSamleTank 2 Free、AmpliTube UNOなどが収録されている。いずれもWindowsとMacの双方で使えるハイブリッドとなっている。

 GO46の46という名前は4in/6outということから来ている。入力はアナログ2ch、デジタル2ch、出力はアナログ4ch、デジタル2chとなっており、アナログ2chの入力はフロントのコンボジャックと、リアのバランス対応のフォンジャックが切り替え(フロントに入力があると、そちらが優先される)という仕様だ。またフロント入力には+48Vのファンタム電源にも対応している。

前面 背面

 前述のとおりACアダプタは標準で付属してはいるが、6ピンのFireWire端子に接続した場合はバス電源供給で動作するため、ACアダプタなしでも動作する。また、使ってみると、ルーティングの自由度が非常に高いのは面白いところだ。

 アナログ1/2、アナログ3/4、デジタルという3つのステレオ出力に対し、DAW側から見た際の1/2ポート、3/4ポート、またはアナログ入力、デジタル入力、デジタルミキサーのいずれかを出すように設定できるのだ。

出力などの設定画面。ルーティングの自由度が高い

 この設定で、デジタルミキサーを選択した場合はミキサー画面において設定した各入力のバランスを調整すれば、その結果が出力されるようになる。なお、クロックがインターナルの設定になっていると、デジタル入力は無効になるが、エクスターナルにしてデジタル信号を入力すると、そこにシンクロしてデジタル入力が取り込めるようになる。

デジタルミキサー設定画面 クロックをエクスターナルにしてデジタル信号を入力すると、シンクロしてデジタル入力が取り込める

 もちろん、ASIOドライバも使うことができ、この際のレイテンシーは、どのサンプリングレートでも最高で3.6msecまでの設定にできるようになっている。こうした仕様は基本的にTerraTecのPHASE X24FWと同様のようで、ドライバ画面もデザインが多少異なるものの、同じようだ。

ASIOドライバ使用時のレイテンシーは、最高で3.6msecまで設定できる PHASE X24FWのコントロールパネル

 なお、GO46の音をヘッドフォンでモニタリングすると、非常に解像度の高い、硬めな音というイメージで個人的には好みな音。このヘッドフォンの出力はアナログ出力の3/4と同じ信号が来るようになっている。

 ここで、恒例のRMAAを使ってのループバックによる音質チェックをしてみた。接続はリアの入出力をバランスケーブルで接続しての実験だ。24bit/48kHz、24bit/96kHz、24bit/192kHzの各モードで行ったが、結果はまずまず。


24bit/48kHz 24bit/96kHz 24bit/192kHz

 サンプリングレートを上げた際のIMD値がやや悪くなっているようだが、基本的にはかなり高品位なオーディオインターフェイスといえるだろう。価格的にも手ごろで、非常にコンパクトなので、WindowsユーザーでもMacユーザーでも、これから1つオーディオインターフェイスを買ってみたいという人には、いい選択だろう。



□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2006/06060601.html
□製品情報(GO46)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/audiointerface/go46/index.html
□製品情報(GO44)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/audiointerface/go44/index.html
□関連記事
【6月6日】ヤマハ、FireWire接続のモバイルオーディオI/F
-マイクプリ内蔵の上位モデル「GO46」など
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060606/yamaha.htm

(2006年11月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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