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第258回:ブラウザ追加などで効率化した「Cubase 4」
~ 「SoundFrame」搭載。ヤマハ傘下入りで変化は? ~



プレス発表会の様子

 11月1日、YAMAHAからCubaseの新バージョン、Cubase 4およびCubase Studio 4が11月10日に発表された。ご存知のとおり、独Steinberg Technologiesは昨年1月にYAMAHAが買収したため、YAMAHA傘下のソフトメーカーとなっているが、今回の新バージョンはYAMAHA傘下になってからの初のリリースとなる。

 古くからのユーザーも多いCubaseがどのように変わったのか、YAMAHA色がついたのか、VSTはどうなったのかなどについて見ていくことにしよう。


■ 新機能「SoundFrame」で操作の流れを簡単に

 ドイツではすでに9月に発表になっていたので、日本での発表も間近と思われていたが、11月1日、ようやく正式な発表がされた。

 これまでCubase SX、Cubase SX2 Cubase SX3と進化してきたが、YAMAHA傘下となって登場した新バージョンの名前は「Cubase 4」とSXの名称が抜けた。また、SXの下位バージョンであったSLは「Cubase Studio 4」となり、名前の上ではCubase VSTからCubase SXへ変わったときのような変化を思わせるが、画面を見れば誰もがCubaseであることが分かる、お馴染みのデザインで安心した。

Cubase 4

 実際、SX4といっても差し支えない従来の延長線上のソフトで、何かが抜本的に変わったというわけではないようだ。すでにCubase SX3で完成していたソフトなので、そこにいくつかの機能が追加されたのが、Cubase 4という理解でいいだろう。

 ともにオープン価格ではあるが、実売価格はちょっと高めな設定で、Cubase 4が11万円前後、Cubase Studio 4が6万円前後とのこと。店頭に並ぶのは12月中旬になる見込みだ。

 先日発表されたSONAR 6の実売価格が上位バージョンのProducer Editionで85,000円前後、Studio Editionが5万円前後であるのに比較すると高いが、Cubase 4はWindows/Mac OSのハイブリッドであるのが大きな違い。しかも、今回のCubase 4からはIntel Macにもネイティブ対応するようになっている。

 今回のバージョンアップにおける最大のポイントはSoundFrameという機能の搭載だ。プレスリリースを読むと、「SoundFrameは、ソフトウェア及びハードウェア・シンセサイザーはもちろんのこと、トラック制作に必要な音源を1つのインターフェイスで総合管理可能(メディアベイを使用)にする画期的な技術です。インストゥルメント名だけではなくカテゴリー、タイプ、スタイルも管理可能で、キャラクターなどの属性情報(メディアベイで整理されたトラックプリセット)を使用することにより、トラック制作に必要なサウンドを素早く検索可能。クリエイターのストレスを飛躍的に解消します」とある。

 また、ここに出てくるメディアベイという機能も新たに加わっており、こちらについては「メディアベイを使用して、インストゥルメントやプラグインのプリセット、オーディオ・ループ、オーディオ・クリップ、MIDIファイル、トラックプリセット、さらにはビデオ・ファイル、Cubaseプロジェクト・ファイルを一元管理することが可能。SoundFrame構造の最も重要な位置を占めるのがメディアベイです」とある。

 当初、これを読んでも今ひとつ意味が分からなかった。しかし発表会でのデモを見るとともに説明を聞くとよくわかった。まず簡単に整理をすると、SoundFrameという機能そのものがあるのではなく、これは「VST3」、「メディアベイ」、「トラックプリセット」というCubase 4を特徴付ける機能の総称。そして、これらはCubaseの使い勝手を向上させるものであり、従来行なっていたCubase操作の一連の流れを、より簡単に行なうための機能となっている。


■ エクスプローラ的な「メディアベイ」でトラック作成を効率化

 まず、メディアベイというのは、Windowsのエクスプローラのようなもので、目的のファイルを探し出すためのブラウザ・ウィンドウだ。ここでは、オーディオもMIDIも、ループ素材だけでなく、ソフトシンセの音色プリセットやエフェクト設定なども検索できるようになっているのがポイント。

 また、単にWindowsのエクスプローラのようにディレクトリ構造からファイルを見つけ出すというだけでなく、GarageBandのループ検索のように、カテゴリーやタイプ、スタイルといったキーワードを使って絞り込んでいくことができるようになっているのだ。

 当然、これを利用するためにはメタデータを埋め込む必要があるが、Cubase 4であらかじめ用意されている各種データには、メタデータが埋め込まれている必要があり、メディアベイの右側にあるタグエディタというものを用いて、自らメタデータを埋め込んでいくことが可能だ。

メディアベイ タグエディタでメタデータを埋め込むことが可能

 なお、メディアベイという画面のほかに、ループブラウザ、サウンドフレームブラウザというものがあるが、見せ方が違うだけで、基本的には同様のものと考えてよさそうだ。また、ソフトシンセから音色ファイルを読み込むウィンドウでも、同様なものになっている。

ループブラウザ サウンドフレームブラウザ ソフトシンセからの読み込み時

 このメディアベイを使っていて、画期的と感じるのが、トラックプリセットという機能だ。これはソフトシンセの音色プリセットやエフェクト設定などを扱えるものだが、たとえば、ソフトシンセの音色プリセットを検索すると、メディアベイ上に名前がズラズラと表示される。

 この中から、たとえばE-Guitarという音色名を選択してMIDIキーボードを弾くと、すぐに音を確認できる。その音が気に入ったら、それをトラックビューへドラッグ&ドロップすれば、もうその音色のMIDIトラックが生成され、即レコーディングしたり、打ち込みすることができるのだ。

 従来、ソフトシンセで音を出すためには、まずVSTインストゥルメントのラックを立ち上げて、使いたいソフトシンセを選択。次にMIDIトラックを新規に作った上で、インスペクターから、いま選択したソフトシンセを選ぶとともに、ソフトシンセのプリセット音を読み込む。これでようやく音が出せたのだが、メディアベイを使えば、本当に簡単にできてしまう。

 同様のことがトラックのエフェクト設定などでも行なえる。つまり、あるトラックに対して、ボーカル用としてコーラスとリバーブをかけ、それぞれのパラメータを調整するとともに、EQやコンプの設定をしておいたとしよう。これをトラックプリセットとして保存しておくと、メディアベイからトラックビューへドラッグ&ドロップするだけで、そのトラックの設定を復活させることができる。

 もちろん、同じ設定のトラックを複数並べることも可能。いい具合いに設定したトラックプリセットが数多く用意されているので、効率よくトラックを作っていくことが可能なのだ。

 そして、このSoundFrameの要素のひとつとしてVST3というものがある。VSTエンジンが変わったというわけではなく、音質自体はCubase SX3のときから何も変化していない。では、何が変わったかというと、エフェクトやソフトシンセをメディアビューで検索するためのメタデータを埋め込む仕組みを備えたのが、VST3ということになる。

コントロールルーム

 Cubase 4にバンドルされているVSTプラグインのエフェクトやソフトシンセもすべてがVST3ではなく、VST2対応のものもあるが、完全上位互換になっているので、既存のプラグインはすべてそのまま利用可能となっている。

 一方、コントロールルームという機能が追加されたのもひとつのポイントといえる。

 これはモニター・レベルの調整、異なるモニター・セットへの切り替え、レコーディング・ブースにいるミュージシャンとのコミュニケーション、CD、DAT、DVDプレーヤーなどの外部ソースへの切り替え、複数の独立したモニターやヘッドフォン・ミックスなど、主にモニター用途のルーティングをグラフィカルに表示し、切り替えることを可能にした機能だ。ミキサーコンソール画面とは別に用意されているため、スタジオなどで複数のメンバーでレコーディングする際などには便利に使えそうだ。


■ HALion Oneなど4種類のプラグインを追加

 ところで、最近のDAWはどのソフトも、もうあまり大きな機能強化がないために、バンドルされるプラグインが大きな目玉となっているが、Cubase 4でもそれは同様。ソフトシンセとしては新たにHALion One、Prologue、Spector、Mysticの4つが追加されているのだ。

HALion One Prologue

Spector Mystic

 まずHALion Oneはお馴染みSteinbergのソフトサンプラー「HALion 3」をベースに、パラメータを絞り込むとともに、SoundFrame対応させたもの。ここにはYAMAHAのMotifの波形が搭載されているとのことで、YAMAHA色が出ているところだ。逆にいうと、YAMAHA色が出ているのはHALion Oneくらいであり、Cubase自体は、あくまでも中立な立場をとっている。

 Prologueは最大同時発音数128ボイスのバーチャル・アナログシンセサイザー。ここには3つのオシレーター、マルチモード・フィルター、4つのエンベロープ、2つのLFO、モジュレーション・マトリクスを装備。またディストーション、ディレイ、フェイザー、フランジャー、コーラスが、このPrologueに搭載されており、複雑なルーティングをしなくても、すぐにエフェクトを使えるようになっている。

 そして、Spector はスペクトラム・フィルター音源を搭載したシンセサイザー、Mysticは、フィジカルモデリングとスペクトラム・フィルターのコンビネーションで、さまざまな音作りができる音源となっている。これらを見れば分かるとおり、画面デザインは統一されており、派手さはないが、落ち着いた感じで、使いやすく仕上がっている。

 またエフェクトのほうも新開発の4バンド・パラメトリックEQのStudio EQをはじめ、Vintage Compressor、Studio Chorus、Multiband Compressor、ボイスのダブリング用プラグインのCloner、ギターアンプをモデリングしたAmpSimulatorなどが追加されている。

Studio EQ Multiband Compressor

Cloner AmpSimulator

 これら新エフェクトに限らず、従来からのエフェクトもバンドルされており、それらを合わせるとCubase 4では50種類となる。ただし、Intel Macでは従来のエフェクトやソフトシンセの一部が使えないという制限がある。中でもちょっと残念なのは、Apogeeのディザー、UV22HRが使えないこと。これについては、ぜひ、今後対応をしてほしいところだ。

 以上、Cubase 4について簡単に見てきたが、ここに紹介したほかにも、GUIが改良されたり、スコア機能が強化されるなど、いろいろな点で改善している。

 たとえば、画面デザインは全体的に、やや暗い感じに色になっているが、選択中のトラックが明るく表示されるため、どこをさしているか、すぐに分かるようになったのは大きな進化。またインスペクターもより見やすい形に改良されている。またVST System Linkなどをはじめ従来からの機能はそのまますべて残っているようだ。

 Cubase SXユーザーはSX2でも十分な機能があり、安定していたため、SX3にバージョンアップしないで、そのまま使っている人も多いようだが、従来の操作性はそのままに、さらに使いやすい機能がいろいろ搭載されているので、そろそろバージョンアップを検討してみてもいいのではないだろうか?

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□Steinbergのホームページ
http://www.steinberg.de/714_0.html
□製品情報(Cubase 4)
http://www.steinberg.de/1026_0.html
□製品情報(Cubase Studio 4)
http://www.steinberg.de/1052_0.html
□関連記事
【10月23日】【DAL】フィジカルコントローラが使いやすくなった「SONAR 6」
~ 細かな使い勝手やプラグイン強化も ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061023/dal255.htm
【2004年12月27日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証 その3
~ YAMAHA傘下になった「CubaseSX3」の新機能 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041227/dal174.htm

(2006年11月13日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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