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第259回:Inter BEEで見つけたオーディオ新製品
~ ポータブルレコーダや、DAWソフト新バージョンなど ~



 11月15日から17日までの3日間、千葉県幕張メッセで開催された「2006年国際放送機器展(Inter BEE 2006)」の会場では、さまざまな製品が披露された。

 当然、業務用のハイエンドなものがほとんどではあるが、オーディオ製品に絞っていえば一般ユーザーでも手の届く製品、また将来的にはコンシューマー用途に落ちてくる可能性のある製品なども見受けられた。今回は、ハード、ソフトを含め、Inter BEEで見つけた製品について紹介しよう。


■ 携帯型DSDレコーダが正式発表。FOSTEXもポータブル機を参考展示

 今年のInter BEEは中日の16日に行ってきたが、大盛況。毎年のことながら「放送関連関係者はこんなにも多いものなのか」、広い会場の中を見て回った。

 映像系の機材が大半ではあるものの、プロオーディオ部門の展示場を中心に、デジタルレコーディング関連の製品もいろいろあり、初お目見えの製品もあった。Digital Audio Laboratoryでも扱った「SONAR 6」や「Cubase 4」といったDAWも展示されていた。

 すでに正式発表されているが、KORGの1bitオーディオのポータブルレコーダ「MR-1000」および「MR-1」も公開された。5.6448MHzに対応している40GB内蔵のMR-1000は1月下旬発売で147,000円、2.8224MHz対応でよりコンパクトなMR-1は12月下旬発売で75,600円。

MR-1000 MR-1

付属ソフトのAudioGate

 バンドルソフト「AudioGate」は、DSDとPCMなどのコンバートが自由に行なえ、MR-1000やMR-1でレコーディングしたファイルを通常のPCMのオーディオインターフェイスで再生できるなど、完成度も高そうだ。

 ただし、いずれの機種もHDD不足でフル生産とはいかない模様。そのため当初は入手困難な状況になりそうだ。ただMR-1については、なるべく早めに入手し、このDigital Audio Laboratoryでも詳細をレポートする予定だ。


FR-2LE

 ポータブルレコーダとしては、もうひとつFOSTEXも参考出品という形でFR-2LEを発表。これは現在ある24bit/192kHz対応のFR-2の機能縮小版という位置づけで、2トラックで16bit/44.1kHz~24bit/96kHz対応となっている。

 FR-2と同様に記録メディアはコンパクトフラッシュを用いBWFもしくはMP3で保存できる。また単3電池で駆動し、ファンタム電源付のマイク端子も搭載している。発売は来春で、7万円弱の価格になる予定だ。


□関連記事
コルグ、ポータブルDSDレコーダ「MR-1」は75,600円で発売
-「MR-1000」はHDDを40GBに強化し、1月発売に延期
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061117/korg.htm




■ Adobeが自動作曲ツール付きの波形編集ソフト

 ソフトのほうでは、ちょうどベータ版が米国でUPされたとの情報があったので、試して見ようと思っていたAdobeの波形編集ソフト、Soundboothが展示されていた。

Soundbooth

 Adobeは著名なシェアウェアだったCoolEditを買収後、機能アップさせてきたAudition 2.0をリリースしている。Soundboothはその後継になるのかと思ったが、ちょっと違うようだ。

 Soundboothはオーディオのプロフェッショナルソフトではなく、ビデオ系のユーザーが簡単に使えるサウンドツールという位置づけで、マルチトラックは対応せず、あくまでもステレオまで。また、ベータ版において使えるエフェクトはディレイ、コンプレッサ、フランジャーのみで、正式版でもそれほど多くは増えない見込み。

 一方で、自動作曲ツールがついているのが大きな特徴。これは、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ……といった指定をするとともに、尺を決めれば、即、曲が完成してしまうもので、ビデオに貼り付ける著作権フリーのBGM制作が目的となっている。ベータ版では、出来上がった曲の再生までしかできないようだが、これはちょっと気になるところだ。

 Auditionとはまったく別ラインのソフトだが、Soundboothが単体発売される予定はないとのこと。ビデオ制作系の統合ソフト、Adobe Production Studioにバンドルされる予定で、時期は決まっていないが来春ごろになる模様。


■ ProToolsは7.3に。フィジカルコントローラ新製品も

Samplitude 9

 DAW系では、MAGIXのSamplitudeシリーズの新バージョン、Samplitude 9が11月30日にHookUpから発売される。その音質のよさからマニアユーザーが多いSamplitudeだが、今回の新バージョンではマルチCPU、マルチコア、ハイパースレッドに対応し、処理タスクを分散させることで、オーディオ処理を高速化したのが大きな特徴。実際、クアッドコアにも対応しているので、かなり高速に動作する。

 また内部オーディオエフェクトが改善されたのも大きなポイント。高速で高音質なリニアフェイズリサンプリングを実現するために、新しいサンプリングアルゴリズム「UTR(Ultra Transparent Resampling)」なるものを搭載した。タイムストレッチ、ピッチシフトにも新アルゴリズム「Beatmaker Timestretching smoothened」を搭載し、より高音質化を実現している。前バージョンと同様、Professional、Classic、Masterの3ラインナップで、価格は順に155,400円、81,900円、50,400円となっている。

 なお、HookUpのブースでは、EchoAudioのコンパクトながら4in/6outに対応したFireWireオーディオインターフェイス、AudioFire2なども展示されていた。

 一方、DigidesignのProToolsも7.3へとバージョンアップする。現時点においてはProTools HDのみが7.2となっており、ProTools LEまたProTools M-Poweredは7.1のままだが、12月中に、すべてのラインナップがそろって7.3へバージョンアップするとのことだ。

EchoAudioの4in/6out対応FireWireオーディオインターフェイス、AudioFire2 ProTools HD 7.3

Frontier Design GroupのAlphaTrack

 今回の7.3では、機能というよりもユーザビリティの向上が主眼となっており、グルーピングがフレキシブルになったり、ミキサーの変更を再生しながらできるようになったりする。

 DAW関連では、非常にコンパクトなフィジカルコントローラ「AlphaTrack」がFrontier Design Groupから登場する。現在、USBポートを介し、2.4GHz帯の電波を用いてCubase、SONAR、LogicなどのDAWのトランスポートをコントロールする、ワイヤレスDAWコントローラ「TranzPort」という製品があり、タックシステムが実売25,000円程度で販売している。

 AlphaTrackはその新製品で、フェーダーを搭載している。1月末発売で、実売31,500円前後。実物の展示はされていなかったが、写真を見る限り、結構便利に使えそうなアイテムだ。


■ 多チャンネルオーディオの伝送規格が多数紹介

 ここまで比較的小さいモノ、低価格に分類される製品を中心に見てきたが、今回のInter BEEでとにかく目立ったのは、EtherSound、Digital Snake、CobraNet、MADIなどオーディオの伝送規格/伝送システムだ。いずれも24bit/48kHz、24bit/96kHzといったデジタルオーディオを多チャンネルまとめて、長距離伝送するというコンセプトでは共通している。

 CAT5eのケーブルを用いるか、光ファイバーを用いるかなどの差が多少あるほか、PearToPearでつなぐか、スター型などでつなぐかなどのトポロジーの違いがあるようだが、各社がいろいろな製品を出していた。

RolandのDigital Snake

 たとえばRolandが出したDigital Snakeは32chの入力を持つとともに8chを伝送するS4000Sと、その送られてきた8chを受けて、32chの出力を持つS4000Hを組み合わせて使うシステム。伝送経路にはCAT5eのケーブルを用いる完全独自のプロトコルのシステム。システムの二重化を図ることが可能で、より信頼性の高いシステムが組めるというのがウリとなっている。

 また、参考出品ながら、Digital Snakeの信号をPCのLAN端子に接続することで、そのままデータを受信でき、SONARでレコーディングできるというドライバが出ていた。2chに限定はされるものの、ちょっと面白い使い方ではある。

EtherSoundには多くのベンダーが取り組んでいる

 一方、同じCAT5eのケーブルを使いながらも、EtherSoundのほうは、Digigram、AuviTran、YAMAHAなどかなり多くのベンダーが取り組んでおり、互換性の高いシステムとしていくつかのブースで展示。マルチベンダー機器での接続実験なども行なわれていた。

 Inter BEE内での出展ではなく、隣のホテルニューオータニ幕張において、MI7 Japan、synthax Japan、digitalmusician.netが合同セミナーを開催。ここではMADIが大きく取り上げられていた。MADIはAES/EBUの次の規格として10年くらい前に登場したものだが、これまであまり普及してこなかったという経緯がある。

 最近になって徐々に使われはじめてきたが、RMEはPREMIUM LINEというラインナップで、MADIを強力にサポートしてきている。実売22万円前後ではあるが、PCI接続のMADIのインターフェイスボードをはじめ、MADIとAES/EBUのコンバータ、MADIとADATのコンバータ、MADIのブリッジなどを出してきている。

MADIの端子 RME PREMIUM LINEの各種機器

 24bit/48kHzなら64ch、24bit/96kHzでも32chを光ファイバーで2kmまで伝送することができるMADIだが、価格が安くなってきたら、adatケーブルの置き換え的なイメージで、スタジオ内での利用なども考えられる。

 このMADI搭載の機器としてはあのSolid State LogicからもAlpha Link MADI SXというものが年内に登場する。こちらは、MADIとAES/EBUコンバータ、AD/DAを統合したもの。価格は未定だが50万円近くにはなりそうだ。

 MADIとは関係ないが、同じくSSLから登場したDuendeはDSPチップであるSHARCを4基搭載して、AU、VST、RTASのプラグイン処理を外部で行なえるユニット。こちらは25万円程度の予定。

Solid State LogicのAlpha Link MADI SX SSLのDuende

 また完全に業務用のDirectX、VSTプラグインとしてalgorthmixの製品がいろいろリリースされる。中でも強力なのがノイズリダクション系のソフト。

 ヒスノイズ除去のためのNoiseFreeやスクラッチノイズ除去のためのScratchFree、またコンサート会場の音から、咳払いの音や電話の音を取り除くといった使い方ができるreNOVAtor&easyNOVAという補正ツールはなかなかのもの。前後や周りの音を利用して、特定の音をキレイに消し去ることができるのだ。いずれも数十万円という高価なものだが、機会があれば、ぜひ試してみたい。

ヒスノイズ除去のNoiseFree 咳払いや電話の音を取り除くというreNOVAtor&easyNOVA

 もうひとつdigitalmusician.netからは、インターネットとプラグインの機能を利用して遠隔地のスタジオを接続して同時レコーディングが可能なdigitalmusician linkの新バージョンである1.6がリリースされた。従来どおり、フリーで配布されており、今回のバージョンではVSTのほかにRTASにも対応した。

 また、規格の仕様上AUは使えなかったが、コミュニケーションツールとして、またファイル転送ツールとして利用可能な、digitalmusician messengerもリリースされたとのことだ。これについては、またどこかのタイミングで詳しく紹介できれば、と思っている。

digitalmusician link 1.6 digitalmusician messenger

□Inter BEE 2006のホームページ
http://bee.jesa.or.jp/2006/ja/index.html
□関連記事
【11月16日】【EZ】Inter BEE 2006レポート
~ 今年のテーマは「来年」!? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061116/zooma280.htm
【11月15日】Inter BEE 2006が開幕。松下が200万円以下のP2カメラ
-100/50MbpsのH.264「AVC-Intra」
ソニーはCineAlta最上位カメラを発表
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061115/interb.htm

(2006年11月20日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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