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第231回:BDになっても日本アニメは高い!
でも、もうDVDには戻れない!?「イノセンス」

 「買っとけ! DVD」として連載を続けてきた本コーナーですが、HD DVDやBlu-rayタイトルのリリースが開始されたこともあり、今後は、紹介するタイトルをDVDだけではなく、HD DVDやBlu-rayタイトルにも広げます。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! HD DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 コーナーのコンセプトは従来から変更なく、編集スタッフ各自が実際に購入したソフトを、思い入れたっぷりに紹介します。「Blu-ray/HD DVD発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 次世代DVDが本格スタート

イノセンス

(C)2004 士郎正宗/講談社・IG,ITNDDTD
価格:8,190円
発売日:2006年12月6日
品番:VWBS-1013
収録時間:約99分(本編)
画面サイズ:ビスタサイズ
映像フォーマット:MPEG-2/1080p
音声:日本語(リニアPCM 7.1ch)
   日本語(ドルビーデジタルEX 6.1ch)
   日本語(DTS-ES 6.1ch)
発売元:ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント

 PLAYSTATON 3やXbox 360用HD DVDプレーヤー、東芝の低価格HD DVDプレーヤー「HD-XF2」などの登場で、ハイビジョン収録の映像ソフトが気軽に楽しめる環境が整いつつある。ゲームソフトのHD化により、AVマニア以外にも「1080p」や「HDMI」などの認知度があがっており、2006年末は次世代DVDの本格的な幕開けの様相を呈している。

 こうした中、BDビデオ/HD DVDビデオのタイトルも増加。「Blu-ray/HD DVD発売日一覧」では、両フォーマット合わせて12月12日現在で178タイトルを登録している。「M:i:III」などの新作映画もBD/HD DVD化され、ようやく「どれを買おうかな」と選べるレベルまで増えてきた。

 ただ、どちらのフォーマットも発売の延期が頻発しており、発売されると思ってお店に行ったら売っていなかったという人も多いだろう。「Blu-ray/HD DVD発売日一覧」を入力している自分自身でも最近の延期連発で混乱ぎみなのだが……。

 PLAYSTATON 3は発売日当日に運良く抽選販売に当たり、60GB版をゲット。購入から約1カ月が過ぎたが、これまで「キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズ・カット」、「M:i:III スペシャル・コレクターズ・エディション」、「ティアーズ・オブ・ザ・サン」、「ブレイブ ストーリー」を購入してみた。

 どれもDVDとは次元の違う画質で満足のいくものだが、特に片面2層で、夜のシーンが非常に美しい「キングダム・オブ・ヘブン」や、アニメならではの別次元な高画質を体験させてくれる「ブレイブ ストーリー」が気に入っている。

 ただ、いずれのタイトルも4,980円程度で低価格化が加速しているDVDと比べると割高に感じる。薄いブルーやレッドのパッケージはDVDと見分けがつきやすいのだが、アウターケースや付属の特典グッズがあるタイトルはほとんど無く、高級感は無いのが不満点。もっとも、新フォーマットの登場に若干うかれぎみで買い漁っているので、そのあたりの金銭感覚は麻痺しているが。

 そんな中、アニメ映画「イノセンス」が12月6日にBDビデオ化された。価格は8,190円と、ブルーレイになっても日本アニメの値段は相変わらずのようだが、映像クオリティが非常に高い作品なので購入したい。発売日である6日の午前中、開店間もない東京・新宿のヨドバシカメラに出掛けたところ「昨日の段階で売り切れました」とのこと。慌ててビックカメラに向かうと1枚だけ発見。なんとかゲットできた。

 PS3の出荷台数が少ないとは言え、対応レコーダの販売もスタートしているので、BD再生環境を持つユーザーは確実に増えているようだ。だが、販売店もソフトメーカーも、どのタイトルを何枚用意すればいいのか図りかねているような印象も受ける。「まだユーザー数が少ないから大丈夫だろう」と考えず、しばらくは「見つけた時に買っておく」のが良いのかもしれない。


■ これが本当の「イノセンス」

 作品の内容を紹介したいところだが、「イノセンス」のストーリー自体はDVD版が発売された際のレビューで解説しているのでそちらを参照していただきたい。簡単におさらいしておくと、'95年に公開された「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」の続編。舞台はネットワークやコンピュータなどが現代より発達した近未来だ。

 主人公は政府直属のスペシャリスト集団・公安9課に所属する男・バトー。前作で姿を消した同僚の“少佐”こと、草薙素子への想いを引きずっている。そんな折、愛玩用の少女型アンドロイドが原因不明の暴走を起こし、所有者を惨殺するという事件が発生。少佐のいない9課はいつものように捜査を開始するのだが……。

 視聴はソニーの40型フルHD液晶テレビ「KDL-40X2500」とPS3をHDMI接続(1080p)して行なった。CRTでの視聴は同じくソニーの「KD-36HD800」にD4接続で。また、PC環境での視聴も想定して三菱電機のHDCP対応25.5型液晶モニタ「RDT261WH」(1,920×1,200ドット)にHDMI-DVI変換ケーブルを利用して接続してみた。

 ディスクの仕様は片面2層で、本編の収録時間は約99分。映像は1,920×1,080ドット(プログレッシブ)で収録。画角はビスタサイズだ。フォーマットはMPEG-2。仕様面での特徴はリニアPCMの7.1chサラウンドを収録していること。光デジタルでは2chしか伝送できず、マルチはHDMIのみでの伝送となり、対応できるAVアンプも少ないのが現状だが、非圧縮データが入っていることは将来的にも安心感がある。他にはドルビーデジタルEX(6.1ch)とDTS-ES(6.1ch)も収録している。

 プレーヤーはPS3を使用。システムソフトウェアはバージョン1.30。「ブレイブ ストーリー」のようなキャラクターの境界線がクッキリと描かれ、「これぞハイビジョン」というような高解像な映像を想像していたのだが、「イノセンス」は良い意味でそれを裏切ってくれた。

 一言で言えば、アニメながらフィルムのような質感がある。冒頭のガイノイド(女性型ロボット)暴走シーン、9課での荒巻との会話シーンなど暗いシーンが連続するが、色ノイズが画面全体にかかっている。輪郭付近でもノイズの出方は変わらず、分布は均一。これは圧縮時に発生したものではなく、意図的に全体にかけられたフィルムグレインで、フィルムのような質感を産む技法だ。後述するクリアなCGシーンでもノイズはかけられており、全体としてしっとりとした画質になっている。

 だが、暗部にはあきれるほど情報が記録されている。荒巻と会話する暗い部屋のシーンでは、照明が当たっていない、闇の中にある背後の壁の木の質感までが描かれており、DVDでは暗い空間に浮かびあがっていただけの主人公達が、「暗い部屋」にいることがはっきりわかる。

 あえて輝度を落として潰し気味に表示することで、かすかに感じられる情報が画面全体に立体感や密度感を与えてくれる。アニメは高画質に作ろうと思えば果てしなくクリアな映像にすることもできるが、イノセンスのような作品にはそぐわない。アニメなのに妙なリアリティを感じる画質だ。

 フォーマットはMPEG-2で、MPEG-4 AVC/H.264やVC-1と比べて真新しさはないが、ビットレートが常時36~38Mbps程度出ており、35Mbpsを切ることがほとんどない。後半のアクションシーンでもBD版はブロックノイズは皆無。どんなに激しく動いていても輪郭線は崩れず、飛び散る破片や薬莢、血糊までもクッキリ。「こんな細かく描き込んでいたのか」と驚かされる場面が連続する。

 DVD版も同時再生して比較してみたが、画面が切り替わった瞬間に笑ってしまうほど違う。DVDも高画質な部類に入るソフトだったが輪郭線がぼやけ、BDではコンビニの棚の商品の注意書きまで読めるほどだったが、DVDではそうした部分がつぶれてしまう。暗部には意図的ではないノイズが大量に発生し、クリアだった女性検死官のシーンでも、白衣にザワザワとノイズが発生。BDではそうしたノイズはまったく無く、白の階調も豊か。DVDではいかに白飛びをしていたのかがわかり、愕然としてしまった。

 解像度の違いがわかりやすいのはオープニングのガイノイド作成ムービー。BD版は3DCGで描かれた人形のまつげの1本1本までクッキリと描写し、肌の階調もなめらか。公開時から「何かが写り込んでいる」と話題だった瞳の描写。DVD版ではそれがなんであるかかろうじてわかる程度だったが、BDではクッキリと判別可能。レンズでできた瞳の黒目の外周に、レンズメーカーの文字が刻まれており、社名や型番まで完全に読み取れる。DVDでは解像度が足りず、文字や数字がくっついてしまって判読しにくい。

 また、同作品最大の見せ場でもあるCGの祭礼パレードシーンも違いが顕著。群集が個別に動き、金色の紙吹雪が舞う極彩色のパレードを引きのアングルで撮影するというMPEG-2泣かせな画面。群集の輪郭にモスキートノイズやブロックノイズが発生し、画面全体にもやがかかったような眠い映像になるDVDに比べ、BD版は群集の1人1人が解像され、輪郭線もクリア。彼らが何をしているのか容易に見分けられる。DVDでは辿り着けない映像であり、AVファンにはぜひ一度見て欲しいシーンだ。

 なお、PS3ではバージョン1.30から、HDMI出力の方式が「RGB」と「Y Pb/Cb Pr/Cr(コンポーネント)」から選択可能になった。テレビ側では「Y Pb/Cb Pr/Cr」で処理することが多いため、PS3側の処理も「Y Pb/Cb Pr/Cr」で行なうことでRGBへの処理が省略でき、画質面で有利とされる。2方式を比較してみたが、差は非常に微小。コンポーネントの方が階調が豊かで、ガイノイドの肌がなめらかに感じられた。


■ ドルデジ/DTSも高音質

 DVDの音声は、スタンダード版はドルビーデジタルEX、リミテッドエディションはDTS-ESを収録していた。BDビデオ版は両方収録しているが、音質に差があるだろうか? ビットレートを見てみるとDVD版のドルビーデジタルEXが448kbps、DTS-ESは768kbps。対するBD版のドルビーデジタルEXは640kbps、DTS-ESは1.5Mbpsだ。

 比較してみると、どちらも音場が1.3倍くらいに広がったように感じる。銃撃戦のシーンでは、各銃の隙間が広がったように感じられ、リアスピーカーが遠のいたような不思議な感覚だ。そのため、一聴すると音がミッチリとまとまったDVDのほうが迫力があるように感じられる。だが、すぐにBDのほうが音のリアリティが高く、ボリュームをどんどん上げたくなる音だといううことに気が付くだろう。

 リニアPCM 7.1chは6.1Mbps。今回は環境の問題で2ch再生のみテストしたが、それでもドルビーデジタル/DTSとは比べ物にならない音が飛び出した。音圧、レンジ、解像感のどれをとってもクオリティの差は歴然で、銃撃戦のシーンでは2chにも関わらずボリュームを上げるとサラウンドより「怖い」と感じるほど。HDMI端子付きでリニアPCMのマルチチャンネル入力に対応したAVアンプを慌てて買いに行きそうになる、魔性の音だ。


■ メニューはシンプル。特典はSD

 次世代DVDの特徴でもあるポップアップメニューはシンプル。画面上部に「TOPメニュー」、「セットアップ」、「チャプター」、「特典」の項目が表示され、セットアップメニューを押すと音声フォーマットや字幕を随時変更できる。TOPメニューもDVDでイメージするような1枚絵のメニューがあるわけではなく、映像が背景として流れ続け、メニュー自体はポップアップメニューと同じものが表示されるだけだ。

 メニューデザインはオレンジ色を基調としたもので、これは劇中に登場するコンピューターの表示カラーからとられているようだ。前作は黄緑色のコンピューター画面が多かったが、イノセンスではオレンジを基調としている。作品の雰囲気を損なわないカラーチョイスと言えるだろう。

 シンプルでわかりやすい反面、「次世代DVDだ!」という感動や面白みはない。チャプタ選択メニューは画面下部に静止画のサムネイルがライン状に表示され、選択中のチャプタが左下に拡大表示される。チャプタ名も表示されているが、いずれの画面も小さめで、40インチのテレビでも離れると見にくい。どのサイズのテレビを基準とするかは難しいところだが、このあたりのレイアウトデザインは今後のソフトでブラッシュアップされるだろう。

 特典はオーディオコメンタリーとミュージッククリップ「イノセンスの情景」、そしてメイキングと劇場予告編。さらに押井監督とIGの石川社長の対談である「イノセンスは国境を超えたか?」を収めている。

 単品発売された「イノセンスの情景」をそのまま収録しているのは嬉しいポイント。だが、オーディオコメンタリーの内容はDVD版と同じで、メイキングも同様だ。解像度はいずれもSDで、特典を選ぶとバチッとPS3の解像度が切り替わり、メニューパネルも大きく表示されるなどいささか格好悪い。「イノセンスの情景」と劇場予告はハイビジョンで収めて欲しかった。

 海外での評判や海外展開などを紹介する「イノセンスは国境を越えたか?」には、押井監督とIGの石川社長の対談も含まれているなかなか見応えのあるコンテンツ。初公開のものではなく、2005年9月に発売されたDVDのインターナショナルバージョンに収録していた特典だ。通常版のDVDを購入した人でインターナショナルバージョンも買った人は少ないと思われるので未見の人も多いだろう。これは嬉しいオマケだ。

 ただし、DVD版に収録されていたスタジオジブリの鈴木プロデューサーと押井監督の対談は省かれている。この対談は映画に込められたメッセージをより深く知る上でかなり参考になるものだったので省略されたのは残念だ。


■ もうDVDには戻れない

 「イノセンス」の購入を検討する人には、前作の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」が好きだったり、テレビシリーズ「STAND ALONE COMPLEX」のファンだという人が多いだろう。だが、イノセンスは前回DVDレビューでも書いたように、そういったファンにとってはシナリオ的に真新しい点はあまり無い。

 登場人物達のセリフも偉人や作家の言葉の引用が主体で、ほとんど比喩表現だけで構成されている。その解釈で楽しめる押井ファンには良いが、普通の人にとっては凄まじい映像に、わかったようなわからないようなセリフが羅列され、後は白っぽい人形がクネクネ動くだけの映画に感じられてしまう。8,190円という価格を考えると無条件でお勧めするのは難しい。

 だが、祭礼シーンに代表される、アニメ最高峰のクオリティ映像は必見の価値があり、音質も含めてその魅力は次世代DVDでしか味わえないものだ。来客用のデモディスクとしてはブレイブ・ストーリーのような作品のほうが高画質感がわかりやすい。だが、AVマニアが訪ねてきた時はイノセンスで画面の奥行き感や暗部の階調性をデモしたほうが受けはいいだろう。

 車の窓ガラスの汚れや、そこにつたう水滴までこだわって描かれたこの映画は、そうした凄まじい映像に圧倒されながら、連発される難解な言葉で頭の中をグチャグチャにされた末に、何かを感じ取るような作品なのだろう。そういった意味で、DVDのSD解像度では魅力は半減していたと言える。BDビデオで出すことに意味があるという点では、見逃せない1本である。

●このBDビデオについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

前回の「トップをねらえ2! 最終巻」のアンケート結果
総投票数1,448票
購入済み
313票
21%
買いたくなった
435票
30%
買う気はない
700票
48%

□ブエナ・ビスタのホームページ
http://www.disney.co.jp/videos/
□タイトル情報のページ
http://club.buenavista.jp/ghibli/product/data.jsp?cid=522#bluray
□関連記事
【Blu-ray/HD DVD発売日一覧】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/bdhdship/
【9月4日】ブエナ、BDビデオ版「イノセンス」の詳細を発表
-インターナショナル版字幕や「イノセンスの情景」も収録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060904/buena.htm
【5月30日】ブエナ、「イノセンス」のインターナショナル版DVDを発売
-ガイノイドフィギュアの素子バージョンを同梱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050530/buena.htm
【2004年8月31日】【DVD】スペシャル版はDTS-ES音声が魅力
人はなぜ人形を作るのか?「イノセンス」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040921/buyd148.htm
【2004年8月31日】ブエナ、DVD「イノセンス DOG BOX」の発売を1カ月以上延期
-犬フィギュアの製造遅れが原因
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040831/buena.htm
【2004年7月1日】ブエナ・ビスタ、DVD「イノセンス」を9月15日に発売
-球体関節人形付きBOXなど、計4バージョンを用意
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040701/buena1.htm

(2006年12月12日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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