■ ネットの力がヒットを生む?
頻繁にチェックするブログや個人ニュースサイトは、自分と同じような趣味趣向を持つ管理人が運営している事が多いもの。趣味が似ているので、そのブログの主が「この映画が面白かった」、「あの小説が感動した」と書いていると非常に気になり、「この人がそう言うのなら読んでみようかな」という気になることもしばしば。雑誌や新聞の映画批評よりも、個人ブログの感想を信頼するという人も多いと聞く。今までは小規模にしか伝播しなかった「口コミ」が、短期間に、広範囲に広まる土壌が生まれたと言えるだろう。 番組改変期になるたび、唖然とするほど大量の作品が登場するアニメ業界にもその影響は出ている。あまりに数が多いので「ネットで評判になっている作品は観るようにしている」なんて人もチラホラ。最近人気のテレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」や、映画「時をかける少女」などは、ネットの影響が色濃く出ているように感じる。 8月25日に第6巻(最終巻)がリリースされた「トップをねらえ2!」も、そんな個人の情報発信が影響していそうな1本だ。それも、最終巻がリリースされて「面白い」、「感動した」などの感想が伝播。あらためてシリーズが最初から再評価されているようだ。 「トップをねらえ2!」がどんな作品か、簡単に解説しよう。「2」というからには「1」がある。前作「トップをねらえ!」は、'88年にガイナックスが制作した同社初のOVAシリーズだ。ガイナックスと聞けば、アニメを良く知らない人でも「新世紀エヴァンゲリオン」を連想すると思うが、エヴァの庵野秀明氏が初監督を務めたのが「トップをねらえ!」である。 簡単に言うと「美少女が沢山出てきて、巨大ロボットに乗って、宇宙で怪獣と戦う」という、アニメファンは好きだけと普通の人は顔をしかめるような設定の作品。だが、「そう思って見始めたら、凄まじい内容で感動 or トラウマを負う」というのがガイナックス作品の通例。初期の作品である「トップ」も例に漏れず、甘いのは女の子の顔と良く揺れる胸くらいのもので、内容は非常にディープでシリアスだ。 登場する巨大ロボ「ガンバスター」の外観やアクションは豪快で、アニメらしい誇張に満ちている。しかし、SF設定はしっかりしており、例えば光速に近付くほど時間の流れが遅くなる「ウラシマ効果」は残酷とも言えるほど徹底して描写される。主人公の少女タカヤ・ノリコは、銀河の中心からやってきた宇宙怪獣を倒すため、宇宙空間での戦闘やワープを繰り返し、光速巡航などを行なった結果、地球の同級生達とどんどん年齢が離れていく。 卒業証書をもらいに地球に戻っても、同級生は子持ち。友達と同じ時間を生きられない辛さや、地球に無くなっていく自分の居場所などに胸がつまる。そして敬愛するお姉さま・ことアマノ・カズミとともに、銀河の中心に最後の戦いに出た2人は、木星を核としたブラックホール爆弾を起爆。敵集団をホールに飲み込ませることに成功するが、その影響で、帰還した際には、地球では1万2,000年が経過してしまうという、衝撃的なラストで幕を閉じる。宇宙の広さや、それぞれの時間をどのように生きるかなど、色々と考えさせてくれる名作だ。
それから約15年。ガイナックスの20周年記念作品として製作されたのが、「トップをねらえ2!」。再び地球への侵攻を開始した宇宙怪獣と、それを迎え撃つバスターマシンの戦闘が全6話で描かれていく。
■ 一見「お洒落アニメ」だが…… 主人公は、宇宙パイロットに憧れて街に出た少女ノノ。そこで彼女はバスターマシンで宇宙怪獣と戦う“トップレス”能力を持った少女ラルクと運命的な出会いを果たす。「お姉さま」と慕い、ラルクの元に押しかけ、自らもトップレスになることを志願するノノ。最初は雑用扱いだった彼女だが、様々な戦闘を繰り返し、やがてチームの一員に数えられるようになる。 だが、彼女の正体はロボットであり、バスターマシンのパイロットに憧れるどころか、彼女自身が遠い過去に作られた「バスターマシン 7号」(初代はトップ1のバスターマシン)であることが発覚。記憶と自らの使命を取り戻した彼女は、ラルク達が生きる世界では既に失われている惑星も輪切りにできるほどの戦闘能力や、ワープ能力などを使い、宇宙怪獣を撃破していく。だが、その力ゆえ、「地球を護る英雄」としてのラルクとノノの立場が逆転。最終決戦を前に、共に戦うはずの2人にすれ違いが生まれてしまう……。
「トップ2」の絵柄や動きは非常にポップで明るい。登場人物達の服装も原色系が多く、お洒落なアニメと言い換えても良いだろう。前作は「ザ・男性マニア向け」という感じの、悪く言うと閉鎖的な映像だったが、新作は良質なミュージッククリップを観ている気すらしてくる。主人公は天然のドジッ子だが、男性に媚びたデザインではないので女性でも違和感なく観られるだろう。 だが、この「オシャレ感」が、逆にコアなアニメファンに「とっつきにくさ」を抱かせた。ダメな女の子が「努力と根性」で地球を守った前作と大きくイメージが違う。例えるなら、秋葉原の裏路地を歩いていたはずが、いつのまにか六本木ヒルズのオープンカフェに座らされていたような居心地の悪さだ。周囲のアニメファンに聞いてみると、序盤で「こんなのトップじゃない」と投げ出してしまった人が結構いた。 しかし、この作品は第1~3話と、第4~6話が別物だ。ノノがバスターマシンであることが明らかになると、急に画面が熱を帯びたように盛り上がる。彼女が過去の遺産であることがわかり、前作との繋がりを予感させるからだろうか。最終巻に至っては、惑星をジェットエンジン(?)で加速して宇宙怪獣にぶつけるなど、アクションのスケールもトップらしい“天文学レベル”で圧巻だ。 最終巻にかけて、前作のノリに近づいていくと表現しても良いだろう。そして物語はネットでも話題になっている衝撃的なラストへ繋がっていく。実はDVD発売に先駆け、完成試写会の取材で観たのだが、思わず取材を忘れて、前作の1ファンとして熱いものがこみ上げてきた。 記事にはネタバレをしないように気をつけながら簡単な感想を記載したが、ネットを眺めていると、嬉しいことにかなりの数のサイトで記事へのリアクションがあり、「面白いらしい」というようなコメントが添えられていた。試写会に参加したお客さんも、個人サイトで感想を書き、そうした口コミが広まって話題になっていくのを、間近で見ることができた。 前作のファンには是非観て欲しい。「1、2話は観たけど、それ以降は観ていない」という人も、最後まで観賞して欲しい。また、若いアニメファンには「名前は知っているけど前作も見たことが無い」という人も多いだろう。限定生産されたリマスター版のDVD-BOX(BCBA-2053/13,440円)を今から探すのは難しいかもしれないが、通常のDVD版は販売中だ。1、2と連続で観賞するのがお勧めだ。なお「合体劇場版」として「トップ」と「トップ2」の再編集版を一緒に上映するイベントも企画されている。
■ 画質/音質には満足。特典はちょっと寂しい DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.65Mbsp。収録時間は31分で、片面1層だ。映像は最新のアニメ作品だけあり、非常にクリア。液晶テレビで観るとグラデーションの境目が気になる点はあるが、ブロックノイズやモスキートノイズは見当たらない。輪郭の解像感はアニメとしては甘めで、遠景で小さなキャラクターが動いている際には擬似輪郭もかすかに見えるが、画面やスクリーンに顔を近づけなければ気にならないだろう。 音声はドルビーデジタル5.1chとドルビーデジタル2.0chで収録。ビットレートはどちらも448kbps。ドルビーデジタル5.1chで観賞したが、音場が非常に広い。和室で会話しているシーンで背後から聞こえるししおどしの音が“しっかり遠い”。そうした静寂と強烈な騒音の対比が鮮烈。宇宙船が航行する際のゴウンゴウンという騒音や、隔壁が閉じる際の重い金属音は迫力満点だ。 戦闘シーンでは、地球と同じくらいのサイズのロボットが動くたび、空間が震えるような音がする。リアリティなどと言い出すとそもそも宇宙空間では音などしないはずだが、なかなかそれっぽい音になっている。セリフも明瞭。メインキャラクターが声の高い女性2人ということもあり、エコーがかかる回想シーンなどでは、声が虚空に響きながら消えていく感覚が心地良い。アニメ音楽の重鎮・田中公平による音楽もトップシリーズには欠かせない要素だ。
封入特典として解説書を同梱している。ページ数は7ページと少なめだが、内容は豊富。原案・監督の鶴巻和哉氏と、脚本の榎戸洋司氏による対談がメインで、作品のテーマやラストについて、かなり突っ込んだ話がされている。そのため、1行目からネタバレでスタートしている。解説書の表紙に「本編を観た後で読んで」という注意書きがあるので、素直に従ったほうが良いだろう。
■ 前作を超えたか!? 試写会後は満足した気持ちで帰宅したのだが、今回DVDであらためて鑑賞すると、手放しで賞賛できない点も幾つか見えてきた。ノノとラルクの関係が非常に重要な作品なのだが、通して見ると、その描写が不足しているように感じる。「仲の良かった2人がすれ違った末にどうなるのか?」が重要なのだが、あまり2人が仲良くしている描写や、そこに至る経緯が描かれていない。ラストを観ながら「いつの間に仲良くなったんだっけ?」と違和感を感じたのも事実だ。 主人公が超人ロボなので、感情移入がしずらい面もある。前作は、スポコン漫画「エースをねらえ!」と映画「トップ・ガン」をミックスしただけあり、「ダメダメな主人公が努力と根性で地球を救う」という構図に観客は引っ張られた。そういう意味では、トップ2はノノによって変わっていく、ラルクという少女の物語と言えそうだ。 また、ラストは確かに感動的なのだが、その感動は“前作ありき”であることは否めない。続編である以上悪いことではないのだが、「トップ2」だけでも感動できる作品にすることが、前作を超える第1歩になるはず。パート2だけを初めて見た人が、前作ファンに負けない感動を得られるかというと疑問だ。良くも悪くも「前作のファンに向けた、久しぶりのトップ」という感じだろう。 だが、ガイナックスの原点であるシリーズの新作として、豪快なアクションの楽しさや、壮大な宇宙の描写などが楽しめ、個人的にはアニメの原点に立ち返ったような気分になった。最近のアニメは物語もキャラクターも定型化しており、キャラクターの髪の色を見ただけで性格や役柄が想像できるような状況。アニメファンが求める作品が供給されているのは嬉しいことなのだが、それが己の首を絞めることにもなっている。最初から萌えるように用意されたキャラなど3日で飽きるものだ。制作者の熱い声が聞こえてくるかのようなタイトルもあまり無い。
「トップ2が前作を超えられたか?」と聞かれると個人的には唸ってしまうが、「何かを伝えたい」という作り手の熱意が久しぶりに伝わって来る稀有な作品であることは確かだ。やはりガイナックスには「これが俺達が作りたかったアニメだ、文句あるか」という熱いパワーが良く似合う。表現方法は変わっても、その姿勢だけは変わってほしくないと感じた。
□バンダイビジュアルのホームページ (2006年9月5日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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