CES会場では、Blu-ray/HD DVD各陣営のプレスカンファレンスやブース展示が行なわれた。両フォーマットの争いは技術で語る時期をすでに過ぎ、HD DVDプロモーション・グループ、Blu-ray Disc Association(BDA)のいずれも、アピールするのは「いかにタイトルが魅力的か、いかに来年売れるか」という点であった。 そうした中、もっとも脚光を浴びたのがBlu-ray/HD DVDの「互換」という技術。LG Electronicsが発表したBD/HD DVD両用プレーヤー「Super Multi Blue Player(BH100)」と、WarnerによるBD/HD DVDハイブリッドディスク「Total Hi Def Disc」だ。CESを駆け抜けた「次世代DVDの統合と融合」の話題をまとめてみよう。
■ LGのBD/HD DVDプレーヤーは「BDプレーヤーでHD DVDを『簡易再生』」 CES開催前日に話題をさらったのは、LG電子が発表した「Super Multi Blue Player(BH100)」だ。世界初の、HD DVDとBD、両方に対応したプレーヤーである。
発想はシンプルだ。BDプレーヤーにHD DVDの読み取りが可能な光学ヘッドを組み合わせ、再生などのソフトウエア的な処理はBD用のLSIで代替する。そもそも、両メディアにはコーデックでも著作権保護システムでも共通点が多いため、「いつかは、どこかが」と言われていた。 会見で、LG電子のCTOであるHee-Gook Lee氏は、「消費者はどちらのプレーヤーを買えばいいか迷っている。そのため、当初BDプレーヤーとして開発していた製品を、両対応にした」と話している。デモには「Superman Returns」の映像を使い、「スーパーマンは青いコスチュームに赤いマントでパワフル。BDとHD DVDの両方が再生できるプレーヤーのデモにはぴったりだろう?」(Lee氏)と能力をアピールした。 両方かかるプレーヤーは非常に魅力的であり、今後はこれが主流に……との見方もある。だが、そう決断するのはちょっと早計である。 第1に、HD DVD側は「簡易再生」である、ということだ。HD DVDとBDでは、ディスクナビゲーションに使われる技術が大きく異なる。HD DVDは「HDi」、BDは「BD-JAVA」という技術を採用しているが、BH100の場合、BD-JAVAをサポートするものの、HD DVDのHDiには対応していない。そのため現在のHD DVDの多くで使われている複雑なメニューやピクチャー・イン・ピクチャーなどの再生はできない。
BH100では、チャプタや音声トラック、サブタイトルなどの情報を読み取り、同社が独自に用意した「シンプルメニュー」で再現することで、HD DVDとしての機能を実現している。これはDVDフォーラムでHD DVD向けに規定された手法とは異なるため、すべてのタイトルでシンプルメニューが動作するかは保証の限りでない。
LG電子の担当者は、「メニューが動かないタイトルがあっても、リモコンのボタンによりダイレクトに切り替えることは可能。そもそもこの機能は『シンプル』を目指したもので、多機能を狙ってはいない」と説明している。
また、このプレーヤーに搭載されているドライブが比較的高コストなものであるのも気にかかる。ドライブ以外は、BH100の構成パーツは他のBDプレーヤーと大差ない。しかし、BH100の価格はサムスン、松下、ソニーのドライブよりも高価。また、BH100はCDの再生には対応しない。CD非対応の理由については「コスト」と説明している。CD再生に関する部分を削らねばならないほど、現状ではドライブのコストが高いと考えていい。 さらに、「PLAYSTATION 3」と東芝「HD-A2」を合わせた金額よりも高価で、それらより機能の劣るBH100は、プレーヤーとして評価した場合、割高といえる。BDプレーヤーで出遅れたLG電子としては、なんらかのプレミアムがないと市場でのプレゼンスが発揮できない。そこで目をつけたのが、「HD DVDの簡易再生」というところなのだろう。 両対応ドライブの低価格化がすすまないと、価格が全てであるプレーヤー市場で「コンボプレーヤー」がすぐに一般化するとは考えづらい。残念ながら、しばらくはニッチな存在にとどまるだろう。
むしろ伸びが期待できるのはPC用だ。LG電子はBH100と同時に、PC用のSuper Multi Blueドライブ「GGW-H10N」も発表している。こちらは、BDへの書き込みやCDの読み込みにも対応しており、用途が広い。再生もすべてソフトで対応するから、HDiの互換性問題も当然発生しない。ちなみに今回のデモでは、BD-J/HDi両方に対応するPowerDVDが使われていた。書き込みドライブ単体で1,199ドルは少々高いが、全ての機能を満たすという点で言えば、プレーヤーよりも上といえる。
元々PC用ドライブの分野では値下げ圧力がプレーヤー以上に高い。そして、LG電子と日立の合弁企業、日立LGデータストレージが大きなシェアを持っている。一般的なPCではしばらく使われることはないだろうが、大型液晶を備えた日本国内の高付加価値テレビパソコンなどには、うってつけのドライブといえそうだ。私見では、今夏から秋のパソコンには、このドライブを採用した製品が出てくると予想している。
■ 1枚のディスクにBD層とHD DVD層を 昨年の5月、ワーナーがこのディスクのパテントを持っていることを公表したため、一時脚光を浴びたが、それ以上の具体的なリリースがなかったため、話題が沈静化していた。今回正式に、名称と発売の意志が示されたことは、LG電子のBH100同様、「外からのメディア統一」ともいえる出来事である。 ワーナー・ホーム・ビデオの横井昭 事業開発担当副社長は、「別にパテントがあったから作った訳ではないんです。一番の理由は、流通からの強い要望があったから」と話す。 現在販売店には、BDとHD DVD、両方のディスクが棚に並んでいる。その多くは、ワーナーのように両方のフォーマットに参入しているメーカーが販売するタイトルであり、重複して並んでいる格好になる。そもそも、販売店のスペースは限られている。DVDも売らねばならないところに、BDとHD DVDも並べるのはきわめて厳しい。しかも、顧客に対し両方の違いを説明する必要にも迫られる。 「仮にどちらかのフォーマットが優勢になったとしても、一度参入した以上、簡単に発売を止めてしまうことは難しい。1年や2年でなく、10年続くかもしれない。とすれば、1枚で両方に対応できるようにすることが必要になる」という。 ただ、このディスクについてもいいことばかりではない。Total Hi Def Discは、非常に製造コストがかかるようなのだ。そもそも、HD DVDとBDの記録面両方を作るわけで、作業量も単純に多いが、問題はそれだけにとどまらない。 このディスクは、カナダのシンラム(Cinram)が製造することになっている。同社はBDとDVDを貼り合わせた「BD版DVDコンボディスク」の技術を持っており、この技術のDVD部をHD DVDに置き換えたのが、Total Hi Def Discの正体である。 だが、ある業界関係者は「このディスクの歩留まりはまだ非常に低く、コストは現在のBDやHD DVDとも比べられない。すぐに商品として大量に流通させるのは難しいだろう」と話す。この問題を解決するには、「大量に作る」という前提で、製造技術の研究とライン開発への投資を行なう必要がある。ワーナー・横井副社長も「ワーナーだけやればいい、という話ではない。出来る限り多くのメーカーに声をかけていかないと」と話す。 Total Hi Def Discのリリースでも、発売時期は2007年後半とだけされており、行方はまだ不明確だ。
■ 「コストを払って両方」か「低コストにシングルフォーマット」か LG電子のSuper Multi Blueドライブ、そしてワーナーのTotal Hi Def Disc両方に共通しているのは、「消費者が迷わない」というメリットがある一方、「コストを消費者の側が負担することになる可能性が高い」という点である。コストは数が解決するとはいえ、影響を考えると悩ましい。そもそも問題の発端はディスクフォーマットが分かれたことにあるわけだが、それを解消するために、「一つを選ぶ」のか「コストをかけて両方を選ぶ」のか。消費者側に迫られる選択は、より難しいものになりそうだ。
□2007 International CESのホームページ(英文) (2007年1月10日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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