11月以降、DVDの「次世代」ビジネスは第2フェーズに入っている。各社からレコーダー製品が登場、「普及型プレーヤー」として、PLAYSTATION 3(PS3)やXbox 360用HD DVDプレーヤーの販売が始まり、ようやく「本当の戦い」が始まったところだ。 HD DVDのキープレーヤーであるMicrosoftは、現状をどう見ているのだろうか? 8月に続き、米MicrosoftでHD DVD事業を担当する、コンシューマ・メディアテクノロジー担当副社長のアミール・H・マジディマール(Amir・H・Majidimehr)氏に、米国市場を中心とした「HD DVDビジネスの現状」を聞いた。 ■ Xbox 360用HD DVDプレーヤーは「きわめて好調」。アップデートも予定 -HD DVDに関するMicrosoft製品といえば、まずはXbox 360用HD DVDプレーヤーが挙げられます。売れ行きはどうですか? マジディマール:非常に大きな需要がありますし、反響も上々です。重要なのは、購入しているのがいわゆる「アーリーアダプター層」ではなく、第2世代といいますか、それに続く一般層の人々、ということです。そのことにより、市場が広がっていくことが重要なのです。 -どのくらいの数が販売されたのですか? マジディマール:正確な数は公開できませんが、売上は、我々の予測を確実に上回っています。リモコンや「King Kong」のディスク(北米のみ)がついて200ドルですから、非常に安価である、という反応をいただいています。
PS3はBlu-ray Discの再生機能を搭載していますが、BDの映画タイトルの売上には、まださほど大きな影響を与えていないようですね(インタビューは12月6日に実施)。BDの映画タイトルの売上は、HD DVDのそれに比べ、まだ低いレベルにとどまっています。米Amazon.comの売上をトラックするサイト「The DVD Wars」の情報では、HD DVDの方が良好な売れ行きを示しています。 確かにPS3は非常に優れたプレーヤーであり、500ドルです。ソニー、松下のプレーヤーは1,000ドルから1,500ドル。ならば、なぜ高価なプレーヤーを買う必要があるのですか? このあたりも、彼らの問題でしょう。 -では、売れ行きに違いがあるとすれば、なぜHD DVDの方が良い売れ行きを示しているのですか? マジディマール:いくつかの理由があります。第一の理由は、BDソフトはクオリティの問題で、顧客満足度が低かったことです。HD DVDは、現状のBDに比べ、オーディオ・ビデオのクオリティに加え、インタラクティビティでも品質が高い。 また、プレーヤーがより売れている、ということも大きい。SamsungのBDプレーヤーは、さほど売れておらず、東芝の方が、ずっと良い売れ行きを示しています。 -しかし、PS3の数を入れれば、すでにHD DVDプレーヤーの数をBDプレーヤーが抜いているのではないですか? マジディマール:そこが、机上の空論(Paper Spec)と現実の違いです。並んでまでPS3を買った人は、まずゲームをやりたいと思うはず。BDで映画は観ない。でも、Xbox 360のHD DVDプレーヤーは「映画専用」の機器です。映像タイトルを買う人の数は、PS3より格段に多くなります。 また、PS3とHDMIケーブルやゲームタイトルなどを買うと、もう映画を買う予算はなくなってしまう(笑)。Xbox 360はすでに700万人の方が買っています。200ドル追加するだけでHD DVDの映画が再生できます。ですから、「映画のためにゲームをあきらめる」必要がないわけです。 もう一つ理由を挙げましょう。我々は、Xbox 360用プレーヤーに「King Kong」をバンドルしています。これは内容ももちろんですが、画質が非常にすばらしい。対して、PS3では「TALLADEGA NIGHTS」がバンドルされていますが(米国の初期出荷50万台)、これは画質も良くない上に、内容についてもあまりいい評判を聞きません。あとは、リモコンでなくコントローラ操作しなければいけないなどの問題もあります。 -そうなると、よりXbox 360用プレーヤーの出荷数が問題になります。数字は教えていただけないとしても、せめてヒントは教えていただけませんか? 少なくとも「万」の桁は到達しているわけですか? マジディマール:もっと多いです(笑)。 -Xbox 360用プレーヤーは、HD DVD全体の中で、今後どのような位置を占めると考えていますか? マジディマール:あくまで、「ハイデフの映画が観たい人」のための選択肢、です。見たい人は買っていただければいいですし、そうでないなら買わなくてもいい。そこはは変わりません。 -これまでの「定説」として、「ゲーム機のアドオンは売れない」というものがあります。Xbox 360用HD DVDプレーヤーは、それを覆しつつあると理解できますが、その理由はなんですか? マジディマール:確かに、HD DVDプレーヤーはXbox 360でもっとも売れたアクセサリーとなっています。理由はシンプル。ゲームには使わないからです。 あるゲームではアドオンが必要で、あるゲームでは不要、という形では、デベロッパーにもユーザーにも不安を与えるため、ヒットしません。しかし、HD DVDプレーヤーはそうではない。映画を観たい人だけが買い、そうでない人は買わない。しかも、すべてのHD DVDが再生可能で、どれかは再生できない、というわかりにくさがない。 -ただ、ハードウエア的には1点だけ不満点があります。リモコンの「イジェクト」ボタンを押すと……。 マジディマール:はい(笑)。 -HD DVDトレイでなく、本体側のディスクトレイが開いてしまうことです。しかも、HD DVDプレーヤー付属のリモコンでも、です。なんとか解決する方法はありませんか? マジディマール: 解決方法は現時点ではわかりませんが、開発チームはその件について認識しています。フォローアップしていきたいと思います。 -また、音声出力について改良を加えるようですが、具体的にはどういった内容になりますか? マジディマール:Xbox 360のHD DVD再生機能は、全てソフトウエアで作っていますから、アップデートは素早く、容易に行なえます。現在予定しているのは、DTSでのエンコード出力です。(注:現在のXbox 360ではパススルー出力可能なドルビーデジタル/DTS以外、デジタル音声出力時にドルビーデジタルに変換し、出力される) DTSは、ドルビーデジタルの640kbpsに対し、1.5Mbpsとビットレートが高い。より高音質な音声出力が可能になります。現在、開発の最終ステージに入っています。いつXbox Liveでのアップデートが行なわれ、実際に提供されるかはわかりませんが、コンポーネントそのものの開発はほぼ完了してます。 ■ エンコーダ改善でビデオのクオリティ向上とビットレート低下を図る -映画タイトルのクオリティについてうかがいます。確かに、初期、米国で発売されていたBDタイトルのクオリティはあまり良くなかった。それに対し、HD DVDのタイトルのクオリティが高かったのは事実です。 しかし、年末に発売されたBDタイトルを観ると、かなり良好なものが増えています。これからの流れを観ると、HD DVDとBDのタイトルのクオリティに違いは無くなっていくのでは無いでしょうか。これには同意されますか? また仮にそうなった時、HD DVDの利点はどういったところになりますか? マジディマール:確かに。BDのクオリティは「いいものもある」という水準にはなっています。しかし、それは「同じ」であってより「良い」わけではありません。 もし品質がイコールであったとするなら、なぜより高いディスクやより高いプレーヤーを使わねばならないのですか? インタラクティビティやピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)など、BDにないものも、HD DVDでは再現されています。HD DVDでは当初から必須条件としていますから。(取材時の)89本のBDタイトルのうち、PinPがあるものは一つもありません。HD DVDにはたくさんありますが。 -ただ、「より帯域が使えれば画質・音質は上がる」というBD陣営の主張は、理にかなっているようにも思えます。この点はどう考えますか? マジディマール:確かに、帯域がより使えれば画質は上がるでしょう。しかし、圧縮技術において一定以上の品質に達していれば、あとはビットレート向上の恩恵はあまり感じられないはずです。たとえビットレートが倍になっても、たいした差にはなりません。 BD陣営は「まだ帯域は足りない」と主張するのでしょうが、タイトルの状況を見るに、実際にはそうでもない。特に、VC-1やH.264/MPEG-4 AVCのような優れた圧縮技術を使うならなおさらです。そうでなければ、販売されているタイトルであれだけの画質が出るわけがありません。まあ、MPEG-2を使うのであれば、確かに彼らの主張する通りなのでしょう。 それに、VC-1エンコーダは常に改良を続けています。過去6カ月の間に、30%も効率が上がっています。まだまだ改善の余地はあると思うので、データレートはさらに下げられるでしょう。 ■ 「リファレンスデザイン」開発で安価なHD DVDプレーヤーを実現 -問題は、HD DVDのサポート企業の数です。この点については、夏以降進展が見られないようです。スタジオについても、機器製造メーカーについても、より多くの企業の賛同を得る必要があります。この点をどう見ていますか? マジディマール:機器製造を担当する家電メーカーとの連携については、現在、ドライブメーカーやチップメーカーと交渉を続けている最中です。できるだけ協力し、よいHD DVDプレーヤーの「リファレンスデザイン」を作ることを目標としています。これがあれば、たくさんの企業が、安価で品質の良いプレーヤーを製品化できますから。 ご存じのように、次世代DVDプレーヤーを開発するのは非常に難しい。良いリファレンスデザインを作ることは、この問題を解決するもっとも良い方法だと考えています。Microsoftも、そのために様々なソフトウエア資産やノウハウを提供する予定です。 もう一つの方法は、「いかにフォーマットとして成功しているか」をアピールするか、ということです。すでにお見せしたデータ(タイトル数)のように、です。こういった努力の結果、ハイエンドAVの企業からローエンドまで、様々な企業が参入してくることになります。結果的に、東芝はその中間ぐらいになるのではないでしょうか。 これに対しBlu-rayは、「高品質」の部分ではたくさんのメーカーがいますが、ローエンドには見あたらない。PS3くらいでしょうか。 -リファレンスデザインの開発について、もうすこし詳しく教えてください。どのような企業が参加し、どのような形で提供しようと考えているのですか? マジディマール:現在、DVDプレーヤーで行われているのと同じスキームです。ドライブメーカーやチップメーカーが提供するデザインに、各社が少しづつ手を加えて製品化する、という形になります。チップをメーカーが提供し、マイクロソフトはその上で動くHD DVD再生ソフトや、HDiのソフトウエア・スタックを提供します。 BDと違うのは、Microsoftのような会社がBD陣営にはいない、ということです。我々はスタジオを持っていません。東芝とも、チップメーカーとも、ドライブメーカーとも競合しません。我々はどの企業をも助けることができます。 ソニーには、中国企業を助けることはできませんよね? だって、彼らはコンペティターなんですから。我々は違います。パートナーになり得ます。 -リファレンスデザインを元にした製品は、いつ頃発売されるのでしょう? マジディマール:チップメーカーなど、パートナーのいることですから、具体的な時期に関してはコメントできません。私が言えるのは、「すべての技術を現在開発している」ということです。 -日本の家電メーカーなどは、安価なリファレンスデザインを使った参入企業の増加や、低価格化を嫌っています。だからこそ、差別化が可能な次世代DVDのビジネスを重視している部分があると思いますが…… マジディマール:アメリカ風に言うと「ビジネスはビジネス」です。価格はいずれにしろ下がります。我々は消費者の求める機能の実現に向けて、フォーマットの進化を続けていきます。マーケットでは、インターネット配信やVOD、IPTVなどさまざまな動きが起こっています。多くのシナリオがある中で、HD DVDフォーマットはそれらを巻き込んで、進化を続けていきます。 また、HD DVDには最初からネットワーク機能を備えています。東芝さんやほかのHD DVDサポート企業を含め、我々はネットワーク配信と光ディスクが競合、統合していくことを恐れていません。 ■ 中国や録画対応などフォーマットを拡大 -中国メーカーの話が出てきたので、中国市場について伺います。HD DVDは、これから中国市場で積極的に動くと聞いています。どのように見ておられますか? マジディマール:中国は非常に重要です。なにより、需要が膨大ですから。仮に、世界の他の地域とフォーマットが違ってしまったとしても、数を拡大していく上では大きな原動力になりますので、注目しています。 ご存じのようにDVDフォーラムでは、中国市場向けのHD DVD規格の検討が始まっています。これまでと同様、オープンな議論の場でです。 -私は、中国と他の地域のフォーマットが違ってしまうことはあまり良くないと考えています。この点はどう考えていらっしゃいますか? マジディマール:別に、通常の国際仕様のディスクが中国で販売できない、というわけではありません。重要なことは、「まったく互換性もなく、技術も異なる規格」が成立するのを傍観するのか、それとも「互換性はないが国際規格に近い技術の規格」を作る手伝いをするのか、ということです。やはり、選ぶなら手伝う方ということです。 -レコーディングフォーマットについてはどう考えますか? BD陣営は「録画に向いているからBDの方が有利」と主張していますが。 マジディマール:私自身はレコーディング・フォーマットにはあまり詳しくないのですが……。いえることは、録画と市販ソフト再生は、全く違う世界だということです。録画機能がフォーマットの競争に大きな影響を与えることはないでしょう。 それに、日本でBDレコーダーが出て、すでに3年が経過しています。でも、市場はなにも変わらなかった。記録型BDは非常に高価です。HDDの方がずっと安い。HDDに残していった方がいいのではないですか? -BD陣営は、個人が録ったホームビデオの記録などにも熱心です。HD DVD側は、そういった「パーソナルコンテンツ」の利用に関しあまり熱心ではないようですが、どう見ていますか? マジディマール:パーソナルビデオをあまり高画質にしよう、というニーズはあまり多くは無いでしょう。もっと画質の悪いインターネットでの映像共有が、あれだけ人気なのですから。品質よりも使い勝手の良さ、利便性です。持ってもいないBDプレーヤーのディスクを送られても、再生できないですし。PCで編集したのであれば、HDDに記録しておけばいいのではないでしょうか。 また、DVDフォーラムでは「DVDへのHD DVDフォーマット記録」も規定しましたので、それらも役に立つかもしれません。 ■ ネットワークサービスとマネージドコピーの連携も登場 -これからのHD DVDフォーマットの進展について伺います。マネージドコピーやネットワークサービスの作業状況はどうなっていますか? マジディマール:ネットワーク機能は、次の鍵となるものです。DVDは買ったものはずっと「買ったまま」ですが、HD DVDとネットワーク機能を使うと、「買ったまま」ではなく、常に新しいコンテンツが楽しめることになります。現在作業中で、そう長くお待たせすることはないでしょう。数カ月先には、利用可能となるはずです。 -マネージドコピーはどうですか? PCユーザーには期待の機能ですが。 マジディマール:家庭内でのストリーミング配信を実現するものですからね。さらに一歩進んで、そこにネットワーク機能を組み合わせると、コピーした映像に、さらにネットからダウンロードしたコンテンツを組み合わせる、という使い方ができるようになります。 -このあたりの、フォーマットの進展や新しいハードウエアについては、CESでいいニュースが聞けますか? マジディマール:マネージドコピーについては、まだわかりません。AACSはまだ暫定ライセンスで、そこが進展するかどうかという問題があります。CESまでにライセンスが解決したとしても、デモや製品を見せられるところまではいかないと思います。 しかし、ネットワークやインタラクティブ機能は別です。かなりの新情報を、CESでは見られると思いますよ。 □Microsoftのホームページ(英文) (2006年12月14日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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