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西田宗千佳の
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リモコンとテレビでらくらく「GyaO」生活
 USENに聞く「ギャオプラス」の狙い


 ネットを使った映像配信というと、技術開発やユーザー数の都合からパソコンが中心になりがちだ。国内最大手の「GyaO」も、パソコン向けのサービスとして視聴登録者数1,300万件まで発展してきた。

ギャオプラス

 個人的にはパソコン向けサービスは、仕事しながらちょこちょこ見やすいので嫌いではないのだが、最近はスポーツや映画などのタイトルで、「じっくりと見たい」と思わせる番組も増えている。こうなってくると、「パソコンであることの不便さ」も深刻に感じてくるというものだ。

 それは、運営側にとっても当然想定された事態であったようだ。USENは2月1日よりGyaOをテレビで視聴するためのセットトップボックス「ギャオプラス」の販売を開始した。今回は、その使用感と関係者へのインタビューから、GyaOが目指す「テレビへの映像配信」の方向性を探った。



■ ハードウエアはシンプルな構造
  簡単・手軽が特徴の「ギャオプラス」

OSはWindows CE

 ギャオプラスは、テレビでGyaOを楽しむための、かなりシンプルな製品である。ネット接続機能を持った端末ではあるが、できるのはGyaOの視聴のみ。いわば、GyaO専用のチューナだ。同社では「テレビ接続PC」と謳っている。

 ちなみに、中身は、モトローラがIPTVサービス用に作ったセットトップボックスをGyaO向けにカスタマイズしたもので、OSとしてはWindows CEが使われている。しかし、それを感じるのは、設定変更やファームウエアのアップデートをする時くらいで、それ以外では中身の素性を気にする必要はない。

 映像出力としてD端子やS映像端子、コンポジット端子などを装備。光デジタル音声出力も備えている。また、HDMI端子も実装されているが、現時点では利用できず、後日ファームウェアのアップデートで利用可能となる見込み。

ギャオプラス前面 背面。D4などの出力端子を装備する リモコン

ギャオプラスのトップページ

 なお、パソコン向けのサービスと同様、利用に際し、プロバイダーなどの制限は特にない。一応、「下り4Mbps以上の回線」という条件はついているが、この程度であれば、ADSL利用者でもクリアできている場合が多いだろう。要は、パソコン版がスムーズに観れる状況ならば、ギャオプラスも問題なく使える、ということである。

 GyaO視聴に必要な、メールアドレスなどの「視聴設定」を行なえば、あとは特に設定などは必要ない。リモコンを使い、メニューから観たい番組を選んでいくだけだ。


メニューからカテゴリを選んで見たい番組を選択 【参考】PC向けのGyaOトップページ

 ギャオプラスのメニューは、一般的なパソコン向けのGyaOとは、少々構成が異なっているが、「カラオケ」など、まだギャオプラスで提供されていないサービスをのぞけば、利用できるコンテンツはほぼ同じだ。並び方こそリモコン向けに変更されているが、利用感覚はほぼパソコン向けと同じである。

リモコンで早送りも可能

 実際に視聴してみると、その感覚はさらに強くなる。画質はVHSより多少良いかな、という程度で、パソコンをテレビに接続してGyaOを観た場合とさほど変わらない。発色は少々きつく、特に赤が汚く感じるが、映像圧縮時に劣化する分もあわせて考えると、こんなものだろうな、という印象。パソコンをテレビにつないで視聴するよりは、操作性が良く手間が少ない分だけプラス、といったところだろうか。

 テレビとリモコンの便利さは、早送りなどを行なう時により発揮される。パソコン用のGyaOでも早送り・巻き戻しは可能だったが、リモコンだとまさにビデオ感覚。さすがに、ストリーミング配信ならではのバッファリングがあるため、ハードディスクレコーダーのように、好きな場所にさくさく移動、とまではいかないが、やはり「だらっと観る」ならこれだな、と思わせる操作性である。なお、GyaOは広告収入を前提に運営されているので当然ではあるが、CMの早送りはできない。


時間表示がやや目障りなことも

 ただ、気になる点もある。GyaOでは、CMと本編を、1本のストリームデータとしてでなく、配信時に切り替えていく形を採っている。パソコンではさほど気にならないのだが、ギャオプラスでは、CMと本編、それぞれのストリーム配信を開始する際に、画面右下に緑色の文字で時間などが表示される。この表示が大きく、派手であるため、かなり邪魔に感じてしまうのだ。

 なお、以前はCMと本編の間など、ストリームを切り替える際の待ち時間が長く、気になることが多かったのだが、ファームウエアのバージョンアップが行なわれて以降、それが功を奏したのか、ほとんど気にならない程度に改善された。



■ 狙いは「テレビで」というより「リモコンで」
  ゲーム機などに「機能」として組み込みを狙う

 使ってみると、「テレビでGyaOを観る」という体験はなかなか快適で面白いものだ。ニュース的なものならともかく、やはりそれなりの長さの番組ならば、テレビの方が気楽に観られるのは当たり前のことではある。

 ただ一方で、「ギャオプラス」というセットトップボックスそのものには、目立った特徴がない、というのも正直なところだ。24,800円という価格を考えると、「GyaOが観られる」というだけでは、微妙と言わざるを得ない部分がある。

GyaO事業本部の堤天心 編成局付部長

 ではそもそも、ギャオプラスはどのような狙いで企画されたものなのだろうか? USENでギャオプラスを担当する、GyaO事業本部編成局 番組編成部の堤天心編成局付部長は、「企画は、2006年の6月からスタートしました。文字通りテレビでGyaOを観るという可能性を追求するためのものです」と語る。

 ただ、「テレビなのかパソコンのモニターなのか、ということは、あまり気にしていません。むしろ、リモコンでリラックスして楽しんでもらうことを前提としています」とも語る。

「Windows Media Centerなど、パソコン側の進化もあり、我々としても読み切れない部分があります。しかしその中で、リモコンによる便利さをまず提供し、お客様からの声を集める、という発想」と堤氏は言う。パソコンとテレビという違いよりも、リモコンによるナビゲーションに「本気で取り組む」。そこに重点が置いている。

 現在のギャオプラスは「まずは第一世代」(堤氏)というレベルであり、ハードウエア的にも、まずはできるところから、ということであるようだ。

「正直、テレビやビデオレコーダー、ゲーム機などに、機能として組みこまれるのが理想。実際に話を進めているところもあります。しかし、いきなり他社との協力態勢が築けるわけではありません。まずは、我々が出来る範囲でハードウエアまで作り、『このような形になりますよ』ということを示す必要があります」

 特に堤氏が期待するのは、ネット接続機能をもったゲーム機での対応だ。「相手のいることですので、こちらの希望だけでどうにかなることではないですが」と前置きしながらも、「大きなインパクトがうまれるのは事実。実現に向けて、様々な策を考えていきたい」と話す。

 今のギャオプラスが「実験」に近い段階ではあるものの、利用者からの評判は悪くないようだ。発売からまだ1カ月程度であり、販売数や利用実績などの数字を公表できる段階ではない、というが、「我々もブログなどをチェックしているが、比較的ポジティブな反応をいただけていると思う」と話す。

 他方、ちょっと面白いのが、「GyaOを観たいマックユーザー」が購入した例も多い、ということだ。GyaOはWindows DRMに依存して作られているため、どうしてもMacintoshでは利用が難しい。BootcampやParallels Desktopといった、Intel CPU採用MacでWindowsを利用するソリューションで対応することもできるが、「どうせならテレビで」という人もいた、ということなのだろう。


■ コンテンツもシステムも「パソコン用」と共通
  違いは主に「ユーザーインターフェイス

 実際に視聴していて、素朴な疑問も生まれていた。それは、「ギャオプラス」と「GyaO」の関係である。

「ギャオプラスは、GyaOと同じコンテンツ・同じサーバーシステムで運営されています。この方針はこれからも変えない予定です」と堤氏は言う。流されるコンテンツそのものが同じなのだから、パソコンと同じように見えるのも当然である。

 現時点では、コンテンツだけでなく、流れるCMも同じとなっている。「パソコンで観る人」と「テレビで観る人」ではプロファイルが違うため、CMも変えた方がいいような気もするのだが、現在は「ギャオプラス向け、というCM商品を用意していない」(堤氏)のだとか。むしろ、「ネットストリーミングを観る層」ということで、まとめてマーケティングが行なわれている段階だ。ギャオプラスでは、パソコン版と違いバナー広告などが出ない。そのため、その分の処理をどうするか、といった細かな検討事項も積み残されている状況だという。

「例えば、GyaOは一般的に、都市部よりも地方の利用者の方が、視聴時間が長い傾向にあります。そういった部分に配慮した変更を加えていきたい。ただそうした話は、どちらにしろ、ギャオプラスの利用者自身が拡大し、広告媒体としてのインパクトを持つようになってからのことです」と堤氏は話す。

 ただし、はっきりと違うものもある。それがユーザーインターフェイスである。すでに述べたように、ギャオプラスにはギャオプラス専用の操作画面が用意されている。すでに述べたように、ギャオプラスには「実証実験」といた意味合いが込められている。そのため、利用者の声を取り入れて、こまめに改良を続ける予定だという。

 目立たない点だが、すでに「テレビ向きの改良」も行なわれている。例えば、GyaOは表示時に、ニュースや番組宣伝といった「待ち受け」用の映像が、連続で表示されるようになっている。パソコンでは単に順番に表示されるだけだが、ギャオプラスでは、最後に表示したものが最初に表示されるようになっている。すなわち、天気や株価などが気になる人は、とりあえず天気を表示するようにしておけば、電源を入れると自動的に天気情報が流れるようになるわけだ。これは、テレビ利用ならではの工夫といえる。



■ 視聴時間はパソコン版の「4倍」に?
  ハイビジョン映像配信も準備中

 すこしずつではあるが、利用者からも、「パソコンのGyaOとは違う」使われ方が見え始めているという。

 例えばギャオプラスでは、ヨガなどのエクササイズ・プログラムの視聴率が高いのだという。「パソコンの前ではやりづらいけれど、テレビの前ならば本気で試す気になる、ということなのでしょう」と堤氏は話す。同様に、BGV感覚でミュージックビデオを流しっぱなしにしておきたい、というニーズも、テレビならではのものといえるだろう。

 これらを総合した結果、ギャオプラス利用者の一回の視聴時間は、パソコンでのGyaO利用者に比べ、「3倍から4倍も長くなる、という傾向が見えてきた」という。もちろん、今ギャオプラスを買うユーザーは、元々GyaOのヘビーユーザーであるはず。それが数値に偏りを産んでいる可能性は高いのだが、それを除外しても、「テレビで楽に使える」ことが、ネット配信にとって大きな影響を与えている、と判断しても間違いではないだろう。

 現在のところギャオプラスでは、GyaOで観られるコンテンツのうち、「GyaOジョッキー」「歌ブログ」といった、ライブでのコミュニケーション系サービスと「カラオケ」が利用できない。前者は、マウスやキーボードを前提としたものであり、そもそもテレビに向いたものではないため、今後も対応予定はない。しかしカラオケに関しては、「時期は公表できないものの、できる限り早く対応したい」(堤氏)という。

 また、ギャオプラスには、HDMIも装備されているが、現時点では使えない。こちらもやはり、時期は未定だがファームウエアのアップデートを行ない、利用可能とする予定だ。

 HDMIと聞くと、ついにGyaOもハイビジョン映像配信か! と喜びたくなるが、必ずしもそうではないようだ。「まずは、メニューなどのユーザーインターフェイス部を読みやすくする目的で使いたい」と堤氏は説明する。

 ただし、GyaOには、利用者より映像のHD化を望む声が多く寄せられているという。HD化でビットレートを上げるとADSL接続のユーザーなどが視聴できなくなるなど、「送出側よりインフラの課題が大きい」というが、同社はHD化への準備と検討を続けている。

「HD映像を流すなら、ギャオプラスだけでなく、パソコン用のGyaOと同時に行なうことになるでしょう。コンテンツと配信システムは共通、という方針に違いはありません。残念ながら、時期は未定ですが」(堤氏)

 ギャオプラスを観ていて気にかかったのは、やはり解像度の低さとブロックノイズ。そろそろ視聴者の目もハイビジョンに慣れてきて、さらにテレビも大型化している。NTSCレベルの映像では「眠い」と感じる時間が増えている。インフラの問題もあるため、一朝一夕にはいかないだろうが、早期の実現を期待したいところである。


□USENのホームページ
http://www.usen.com/index.php
□ギャオプラスのホームページ
http://tv.gyao.jp/
□GyaOのホームページ
http://www.gyao.jp/
□関連記事
【2月1日】USEN、テレビでGyaOを視聴可能にする「ギャオプラス」
-リモコン操作でGyaO視聴。24,800円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070201/gyao.htm
【2月8日】「ギャオプラス」ハードウェアレポート(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/special/17100.html

(2007年3月1日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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