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第277回:PCとアナログ入力をミックス。「M-AUDIO NRV10」
~ 8ch入力+FireWireで10in10outのオーディオI/F ~



M-Audio NRV10

 前回前々回とRolandのデジタルミキサー兼オーディオインターフェイス「EDIROL M-16DX」について紹介してきた。実はそれとほぼ同じタイミングでM-Audioからも「NRV10」(93,870円)というアナログミキサー兼FireWireオーディオインターフェイスが発売されている。

 両社の製品はデジタルかアナログかという違いだけではなく、製品コンセプトに大きな違いがあり、それぞれまったく別の面白さを持っている。


■ 8in/2OutのミキサーとFireWireインターフェイスを融合

 M-Audioから発売されたNRV10は、8in/2outのアナログミキサーであり、最高で96kHzのサンプリングレートに対応した10in/10outのFireWireオーディオインターフェイスでもあるという製品。PCと接続しなくても、ごく一般的なアナログミキサーとしても機能するので、まずはミキサー機能から見ていこう。

 見た目もごく一般的な小型のアナログミキサーといった感じだが、前回紹介したM-16DXと比較すると一回り大きい。M-16DXのレベルが小さなツマミを使っているのに対し、こちらは45mmのフェーダーを採用しているので当然だ。

 そのフェーダーを操作するとちょっと重めでしっかりしている。なお、以前にも紹介したM-AudioのFireWireオーディオインターフェイス兼フィジカルコントローラの「ProjectMix I/O」と比較すると非常に小さいことがわかるだろう。

M-16DX(左)と比較。一回り大きい ProjectMix I/O(左)と比べるとコンパクトだ

 ミキサーには9つのフェーダーが並んでいるが、入力レベルを調整するのは左側の6つ。1~4chはモノラルで5/6ch、7/8chはステレオという扱いだ。入力端子のほうはファンタム電源供給にも対応したXLRのマイク端子が5つ、バランス対応のTRSフォン端子が8つ用意されており、マイクとラインはスイッチで切り替えて使う。

 このうち5chのマイクを選択すると5/6chはモノラルになるという構造になっている。それぞれのチャンネルストリップにはHi、Mid、LowのEQが装備されており、簡単に音質を変化させることができる。EQの周波数帯域は12kHz、2.5kHz、80Hzに固定されているが、効き具合いもよく気持ちよく操作できる。

上部右側のロータリースイッチでエフェクト切替

 またAux、エフェクト周りも充実しており、1~4chには外部のインサーションエフェクトが入れられる。Auxのセンドはモノラルで2系統、Auxリターンはステレオで2系統用意されているから、外部エフェクトモジュールを持っていれば簡単に連携させることができる。

 さらに、デジタルエフェクトも内蔵されており、Aux2と切り替えで使うことができる。このデジタルエフェクトはマルチエフェクトとなっており、リバーブ、エコー、コーラス、ディレイ、フランジャーなど16種類。バリエーションもそれぞれ16種類あるので計256種類となる。

 ただし、その切り替えは上部右側の2つのロータリースイッチで行なう。液晶ディスプレイが搭載されているわけではなく、そのバリエーションもどんなパラメータ設定になっているかマニュアルにも載っていないため、あくまでも手探りでの選択となり、それ以上何か設定ができるわけでもない。

 とはいえ、気に入ったエフェクトが見つかれば、ただスイッチで切り替えて使うだけなので、操作はとっても簡単だ。

 9本あるフェーダーの右の3つについても見てみよう。一番右はマスター出力用のフェーダーで、その隣がルームコントロール出力用、右から3つ目がヘッドフォン用だ。

 マスター出力はいいとして、ルームコントロール用はレコーディングルーム内のモニタ用などに使うことが想定されており、マスター出力とは別系統で2ch出力できるようになっている。これはマスター出力と同じ信号に加え、後で紹介するPCからの9/10chをミックスして出力するもの。

 そしてヘッドフォンは、その上部にあるスイッチで、モニタする音を「MONITOR」、「CUE」、「MAIN MIX」の3つから選択できる。MONITORは各チャンネルストリップでモニタレベルを設定したものがミックスされる。またCUEはMUTEされているチャンネルをミックスするもの、そしてMAIN MIXはマスター出力と同じ信号がモニタできる。

 このヘッドフォンにも、先ほどのルームコントロール用と同じくPCから9/10chを加えて出力可能となっている。

 言葉で説明すると複雑なミキサーのようにも感じるが、実際に触ってみれば、まさにアナログミキサーでとっても簡単。ミキサーを使ったことのある人なら、とくにマニュアルを確認するまでもなく、すぐに使えるはずだ。

 なお、マニュアルにダイアグラムが載っているので、全体構成も一目瞭然だ。

背面にはバランス/アンバランス出力、ルームコントロール出力などの端子類を備える ダイアグラム図



■ ミキサーの入出力を活かし「10in/10Out」化

 オーディオインターフェイス側は、カタログには10in/10outのFireWireオーディオインターフェイスとあるが、入出力端子を見る限り、そんなに多くはないように思える。実はその辺りが、NRV10の特徴なのだが、NRV10本体から考えていくより、PC側から眺めたほうが分かりやすいので、そちらから確認しよう。

ASIOドライバ設定画面では、入出力ともに10ch表示される

 WindowsではASIO、WDM、MMEのドライバが利用でき、MacではCoreAudioが利用できる。たとえばASIOドライバで確認すると、入出力ともに10chずつあることがわかる。

 Windowsのコントロールパネルで見ても、1~10chがあるが、こちらはさらにMultiというものが加わっている。ここでは詳しく触れないが、これはM-AudioのほかのFireWireオーディオインターフェイスと同様、マルチクライアントに対応したドライバだ。

 これら1~10chの入力のうち1~8chはミキサーとしての入力そのものとなっており、マイクもしくはライン接続された信号が入ってくる。この際、FireWireマークの下にある「PRE EQ/POST EQ」スイッチを使うことで、EQに入る前の信号をPCへ送るか、EQを通過した音を送るかを選択できる。いずれの場合もPCに入ってくる信号はフェーダーの影響は受けないようになっている。

 一方、9/10chはミキサーですべてミックスされたマスター出力が入ってくる構造だ。つまり、各チャンネルのフェーダーやEQの設定、また外部エフェクトも含めたトータルの音を録音できるというわけだ。

Windowsのオーディオプロパティ画面では、マルチクライアント対応ドライバも表示される FireWireマークの下の「PRE EQ/POST EQ」スイッチで、PCへの出力信号のEQ ON/OFFを選択

 それに対し、出力は一般のオーディオインターフェイスとはやや異なる考え方になっている。それぞれの出力がそのまま端子から出るのではなく、ミキサーの各チャンネルに立ち上がってくるのだ。マイクやラインインのアナログ入力を使うか、PCからの出力を使うかの切り替えは各チャンネルストリップの上のほうにある「CH/FW」のスイッチを用いる。

 これがオンでFWの設定になっていると、ミキサーにはアナログ入力の音は入らず、PCからの出力が反映されるのだ。なお、先ほども触れたとおり、9/10chのみはやや異なる扱いで、ルームコントロールおよびヘッドフォン用にのみ利用可能となっている。つまり、メイン出力に9/10chの信号を出すことはできない。

 NRV10をオーディオインターフェイスとして利用する場合のドライバ自体は、ほかのM-Audio製FireWireオーディオインターフェイスと同じものを利用する。ドライバ画面には各チャンネルの入出力がレベル表示され、その大きさを変更することもできる。

ドライバ設定画面では、各チャンネルの入出力レベルなどの変更が可能

バッファサイズも簡単に変更できる

 さらに、バッファサイズの変更も可能だ。サンプリングレートの変更も他のM-Audio製品と同様に、ソフトウェア側で設定すれば、再起動などの必要もなく、すぐに変えられるのも大きな特徴。この点ではM-16DXよりもずっと便利だ。


■ Protoolsも安価に利用可能。新発想のFireWire I/F

 ASIOもWDMもCoreAudioも使えるから、CubaseでもLiveでもSONARでもLogicでも好きなDAWと組み合わせて利用できる。その中でも、やはり大きなポイントは「ProTools」が利用できることだ。

29,800円の追加で「ProTools 7.3 M-Powered」が利用可能

 ご存知の通り、プロのレコーディングで標準となっているProToolsは基本的にProToolsソフトウェアおよびMacとセットで使うことが前提であり、システム全体では数百万円クラスになってしまう。最近ではDigidesignのMbox2など、コンパクトなUSBオーディオインターフェイスとProTools LEをセットにした製品が安価に売られてはいるが、入出力チャンネル数などで物足りなさを感じる面も多い。

 それに対し、NRV10などM-Audio製品なら「ProTools M-Powered」を利用することで、マルチチャンネルでProToolsが利用できる。NRV10にバンドルされているのは体験版だが、M-Audioのオンラインストアで29,800円で発売されているProTools 7.3 M-Poweredを購入すれば、即使える。エフェクトなどはすべてCPUパワーで動かすことが前提とはなるが、ProToolsの機能としてはプロ用のものと基本的に同等だ。

NRV10-interFXをバンドル

 ところで、NRV10には「NRV10-interFX」というソフトがWindows用/Mac用としてバンドルされている。これは、AudiffexがNRV10専用に開発したソフトで、PC/MacをNRV10のエフェクトとして活用するものだ。

 各チャンネルにゲート、コンプレッサおよび2つのインサーションエフェクトを入れられるになっており、その処理をすべてPC側のソフトウェアで行なう。これによりNRV10がより強力なミキサーとして活用できるわけだ。

 インサーションエフェクトとしては、BMPディレイ、コーラス、フランジャー、エクスパンダ/ゲート、ディストーション、コンプレッサの6種類が、各チャンネル独立で利用できる。これはWindows、MacともにVSTプラグインとなっているため、手持ちのVSTプラグインをNRV-interFXのVSTフォルダに入れればすぐに使うことができる。

 なお、NRV10-inteFXを使っている場合はPCでレコーディングできないが、Audiffexは上位版の「NRV10-interFX Pro」というソフトを用意している。これは各チャンネル最大6つのプラグインが使え、ReWireに対応するとともに、簡単なレコーディング機能を備えており、Audiffexサイトから149ドルで購入できる。

BMPディレイ(左)、フランジャー(右)など6種類のインサーションエフェクトが各チャンネル独立で利用できる 簡易レコーディング機能も備えるNRV10-interFX Proは149ドルで購入可能

 さて、最後にいつものように、RMAAを用いてオーディオインターフェイスとしての性能チェックを行なってみよう。

 各入出力ともバランス対応のTRSフォン端子となっているので、これをループさせて実験するのだが、一般のオーディオインターフェイスと異なり、ダイレクトにPCの信号を出力する端子がない。メイン出力を利用したいところだが、ここにはすべてのチャンネルおよびAuxがミックスされているし、ゼロに設定されていてもEQを通った信号となるため、オーディオインターフェイス本来の測定ができない。

 試しに1/2chの入力とメイン出力を使ってみてが、あまりいい結果は出なかった。そこで、コントロールルーム出力に9/10chの信号をループさせる形で接続して実験を行なった。44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれで試したが、いずれもいい結果になっているのが分かるだろう。

RMAAループテスト結果。左から24bit/44kHz、24bit/48kHz、24bit/96kHz

 以上、アナログミキサー兼FireWireオーディオインターフェイスのNRV10についてみてきたがいかがだっただろうか? PCからの信号とマイクやラインの入力をアナログミキサーでミックスし、それを録音することもできるという発想の製品だ。当然M-16DXとは用途も異なってくるが、それぞれの方向性の違いをハッキリと読み取ることができた。


□M-Audioのホームページ
http://www.m-audio.co.jp/
□製品情報
http://www.m-audio.jp/products/jp_jp/NRV10-main.html
□関連記事
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(2007年4月9日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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