【バックナンバーインデックス】



第279回:ZOOMのPC連携MTR「HD16CD」を試す
~ 単体MTRにPC連携機能を搭載し、DAW利用に対応 ~



CD-R/RWドライブ搭載のMTR「HD16CD」

 ZOOMから「MTR meets DAW」というキャッチコピーの元、8chのHDDマルチトラックレコーダ(MTR)「HD8」と16chの「HD16」がリリースされた。

 外では専用機のMTRでレコーディングし、自宅に戻ったらPC上のDAWで編集するという発想の機材だが、実際どんな連携ができるのか、BOSSFOSTEXなど既存のMTRと比較してどう違うのか、チェックした。



■ 出先のレコーディングで重宝するMTR

 「Cubase」や「SONAR」、「Logic」、「ProTools」をはじめとするDAWソフトが非常に進化したため、レコーディングや編集、ミキシングといった一連の作業はPCで行なうのが圧倒的に便利で効率がいい。以前はかなり勢いのあった、HDDレコーダやMTRが、最近やや下火に感じるのは、やはりDAWソフトの影響であるのは間違いないだろう。

 ただ、レンタルスタジオでレコーディングするとか、ライブを録るといった場合、本当にPCでのレコーディングが最適なのかというと、やはり不安な面も多い。まずノートPCは、DAW用としては非力なマシンが多く、手持ちのマシンではうまく動かないケースも多いし、専用に用意するとなると、かなりコストもかかる。

 また、ノートPCを使う場合、IEEE 1394端子が4ピンのため、FireWireオーディオインターフェイスへの電源供給ができず(MacBookやPowerMacだと6ピンなので、電源供給可能)、ACアダプタが必要となり、トータルではかなりかさばる。そして、不慣れな場所でPCにオーディオインターフェイスを接続した上で、PCを起動し、DAWを起動し……といったことをしていると、結構トラブルが起こったりするものだ。何かがおかしいと、気が焦って、単純なミスにも気づかない……。個人的にも、そうした失敗経験が結構あるので、PCを持って出かけるのはあまり好きでない。

 かといって、「R-09」や「MR-1」といったポータブルレコーダではマルチトラックでのレコーディングができないため、ちょっと力不足だ。

 そう考えると、やはり外ではMTRを使い、帰ってきてからPCでじっくりと編集するというのが賢い使い方だと思う。専用機なら、安定稼動してくれるため、失敗する確率は非常に低くなるので安心だ。

 最近はこうしたMTRの編集もかなり高機能になってはきているが、PCのDAWに慣れてしまうと、こんなチマチマしたマシンで操作などしていられない、というのが正直なところ。たくさん機能があっても、使う気になれないのだ。

 以前、BOSSの「BR-600」や「Micro BR」を紹介したことがあったが、こういった機材を使えば、使いわけの目的を果たすことができた。ただ、ファイルの変換作業がちょっと面倒という問題があった。ZOOMの新製品はその点、どうなっているのだろうか?



■ CD-R/RWドライブ装備のMTR

 今回は16chで、CD-R/RWドライブ装備のモデル「HD16CD」をZOOMから借りたので、これを使ってみていこう。

 まず、箱を開けて取り出してみると、やはりHDDレコーダで16トラックというだけあって、結構大きい。重さは6.0kgで、持ち歩けなくもないが、バックに入れてというわけにはいかないサイズだ。

 ACアダプタをつなぎ、電源を入れるだけで、もうすぐにでも使える状態となる。PLAYボタンを押せば、現在録音されているデータが再生される。ムービンフェーダではないが、フェーダがズラリと並んでおり、これを動かせばミキシングのバランスをとることができる。

 見てのとおり、1~8chがモノラル、9~16chがステレオとなっているほか、内蔵のドラムマシン兼ベースマシンであるリズムセクション用のフェーダと、マスターフェーダで、計14本となっている。

 録音もいたって簡単。本体上部にアナログの入力が8つあり、それぞれがコンボジャックになっており、すべてファンタム電源対応のため、8つ同時にコンデンサマイクを接続することもできる。また1/2chのラインはHi-Z対応だから、ギターやベースとの直結も可能だ。

電源ON後、すぐに利用可能な状態になる アナログ入力端子部

 録音するトラックのフェーダの上のボタンを押して赤く点灯させると、録音準備モードに入る。この際にレベル調整をするのだが、3バンドのEQの設定や、センド・エフェクトのリバーブおよびディレイも用意されており、このボタンの上のツマミと、右にある液晶ディスプレイで調整する。

赤く点灯すると録音準備モード 3バンドのEQ設定(左)やリバーブ設定(右)など、液晶ディスプレイを見ながら調整が可能

 また、このセンド・エフェクトとは別に、インサーションのマルチエフェクトも独立して搭載されており、ギター用やボーカル用としてさまざまな設定が使える。ここでRECボタンとPLAYボタンを同時に押すと、4つカウントがなり、レコーディングがスタートする。終了したらSTOPボタンを押すだけ。マルチトラックで録っていくのもすぐにできるし、トラックの録リ直しも直感的に使える、なかなかいいユーザーインターフェイスだ。

 ちなみに、レコーディングのフォーマットは16bit/44.1kHzに固定。通常はこれで十分だとは思うが、DAWとの連携ということを考えると、ちょっと物足りない気がしなくもない。

 先ほども少し触れたとおり、HD16CDにはベース音源+リズムマシンが内蔵されている。パターンシーケンサになっているので、これを使ってあらかじめフレームワークを作っておけば、それをクリック替わりに使うこともできる。511種類という膨大なリズムパターンが用意されているのも大きな特徴。

 また、ドラムのサンプリングデータも20キット分が用意されており、これをHDDから読み込むことで、かなりのバリエーションが使える。さらに、必要あれば、自分で組み合わせを変えてオリジナルのドラムキットを作成することもできるという自由度だ。液晶ディスプレイの上にあるベロシティ付きのパッドを使えば、リズムやベースをリアルタイムに入力することもできる。

インサーションのマルチエフェクトも独立して搭載 ドラムのサンプリングデータなども内蔵する パッドを利用し、リアルタイムでリズムやベースの入力が可能



■ ストレージ利用/CubaseコントロールなどのPC連携機能

背面にPC接続用のUSB端子などを備える

 この辺までは、単体のデジタルMTRとして、それほど珍しいものではないが、気になるのはPCとの連携機能だ。リアにはUSBとMIDI端子が用意されており、これを使って連携する。またWindowsおよびMacの「Cubase LE」がバンドルされており、USB経由で送ったデータで、Cubaseとのやりとりができる。

 ちょうど手元にWindows Vista + Cubase4という環境があったので、ここでは、Cubase LEではなくCubase4で使ってみた。

 まず、USBでPCと接続するとともに、HD16CDをUSBマスストレージモードに設定してみた。すると、PCからは2つのドライブが確認できる。「HD_FAC」ドライブはシステム用なのであまり意味はないが、もう片方の「HD_USR」というドライブを見ると、そこにはいくつかのフォルダがある。


F、Gの2つのドライブがPC上に出現 FのHD_USRドライブには録音したデータが保存されている

 プロジェクトごとにフォルダがあるので、この中の一つを開くと、さらにいくつかのフォルダがあり、「TAKE」というフォルダに、HD16で録音したデータが入っているので、これを開く。そこに、トラック番号が付いたWAVファイルが並んでいる。

 これは普通のWAVファイルだから、PCへコピーしてCubase4のトラックにそれぞれ貼り付けていくと、すぐにPC上でもHD16で作った曲が再現できる。ここから先はCubase上で自由にエディットできるというわけだ。

プロジェクトフォルダ内を参照 録音データは「TAKE」フォルダに保存される Cubase上で簡単に編集が行なえる

 反対にCubaseで作ったものをHD16へ渡すこともできる。内蔵のリズムマシンを使うのもいいが、PCで簡単なオケを作っておいて、HD16へ転送して使えば、より便利に使えるはずだ。

 この場合、トラックごとに「書き出し」機能を使い、先頭からのWAVファイルを作った上で、HD16へコピーする。ただし、直接トラックデータとして渡すのではなく、一旦IMPORTフォルダへとコピーする。その後、HD16でIMPORTフォルダにあるデータをトラックへと取り込むのだ。ちなみにCD-ROMからWAVファイルを読み込むという手段もある。

 ワンクッションあるものの、操作自体はいたって簡単。ただし、HD16からPCへの場合も、PCからHD16の場合も、単にWAVファイルだけを部品として渡しているので、全体をまとめるフレーム的なものは存在しない。そのため、テンポ情報などは自分で設定しなくてはならない。

 まあ、デジタル機器同士なので、小数1桁まで設定しておけば、そう狂いはないのだが、出だしのタイミングが多少気になった。微妙にズレているようで、クリックを鳴らしたとき、しっくり来ないのだ。HD16からPCへ送る場合は、調整も簡単だが、反対の場合はPC側で調整しておく必要がある。この辺がもう少し融通が利いてくれるといいのだが……。

PC上で作成したデータをHD16CDで取り込める CD-ROMからも読み込める

 しかし、「MTR meets DAW」というだけあって、PCとの連携はこれだけに留まらない。USBマスストレージモードとは別に、「コントロールサーフェイス・モード」があるのだ。このモードにすると、CubaseなどのDAWをHD16でコントロールできるわけだ。コントロールの通信手段はUSBを使う方法とMIDIを使う方法があるが、ここではUSBを選択。その上で、コントロールサーフェイス・モードに設定すると、とくにドライバも組み込んでいないが、PCに認識され、HD16がMIDIデバイスとして見えるようになる。

「コントロールサーフェイス・モード」選択後「USB」を選択 設定完了後は、PCからHD16CDがMIDIデバイスとして認識される

 同梱のCD-ROMにはCubase用のGeneric Remoteの設定ファイルが用意されているので、Cubase4でこれを読み込んでみたところ、一発で使うことができた。シャトルコンローラが使えなかったのはちょっと残念だが、トランスポートキーやフェーダ、ステータースキー、パラメータノブが使えるようになる。できれば、Cubase用だけでなくSONAR用なども定義ファイルを用意してくれると、嬉しいところだ。

 この機能は、直接HD16に録音したデータとは関係はないが、それなりに大きいコントローラなので、DAWが使いやすくなることは間違いない。

Cubase用Generic Remote設定ファイルを使えば、Cubase上から利用可能

 さらに、Windowsに限定されるが、「PatternEditor LE」、「SongEditor LE」という2本のソフトがバンドルされている。これは、前述の内蔵のベース音源&リズムマシンのプログラムをPCで行なうというもの。前者はドラムやベースによる数小節分のパターンを作るツール。そして後者はそのパターンを並べてソングを作成するツールだ。

 機能的には単純なものではあるが、HD16本体の小さなディスプレイで入力していくのとは明らかに次元の違う使いやすさ。これで作り上げたパターンをHD16に書き戻せば即、利用可能となるのだ。

ドラム/ベースのパターン作成ツール「PatternEditor LE」 パターンを並べて曲を作成する「SongEditor LE」

 HD16CDについて見てきたが、これだけ豊富な機能を持ちつつ、価格は80,640円と手ごろだ。PCと組み合わせて使うことが前提なら、CDドライブなしモデル「HD16」(77,490円)でもいい。そもそも8chあれば十分というのなら、よりコンパクトな8chモデル「HD8」(57,750円)もある。

 PCとの連携性は完璧とはいえない状況だが、従来の各メーカーの機種に比べると、かなりよくなっている。ぜひ、今後さらに各メーカーから、DAWとの連携性を強化した製品が登場することを期待したい。


□ZOOMのホームページ
http://www.zoom.co.jp/japanese/index.html
□ニュースリリース
http://www.zoom.co.jp/japanese/news/news160/index.php
□製品情報
http://www.zoom.co.jp/japanese/products/hd16_8/index.php
□関連記事
【3月19日】【DAL】24bit WAVE対応の多機能レコーダ、ZOOM「H4」
~ 4トラック利用可能。USBオーディオとしても動作 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070319/dal274.htm
【2006年3月27日】【DAL】BOSSのコンパクトな8トラックレコーダ
~ パソコンとの連携も便利な「BR-600」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060327/dal229.htm

(2007年4月23日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c) 2007 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.