フルHD/1,920×1,080ドット化に後れを取っていたプラズマテレビ。しかし、2006年夏、パイオニアは、民生向け量産モデルとして世界初のフルHDプラズマモニター「PDP-5000EX」を発売。プラズマにもフルHD化の流れがやってきた。その後、松下電器のVIERAシリーズや日立Woooでも続々とフルHDモデルが投入され、2007年も下半期となった今では「フルHDプラズマ」というキーワードも市民権を得たような気がする。
ただ、ここ数年の間にフルHD/大型化が進んだ液晶テレビが消費者に浸透しており、プラズマの立場はあまりよろしくないのも事実。今、プラズマは「プラズマとしての新たなブランディング」が求められてきており、先駆者であるパイオニアは、液晶との価格競争とは別次元の「プレミアム画質なフルHDプラズマ」で勝負することを決断した。 その第1弾製品として投入するのが50V型の「PDP-5010HD」と60V型の「PDP-6010HD」だ。“圧倒的な黒表現”をアピールすべく、ブランドも“KURO”に改めている。 価格は50型で72万円、60型で99万円。50型のVIERA最上位モデル「TH-50PZ750SK」が実売で40万円台後半のため、価格も約1.5倍と“プレミアム”付き。今回は、50型のPDP-5010HDについて評価を行なった。
■ 設置性チェック ~サイドスピーカーは分離式
PDP-5000EXは、チューナ無しのプラズマ“ディスプレイ”だったが、PDP-5010HDは、れっきとしたプラズマ“テレビ”として開発されている。地デジ/BS/CSデジタルチューナをダブルで搭載。PDP-5000EXはディスプレイのため、どうしてもマニア向け製品というイメージがあったが、今回のPDP-5010HDでは純粋なテレビ製品となり、普通の消費者向けに敷居が下げられた感はある。
とはいっても、良くも悪くも玄人好みの作りなのはパイオニアらしいところ。 たとえば、PDP-5010HDはサイドスピーカーデザインなのだが、スピーカー部は着脱式になっており、設置時にはこのスピーカーをドライバを使って本体側にねじ止めして取り付け、スピーカーケーブルを本体側へ配線する必要がある。 少々面倒のように思えるが、たとえば自分でオーディオシステムを組んでいる人は、スピーカーを取り付けない選択もあるし、あるいは、PD-5010HD付属スピーカーをAVアンプ側に接続して、サラウンドシステムに組み入れる選択もとれる。AVアンプがデュアルセンタースピーカー駆動に対応していれば、付属スピーカーをセンタースピーカーとして利用することもできるだろう。PDP-5010HDはテレビ製品ではあるがPDP-5000EXのディスプレイとしての遺伝子を継承しているといえる。 本体の大きさはスピーカー設置状態で1,444×120×722mm(幅×奥行き×高さ)。付属スピーカーが比較的大きいので、横幅は他社の同サイズ製品と比較しても大きい。 総重量はスピーカー設置状態で約42kg。今回、成人男性二人で持ち上げて階段を上げて設置を行なった。成人男性一人だと運ぶのは難しいが、二人であればなんとか可能だ。なお、背面には運搬用の「持ち手」が実装されているのがありがたかった。 スタンドは別売りオプション扱い。その代わり予算や設置場所に応じたスタンドが選べるのがメリットになる。 PD-5010HDに適合する純正スタンドは、チルト/スイーベル機構なしのリジッドタイプの「PDK-TS29A」(25,000円)、チルト・スイーベル機構ありの「PDK-TS25」(25,000円)の2タイプがラインナップされている。PDK-TS25はブラックとシルバーの2色を用意し、左右±10度、前後±2度の手動式傾き調整機能を有している。画面が重い関係で、傾き調整幅は自由度は若干抑え気味だが、リジッド型と同価格でスイーベル型が選べるというのは嬉しい。なお、スイーベル型のPDK-TS25は旧モデルのPDP-507HXや、KUROのWXGAモデルPDP-508HX/428HXでも兼用できる。今回の評価ではリジッドタイプのPDK-TS29Aとの組み合わせで行なった。 壁掛け設置にも対応しており、取り付け金具も純正オプションとして設定されている。完全固定式の「PDK-WM05」(36,750円)と、上下チルト機構付きの「PDK-WT02」(57,750円)がラインナップされている。この2つもPDP-507HX/508HX/428HX等と兼用だ。なお、壁掛け設置が可能といってもテレビ部と取り付け金具との総重量は約50kgにもなるので、壁側の補強は必要だ。 プラズマテレビ特有の動作音はやはりあるにはある。無音状態で画面に寄れば「ジー」という動作音が聞こえてくるが、サウンドがある映像を楽しんでいる分には全く気にならない。 表示面の額縁部分は最近流行の光沢塗装がなされており、表示面に相対する側に窓や照明があると強い映り込みがある。表示面も基本的にはガラスなので、相対する壁側に窓があったりするとこれが映り込んでしまう。設置前には、照明や窓の位置には熟慮した入念なシミュレーションをしたいところ。
消費電力はPDP-5000EXの410Wから上昇して441Wとなった。PDP-5000EXから、スピーカーやダブルデジタルチューナ搭載分が上乗せされたためであろう。同世代の50V型/1,365×768ドットモデル「PDP-508HX」の368Wより70Wも高いのは、PDP-5010HDの画素数が1,920×1,080ドットで約2倍もあり、その分、画素駆動用のドライバブロックの消費電力が大きいためだ。 最近はテレビといえば消費電力を無視することはできないわけだが、PDP-5010HDの消費電力は同サイズ(46~52V型)のフルHD液晶と比較すると150W~200Wほどと高め。解像度の面で液晶に追いついてきたプラズマだが、ランニングコストの面では、まだまだ液晶に及ばない。今後の課題は省電力性能にあるといってもよいかもしない。
■ 接続性チェック ~ビデオ6入力のうち、3系統がHDMI対応
PDP-5000EXから純粋なテレビ製品と生まれ変わったといえる「PDP-5010HD」だが、“ディスプレイ”としての遺伝子は継承されており、接続性はかなり充実している。 とはいえ、闇雲に入力端子数を増やしているのではない。入力系統を基準に接続性を設計している点がわかりやすく、一般ユーザー向け製品らしい。具体的に説明しよう。 まず、PDP-5010HDでは、「入力系統は6系統」という割り切りをしている。実際には接続端子はそれ以上あるのだが、ユーザーが切り替えて視聴できるのは同時には6台までのAV機器と言うことだ。 入力1はHDMI入力、コンポジット入力、S2ビデオ入力、D4入力があり、これらが排他利用できるようになっている。 入力2はコンポジットビデオ入力、S2ビデオ入力が排他利用可能。アナログビデオソースのAV機器を接続することになるだろう。入力3はD4入力専用になっている。 入力4は、本体正面左側の接続端子パネルの各端子に割り当てられ、D4入力、S2ビデオ入力、コンポジットビデオ入力を実装。これらがやはり排他利用できる。こちらは抜き差し頻度の高いゲーム機などの利用が想定される。 入力5、入力6はともにHDMI入力専用系統。入力1-6とは別に「PC入力」という独立系統が設定されており、これに対応するのがD-Sub 15ピン端子になる。DVI端子はないが、最近のPCはHDMI接続も可能なので、それほど問題は無い。
音声入力は入力1、2、3、4にそれぞれ各入力専用のアナログ音声入力(RCA)を実装している。PC入力についても専用のアナログ音声入力(ステレオミニ)を完備。PCからの音声をPDP-5010HDで出力できる。 また、録画機器や外部機器連動用に、外部出力(いわゆるモニタ出力)端子も装備。ここにはS2ビデオ端子、コンポジットビデオ端子が実装されており、PDP-5010HDのチューナ映像を外部録画機器や別のディスプレイ機器へ出力できる。音声出力はアナログ音声出力(RCA)のほか、光デジタル音声出力を実装。これはチューナ側で受信した5.1ch AAC音声などをパススルーしてAVアンプ側で再生する際などに利用する。i.LINK入力も2系統完備。ビデオレコーダなどの接続に利用できる。 実際の機器接続時に不便に感じた点は、HDMI端子やi.LINK端子は下方向に向いて実装されており、接続時に端子やケーブルを上向きに差し込む必要があるため、抜き差しが非常にやりにくかったということ。これは、他のビデオ入力端子同様に横向きに実装して欲しいと感じる。とはいえ、PDP-5010HDの接続端子はテレビ製品として不満なく、充実している。
■ 操作性チェック ~充実のテレビ機能。ディスプレイ機器としての遺伝子も継承
正面右側面にはB-CASカードスロットと、入力切り替え、チャンネル±、音量±、電源スイッチが配されている。万一、リモコンがなくなってしまった場合でもここで基本操作は行なえる。左側面には前述した入力系統4の接続端子群も並んでいるので、PDP-5010HDの左右両側面はある程度空けておかないと使い勝手に影響する場合がある。コーナー置きの場合などには注意したい。 電源スイッチを入れてから地デジ放送の映像が表示されるまでの所要時間は約4.5秒。最近の機種としては標準的な速さといったところ。
リモコンは縦長で厚みのあるタイプ、最近のデザイントレンドは薄型リモコンなのだが、PDP-5010HDのリモコンは厚みがあり握り甲斐がある。底面にはくぼみが1つあり、ここに人差し指の付け根をあてて持つとちょうど親指が十字キーに乗るエルゴノミックデザインとなっている。 ボタンは若干透明度のある透き通った感じのボタンなので発光ギミックがあるのかと思わせるが、実際には何もなし。フルHDプラズマは輝度レベルが低いので、映像をじっくり楽しみたいユーザーは部屋を暗くする人も多い。せっかくなので蓄光ギミックは欲しかった気もする。ボタンデザインは、欲張らず質実剛健といった感じ。洒落っ気は全くないが、その分シンプルでわかりやすい。 入力切り替えは接続性チェックのところで述べたように1~6の6系統があるわけだが、その6系統に1対1に対応する形で[1]~[6]の独立ボタンが実装されている。好みの入力切り替えに一発で切り替えられるのが小気味よく、また、使い勝手もすこぶるいい。ただ、ボタン上は数字しか記載されていないので、どの入力系統に何が接続されているのかを自分で記憶しておく必要がある。 なお、入力切り替えの所要時間は地デジ→HDMIで約1.1秒、HDMI→地デジで約3.0秒であった。前者は高速だが後者はかなり遅めだ。ただ、希望する入力に一気に切り替えられるので順送り式と比較するとストレスは少ない。 PC入力やi.LINK機器への切り替えは、リモコン下部の蓋を開けてアクセスできる[PC]ボタンや[i.LINK]ボタンを押すことで行なえる。アクセス性はあまりよくないが独立ボタンになっていて一発切り替えできる点は評価できる。 アスペクト比切り替えは、リモコン下部の細長の[画面サイズ]ボタンを押して、順送り式に変更できる。切り替え所要時間はほぼゼロ秒で、押した瞬間に切り替わりレスポンスは良好。 先代PDP-5000EXはディスプレイ製品と言うこともあり、「やりすぎ」といってもいいくらいにアスペクトモードが充実していたが、PDP-5010HDでは一般的なテレビ製品と同等程度に減っている。
PDP-5000EXで充実していた14:9関連のアスペクトモードがカットされているが、使用頻度はそれほど高くないはずなので問題はあるまい。ビスタサイズの16:9切り出しの「シネマモード」を実装しているあたりはさすがマニア好みのパイオニアといったところか。 “テレビ”としての機能/操作性についてもチェックしておこう。リモコン中央部の数字キーやチャンネル±、音量±ボタン、放送種別選択ボタンでテレビを操作出来るのは見ての通り。実際に活用してみるとリモコンの反応にはやや癖があることに気がつく。 意外にもリモコンの受光範囲が狭く、結構意識して、画面右下部の受光部に向けて操作しないと反応が悪い。リモコンが画面左の方に向いていると反応しなかったりするので、これは改善が必要だ。チャンネルの切替時間は地デジ局で約2.0秒。もう少し速いとよいのだが。
番組表は8チャンネル同時表示が可能で、表示時刻は4時間分。8チャンネル分は関東圏ならばNHK2局とメジャー民放5局もカバーできるので一覧性は優秀。放送中の番組の中から好きなジャンルのものをピックアップする場合、リモコンの[番組サーチ]ボタンを押すだけで検索できるのも便利だ。 2画面機能も充実している。まず、2画面機能の呼び出しは、リモコンの蓋を開けてアクセスできる[2画面]ボタンを押すだけで実行が可能。2画面表示のモードは横並び表示のサイド・バイ・サイド表示と親子画面のピクチャー・イン・ピクチャー表示の2つ。[2画面]ボタンを押すたびに切り替えることが可能だ。 2画面表示が出来る組み合わせに制約もあるが、自由度はまずまず。組み合わせが出来ないのは入力1~6同士、PCと入力1~6で、それ以外の組み合わせは基本的にはOKだ。つまり、どちらかの画面にテレビ放送が入っていれば、任意の入力が入れられると言うことになる。例えば、HDMI入力を含む入力1~6とテレビ放送、PC入力とテレビ放送の組み合わせはOKになる。もちろんダブルチューナ搭載なのでデジタル放送同士の組み合わせもOKだ。 なお、2画面表示時の音声は主画面側しかスピーカーから出力されないが、「音質の調整」メニューの「2画面ヘッドフォン」設定を有効にすると副画面側の音声はヘッドフォンで聞こえるようになる。 サウンド機能についても言及しておこう。スピーカーは、ウーファとツィータの2ウェイバスレフ式。2ウェイ方式は大画面テレビでは珍しくはないが、PDP-5010HDでは出力が17×2chの合計34Wと高出力だ。サイドスピーカーデザインの優位性にも助けられてステレオ感も広く、臨場感も高い。音質も良好で低音から高音までがパワフルでフラットな再生特性になっており、音楽番組の視聴にも不満ない完成度だ。 サラウンド機能のSRSも搭載。音場のワイド感を増強するSRSの他に、低音を増強するTruBassも備えている。実際のサウンドも、原音の良さを生かす形での増強で、嫌みがなく、好印象。画面の左右端の50cm以上離れた場所から音像が聞こえてくる効果は非常におもしろい。TruBassの低音もドンシャリ系にはならずナチュラルな感じで好印象だ。特に自前のサラウンドシステムがないのであればSRS+TruBass併用で常用してもいいと思う。 メニューは[ホームメニュー]ボタンを押して起動して十字キーでカーソル操作、十字キー中央の[決定]ボタンで選択、[戻る]ボタンで階層上がり/キャンセル操作になるというオーソドックスかつ分かりやすいもの。カーソルの動きはかなりもっさりしていてレスポンスは良くない。ただし、メニューアイテムにカーソルを持って行くと、メニュー最下段に簡単だが的確な機能説明が表示されるため、使い勝手はいい。
画質パラメータで調整可能なのは「コントラスト」、「明るさ」、「色の濃さ」、「色あい」、「シャープネス」といった基本パラメータの他、「プロ設定」メニュー階層下に入ることで映像エンジンの動作にまつわる設定が行なえる。これらについては後述する。 プリセット画調モードは「リビング」、「標準」、「ダイナミック」、「映画」、「スポーツ」、「ゲーム」のプリセット6モードと「AVメモリー」と記されるユーザーメモリの合計7つ。この画調モードの切り替えは、リモコン下部の蓋の内側の[画質・音質]ボタンを押して順送り式に行なう。切り替え所要時間は約1.2秒と標準的な速さ。 プリセット画調モードにおける各画質パラメータはエディット可能だが、すべての入力系統に影響してしまうグローバルパラメータである点に注意したい(PDP-5000EXとは異なる)。ただし、「画質の調整」メニューで「初期状態に戻す」を実行すれば、いつでも工場出荷状態に戻すことができる。 一方、AVメモリーの方は各入力系統ごとに個別に管理されるので、画調の追い込みはAVメモリーに対して行なったほうが無難だ。
また、USBメモリ内の画像を表示できる「ホームギャラリー」機能も搭載。PDP-5010HDの左側面にはUSBコネクタが実装されており、ここに接続したUSBメモリ内のJPEG写真の表示や、スライドショー表示が行なえる。読み込みが遅く表示速度もあまり俊敏ではないのが気になるが、基本機能はしっかりしている。 HDMIコントロール機能も装備。これはPDP-5010HDとパイオニアのAVアンプやBDプレーヤーとHDMI接続した場合、PDP-5010HDのリモコンだけで全システムを統合的にコントロールできる機能のこと。システム内機器を操作しようとすると自動的にPDP-5010HDに電源が投入されたり、PDP-HD5010のリモコンでシステム内のレコーダの再生制御などが行なえる。ただし、動作保証されているのはパイオニア製品に限られる。残念ながら、今回はこの機能のテストは出来なかったが、PDP-5010HDには、専用の[HDMIコントロール]ボタンを備えており、パイオニア製機器で統一しているユーザーには訴求点となるはずだ。
■画質チェック プラズマパネルは各画素内のプラズマ放電によって発生した紫外線を蛍光体にぶつけて発光させる、自発光画素方式のディスプレイデバイスである。この自発光式は、液晶に対してアドバンテージといわれてきたが、フルHD化における画素高精細化の折、耐久性を保ちつつ微細化することと、開口率の維持が両立できず、自発光の強みが弱みに変わってしまったという経緯がある。 各社、技術ブレークスルーを模索したわけだが、パイオニアが、そのプラズマのフルHD化の実現のために開発した革新技術は「高純度クリスタル層」と呼ばれるものだった。 画素セル内の表示面内側に形成させた薄膜層である高純度クリスタル層は、プラズマ放電に励起されて自らが電子を放出する特性があることから、画素セル内の放電速度を従来比の3倍にも高速化することができる。これにより、発光効率も向上し、高精細化によって各画素の開口率が低下していても必要十分な輝度が得られるようになった。また、高速画素駆動は副次的に黒表示時の予備放電の「火種」を抑制するため、暗部の沈み込みや暗色の再現性向上にも貢献した。
この技術の粋を集めて開発されたのが先代PDP-5000EXだったわけだが、今回のPDP-5010HDではさらに磨きのかかった二世代目「高純度クリスタル層・フルHDプラズマ」と言うことで期待がふくらむ。 今回の新パネルでは、同じ高純度クリスタル層ベースのパネルではあるが、電子発生源に新素材を採用したことで、予備放電の「火種」をさらに抑制することに成功している。 この火種の抑制により黒輝度は従来の1/5に低下させることができたそうで、コントラスト比は、ネイティヴで20,000:1を達成しているとのこと。これは液晶の10倍以上の強烈な値だ。 実際に、全画面黒表示を見てみると、本当に電源が入っているのかと疑ってしまうほど、黒が黒い。部屋に照明が入っていると電源オフ時の状態とオン時の全黒表示とではほとんど区別がつかない。暗室にしてみると、辛うじて気がつく、というほど。 「黒が黒い」。言葉としては当たり前だが映像機器ではなかなか実現し得なかったことだ。パイオニアが今世代プラズマパネル製品に「KURO」(黒)ブランドを展開したことも頷ける。 圧倒的なコントラスト感は、明部の輝度向上ではなく、暗部の沈み込み強化で行なったというのはすばらしいことなのだが、だからこそ気がつくこともある。それは、画面全体の輝度はやや暗めであると言う点だ。 720pのプラズマと比較すると明らかに暗いし、同型フルハイビジョン液晶と比較しても暗い。数年前と異なり、フルHDプラズマは最大輝度スペックを公開しなくなっているのはそうした事情があるからだと推察される。 パナソニックは「プラズマは明るすぎない、目に優しい」という宣伝しているが、蛍光灯照明下の日本では、やはり暗いという印象はある。高純度クリスタル層をもってしても画素面積が半分になってしまうフルHDパネルでは以前のような明るさは実現できていないのだ。 とはいえ、昼間見る際には、カーテンを軽く引いてやればいいし、天井の蛍光灯も一段階暗くすれば実用上は問題はない。間接照明の環境のしっとりとした雰囲気のリビングであれば、実際、ちょうどよい明るさだ。
プラズマといえば、RGBのサブピクセルの分離感を気にする人がいるが、1,920×1,080ドットのフルHD解像度であるPDP-5010HDのパネルに限界まで近づいて見てもサブピクセルは非常に密に並んでおり、面表現でも50cmも離れてしまえば粒状感は感じない。「RGBが分かれてしまっている」という、かつてのプラズマの弱点は感じさせない。 そして、毎回、パイオニアのプラズマで感心させられるフォーカス感というかくっきり感はPDP-5010HDでも健在だ。大画面プラズマになると、画面の中央に相対する正面から見ていても映像の外周はある程度角度がついて、いわば斜めから見ていることになるのだが、プラズマでは液晶と違い、このとき画素が微妙にぼやけて見えることがある。しかし、PDP-5010HDでは、画面の中央から外周に至るまで画素の見え方が非常にくっきりとしている。 これは、PDP-5010HDの「新ダイレクトカラーフィルタ」による効果だ。新ダイレクトカラーフィルタは、表示面側のガラス基板に直接カラーフィルタを形成する技術で、画素セルからの出力光の内部反射や外光からの影響を徹底的に抑える効果がある。 一般的なプラズマでは、表示面を指で触った際に、ガラス面の遙か向こうに画素がある、と感じる。しかし、PDP-5010HDでは指のすぐ向こう側に画素があるように感じられるはずだ。これが新ダイレクトカラーフィルタの有無の違い。出力光が余計な経路を経ずに表示面から目に届くので画素表示がくっきりとしているのだ。例えは変かもしれないが、PDP-5010HDの“画素の見え方”は液晶パネルに近い。 発色もすばらしい。PDP-5000EXよりも純色のパワーバランスは洗練された印象がある。PDP-5000EXで感じられた、あの伸びのある緑と深みのある青は、PDP-5010HDでも変わらない。そしてなによりこの青と緑に負けないほどのパワー感のある赤がすばらしい。プラズマ特有の朱色感がなく、鋭い濃厚な赤の表現は、これまでプラズマで見たことがない。 色深度の深さもすごい。カラーグラデーションにはほとんど疑似輪郭が見あたらず、その表現は非常に正確だ。二色混合グラデーションでも、見え方に不自然さは全くない。 階調表現もプラズマとしては最高レベルだと思う。黒から白へのグラデーションだけでなく、黒からRGB単色へのグラデーションを表示させたときにもしっかりとしたリニアリティが実現できている。黒からのカラースケール表示でも、ちゃんと漆黒の黒から立ち上がっていて、それでいて、かなりの暗い階調でも、RGBそれぞれの色味が感じられるのは感動的。時間積分式の階調表現を採用しているプラズマではあるが、暗部階調に不安なところがないのだ。暗色のセーターの陰影、黒いスーツのしわの凹凸、黒い車に写った情景など……プラズマには不得意とされる映像を見ても、暗色部にプラズマ特有のざわつきが見られない。
人肌の質感もいい。黄色っぽい感じもなく非常に自然。色深度の深さも手伝って、肌質の透き通った感じも、かなりリアルな質感を伴って見える。階調能力も高いので肌の肌理もしっかりと見えるし、髪の毛の一本一本の陰影も高い解像力を持って見える。 PDP-5010HDには「画質の調整」メニューの「プロ設定」階層下に、映像エンジンの動作設定項目があり、ここでは項目名だけではわかりにくい設定項目についていじると画質にどういう影響が出るのかも検証してみた。なお、「プロ設定」階層下には「色温度」や「ガンマ」のような一般的なパラメータも存在するが、それらの解説は省略する。
|