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第301回: アップルのDAW「Logic Studio」を「Leopard」で試す
~ その1:インターフェイスを一新。ドングルも不要に ~



Logic Studio

 「iPod touch」などの派手な発表に隠れた形で、ひっそりと発表されたLogicの新バージョン「Logic Studio」。実は、その登場に気づいたのは、発表後1週間近くたってからで、実際に入手したのは10月に入ってからのことだった。

 Digital Audio Laboratoryで取り上げるには、ややタイミングを逸した形になり、どうしようかと思っていたが、10月26日にMac OS X Leopardが発売されるということだったので、これを利用して新Logicを動かしてみた。

 実際このLogic Studioを使ってみたところ、あまりにも巨大なソフトで、1回で紹介するにはボリュームが大きくなりすぎるので、2回に分けて紹介する。



■ 3年ぶりの新バージョン。常識破りの価格設定

 前バージョンの「Logic Pro 7」が登場したのが2004年末。AppleがEmagicを買収後、Logic Pro 7を出したまま、動きが完全に止まっていたため、業界内では、「もうLogicは出ないのでは……」なんていう噂が飛び交っていた。しかし、3年の沈黙を破って新バージョンが登場した。

 今回発表されたパッケージとしては「Logic Studio」、「Logic Express 8」の2種類。メインストリームであるLogic Pro 7の後継となるのがLogic Studioであるが、「なんでLogic Pro 8じゃないの?」と思ったら、Logic Studioというのは複数のソフトをまとめたスイートソフトであり、その内にLogic Pro 8が含まれているようだ。

 具体的にLogic Studioに何が入っているのかというと、DAW「Logic Pro 8」のほか、「Soundtrack Pro 2」、「MainStage」、「Studio Instruments」、「Studio Effects」、「Studio Sound Library」、「インパルスレスポンスユーティリティ」、「Apple Loopsユーティリティ」、「WaveBurner」、「Compressor」の大きく10種類。

 Studio Instrumentsは40種類のソフトシンセ、Studio Effectsは80種類のプラグインエフェクトの総称。またStudio Sound Libraryは18,000種類のApple Loopsおよび2,400種類のチャンネルストリップ設定、また1,300種類のEXSサンプルデータの総称なので、これらはLogic Pro 8の内容物ともいえるが、それにしてもかなり膨大な内容だ。

 しかも驚くのがその価格。これだけ入って、59,800円という値付けをしてしまったのだ。同じDAWとして横並びで比較されることの多いSteinbergの「Cubase 4」がオープンプライスながら実売で110,000円、Cakewalkの「SONAR Producer Edition」もオープンプライスで実売87,000円、MOTUの「Digital Performer」が79,800円という価格設定であることを考えると、常識破りの価格付けといえるだろう。

 この業界内からは、「Appleはやはりコンピュータメーカーであって、楽器メーカーやDAWメーカーでないので、メチャクチャなことをやってくる……」といったボヤキが聞こえてくる。他メーカーの本音としては、「Logic Studioは59,800円という値段で出したけれど、ウチは今のところ価格変更、値下げは考えていない。もちろん他社さんがどうするか、またユーザーがどう動くかを見てはいきますが……」というところのようだ。

 このLogic Studoが爆発的なヒットをするかどうか、これによってDAW全体の価格破壊が起こる可能性はあるが、そもそもそれほど大きな市場ではないだけに、大きな変化が起こる可能性は少なそうだ。ちなみに、下位バージョンであるLogic Express 8のほうは、DAW本体とソフトシンセ、エフェクトという構成で、スイートにはなっていないが、価格的には23,800円と、こちらも低価格設定になっている。



■ フルインストール容量は45GB以上。ドングルは不要に

Mac用最新OS「Mac OS X 10.4.5 Leopard」

 さて、今回は手元にあるTigerの入ったCore 2 Duoの「Mac Mini」をLeopardにアップグレードしてからLogic Studioをインストールした。一度フォーマットしてからLeopardをインストールしてもよかったが、時間節約のためにアップグレードでも、なんのトラブルもなく、あっさり終わった。

 300以上の新機能を追加したということだが、確かにユーザーインターフェイスもちょっと変わり、バックアップ機能など便利な機能もいろいろと追加されている。だが、オーディオ関連、MIDI関連の機能は何も変わっていないようだ。念のため、強化機能一覧をチェックしてみたが、そこにも一切記述はなし。まあ、OSに求めるオーディオ機能など、そもそもあまりないので、そんなものなのかもしれない。


Mac OS X 10.4.5を一通りチェックしたが、オーディオ関連機能の変更やアップデートはなさそうだ

 Logic StudioはLeopardを買ってからインストールしようと思っていたので、ここではじめてパッケージを開けたのだが、分厚いマニュアルの束にまずビックリ。一番厚いLogic Pro 8のユーザーズマニュアルは1,032ページもある。プラグインのマニュアルも670ページといった具合いだ。

 また、インストール用のディスクを見てさらに驚いた。ソフトやライブラリが詰まっているだけにDVDメディア8枚組となっているのだ。しかも、モノによっては二層DVDで1枚で8GB以上となっている。これをインストールするのかとやや気が遠くなるほどだった。

同梱物。マニュアルが分厚い インストールディスクはDVD8枚組

 さらに1枚目のインストールディスクを入れて気づいたのは、インストールに必要になる空きHDD領域の大きさ。なんと、すべてインストールするには45.5GBもいるのだ。インストールしようとしたのがMac miniで、すでにCubase4やProToolsなどのアプリケーションが入ったマシンであるために、そもそもそんなに大きな空き容量がない。全部入れるには4.4GBも足りないという状況だった。

 GarageBandもすべて入っているし、とりあえず使うのにApple Loopsはそれほどたくさん入らないだろうということで、5つのJamPackのインストールを諦めてインストールを実行。しばらくすると、インストールにあと5時間半もかかるというメッセージが表示されて、さらに気が遠くなったが、実際には2時間ほどで終了してくれた。

フルインストールにはHDD容量が足らず、5つのJamPackを諦めた 2時間ほどでインストールが無事終了した

 巨大なソフトであるために、インストールが大変なのは確かだが、ユーザーにとってひとつ大きなメリットもある。それは、ついにドングルがなくなったことだ。Emagic時代を含め、Logicはこれまで必ずドングルが必要だった。古くはプリンタポートに接続するドングルが、前バージョンではUSBドングルが必要で、それなしにはソフトの起動ができなかったが、このLogic Studioではドングルなしで使える。

 別に不正コピーをしようなどとは思わないが、自宅とスタジオで使いたいとか、MacBookで持ち歩きたいといった場合、ドングルをなくしてしまう不安がいつもあっただけに、ドングルなしになったことはユーザーとして大歓迎。こうした点を見ても、Logic Studioは本当に大サービスソフトといえるだろう。



■ アップル風の雰囲気に一新されたインターフェイス

ポップな雰囲気になった新インターフェイス

 さて、さっそくインストールしたLogic Pro 8を起動してみると、これまでのLogicとずいぶん雰囲気が違う。確かに、Logicではあるけど、なんとなく明るく、ポップな感じがする。

 これまでの黒を基調とした、プロ指向といった感じの色使いが、明るく分かりやすそうなものになるとともに、アイコンをはじめ画面全体のユーザーインターフェイスが変わっている。好き嫌いは多少分かれそうではあるが、これによって今回ついにEmagicではなく、AppleのLogicになった感じである。

 そのユーザーインターフェイスの大きな特徴として挙げられるのが、最近流行りのシングルウィンドウデザイン。Ableton liveをはじめ、Steinberg SEQUEL、MACKIE Tracktionなどウィンドウをいろいろと開かず、1画面ですべての操作ができるシンプルなユーザーインターフェイスが好まれるようになってきているようだが、Logic Pro 8も基本的にその方針をとった。つまりトラック画面も波形編集の画面もミキサー画面も、みんな1つのウィンドウ上に表示させて操作できるようになっているのだ。

 ただ、中には大きいディスプレイも持っているし、これまで慣れている、複数のウィンドウを使った操作がしたい、という人もいるだろう。でも、大丈夫。複数のウィンドウを表示しての操作も可能なので、状況に合わせて使いやすい方法が選べるのだ。

最近主流のシングルウィンドウデザインを採用 これまで同様、複数のウィンドウによる操作にも対応

 実際に使ってみて感じるのは、音を出し、実際に録音するまでがとっても簡単になっていること。これまでLogicは非常に論理的なソフトで、クセがあって、小難しいソフト、といった印象があった。昔からあった「Environment」の設定画面など、初心者でなくても分かりにくいもので、ソフトシンセを組み込んでMIDIキーボードを弾いて音を鳴らすというだけでも、結構独特な操作が必要で難しかった。それが、Logic Pro 8ではあっさり使えてしまい、拍子抜けしてしまうほど。

 個人的には、これまでLogicはやや苦手意識を持っていたが、これなら簡単だ。GarageBand的に、Apple Loopsを選んで、ループを並べていくという方法もシングルウィンドウでの操作でできるから、Garage Bandユーザーが一歩上を目指して使いたい、というニーズにも応えてくれる。

 もちろん従来どおりEnvironmentを使っていろいろと設定したいという人も、そうした機能は残っているので心配ない。

独特のクセが減り、使い勝手は格段に向上した 従来通りの「Environment」設定も備える

 一方で、機能面では、スナップトゥートランジェント選択、グラフィカルタイムストレッチ、サンプルアキュレート編集など、アレンジウィンドウの機能がいくつか追加されているようだが、基本的な機能はLogic Pro 7とほとんど変わっていないようだ。また40種類あるというソフトシンセにおいても、従来のものとほとんど変わっていない。

 Logic Pro 7で話題となった「Sculpture」、強力なプレイバックサンプラー「EXS24」などがほぼそのまま踏襲されており、目立って大きな違いはない。これは80種類あるというエフェクトにおいてもほぼ同様だ。

「Sculpture」や、プレイバックサンプラー「EXS24」などは前バージョンからほぼそのまま踏襲されている

 Logicに限らず、もうDAWというジャンルそのものが成熟しきっているだけに、これ以上大きな変化はないというのが実際のところだろう。とはいえ、Logic Pro 8以外のさまざまなツールが搭載され、膨大なライブラリがバンドルされ、ドングルも不要で安くなったというのはユーザーにとって本当に大きなメリットだ。

 次回は、Soundtrack Pro 2、MainStage、WaveBurnerなどのツールにスポットを当てて紹介する。


□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□製品情報
http://www.apple.com/jp/logicstudio/
□関連記事
【2004年11月8日】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証
~ 「Logic Pro 7」にGarageBandからステップアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041108/dal167.htm

(2007年10月29日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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