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第333回:どこでもハイビジョン、ソニー新ロケフリ「LF-W1HD」
~ 新展開を見せる「ロケフリ Home HD」コンセプト ~



■ 家庭内ロケーションフリーとは

 テレビというのは、今や家庭内に1台余るという状況が作られつつある。壊れたからデジタル放送対応テレビに買い換えたという家庭以外は、これまで使っていたアナログ用テレビは、別の部屋に設置することになるからだ。

 だがそこで問題なのは、アナログだデジタルだということ以前に、アンテナ線が置きたい部屋にきているかということである。新しいマンションなどは全部屋に屋内配線があるようだが、少し年数の経つ物件では、全体で2カ所程度という場合も多い。つまりテレビの置き場は、建築設計時にもはや誰かの手によって、決められているということになる。

 ロケフリことロケーションフリーという製品は、これまでテレビ視聴のプレイスシフトに使われてきた。それは室内や屋外で、パソコンやPSPなどを使って見るというソリューションを提供してきたわけだが、それはどちらかといえばITリテラシーの高さが問われる製品でもあった。

 しかしロケフリ Home HD「LF-W1HD」は、送信機に入力した映像を、MPEG-4 AVC/H.264にエンコードし、受信機にワイヤレス送信するというある意味単純な製品だ。これまでのロケフリとは方向性が異なり、家庭内におけるテレビ置き場の問題を解決する製品のように思える。さらにロケフリとしては初となる、ハイビジョン映像を伝送するということも可能だ。12月1日に発売が開始され、店頭予想価格は5万円程度だが、ネットではすでに4万円を切り始めている。

 ハイビジョンがワイヤレスで伝送できると、生活はどう変わるのだろうか。さっそく試してみよう。


■ やや大柄な筐体


送信機と受信機で1セットになっている

 ロケフリ Home HDの製品構成は、送信機、受信機、リモコンというシンプルなセットとなっている。従来は送信機がいわゆるロケフリであって、受信機は別売のBOXだったりパソコンだったりしたわけだが、今回は送受信機で1セットである。

 無線LANを使用する製品ではあるが、CD-ROMなどは付属しない。今回のロケフリ Home HDは、無線LANも自前で装備しているため、既存のホームネットワークとは無関係に動作する。

 逆に言えば、既存のホームネットワークへの乗り入れはできないということである。このように既存ネットから独立することで、ハイビジョンの伝送が可能になるというトレードオフなのであろう。また専用であるが故に、一定のスループットが確保できるという部分もあると思われる。

 レコーダなどに接続する送信機は、前面に電源ボタンがあるだけのシンプルなもの。テレビチューナは備えておらず、映像入力とそれに対してのスルー出力を備えている。具体的にはD4端子、アナログコンポジット、アナログオーディオ入力がある。そのほか、機器を赤外線操作するためのAVマウス端子もある。


送信機。前面には電源ボタンがあるのみ 背面。入力に対するスルー出力がある

 無線LANの設定に関しては、チャンネル設定のセレクタがあるだけで、ソフトウェアによる設定は何もない。ハードウェア的な設定に徹底することで、無線LANに対する敷居を大きく下げている。

 また出力アンテナも上部に6本内蔵し、刻々と変わっていく電波状況に応じてアンテナを切り替えることで、家庭内で発せられる電波障害を避ける工夫がなされている。さらに通信方式も、状況に応じて11gと11aを切り替えるという念の入れようだ。

 一方受信機の方だが、こちらには電源ボタンはなく、リモコンでのみ電源のON/OFFができる。送信機と受信機はデザインがほぼ同じだが、受信機の方は前面に赤外線リモコン受光部がある。


受信機。前面にリモコン受信部がある。電源ボタンはない 背面。こちらにはHDMI端子がある

 背面は送信機側と同じ出力を備えるほか、HDMI出力を備えている。接続の便宜という面では、送信機側にもHDMI端子が欲しかったところだが、現在のところHDMIのようなデジタル信号を無線LANネットワークに乗せることが許可されていないため、実装できないのだと思われる。また送受信機ともに、S端子がないのも残念なところだ。

 なお背面にはUSB端子もあるが、これは現状なんらかの機器が繋がるというわけではなく、単にファームウェアアップデートなどで使われることになるようだ。


本格的なリモコンが付属

 リモコンも見てみよう。これまでロケフリのリモコンというと、受信機として別売されていたTVボックス「LF-BOX1」に付属の、カード型タイプのリモコンぐらいしかなかったわけだが、今回はレコーダ並みのしっかりしたリモコンが付属している。

 デジタルテレビに対応した4色ボタンやチャンネルの12キーのほか、GUI制御用の十字ボタン、再生、早送りといった映像コントロール用のボタンなどがある。またユーザーが機器に応じて動作を学習できるFキーが4つ用意されている。単に映像を見るだけではなく、当たり前にデジタル放送テレビやレコーダなどを操作する前提で作られているようだ。


■ 設定なしで設置範囲は広い

 では早速使ってみよう。映像の配線などは、AV Watch読者なら難しい話ではないので、ここでは割愛する。もっとも気になるのは両端末の無線LAN接続だが、接続設定などは本当に何にもない。背面のロータリースイッチはAUTOのままで、難なく通信できた。


設定画面には画面サイズやリモコン設定ぐらいしかない

 試しに送信機を1階に、受信機を2階に設置してみたが、D端子経由のハイビジョン映像も問題なく受信できている。建物の構造などで違いもあるだろうが、ごく普通の木造建築であれば、フロアが違っても問題なく使えるようだ。

 実際に伝送する映像ソースだが、通常テレビというのは入力はあっても出力はないものなので、レコーダが一番多いことだろう。レコーダのチューナーを使ってリアルタイムでの放送を楽しむことができるほか、AVマウスを使って録画番組の再生といったコントロールも可能だ。

 ロケフリ Home HDが内蔵するリモコンコードは、膨大な量である。ソニー製はもちろん、競合他社製品もかなりの種類を網羅している。通常リモコン操作するには、マニュアルからリモコンコードを探して入力するといった、イマドキイケてない操作が必要なものだが、ロケフリ Home HDの場合は、そのあたりはよくできている。

 まずコントロールしたい機器のリモコンを操作することで、自動認識が可能だ。自動で認識しない場合はメニューから選んでいくことになるが、これもマニュアルを見ながら意味のわからない数字を打ち込む必要もなく、選択すれば済むようになっている。


操作したいリモコンを使ってリモコンコードが設定できる

 ロケフリのリモコン操作では、ソニー製品ならだいたいボタン名と機能が一致するが、それ以外の製品では合わないことがある。例えばどの機器にもありそうな「戻る」や「メニュー」といったボタンは、十字キーの周辺に付けられているものだが、この位置も各メーカー間でバラバラで、操作もなんだか気持ち悪いことになりがちだ。

 その場合は、画面上にリモコンガイドを表示させることができる。これを見ながら操作すれば、多少は混乱が緩和されるだろう。だが、画面上でボタンと機能名を読み取って操作するよりも、そもそもリモコンの絵に該当機能そのものが描き込んであったほうが、使いやすいだろう。


別メーカーの操作ではリモコンガイドが便利

 またロケフリでは以前から、リモコンスルー機能を搭載している。これは、操作したい機器そのもののリモコンを、ロケフリの受信機に向かって使うことができるという機能だ。本物のリモコンをそのまま使うので、そちらのほうが混乱がないかもしれない。

 ただそうなると、リモコンを求めてあっちこっち移動することになる可能性は高いので、1階と2階とかで視聴環境を分ける場合は、かえってしんどいことになるかもしれない。

 リモコン操作での難点は、操作してから反応が返ってくるまでタイムラグがあることだ。リモコンの信号自体は瞬時に伝送されるのだが、画面が受信機まで送られてくるまでに1秒程度ディレイがある。これは送受信の環境変化によって映像がとぎれることを防止するために、ある程度バッファリングしているからである。

 したがって早送りやメニュー操作は、必ずと言っていいほど、行き過ぎることになる。このあたりは、リモコン操作時になったら画面は多少ジャンプしても構わないから、バッファリングせず極力タイムラグを減らすといった動作が妥当だったろう。


■ 可能性を広げるロケーションフリーの思想

 これまでのロケフリは、伝送できるのがSDサイズ以下だったので、どちらかと言えば小さく見るといった使い方が想定されていた。しかし今回のロケフリ Home HDは、最大がハイビジョンサイズなので、普通にハイビジョンの映像伝送として使えるところがポイントである。

 例えば最近のCATVやVODは、ハイビジョンでの視聴が可能になっている。これらのいわゆるSTBを使うメディアでは、家庭内で分配することができなかった。2カ所で見たいという場合は、STB2台の契約が必要だったわけである。だがロケフリ Home HDを使えば、1台分の契約で2カ所での視聴が可能になる。

 今回は最近導入した、「オンデマンドTV」のSTBでテストしてみた。以前からオンデマンドTVでは、H.264を使ったハイビジョン映画の送信を行なっている。サービス開始時のHD対応STBはD端子止まりだったが、最近のSTBは仕様が変わって、D端子のほかHDMI端子も備えている。


オンデマンドTVのHDTV用STB D端子以外にもHDMI端子も装備

 そこでSTBのそばにあるテレビにはHDMIで接続し、ロケフリ Home HDにはアナログAVで接続したが、問題なく別の部屋で視聴することができた。

 ロケフリ Home HDのハイビジョンの圧縮には、H.264を使っている。具体的なビットレートは明らかになっていないが、ハイビジョン伝送では少なくとも10Mbps前後は使っていることだろう。転送レートは、4段階で設定することができる。


転送レートは4段階で設定できる。デフォルトは3

 画質に関しては、アナログ入力をADコンバートしてH.264で圧縮するわけだから、HDMI直結のような鮮明感はない。ただ最新鋭のフルHDテレビを、わざわざこれに接続するというケースはほとんどないだろう。

 どちらかと言えばサブモニタとしてフルHD以前のハイビジョンテレビ、あるいは設置場所が寝室といったセカンドユースであることを考えれば、解像度を上げてノイジーになるよりも、ソフトにしてなめらかにしたほうがマシ、という絵作りとなっている。

 ところでこのような有料試聴サービスは、大抵録画禁止となっている。ロケフリ Home HDではそのあたりどうなっているのかと、コンポジット出力を波形モニタで調べてみたところ、受信機側の映像出力にはCGMS-A信号が乗っていた。

 レコーダを繋いでも録画はできないが、テレビモニタはCGMS-Aを無視するので表示できる。つまりロケフリ Home HD自体は、動作的にはモニタ相当という扱いになるため、CATVやVODの規約には引っかからないということのようだ。

【お詫びと訂正】
 記事初出時に、D端子で入力したものはコンポジット出力できないとの表記がありましたが、これは検証上のミスで、問題なく変換して出力が可能です。お詫びして訂正いたします。(2007年12月7日)


■ 総論

 これまでロケフリは、テレビ好きという集合Aと、IT好きという集合Bの交わった部分の人達のものだった。だがロケフリ Home HDは、集合Aの人達のために作られた装置と言うことができるだろう。

 ハイビジョンまでの伝送を、簡単な設置で実現した点は良くできている。ただ機能的にもシンプルなだけに、1台何役というわけにはいかない。このセット1つでPSPやPCへの配信はできず、テレビに対して1対1の関係である。

 ただ無線LANが届く範囲であれば、アンテナ線と全然関係なくどこでもテレビを見ることができる。一つのアイデアとしては、PCモニタでテレビを見るという方法もあるだろう。HDCP対応のものに限るが、HDMI端子とDVI端子の変換ケーブルを使えばいい。仕事の気晴らしにちょっと録画したものを見る、といったことも、ロケフリ Home HDなら可能だ。

 さらにこの路線を進めて、メインのテレビの置き場所を変える用途として使えるバージョンも、需要としてはあるかもしれない。壁に大画面テレビを設置したいと思っても、アンテナ線が部屋を半周も引き回さなければならないようであれば、せっかくのリビングも台無しだろう。

 無線LANは、今やホームネットワークの中核をしめる技術となった。家族全員が家中どこでもインターネットができるというのは、10年前は夢でしかなかったものだ。テレビの無線化も、今はただの夢かもしれないが、10年後ぐらいには当たり前になっているかもしれない。

 ロケフリ Home HDは、そんな夢も見させてくれる、いい製品である。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200709/07-0905/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/locationfree/home/
□関連記事
【9月5日】ソニー、1080i映像を無線送信する「ロケフリ Home HD」
-受信機にHDMI出力搭載。H.264に変換して送信
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070905/sony2.htm

(2007年12月5日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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