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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第334回:東芝初のハイビジョンカメラ「GSC-A100F」
~ 帰ってきたgigashot、その実力は ~



■ トータルソリューション勝負?

 CESの足音が近づくにつれて、次世代DVD関係の動きが注目されるところだが、先日発表されたBCNの次世代レコーダシェアでは、98:2というものすごい数字が出た。

 東芝の今シーズンの主力機は12月中旬発売ということで、まだこの数字には載ってきていないわけだが、BD陣営が「テレビ+レコーダ」だけでなく、「ビデオカメラ+レコーダ」という戦略も取り入れてきたところが、この冬の特徴であろう。

 そういう点では、HD DVD寄りのビデオカメラというのもまた必要になってくるわけだ。10月のCEATEC前にお目見えしたgigashotの新モデルだが、720pのKシリーズは10月から、1080iのAシリーズが先月11月から発売になっている。

 東芝のビデオカメラは、2005年の「gigashot V10」以来、だいたい年1回ペースで新モデルが投入されている。特に今年のモデルは、東芝初のハイビジョンモデルとなるだけに、その出来が気になるところだ。

 今回はMPEG-4 AVC/H.264でフルHD記録のgigashot Aシリーズのうち、上位モデルの「GSC-A100F」をお借りすることができた。HDDタイプのハイビジョンカメラでは世界最小を謳うこのモデル、早速テストしてみよう。


■ よく研究されたデザイン

 ではいつものようにデザインから見ていこう。HDDタイプでは世界最小を謳うモデルではあるが、見た目で小さいというのがすぐわかるほど小さいわけでもない。しかしカメラとしてはよく手に馴染むサイズ感で、横幅の狭さなどはSD時代のDVカメラを彷彿とさせるサイズになっている。

 デザイン的には「どこかで見たような」を集大成したような感じで、HDD格納部が前に行くにしたがって高さを落としていくあたり、DVDカメラの小さい版のようなイメージもある。ただ背面は特徴的で、ハーフミラーを大きくフィーチャーして、その奥からステータスLEDが光るデザインは斬新だ。


HDDタイプでは世界最小ボディを実現 DVDカメラのようなグリップ部 背面のハーフミラー処理が斬新


フジノンレンズを採用

 レンズはフジノン製で、35mm換算で35.9-431mmとなっている。各社とも最近はHDでもワイド端を広めに取る傾向が強まっており、レンズの質が問われ始めているところでの採用だろう。レンズ自体は光学10倍ズームだが、ズーム値に応じて撮像素子の使用面積が可変するため、実用上は12倍程度の倍率となっている。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画
35.9mm

431mm
静止画
35.9mm

431mm

 フィルタ径は43mmで、電源OFF時にはレンズカバーが閉じる。またレンズ脇には静止画用フラッシュとビデオ用LEDライトがある。マイクはレンズ下にあるため、上部はすっきりしている。マイク脇にある穴は、排熱穴ではないかと思われる。

 撮像素子はCMOSの単板で、有効画素数は動画も静止画も約149万画素。フルHDで記録する割には撮像素子が少ないが、CMOSがハニカム構造のものを採用しているため、画素補完で対応している。


操作部のほとんどは液晶脇に集中

 液晶モニタは3.0型ワイドで、画素数は320×240ドットとなっている。液晶脇には特徴的なジョグダイヤルが付いており、メニュー操作などの便宜を図っている。メニューボタン、十字キーもここにあり、操作のほとんどはこの部分だけで完結する。

 液晶の内側には、SDHCカードスロットがある。SDカードには静止画が保存できるが、動画は保存できない。内部HDDは100GBで、静止画もHDDに記録できる。

 液晶モニタ格納部の下には、コネクタ類がまとめられている。HDMIはミニ端子だ。外部マイク端子はなく、それに伴ってかイヤフォン端子もない。


ボディ上部には電源スイッチと逆光補正、ビデオライトボタンがある HDMIはミニ端子を採用

 画質モードは3段階で、SD解像度の撮影モードはない。各画質モードでの録画時間は以下のようになっている。

動画サンプル
モード 解像度 HDD記録時間 サンプル
XQ 1,920×1,080ドット 約12時間
ezsm01.mpg (19MB)
HQ 1,440×1,080ドット 約17時間40分
ezsm02.mpg (15.6MB)
SP 約23時間20分
ezsm03.mpg (11.2MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 背面は比較的面積を広く取っているが、機能的にはシンプルだ。任意の場所でチャプタを挿入できるCHAPTERボタン、画面表示を切り替えるDISP.ボタンがある。

AUTOボタンを使用すると、余計なボタンは動作がロックされる

 またフルオート用にAUTOボタンを備えている。これをONにすると、RECボタンとズームレバーのLEDが光り、ここだけ触れば済むという意思表示となる。ただし一旦AUTOモードにすると、それを抜けてもデジタルズームやホワイトバランスなどがすべてデフォルトに戻ってしまうので、一時的な利用がしづらいのが難点だ。

 背面にあるズームレバー似のレバーは、撮影と再生モードの切り替えだ。本機は動画撮影と静止画撮影は切り替えモードがない。動画を撮影していないときが静止画モードという考え方だと言えるだろう。また動画撮影中には、8枚まで高解像度の静止画同時撮影が可能になっている。


■ 柔らかさのある独特の絵柄

 では実際に撮影してみよう。本機はx.v.Color対応機種である。東芝REGZAがこの秋モデルでx.v.Colorに対応したため、その対応ということだろう。今回はx.v.Color Onの状態を中心に撮影した。

 操作性の面では、絞りやシャッタースピードをユーザーが決められるカメラではないので、せいぜいシーンモードを活用するぐらいである。十字キーの下がシーンモード呼び出しとなっている。

ポートレートモードで撮影 暗い場所でもS/Nは悪くない

 今回の撮影は曇り時々晴れといった天候であったため、ホワイトバランスの変更を頻繁に行なう必要があった。しかしホワイトバランス設定はメニュー内部にしかないので、設定変更はやや面倒だ。普通はAUTOにしておいて変えないもの、という考え方なのだろう。

 x.v.Color対応と言うこともあって、発色の強さは十分だ。解像度は、せっかくフルHD記録を謳うのであれば、もう少しディテールがしゃっきりした感じが欲しかった。全体的に甘いトーンで撮れるカメラと言えるだろう。

動画サンプル

ezsample.m2t (202MB)

ezroom.m2t (32.4MB)
動画サンプル。付属ソフトでMPEG-2に変換したのちEDIUS Neoで編集、HDV形式のMPEG-2ファイルに出力 室内サンプル
再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

動画サンプル

ezsm0040.mpg (26MB)
何気ない構図だが、右側の木の揺れ方に不自然さが見られる
再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 画質に関しては、動きの激しいシーンでの破綻はあまりないが、逆に安定した絵柄の中で一部だけ動くようなシーンでは、動画圧縮のアルゴリズムに手慣れていない感じも見られる。

 気になったのはフォーカスの追従性で、手前に向かってくる被写体みたいなものはまず無理である。また無限遠で撮影している時に、テレ側だと時折フォーカスを取り直そうとする動きをするのは困った。

 フォーカスそのものも、中央測距なのかと思えばそうでもない時がある。一番手前の被写体よりも、やや後ろの高コントラスト部分に合ってしまうケースが多く、そのたびにマニュアルフォーカスで調整が必要になった。ただ液晶横のダイヤルでフォーカスが取れ、距離も表示されるので、目測と合わせてだいたい常識的なところに持っていけばいいのは楽だった。
紅葉の葉ではなく幹のほうにフォーカスが合う

 もう一つ困ったのが、電源の扱いである。本機にはすぐに撮影できるよう、「クイック起動」機能がある。このモードが有効になっているときは、電源ボタンで電源を切ろうと思っても、スタンバイモードになるだけである。

 これの何が困るかと言えば、撮影を終わってさあカメラをバッグにしまおうと思っても、強制的に電源が切れないので、レンズカバーが閉じないんである。スタンバイにして、省電力設定で指定した分数待つか、SETUPメニューに入ってクイック起動を切ればいいのだが、そうそう頻繁に切り替える機能でもないだろう。

 他社は、電源ボタンでは確実に電源が切れるようになっている。以前そのあたりの仕様について確認したところ、PCなどに接続した際、自動的にカメラが起動するようにハードウェア的な電源スイッチを付けないということであった。

 それはV10のような小型カメラではわかる話だが、100GBもHDDを積んだHDカメラは、そうそうこまめにPCに接続するわけではないだろう。それならばスタンバイモードの時はレンズカバーが閉じるといった動作のほう が、良かったかもしれない。



■ 謎の多い静止画

こちらも若干背景にフォーカスが合っている感じがある

 続いて静止画撮影機能を試してみよう。本機は、動画撮影中は8枚まで静止画撮影が可能だ。ソニーは同時撮影が3枚までなので不便を感じることがあるが、8枚ならばまず多くのシチュエーションでこと足りるだろうと思われる。

 動画撮影中に静止画のシャッターを押すと、画面が上下から黒ワイプされて、静止画が撮影されたことを表わす。もちろん実際にこのワイプは、動画には記録されない。

 撮影される静止画のサイズは、1,920×1,080ドットと、1,440×1,080ドットの2種類。それ以外の撮影解像度がないというあたりは、かなり割り切っている。ただこちらも、全体的に解像感はもう少し欲しかったところだ。


動画同時撮影 静止画のみ撮影

 ちょっと気になったのが、静止画の色空間が、どういう条件で撮ったかに左右されるところだ。動画撮影を止めた状態で撮影した静止画はデジカメ相当のコントラストになっているが、動画撮影中の静止画は、写真としての色空間というよりも、ビデオ画像をそのままキャプチャした色空間になる。つまり、x.v.Color ONの時とOFFの時で、色空間が変わることになる。

x.v.Color OFF x.v.Color ON

 ビデオカメラの静止画機能では、色空間としてはデジカメと合わせるため、sRGBかsYCCに固定されているのが普通だ。つまり動画の色空間がどうであれ、静止画として撮る場合は、デジカメ定義の色空間に変換処理をして記録するのが、昨今の流れである。

 そういう点では、同じ静止画でもカラー空間が違うものがいろいろ撮れてしまうというのは、ユーザーにはわけがわかないのではないだろうか。このあたりは、デジカメ戦争から早々に離脱してしまった東芝の弱点かもしれない。


■ ハイビジョンの保存が課題

 次に再生と保存環境を見てみよう。本体での再生画面は、動画と静止画が混在したサムネイル画面が中心となる。記録はアルバム単位で分けることができるので、イベントごとにアルバムを分けて撮るというのが基本になる。

動画と静止画はアルバム単位で管理される

 サムネイルのページ送りは高速で、読み込みで待たされることはない。再生は、動画を選択すれば動画だけが連続再生され、静止画を選択すれば静止画のみを次々に送っていくというスタイルだ。また「オートプレイ」を使えば、動画と静止画混在で、アルバム内全部の再生が可能になる。

 面白いのが誕生日設定機能で、3人までの誕生日を登録することができる。表示設定で「成長記録」をオンにしておくと、再生時に何歳何ヶ月といった表示が出る。この情報は動画と静止画のメタデータに記録されるようだが、本機での再生以外でも活用できればさらにいいだろう。

3人まで誕生日設定が可能 撮影日までの年数が表示される

 本機付属のソフトウェアは、映像管理ソフトの「ImageMixer 3 for TOSHIBA」と、オーサリング/ライティングソフトの「nero Vision 5 for TOSHIBA」である。

 ImageMixer 3は、本機を一度接続してドライバがインストールされた状態になったあとは、USB接続するだけで動画も静止画もPCへ自動的に吸い出してくれる。もっともWindows Vistaの「画像の取り込み」でもできることは同じだが、ImageMixer 3では画像を選んだのち、nero Vision 5とリンクできる点でメリットがある。

 nero Vision 5は、東芝用にカスタマイズされており、HD DVDとDVDのオーサリングが可能だ。ハイビジョンで保存するにはHD DVDに書き込む必要があるわけだが、現時点でHD DVDの記録型ドライブは単体販売されていない。したがってハイビジョンの状態でメディアに記録できるのは、東芝「Qosmio」のユーザーだけというのも厳しい話だ。

自動取り込み機能を搭載した「ImageMixer 3 for TOSHIBA」 HD DVDのオーサリングが可能な「nero Vision 5」

 HD DVDドライブがなくても、オーサリングからフォルダに書き込むぐらいは可能だ。だがどうもAVCをMPEG-2に変換してから書き込むので、仮にドライブがあったとしても、それなりの時間を要する。HD DVDでは、従来のDVDメディアにハイビジョンを記録する「HD Rec」というフォーマットを立ち上げたが、nero Vision 5ではサポートしていないようだ。

 そうなると期待は、12月中旬に発売予定となっている東芝のレコーダ、「RD-A301」にかかってくるが、今のところどういう対応をしてくるのかは分からない。そうなると現時点では、PCのHDDにバックアップして凌ぐしかないというのが厳しいところである。


■ 総論

 東芝初のハイビジョンカメラとなる本機だが、ハニカムCMOSの採用とフルHD記録、広角なズームレンズ、そして100GBのHDD搭載と、差別化の条件は揃っている。使い勝手の面ではフォーカスのアルゴリズムと静止画の色域に難があるが、画質は無難にまとまっており、及第点を付けられるカメラだ。

 保存に関しては、たぶんHD DVDにすんなり書ければ、オーサリングや編集の面でメリットがあるのかもしれないが、現時点ではそのあたりがさっぱりわからない。HD DVD一押しなのは戦略的に理解するところだが、現在のところ環境がついて行けてない。

 あるいは単体でカメラと繋いでバックアップできるHD DVDドライブが、廉価で出るというのであれば、話は少し違ってくるかもしれないが、保存や編集で苦労するのが見えていて、敢えて本機を選ぶメリットが見えないのが、現時点での難点だろう。

 次世代DVDの覇権争いは、次第にハリウッド映画とレコーダの話だけではなくなってきた。撮影から記録まで、次世代DVDが描く未来像にトータルソリューションが必要だとすれば、とにかく映像記録に関わるいろんなことが全部関わってくる。今後PCも含めて、思いがけないところに波及する可能性も出てくるだろう。

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
□ニュースリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2007_09/pr_j2501.htm
□製品情報
http://www.gigashot.net/mobileav/movie/
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(2007年12月12日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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