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第315回:YAMAHAの「USBキーボードスタジオ」を試す
~ Cubase AI4と強力連携。ソフトシンセ満載 ~



 以前、M-AudioのUSB-MIDIキーボード「KeyStudio 49i」を紹介したが、YAMAHAからも「USBキーボードスタジオ」という製品が3モデル発売される。いわゆるDTMセット製品であり、キーボードだけでなく、DAW、ソフトシンセも数多くバンドルされているのが特徴。

 当初2月発売予定だったが、バンドルソフトの不具合から3月1日に延期されたが、一足早く製品を入手することができたので、どんな製品なのかレポートする。



■ Cubase連携機能が強力なUSBキーボードスタジオ

 USBキーボードスタジオは、25鍵盤モデルの「KX25」(オープンプライス/実売価格29,800円前後)、49鍵盤モデル「KX49」(同/34,800円前後)、61鍵盤モデル「KX61」(同/39,800円前後)の3製品。KXというと、個人的にはショルダーキーボード「KX1」や「KX5」という往年のYAMAHA機材を思い浮かべてしまうが、今回の製品とは直接は関係なさそうだ。

 今回は3製品のうち、一番小さいKX25を借りたのだが、キーボードを一目見た第一印象は、とにかくボタンがいっぱい搭載されている、ということ。

25鍵盤モデル「KX25」

 最近のUSB-MIDIキーボードは、各社ともフィジカルコントローラ機能を前面に出し、フェーダーやノブが目立つものが多い。そんな中、このKXに搭載されているノブは4つのみで、フェーダーはないかわりに、ボタンが37個もあるのだ。この辺からも、明らかに他社製品との差別化を感じるが、実際に触ってみると、まさにYAMAHA製品という感じで、とても面白い製品になっている。

 操作感的に何に近いかといえば、以前紹介したn12というデジタルミキサーだ。n12の場合、それこそフェーダー、ノブがいっぱいのミキサーではあるが、Cubaseとの連携機能が強力なのが大きな特徴だった。そしてこのKXシリーズも、Cubaseとの連携機能という面でn12と同等か、それ以上に強力に仕上がっている。

 実際、バンドルされているCubase AI4と連携できるほか、Cubase4、Cubase Studio4というCubase LE4を除くCubase4シリーズと連携できるようになっているのだが、その連携の秘密は、n12/n8と同様「YAMAHA Extensions for Steinberg DAW」というソフトにある。

 Cubase4シリーズの拡張機能である「AI Function」を用いて、ハードとの連携を実現させているため、一般のフィジカルコントローラのボタンやノブを単純にアサインするのとは違うのだ。


Cubase AI4をバンドル n12/n8と同様、「YAMAHA Extensions for Steinberg DAW」によるPC連携機能を搭載



■ 29種類のソフトシンセに対応する連携機能を搭載

 では、どこがどう違うのか、ひとつずつ見ていこう。まずは、トランスポートコントロールから。これは一般的な機能だが、再生、録音、停止、早送り、巻戻しといったことがリモートコントロールできるというもの。

 その上にあるTRACK MUTE、SOLOボタンでミュート、ソロのコントロールもできる。どのトラックをミュートさせるかなどは、上下左右のカーソルキーを使ってアレンジ画面上でも、ミキサー画面上でも選択可能となっている。


再生/録音などの基本操作をキーボード上からリモートコントロールできる 各トラックを選択してミュートできるTRACK MUTE、SOLOボタンも備える

ボタンへのアサインは変更も可能

 またカーソルキーの左にはCUBASE A、CUBASE Bというボタンが2つ用意されているが、CUBASE Aを押すとMIDIのリストエディタが、CUBASE Bを押すとミキサー画面が現れるようになっている。

 そのほか、ASSIGN 1でMIDIクォンタイズ、ASSIGN 2で編集の削除が割り当てられている。Cubsase側のデバイス設定を見ると、確かに設定されていることが確認でき、このボタンへのアサインを変更することも可能だ。ちなみに、この画面のMIDI設定なども含め、前述のExtensionsプログラムをインストールすることで、自動的に設定されるようになっている。

 ADD INSTRUMENT TRACKというボタンを押すと、ソフトシンセが入ったトラックの追加ができ、VSTi WINDOWというボタンを押すとソフトシンセの設定画面が表示されるのだが、連携機能という面で面白いのはここから。

 たとえばソフトシンセにプレイバックサンプラーであるHALionOneを選ぶと、中央にある液晶パネルには、Cutoff、Resonance……といった表示が並ぶ。そして、ここに表示される4つのパラメータがKX本体左側にある4つのコントロールノブと連動しており、これでソフトシンセをコントロールできるようになっているのだ。


ソフトシンセのパラメータ設定を本体のコントロールノブと連動して調整できる

 さらに、ノブの下にある切り替えボタンを押すと、4つのノブの割り当てが変わり、液晶パネルも表示が切り替わるようになっている。こうした点ではSONARとEDIROLのPCRシリーズを組み合わせた際などに利用できるACT機能とも似た機能である。

 HALionOneのときは、このように一発で割り当てられたが、気になるのは、ほかのソフトシンセのときに、どうなのかという点だ。実はこの点でもなかなかうまく設計されている。

 Cubase4標準のソフトシンセである、「Mystic」や「Prologue」、「Spector」といったSteinberg製のソフトシンセが起動した場合は、自動的にそれに割り当てられるようになっているだけでなく、Native Instrumentの「Pro-53」や「FM8」、KORGの「WAVESTATION」や「M1」、Arturiaの「Analog Factory」や「Jupiter-8V」、IK Multimediaの「SampleTank2」など、主要なソフトシンセ計29種類のテンプレートが用意されており、それらがVSTiとして起動すると、自動的に割り当てられる。このようにサードパーティー製のソフトシンセにも対応するという点ではSONARのACT機能よりも一歩上といっていいだろう。

 一方、このKX本体に内蔵している便利な機能がアルペジオ機能だ。ARP ON/OFFのボタンをオンにすると機能し、DAW側、ソフトシンセ側とは無関係に、KX単体でアルペジオのMIDI信号を発生させ、それで演奏できるという機能になっている。

 一応HALionOneのGM音源を主な対象としてアルペジオパターンが内蔵されており、そのパターンの種類は342種類。ドラム・パーカッション、ベース、シーケンサ、オルガン、アルペジオキーボードなどのカテゴリがあり、そのアルペジオパターンなどを含め、本体のボタンと液晶ディスプレイを使って選択できるようになっている。

 中でも便利なのがドラム・パーカッションのカテゴリーのパターンで、キーを押すだけでリズムパターンが演奏される。ドラム用のアルペジオは計66種類あり、これはキーの高さにより、それぞれ4種類のリズムパターンが収録されているため、実際には66×4=264種類あり、結果として540種類のアルペジオパターンが入っているというわけだ。

 また、KXの液晶ディスプレイの上ではピカピカと点滅しているLEDがある。これがテンポを表しており、当然Cubase側のテンポと連動して動作し、そのテンポに合ったアルペジオ演奏ができるようになっている。また必要であれば、バリエーションやオクターブレンジ、スウィングなどをエディットできるようになっている。


本体のボタンと液晶ディスプレイでアルペジオパターンを選択できる Swingなどのエディットも本体のみで行なえる


USBバスパワー駆動だけでなく、付属のACアダプタも利用できる

 このようにさまざまな機能を装備しているので、Cubaseユーザーにとっては、非常に便利なUSB-MIDIキーボードであるが、Cubase4シリーズユーザーに限らず、別のDAWとも連携可能になっている。

 もちろん、Cubaseほどの連携性はないものの、すぐに使えるようなテンプレートは用意されている。具体的にはSONAR、LogicPro、DigitalPerformerの3種類に対応し、KXの設定で対応DAWの切り替えができるようになっている。

 またKXはUSBバスパワーで動作するデバイスだが、標準でACアダプタも添付されている。これを使うことでKX単体で動作させ、リアのMIDI端子を通じて外部音源を鳴らすことも可能だ。



■ ソフトシンセ満載の付属DVD-ROM「X Factor VST」

 さて、実はこのUSBキーボードスタジオには、もうひとつ大きなオマケがついている。それが、「X Factor VST」というDVD-ROMだ。そこに不具合があって発売が遅れたとのことだが、この中身がなかなかすごい。盤面には「VST 3rd Party MEGA PACK」と書かれているが、サードパーティー製のソフトシンセや、音色、ループ集などを束ねたパッケージなのだ。

 具体的には、IK Multimedia、Sonic Reality、FXPantion、Arturiaなどの製品が入っている。まずIK Multimediaからは「Sample Tank X Factor Edition」と「Amplitube Duo」。AmplitubeはもちろんアンプシミュレーションタイプのVSTプラグインエフェクトであるが、これもなかなか使える。


サードパーティ製ソフトシンセなどを含むDVD-ROM「X Factor VST」が付属 Sample Tank X Factor Edition Amplitube Duo

 またSonic RealityからはHALionOneのサンプリングデータ音源として「OneSoundz Silver Edition」と「YAMAHA HALionOne S90ES Piano」、さらにループ素材集である「RAW loops YAMAHA Edition」が収録されている。Sonic Reality OneSoundz Silverはオリジナルの音色44種類が、YAMAHA HALionOne S90ES PianoはYAMAHAのS90ES用のサンプリングデータをHALionOne用にコンバートしたものが用意されている。


オリジナル音色44種類を収録する「Sonic Reality OneSoundz Silver」 YAMAHA S90ES用サンプリングデータをHALionOne用にコンバートした「YAMAHA HALionOne S90ES Piano」

 実は、このSonic Realityの音色データを最初インストールした先、あまりしっかりドキュメントを読まずに行なったため、うまくいかなかった。が、よく読むとCubase AI4を最新バージョンにアップデートしてからインストールしろ、とある。Cubase AI4を4.1にするとHALionOneもバージョンアップされて、これらの音色が使えるようになっていたのだ。

 さて、FXPantionからは人気のドラム音源であるBFDのLite版である「BFD Lite Ver1.5」が入っている。Lite版とはいえ700MBのサンプリングデータが収録された、ドラム音源としてなかなか使えるものだ。

 そしてArturiaからは、「Analog Factory SE」が用意されている。これは、製品版のAnalog Factoryと比較するとProphetやProphet-VSの音色がないなど、音色数の制限はあるものの、立派なアナログシンセのモデリング音源として機能してくれる。

 そのほか、KeyfaxはMIDIのループ素材集、ASK Videoは英語版ではあるがCubase AI4の使い方を紹介するビデオ教材などが収録されている。


ドラム音源「BFD Lite Ver1.5」には700MBのサンプリングデータを収録 アナログシンセのモデリング音源として利用できる「Analog Factory SE」 Cubase AI4の使い方を紹介するビデオ教材も用意

 KXシリーズそのものも、強力な機能を持った製品だが、このX Factor VSTだけでも製品価格分の価値があると思える。もちろん、ここに収録されている音源もKXシリーズのテンプレートとして登録されているため、Cubase上で起動させると、4つのノブが自動的にパラメータ調整用に割り当てられる。


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□製品情報
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/cmp/kx/
□関連記事
【1月28日】【DAL】M-AUDIOのエントリー向けキーボード「KeyStudio 49i」
~ 直販29,820円で、手軽に使えるシンプル機能を搭載 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080128/dal311.htm

(2008年2月25日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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