フォーマット戦争が終わって、始まるもの 前回は思いがけずHDMIに潜む問題点を発見してしまい、その解説記事をお届けしたが、繋がらない条件など難解な面もあったようだ。もう少し整理すると、以下の条件が重なると繋がらない可能性が高いと見て、注意した方がいい。
AVアンプの場合、2006年開発の製品の大部分は対策済みのようだが、中には結果が予想できないとされるものもあるようで、やはり注意が必要だ。2007年開発の製品ならば、全製品で確認を取っていないものの、問題はほとんどないと思われる。 さて、今回は、オムニバス形式でいくつかのAVトレンドネタを紹介していくことにしよう。 ■ 次世代光ディスク戦争が終わって Blu-ray DiscとHD DVDのフォーマット戦争は東芝の撤退で終わったが、その発表の翌週、日本ではDVD Forumが開催されていた。東芝の動向に注目していたが、HD DVD関連の光ディスク技術者約500人は、そのほとんど全員が配置転換になるという。 DVD Forum幹事会では2011年まで東芝が主幹事を継続することを承認したが、光ディスク関連技術者が配置転換となり、4月以降の開発予算もDVD Forumの時点では付いていなかった。主幹事に選ばれた以上、DVD Forumの運営をリードする立場にあるものの、HD DVDの開発が継続されなくなった現在、DVD Forumで技術検討するテーマは限られてくる。 DVDの規格ライセンス(特許ライセンスは外部組織が行なっているが、規格の管理はDVD Forum自身が担当する)を行なっていく必要もあり、また現在検討中のテーマもあるため、急にDVD Forumが開催されなくなるということはないだろう。しかし、議題とするべきテーマが少なくなってくれば、徐々に規模は縮小していくのではないか、と考える関係者が多いようだ。 BDへの移行を急いでいたソニーはともかく、松下電器などBDを推進してきた企業も、決してDVD Forum自身に愛着がないわけではない。こうした状況に寂しさを感じる技術者も少なくないようだ。しかし、一時代を築いたDVD Forumも、どうやらその役割を終えようとしているのかもしれない。 また、本会議はもちろん、DVD Forum開催週の木曜日に恒例となっているディナーにも、東芝DM社の首席技監・山田尚志氏はきちんと出席し「HD DVD撤退のニュースが掲載された新聞を妻が朝の食卓に持ってきて、“これで二人で旅行にも行けるわね”と声をかけられた」と話し、一線を退く意向をほのめかしたという。 ただ、東芝本社・社長の西田厚聡氏は、今回のHD DVD撤退を相当に重く見ているようだ。全技術者の一斉配置転換は、即時DVDレコーダの撤退を意味しているものではなく、配置転換は製品企画・設計の技術者ではないと聞いている。現行のDVDドライブ搭載RDシリーズは継続するだろう。 しかし、自社でBlu-ray Disc関連の技術開発を行なわないということは間違いなく、東芝として光ディスクに対して見切りを付けたとも捉えられる。西田氏はワーナー発表の直前まで、非レコーダ市場(HDパッケージビジネスとプレーヤーにおいて)HD DVDの劣勢、撤退の可能性に関して詳しくレポートを受けておらず、ワーナー発表時の怒りは相当なものだったという。 そのために光ディスク事業の幕の引き方、フラッシュメモリへの大規模投資などの判断を早急に下し、本気で脱光ディスクを目指す方向へと踏み出した。フラッシュメモリ+ネットワーク配信というモデルが、光ディスクの代替になるかという議論はここではしないが、HD DVD撤退と同時にNANDフラッシュ投資を発表した意気込みが本気ということだけは間違いない。 ひとつ心配なのは、急速に技術者の配置転換を進める方針を固めたことで、技術者の流出が起こる可能性が高いことだ。これは光ディスクだけでなく、様々な分野で起こってきたことだが、定年前のベテランのエンジニアが急な配置転換で居場所を失い、海外企業に転出する可能性は決して低くはない。 東芝DM社としては、DVD Forumの運営ノウハウや光ディスク技術の開発を支えてきた人材の流出を、どのようにして最小限に留めるかが短期的な課題となるだろう。 □関連記事 ■ 米・中産階級へのプロモーションが激化 一方、フォーマット戦争が終わったことで、ハリウッド映画スタジオやAV家電各社は本格的に北米市場の開拓に乗り出している。これまでは「BD陣営」と一緒にされてきたが、今後はBDという共通フォーマットの中で、どこがイニシアティブを握っていくかという競争になる。 ハリウッド映画スタジオの中でも、もっとも多くのコンテンツライブラリを保有し、また年間公開作品数も多いワーナー・ブラザースは、ソニーとの共同プロモーションを強化していくようだ。ソニーはグループ内にSPEを抱えるが、巨大流通のベストバイ、ウォルマートと密な関係を構築し、ワーナーも巻き込んでフォーマット戦争後の立ち位置強化を図る。 一方、北米でのブランド力でソニーには及ばない松下電器だが、フォーマット戦争の中で盟友となったディズニー、20世紀フォックスとの関係を強化し、ソニー・ワーナー連合とは別のグループを形成してポストDVD時代の共同プロモーションを行っていく。 ひとつのテーマは米・中産階級に対して、どのように切り込んでいくかだ。米国の中流家庭は非常に幅広く、いかにもアメリカ的なピックアップトラックとジャンクフードから連想されるファミリーから、BMWやメルセデスに乗る小金持ちファミリーまでいる。この幅広い層に対して強いブランド力を誇っているのはソニーだ。 今後、BDが一般化していく中で、中産階級に幅広く製品を販売していく必要があり、松下としては、その中でどのような存在感を示していくかが、今後のテーマとなっていくだろう。 たとえば先日、ハリウッドに取材に行った週末、松下はユナイテッド・アーツ(MGM系映画製作会社)が90周年記念にスポンサーしたNASCARシリーズ第2戦で、大々的に来場者に自社のハイビジョン関連製品プロモーションを行なった。会場のカリフォルニア・スピードウェイの公式ディスプレイとして大量に同社プラズマテレビが配置され、Blu-rayやハイビジョンカムコーダのデモを来場者に見せる。
NASCARというイベントは、インディカーなどのオープンシーターフォーミュラよりも人気が高く、中産階級の上から下までまんべんなく幅広いファンを獲得している。実際に現地に赴くと、日本で言うF1以上に盛り上がるイベントだというのがわかるだろう。こうした中産階級向けのイベントで、地道にBD、HDといったキーワードと自社ブランドの強い関連性を訴える地道な活動で新しい層への浸透を狙う。 一時はプラズマテレビで、北米でのブランドを大いに高めた松下だが、最近はやや苦戦を強いられている。せっかく自身が推進してきたBDが標準になっても、最大市場の北米でソニーに市場をさらわれるのでは面白くないに違いない。
■ iPodとのデジタル接続に注目
従来のiPod対応製品はアナログ接続だったが、第5世代iPod(Video iPod)以降のDockコネクタには、専用チップと接続することでデジタル信号を取り出せる機能が装備されている。これに注目して高音質のオーディオ機器にもiPod接続を重視した製品が登場し始めている。 1月のCESでは、ハイエンドCDプレーヤー/DACのベンダーであるWadiaがiTransportという製品を発表した。これは上記のようにiPodからデジタルデータを読み出し、S/PDIFで出力可能にする装置で349ドルの価格が付けられている。DACは内蔵していない。
また今月中に出荷予定のパイオニア製ハイエンドAVアンプ「SC-LX90」も、同様にデジタル接続をサポートしている。現在、iPodとのデジタル接続が可能なAVアンプは、SC-LX90だけだ。 両社とも最大160GBという大容量ストレージを内蔵するiPodにロスレス圧縮あるいはWAV形式でCDデータを録音し、高品質の音楽サーバーとして使おうというコンセプトだ。 実際にLX90の最終試作で自宅試聴をしたのだが、第5世代iPod(80GB)にApple Losslessで録音した場合よりも、高品質のCDプレーヤーから同軸ケーブルでデジタル入力した音の方が優勢とは感じた。しかし、決して大きく劣るものではない。 さらに試しに……と、16GBフラッシュメモリのiPod touchで同じ曲を再生してみると、CDプレーヤーの音と甲乙付けがたい音が出てきた。音場の豊かさや陰影の深さはCDプレーヤー時よりも後退するものの、見通しの良さや情報量、中高域のクリアな質感はむしろiPod touchの方が上回っていると感じるほど。 自宅試聴の間、何人かのオーディオ好きに聴かせてみたが、皆、一様に驚いた様子だった。もっとも、我が家で試聴した人が一番驚いていたのは、iPodの種類による音質差が存外に大きいことだった。常にサーボを効かせながら信号を読んでいるCDとの比較で良くなる可能性があるというのは想像していたが、HDDとフラッシュメモリで、おそらくノイズの問題だろうが、差がここまであるとは想像していなかった。 今後、iPodとのデジタル接続に対応した製品が増えてくれば、本格的な音楽サーバーとしてiPodを使う人も増えてくるだろう。対応製品の増加を期待したい。
□WADIA iTransportのニュースリリース(英文/PDF) □関連記事 【3月6日】Deep Color対応とHDMI接続の互換性 -便利なHDMI接続に潜む“落とし穴” http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080306/avt021.htm (2008年3月13日)
[Reported by 本田雅一]
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