2007年冬に発表された「DLA-HD100」は、基本的にはDLA-HD1からのマイナーチェンジモデルということだが、より熟成が進み完成度が増している。 価格的には84万円。同じLCOSプロジェクタとして競合モデルといえるソニー「VPL-VW200」の136万円よりはだいぶ安く、ソニー「VPL-VW60」の45万円よりは高い。ちょうど、ソニーのLCOSプロジェクタの上下モデルの間に入り込んだ形となり、マーケティング的にもうまい位置にいる。 LCOSプロジェクタとしては後発のソニーが、ここ近年は精力的に新モデルを投入してきたこともあり、「LCOS=ソニーSXRD」というイメージが強くなっているが、実際にLCOSパネルを量産化し、採用プロジェクタを発売したのはビクターが最初だ。DLA-HD100は、ビクターのLCOS「D-ILA(Direct drive Image Light Amplifier)」の巻き返しを狙った戦略的モデルであり、その実力は気になるところだ。
■ 設置性チェック ~DLA-HDシリーズ初! 待望の電動ズーム/フォーカス調整機能を搭載
型番はDLA-HD1からDLA-HD100となったが、ボディデザインは基本的にはDLA-HD1と同一だ。ただし、ボディカラーを全面黒としたことで、高級感が高まった。欧米市場では特に黒が求められるという話もあるので、それに応えたということかもしれない。 ボディサイズも重量もHD1と変わらず、455×418.5×172.5mm(幅×奥行き×高さ)、約11.6kg。DLA-HD100は、昨年秋に紹介した透過型液晶機と比べれば大きいが、先週扱ったソニーVPL-VW200が、かなりの巨体の重量級だったので、相対的にはコンパクトに見える。 ボディデザインが同一なので、当然天吊り金具などもDLA-HD1のものが活用できる。天吊り金具「EF-HT11」が純正オプションとして設定されており、価格は73,500円と高めだ。
投射レンズは2.0倍ズームレンズ(f=21.3~42.6mm、F3.2~4.3)で光学スペックはDLA-HD1と同一だが、ついに待望の電動ズーム、フォーカス機能が搭載された(DLA-HD1は手動式ズーム/フォーカス)。 ただし、調整の仕方がちょっと変わっている。リモコンの[TEST]ボタンを押してクロスハッチ(格子模様)のテストパターンを表示させた状態で左方向キーを長押しすると、フォーカス調整モードとなり、リモコンの上下方向キーでフォーカスあわせが出来るようになる。ここで[ENTER]キーを押すとフォーカスが確定され、今度はズーム調整モードになる。これも上下方向キーでズームを調整し[ENTER]で確定となる。 リモコン調節可能となったことで、ズーム/フォーカスの使いやすさは向上したが、レンズシフトはHD1と同じ手動のダイアル式にとどまる。しかし、レンズシフトの範囲自体は上下±80%でライバルのソニーVPL-VW200をも超えており、さらには、VW200が持っていない左右±34%のシフトにも対応しているところは、アドバンテージになっている。 競合のVPL-VW60/VW200がズーム、フォーカスだけでなくシフトも電動リモコンに対応していたことを考えるとやや残念だが、それでもフォーカスとズームの調整がリモコンで行なえるという点には、着実に進化してきている手応えを感じる。今後も、こうした使いやすさと機能強化に期待したい。 光源ランプは200Wの超高圧水銀系ランプを採用する。交換ランプもHD1と同じ「BHL5009-S」を採用している。HD100の最大輝度は、HD1よりも100ルーメン低くなっているが、使用ランプ自体は変わらない。
競合のVPL-VW200はキセノンランプ採用で交換ランプが103,950円。一方、DLA-HD100の交換ランプ「BHL5009-S」は23,100円と、1/4以下。同じ水銀ランプ系のVW60も交換ランプは42,000円もするので、HD100はランニングコストの安さも魅力といえる。消費電力もHD100は280Wで、VW200の650Wの半分以下。DLA-HD100は導入したあとも、財布に優しいモデルだといえる。 エアフローは前面に吸排気口を持ってきている設計。壁に寄せた設置を余儀なくされるユーザーにとっては、おあつらえ向きだ。なお、吸排気スリットの開口部は結構大胆に空いているのだが、光漏れなどはない。 動作時の騒音レベルは公称24dB。これはDLA-HD1の25dBから1dB分低減されたとになるが、それでも、競合のVPL-VW60/200の22dBと比べるとまだ大きい。2mも離れればだいぶ気にならないが、1m以内だと動作音は聞こえる。 また、この24dBという公称値の騒音レベルはランプ駆動モードを「標準」(170W)とした時の値であり、ランプスペックをフル活用した200W「高」モードでは2m離れてても動作音が確かに聞こえるほど大きくなる。ビクターのDLAシリーズは、騒音レベル低減に関してはあまり関心がないのか、競合と比較するとどうしてもこの部分が見劣りしてしまう。静音性能については、引き続き改良を期待したい部分だ。 ユーザーとしては、設置位置を視聴位置から遠ざける方向で設置シミュレーションを行なった方がいいだろう。
■ 接続性チェック ~2系統のHDMI端子はVer.1.3でDeep Color対応
接続端子パネルは背面向かって左側にレイアウトされている。背面には吸排気口がないものの、接続端子パネルがあるので、あまりぎりぎりにまで壁寄せした設置は出来ないということだ。 接続端子ラインナップそのものはDLA-HD1と全く同一だ。HDMI端子は先代DLA-HD1と同じくHDMIを2系統装備する。HDMIバージョンは1.3に対応しており、Deep Colorにも正式対応している。 アナログビデオ系はコンポーネント、S映像、コンポジットを各1系統ずつ備える。系統数は絞りきった風情で質実剛健な感じだ。たくさんの機器を接続したいと考えるユーザーはセレクターやAVアンプなどの併用が必須だろう。 アナログRGB端子、DVI端子などのPC入力端子は今回もない。ただし、実際にDVI-HDMI変換ケーブル等を用てPCと接続することができた。 「設定」メニューの「HDMI入力レベル」オプションをデフォルトの「スタンダード」設定から「エンハンス」設定に切り換えればちゃんとPCの0-255の階調レベルを受けられる。こうした明示的な設定項目はVPL-VW60/200には備わっていないのでPC入力を重視したいユーザーにとってはありがたいはずだ。 この他、サービス/メンテナンス/リモート用のRS232C端子を備えるが、外部機器連動用のトリガ端子が、このクラスとしては珍しく搭載されていない。
■ 操作性チェック ~ガンマカーブ、色温度がユーザーカスタマイズ可能~
リモコンは、形状はもちろん、ボタン配置に至るまでが先代DLA-HD1のものと同一だ。 十字キーは最下段にあり、メニューを開く[MENU]ボタンと階層を上ったり、キャンセル操作に相当する[EXIT]ボタンの配置はなかなか押しやすくよく考えられている。階層下メニューが右に開いていくメニュー設計なので、他機種のように左方向キーで階層を上れるのかと思いきや、その操作には対応していない。サブメニューを閉じるのは必ず[EXIT]を押すと体に思いこませないと少々戸惑う。 電源オンにしてD-ILAロゴが表示されるまでが約33.3秒、HDMI入力の映像が出てくるまでの所要時間は約40.4秒。これは最近の機種としてはやや遅め。また、DLA-HD1よりも遅くなっているのが気になる。 入力切換は各入力系統に1対1に対応した独立ボタンが実装される理想形な設計。[HDMI1]、[HDMI2]、[COMP.]、[VIDEO]、[S-VIDEO]という5つのボタンを押せば、その入力に直接切り換えられる。切り換え所要時間はHDMI1→HDMI2で約5.3秒、S-VIDEO→コンポーネントビデオで約2.2秒、コンポーネントビデオ→HDMI1で約4.3秒。HDMIが絡んだ入力切換は認証に時間がかかるためかかなり遅い。 アスペクト比切換は[ASPECT]ボタンで順送り式に行なう。用意されているアスペクト比は以下の通り。
アスペクト比切換には制限事項が多く「16:9」「4:3」「ズーム」などはSD映像入力時にしか切り換えられない。HD映像の時は「16:9」固定で、「V-ストレッチ」のオン/オフの切り換えしかアスペクトモードがいじれなくなってしまう。今回の評価ではアスペクト比4:3映像が記録されたDVDビデオをPLAYSTATION 3でフルHDにアップコンバートしてDLA-HD100にHDMI接続して投影したところ、横に間延びした状態でしか見ることが出来なかった。 この場合、PS3のアップコンバートを「フル」ではなく「ノーマル」とすれば正常なアスペクト比4:3で見られる。対処は出来るが、ちょっと不便を感じるので改良を望みたいところ。なお、アスペクト切換の所要時間はほぼゼロ秒で、押した瞬間に切り替わる。高速だ。 プリセット画調モードは[C]、[N]、[D]の3ボタンで直接的に切り換えられる。C、N、Dはそれぞれ「シネマ」「ナチュラル」「ダイナミック」の頭文字をとったものだ。切り換え所要時間はぼゼロ秒で押した瞬間に切り換わる。
調整可能な画調パラメータは「コントラスト」「明るさ(ブライトネス)」「色のこさ」「色あい」「シャープネス」という一般的な画調パラメータの他、ノイズ低減フィルタの効果設定「DNR」、「色温度」、「ガンマ」、「オフセット」など。これらの画調パラメータの調整結果は3つあるユーザーメモリに保存することが出来る。ユーザーメモリは全入力系統で共有される点に留意したい。
プリセット画調モードもエディット可能で、調整した結果は特に保存操作をせずとも維持される。つまり、調整はプリセット画調モードを直接書き換えることになる。そして、このプリセット画調モードは全入力系統で共有されているのでその書き換えは慎重に行なう必要がある。もちろん、プリセット画調モードの初期化操作はあるので元に戻すことは出来るが、プリセット画調モードを直接書き換えられる調整形式にするのであれば、ユーザーメモリはともかく、プリセット画調モードは各入力系統ごとの個別管理にして欲しかった気がする。 色温度は「低」「中」「高」のプリセット設定のほか、RGBの三原色単位で出力バランスを調整できるユーザーモードも搭載する。ユーザー作成した色温度は全入力系統で共有される色温度ユーザーメモリに二つまで記録可能だ。 ガンマカーブは標準の「ノーマル」以外に「シアター1」、「シアター2」、「ダイナミック」と、ユーザーモードの「カスタム」の合計5つから選択が出来る。DLA-HD1では「ノーマル」以外のプリセットガンマカーブはA、B、Cという適当な名前がつけられていてわかりにくかったのだが、HD100では、そのコンセプトがイメージしやすい名前がつけられた。 「カスタム」のガンマカーブでは、12バンドのグラフィック・イコライザーのような操作系で任意のガンマカーブが作成できる。作成したカスタムガンマカーブは全入力系統で共有される1個のガンマカーブユーザーメモリに記録できる。 オフセットは、RGBの三原色単位で出力バイアスを変更するもの。色温度との関係が深いので両者はセットで調整することになるだろう。
画調パラメータの調整は、メニューを開いて行なうのが基本操作となるが、リモコンにある調整専用の操作ボタンを押すことでも直接いじることが出来る。[COLOR±]で「色のこさ」が、[SHARP±]で「シャープネス」が、[CONSTRAST±」で「コントラスト」が、[BRIGHT±]で「明るさ」が調整できる。ただし、前者2つと後者2つとでボタンの造形が違うのは、とても違和感がある。 [GAMMA]ボタンはガンマカーブの順送り繰り替え、[COLOR TEMP]は色温度モードの順送り切り換えに対応している。プリセット画調モードの切り換えを行なうとガンマカーブと色温度はその画調モードのデフォルト設定になるのだが、このボタンを押すことであえて別の設定に切り換えることが出来る。たとえばプリセット画調モードは「ナチュラル」だがガンマカーブ「シネマ2」、色温度を「低」にする……といった組み合わせを楽しむことも出来るのだ。画調調整するほどマニアックではないが、ちょっと好みの画調を探ってみたいという初心者には遊べる機能だ。
[TEST]ボタンは、押すことでテストパターンを表示させることができ、さらに前述したようにレンズ調整モードへの入り口も兼ねている。ここで不満なのは投射しているユーザーの好きな映像でのフォーカスあわせが出来ないという点。必ずDLA-HD100内蔵のクロスハッチで行なわなければならないのだ。また、グラデーションバーやカラーパターンが表示できるのにこれを見ながら画調パラメータの調整が出来ないのも不満だ。この2点の不満は次期モデルでは改善を望みたいところ。 「画素値調整」でRGBの各プレーンを水平、垂直に移動させるサブピクセル調整機能が付いているが、1ピクセル単位の移動しか行なえないため、あまり調整のしがいかない。このあたりのロジックは擬似的に1ピクセル未満の移動を可能にしているVPL-VW60/200の方が優秀だ。
■画質チェック 映像パネルはいうまでもないだろうが、ビクターの独自方式のLCOSパネル「D-ILA(Direct drive Image Light Amplifier)」を採用する。パネル世代はDLA-HD1よりも一世代新しいものになっており、デバイス単体コントラストはHD1採用パネルの20,000:1から、なんと2倍の40,000:1へと高められた。 パネルサイズこそ0.7型で変わらないが、配向膜の平滑化、均一化をさらに推し進めたことにより、液晶分子の配向を理想形に近づけることで迷光を徹底低減させることに成功したのだという。
DLA-HD100の公称コントラストは30,000:1。これは動的絞りなしのネイティブコントラスト値だ。また、HD100は動的絞り機構を持たないので、数字のマジックなしで、同一画面内で本当に30,000:1のコントラストが得られることになる。 実際に、明暗のはっきりした映像を投射すると、たしかにVW200よりもコントラスト感は高い。ピーク輝度はそれほど変わらないが、とにかく、黒が部屋の暗さに限りなく近い黒さなのだ。アイリスに頼らずに、DLPにも優るとも劣っていないこの黒表現と暗部表現は恐れ入る。 公称輝度は600ルーメン。これは先代のDLA-HD1よりも100ルーメン低く、競合のVW200よりも200ルーメン低い値なわけだが、黒の沈み込みレベルが高いせいなのか、明るい部屋で見てもHD100の方が明るく見える。これは意外だったが、公称1,000ルーメンのVW60とも直接、比較してみたがまったく遜色がない。むしろHD100の方が明るいほど。 レンズ性能、光学解像力もすばらしい。フォーカスは画面中央で合わせれば外周もきっちりと合焦してくれており、フォーカスむらは最低限に抑えられている。フォーカスが合ったピクセルの形状もとても美しくクリアに見える。色収差も最低限で1ピクセル1ピクセルが正しく仕事をしていることが伝わってくる。この光学的な解像力の高さはVW200を超えていると感じる。フルHD映像を映したときには、そのスペック以上の解像感が感じられるほどだ。これには感動させられた。
色再現性はHD1とよく似たやや彩度が高めな記憶色再現に振ったような一般ユーザー向けの傾向にチューニングされている。ちょうどイメージ的にはVW60のカラースペース(色域)ワイドモードにイメージが近い。 ここ数世代のDLA-HDシリーズは水銀系ランプから純度の高い色をとるのがうまいが、DLA-HD100もこの点の優秀さは期待通り。赤は水銀系ランプとは思えないほど鋭く、青も深いし、緑は鮮やかで、色ダイナミックレンジの深さが感じられる。先代から輝度は100ルーメン低くなった分、色ダイナミックレンジは深めにとられているのかもしれない。 人肌の表現も良好だ。人肌の陰影には嫌らしい黄味は感じられず、自然な透明感と血の気が感じられる。ハイライト付近の肌色の収束の仕方にも立体感がある。 階調表現は最暗部から最明部までがリニアに表現されており、盛り上げ、盛り下げのような小細工が感じられない。漆黒から最高輝度の白へのグレースケールバーを表示させると、真っ暗な最暗部とまばゆい最明部がスムーズにつながっている様は長らくプロジェクタの映像を見てきた筆者は強い感銘を受けた。明暗コントラストの際だつ映像はもちろん、ごく普通の映像であっても強い立体感と情報量の多さを感じる。この、同一フレーム内に最大ダイナミックレンジが感じられる階調力は、アイリスなしのネイティブコントラストにこだわった画作りをしたDLA-HD100だからこそなしえたのだ。 各画調モードの活用方針とインプレッションは下記のとおりだ。 画面の撮影はランプモードを「高」にして行なった。参考までに、DLA-HD100に内蔵されていたテストパターンも合わせて紹介しておく。
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