2006年はフルHDプロジェクタ元年だったが、各メーカーは、今年もこぞって新製品を投入してきた。中でもソニーは自社独自開発の反射型液晶(LCOS)素子「SXRD」を採用したプロジェクタ「VPL-VW50」の後継機「VPL-VW60」を発売。11月にはSXRDプロジェクタのハイエンド機「VPL-VW100」の後継となる「VPL-VW200」の発売も控えており、俄然気合いが入っている。 ソニー以外の製品も含めて、各社の新製品を紹介予定だが、今回は、SXRD普及機の「VPL-VW60」を取りあげる。
■ 設置性チェック ~ボディデザインはVW50から変更無し
最初に言ってしまうと、VPL-VW60はVW50からのマイナーチェンジモデルだ。とはいえ、多くの改良が行なわれており、商品としての魅力は向上している。 なんといっても価格が劇的に下げられたことが最大の変更点といえるだろう。VW50の735,000円から約40%低価格化され、441,1000円となった。現在、40万円前後の実勢価格となっており、LCOSのフルHDプロジェクタが現実的な選択肢となってきた。 本体筐体のデザインはVW50とほぼ同じで、外形寸法にも変更はなく、395×471×174mm(幅×奥行き×高さ)。ただし、ボディカラーを黒系に一新しており、見た目のイメージがシックな印象になった。本体重量は11kg。決して軽くはないが、1人でも持ち運びできるだろう。 設置金具類の変更も無く、純正オプションの天吊り金具は「PSS-H10」(80,850円)と「PSS-610」(52,500円)が設定されている。ちなみにこれらの金具はVPL-VW100/VW50/VPL-HSシリーズ兼用となっており、近年のソニー製プロジェクタからの買換えが行ないやすい。これは地味ながらありがたい。 投射レンズは1.8倍電動ズーム/フォーカス/レンズシフト機構付きを採用しており、この価格帯の製品にしてはかなり贅沢な設置性能だ。 レンズシフト調整やズーム調整はマニュアル調整式でも我慢できるが、フォーカス合わせはやはりスクリーンに近づいて行ないたいもの。電動フォーカス機能では、スクリーンに超接近して投射画素を凝視した状態でフォーカス合わせができるため、とにかく便利。設置と撤去を頻繁に行なうようなユーザーにもこの機能はありがたい。 レンズシフト幅は垂直方向に上65%まで。下方向には動かない。今回も、部屋の高さの中央あたりに設置して視聴したが、レンズシフト機能を活用することで問題なく天吊りの高い位置のスクリーンに投射ができた。 左右方向へのレンズシフトはなし。ただし、プラスドライバを用いてのマニュアル操作でレンズを左右に±1mmずらすことができる。これは100インチ(16:9)投射時において±15cmの左右シフトに相当するが、基本的には微調整用という位置づけであり、あまりこの機能に頼るべきではない。 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.1mで、ホームユースプロジェクタとしては標準的な焦点距離だ。これならば8~12畳程度の部屋でも100インチ画面の設置が可能だ。一方、100インチ(16:9)の最長投射距離は約5.3mであり、プロジェクタ本体を16畳以上の部屋に設置しても、投射画面が大きくならずに済む。 騒音レベルも先代と同じ約22dBを継承。本体に近づかない限りは動作音は聞こえない。この静音設計は相変わらず優秀だ。光源ランプも変更無し。VPL-VW50と同じ「LPM-H200」が純正交換ランプとして設定される。ランプ価格は42,000円。鮫のエラのような排気スリットが投射レンズから側面にかけてあるが、光漏れはない。
■ 接続性チェック ~HDMIを2系統実装。HDMI CECにも対応
HDMI端子は2系統。HDMI端子は1080/24p入力をサポートするほか、HDMI CEC(Consumer Electronic Control)機能に対応し、他のAV機器やAVアンプなどとの電源連動が可能となった。 アナログビデオ系はコンポジット、Sビデオ、コンポーネントビデオ(D4入力まで)がそれぞれ1系統ずつ。PC入力はアナログRGB入力(D-Sub 15ピン)入力を正式サポート。変換ケーブルを用いることでコンポーネント入力としても利用可能だ。 DVI-D端子はないが、市販のHDMI-DVI変換アダプタを使うことでPCとのデジタルRGB接続も行なえる。今回は詳細な検証は省いているが、この接続方法で1,920×1,080ドットでのドットバイドット表示は確認できた(NVIDIA GeForce8800GTX/Windows Vista)。 この他、PCからのリモート制御用のRS-232C端子、電動スクリーン/シャッターとの連動用のトリガ端子も実装されている。
■ 操作性チェック ~ついにリモコンがフルモデルチェンジ。操作感も向上
電源オンからHDMI1の映像が表示されるまでの所要時間は約49秒。これは最近の機種としてはかなり遅め。ちなみに、この遅さは先代VW50から変わらない。 ソニーの普及価格帯プロジェクタでは約5年間同じリモコンが付属していたが、ついにVPL-VW60でフルモデルチェンジされた。 リモコンは、全ボタンが自照式にライトアップされるギミックを有しており、左上の[LIGHT]ボタンを押すことで点灯になる。 入力切り替えは[INPUT]ボタンを押すことで順送り式に行なう。「入力オートサーチ」機能をメニューにて設定しておけば、未接続端子をスキップできる。とはいえ、全てに接続していると一周するまで時間が掛かるので、HDMI系、アナログビデオ系、PC系などカテゴリ別の入力切り換えボタンは欲しい。入力切り換え所要時間はHDMI1→HDMI2で約2.0秒、HDMI2→コンポジットビデオで約3.0秒とやや遅い印象。
新リモコンの特徴は、比較的調整頻度が高いと思われるパラメータ群の調整を一発で呼び出せるショートカットキー的なボタンが増えている点。 用意されているのは「色域モード」(後述)の選択用の[COLOR SPACE]ボタン、「色温度」変更用の[COLOR TEMP.]ボタン、「黒補正」調整用の[BLACK LEVEL]ボタン、「ガンマ補正カーブ」選択用の[GAMMA CORRECTION]ボタン、「絞り機構調整」のための[ADVANCED IRIS]ボタン、「レンズ・フォーカス/ズーム/シフト」調整用の[LENS]ボタンなど。 そうした調整項目に簡単にアクセスできるボタンが用意されているためか、実際、VPL-VW60を使っている中で、結構、色域モード、色温度の変更を行なう癖が付いた。「リモコンのボタン設計の影響でプロジェクタの使い方が変わってくる」というという体験は、自分にとっても発見であった。地味ではあるがこうしたプロジェクタの使い方を提案する機能設計は面白いと思う。 アスペクトモードの切り替えは[WIDE MODE]ボタンで順送り式に行なう。切り換え所要時間は約1.0秒とまずまずの早さ。用意されているアスペクトモードは以下の通り。
ユニークなのはアナモーフィックズームモード。一部の映画ソフトは劇場公開に近いアスペクト比2.35:1で1,920×1,080ドット記録しているものもあり、これをフル記録解像度で、なおかつ正しいアスペクト比で表示するためのモードがアナモーフィックズームモードになる。これを正しく表示するためには市販されているアナモーフィックレンズが必要になる。アナモーフィックレンズは、純正オプションにはないので、PANAMORPH製UH380などの市販品を組み合わせる必要がある。 画調モードの切り替えは[DYNAMIC]ボタン、[STANDARD]ボタン、[CINEMA]ボタンのそれぞれの独立ボタンを押すことで一発で希望の画調に切り換えられる。切り換え所要時間は約1.0秒。 調整可能な画質パラメータとユーザーメモリの仕組みとその仕様はVPL-VW50/VW100と同一なので詳細は本連載VPL-VW100の回を参照して欲しい。VPL-VW60にも、他の色に一切の影響を与えずに特定の色を選択式に調整できる画調調整機能「RCP:Real Color Processing」機能は搭載される。こちらについてもVW100の回を参照して欲しい。 リモコン最下段にはシャープネス、コントラスト、ブライトネスを直接上下調整できる[+][-]ボタンが実装されている。先代までのリモコンにはなかった「シャープネス+/-」ボタンが新設された格好になる。
■画質チェック 映像パネルはソニーが誇る「SXRD(Sony Crystal Reflective Display)」パネルを採用する。パネル自体はVPL-VW50に採用されたものと同じ0.61型フルHD対応のSXRDパネルだ。 反射型液晶パネルは、同解像度、同サイズパネルで比較した場合、透過型液晶パネルに比べて開口率が2倍近く高いのが特徴。数値でいうと最新世代フルHD透過型液晶パネルの開口率が約52%、VW60のSXRDパネルの1画素あたりの開口率は約90%となっている。
この開口率の高さが、実際の投射映像で画素を仕切る格子線が極めて細く映ることになり、映像全体としてみれば粒状感の少ない見た目に貢献する。 実際に今回の評価で100インチ程度に映した際も、かなり近寄って見ても画素の格子が見えなかった。これは、透過型液晶パネルを採用したプロジェクタにはないLCOSプロジェクタの決定的なアドバンテージだといえる。 投射レンズは先代VPL-VW50のものと同じARC-F(オール・レンジ・クリスプ・フォース)レンズを採用。VW50の評価の時にはそのフォーカス性能に驚かされたものだが、VPL-VW60にもちゃんとあの性能が受け継がれていることを確認。画面中央から外周まで、1画素1画素の形状がかなりくっきりと投射されており、不満はない。 色収差についても同様で、画面中央では色ズレはほとんど知覚されず、最外周画素においても色ズレは最低限に収まっている。このフォーカス性能と低色収差性能のおかけで投射映像の解像感とシャープさは相当なもので、フルHD映像を見慣れている人でも「その光学的な高解像感」に驚くと思う。 公称最大輝度は1,000ルーメン(アイリス開放時)。そして最大コントラストは35,000:1を達成している(ダイナミックアイリス使用時)。基本スペックがほとんどVW50と同じVW60だが、最大輝度と最大コントラストの部分だけは大幅に向上している。ちなみに、VW50の最大輝度は900ルーメン、最大コントラストは15,000:1であった。 「光源ランプは同一だし、アイリス機構にも変わりがないのにどうして?」という疑問が湧くことだろう。これはVPL-VW60に新搭載された「ハイコントラストプレート」によるところが大きい。これは光源ランプ後段に配される偏光ユニットで、光学系へ導く光を高品位に線光源に変換するもの。これにより光の利用効率が高まり、迷光も低減される。つまり、最大輝度が上がり、同時に黒も締まることになり、結果最大コントラストも向上するというわけだ。 明るさについては、先代から大きく変わったという印象は受けなかったが、確かに黒の沈み込みは向上しているのが分かる。映像の最暗部と、スクリーン上の投射光があたっていないところの暗さが一層近くなっており、それだけ黒の沈み込みが深いのだ。 暗部階調表現のダイナミックレンジの高さもさらに進んだ印象で、暗いシーンの細かい陰影表現にリアリティがある。今回の評価ではBD「300」、HD DVD「ザ・シューター」を視聴したが、夜のシーンや、間接照明の屋内シーンなどの全体的に暗いシーンでも見た目として情報量が多いと感じられる。自発光ではない投写型映像機器でここまで暗部表現ができるようになったとは、凄い時代になったものだ。 35,000:1という最大コントラストはダイナミックアイリス(動的絞り)を組み合わせたときのものだが、これを使わない状態でも十分ハイコントラストが実感できる。特に絞り開放時には最明部の輝度が高く、屋外シーンの映像などはかなりリアルに見える。絞り開放状態でも、ハイコントラストプレートのおかげなのか、黒は十分黒く見えるのでコントラストが下がったようには見えにくい。筆者個人の印象としては動的絞り機構は普段の視聴でOFFにしていてもいいと思う。おそらくネイティブコントラストは平均的なDLPプロジェクタを上回っているだろう。 この動的絞り機構についても少し触れておこう。「オートアイリス」という名前がつけられており、VPL-VW50と同等のオートアイリス1とオーアイリス2の2モードが備わっている。両方とも暗いシーンでは絞りを絞って迷光を減らして黒をさらに沈み込ませてコントラストを稼ぎ、明るいシーンでは絞りを開いて輝度ダイナミックレンジをふんだんに使う画作りとする動作コンセプトは同じ。オートアイリス1と2との違いは絞り幅で、1が絞り幅が大きく、2では絞り幅が小さい。この絞り変化速度は「通常-早い-遅い」の3段階設定が行なえるが、ちょっと使ってみた感じではデフォルトの通常設定がベストと感じる。 また、この絞り機構を固定式に設定することも可能。なお、固定式絞りでは最小絞りから開放絞りまでの状態を100段階設定できるようになっている。
発色も良好。光源ランプは超高圧水銀系を採用しているが、水銀系の青緑の強いクセはうまく抑えられており、非常に自然だ。赤青緑の純色からは均等なパワーが感じられる。 人肌も再現度は高く、水銀系の肌の黄緑感がなく良好だ。肌に乗る白いハイライトと血の気の感じられる赤みを帯びたところの微妙な色乗りの変化も的確に描き出せている 色深度もかなり深い。明色から暗色へのグラデーションも自然で二色混合のグラデーションも実に自然だ。映像で見ると色ディテール表現の細かさとして見え、階調表現能力の優秀さと相まって非常に情報量の多いフレームとして目に映る。微妙な色の描き分けができなければリアルな表現が難しい植物の葉の筋、人肌の肌理、空の雲の細かいモコモコとした陰影なども正確に出ている感じで「視力が良くなったのか」と錯覚するほど。
ソニーならではの独自機能である「色域モード」は、VPL-VW60にも搭載されている。デフォルトの「通常モード」に加えて、水銀ランプの光スペクトルを最大限に活かして再構成した色域を用いる「色域ワイドモード」が選択できる。 色域ワイドモードでは、特に赤と青の色ダイナミックレンジが拡大され、彩度が強めの、やや記憶色再現指向の強い発色になる。特に色域ワイド時の赤は鮮やかで素晴らしく、炎の表現が非常にリアルに見えていた。そして、かなり暗部でもちゃんと色味を残した暗部階調表現になるのがいい。 VPL-VW50よりも色域ワイド時の“どぎつさ”は低減されたように見え、実用度は高くなったと思う。VW50では色域ワイドでは人肌が赤くなりすぎていたが、VW60ではそういう不自然さを低減されていると思う。
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