現在、普及サイズの40V型前後の画面サイズのプラズマで、フルHDというと「これしかない」という、まさに孤高の存在となっているのが、プラズマVIERAの42V型の製品シリーズだ。 プラズマは、その構造特性から画素を微細化するのが難しく、フルHD化は50V型でもぎりぎりとまでいわれていたが、パナソニックは他社に先駆けて技術的ブレークスルーを果たし、2007年より42V型のフルHDモデルを市場投入してきている。最初の42V型フルHDプラズマVIERAは2007年春に登場したTH-42PZ700で、その秋には第2世代のPZ750を投入、今回紹介する「TH-42PZ800」では早くも3世代目となった。
■ 設置性チェック ~スイーベル機構付きのスタンドが同梱。消費電力は相変わらず高い
PZ800シリーズのプラズマVIERAはすべてフルHD仕様で42V型、46V型、50V型がラインナップされており、いずれもスピーカーはアンダー設置となっている。今回、評価したのは42V型のTH-42PZ800になる。46V型、50V型いずれもパネル世代と機能は同一であるため、本稿はPZ800シリーズのいずれかを検討しているユーザーにも参考になるはずだ。 ディスプレイ部のみの外形寸法は1,078×98~104×685mm(幅×奥行き×高さ)と、先代とほぼ同じ。重量はディスプレイ部のみで33kg、スタンド込みで37kg。同サイズの液晶よりも7~8kg重い。今回の評価に際しても成人男性2人で筆者宅の2階のリビングに運んだ。 額縁はそれなりに太く、アンダースピーカーながら左右の額縁が特に太い。額縁部は光沢処理されているため、窓や照明器具は映り込みしやすい。暗室ではなく、照明や外光を取り入れての使用を考えている人は設置のシミュレーションは入念に行なうべきだ。左右の額縁は太いものの、逆に下辺側の額縁部はコンパクトだ。スタンド部の底面から画面の底辺までの距離は実測でわずか16cm未満。テレビ台の背が低いと、画面が低めの位置に来る点に注意したい。
PZ750までは、プラズマVIERAには設置スタンドは別売りだったが、PZ800シリーズでは全モデル標準据え置き型スタンドが商品セットに同梱されることとなった。 このスタンドがなかなかよくできていて、一見、全く動かない完全固定式のようだが、底面部分に回転機構が仕込まれており、左右に±10度首振りができる。また、スピーカー内蔵のラックシアターも「SC-HTR310-K(11万円前後)」、「SC-HTR210-K(10万円前後)」が発売されている。 壁掛け設置用の専用金具も純正設定を用意。角度調整機構付きの「TY-WK42PR4」(52,500円)、完全固定式の「TY-WK42V4」(44,100円)の2タイプがラインナップされている。このあたりはさすがパナソニック、周辺サポートが手厚い。なお、壁掛け設置金具は型式番に「42」とあるが、46V型、50V型のいずれのPZ800にも対応している。 消費電力は492W。42V型のフルHDのシャープ「AQUOS LC-42GX5」の消費電力は235Wなので、同サイズ液晶の2倍も消費電力が大きいことになる。この部分は、昨年に引き続き、液晶に負い目を追ったまま。改善を望みたいところだ。 動作音はプラズマ特有のジーという音は皆無というわけではないが、十分静かという印象。PZ700と同様、背面には4機の冷却ファンが常時回転しているが、このファンノイズも気にならない。静粛性能は優秀だ。ただ、ファンが回っていても発熱は高く、背面はかなり熱くなる。
■ 接続性チェック ~HDMI入力4系統。うち1系統にアナログ音声入力を装備
接続端子は前面と背面にある。 HDMI入力は前面に1系統、背面に3系統装備。先代PZ750から1系統増え、合計4系統になった。前面と背面のHDMIには若干の機能の違いがあり、前面は1080iまでの入力にしか対応していない。一方で背面の3系統のHDMIはVer1.3に対応しており、1080/24pにも対応、さらにはDeep Colorにも対応している。
アナログビデオ入力系はPZ700/PZ750と比較すると統廃合が進んできる。 入力1と2がD4入力端子とコンポジットビデオ入力端子の排他兼用となり(いずれも後面)、入力3(後面)と入力4(前面)がS2ビデオ入力とコンポジットビデオ入力端子と排他兼用となっている。PZ750ではD4入力端子は独立したビデオ入力系統として提供されていたが、PZ800ではS2やコンポジットと排他兼用となってしまった。 とはいえ、最近ではS2やコンポジットでの接続に限定される機器が減ったきたので問題はないだろう。
PC入力はD-Sub15ピンのアナログRGB接続に対応している。アナログRGB接続ではパネル解像度の1,920×1,080ドットでの表示は行なえなかった。筆者の環境(NVIDIA GeForce8800GTX使用)では、アスペクト比を維持して表示できた最高解像度は1,360×768ドットであった。 PCとの接続で1,920×1,080ドット表示を行なう場合は、DVI-HDMI変換によりデジタルRGB接続すればいい。筆者の環境でも問題なく表示が行なえた。ただし、デフォルトではオーバースキャン表示されてPC画面のデスクトップ外周がクリップアウトされて表示されてしまう。これを回避してPCディスプレイ的な表示にするためには[メニュー]を押して「設定する」-「画面の設定」から、「HD表示領域」を「標準」(オーバースキャン)から「フルサイズ」(アンダースキャン)へと変更する必要がある。ただ、DVI-HDMI変換でHDMI接続した場合はTH-42PZ800がPC映像を16-235のビデオ階調で受けてしまうようで、暗部がやや潰れた画調になってしまう。次期モデルでは明示的にHDMI階調レベルを選択できる機能が欲しい。現時点ではVIERAとのPC接続は「おまけ」と考えるべきだろう。 音声入力端子は各アナログビデオ入力系統に1つずつ実装されている。PC入力の音声についてはビデオ入力3と兼用になっている。 出力系では、モニター出力端子を装備。内蔵テレビチューナのSD映像をコンポジットビデオ/S2ビデオのどちらかで排他出力できる。また、光デジタル音声出力端子も備えている。 PZ750に引き続き、前面にはSDカードスロットを配しており、デジカメの写真の閲覧やSD-Video規格1.2のMPEG-1/2動画、あるいはAVCHD規格のMPEG-4 AVC/H.264動画の再生に対応している。SDカードスロットは16GBまでのSDHCカードに対応しており、かなり本格的だ。SDカードの写真閲覧は実際に試してみたが、表示品質も良好で、なにしろプレビュー表示やスライドシューが結構スピーディに動いてくれるので小気味がよい。
背面にEthernet端子を備え、アクトビラへのアクセスにも対応。Z800はアクトビラ規格最上位の「アクトビラ・フル」に対応しており、ブロードバンド経由の全画面表示によるハイビジョン番組視聴に対応している。 アクトビラ中のメニュー操作は、きびきびしているとはいえないが、映像の再生が始まってしまえば、DVDやBlu-rayを見ているのと変わらず、快適にコンテンツは楽しめる。アクトビラは、気軽に見られる無料放送も結構あるので、何も見たいものがないときにはネットサーフィンをする感覚でランダムに映像を見て回るといいだろう。
■ 操作性チェック ~操作系に変化はなし。サウンドはさらにパワフルに
同梱されるリモコンはPZ750と同一の縦長バー形状のものを採用。左に飛び出すような形でアクトビラボタン、SDカードボタン、ヘルプボタンなどを実装している部分も同じで、操作系も基本的には同じ。よって操作系の使用感、画調の調整機能やメニュー構成等の詳細は本連載のPZ750の回を参照して欲しい。ここでは基本的なポイントを紹介するのみにしておく。 電源オンから地デジ放送が表示されるまでの所要時間は約9.0秒。PZ750よりもやや遅くなっているが、最近のテレビ製品としては普通の待ち時間だ。 入力切り替えは[入力切換]ボタンを押して表示される接続端子名一覧メニューを見て、入力系統名と対応するチャンネルボタン[1]~[12]を押して選択する2ストローク選択方式。順送り切り換えにも対応しているが、この操作系はなかなかのアイディアもので使い勝手がよい。入力切換の所要時間はHDMI→地デジ放送で約2秒であった。 アスペクト比の切り替えは[画面モード]を押して順送り式に行なう方式。アスペクト比のラインナップはPZ700の時から同じ。解説は本連載のPZ750の回を参照してほしい。 画調モードの切り替えは、[メニュー]ボタンを押し、「画質の調整」メニューから選択するかなり面倒な操作系のままで、PZ700の時から変わらず。AVマルチモニタとしてのポテンシャルが高いVIERAだけに、ワンキーで切り換えられる操作系は欲しいところ。 リモコンの下部の開閉式の扉の中には追加の機能操作系ボタンがレイアウトされている。VIERAリンク経由でハイビジョンレコーダの「DIGA」をコントロールするための再生制御ボタンや2画面機能の制御ボタン、字幕切り替え、主音声/副音声切り替えボタンなどがここに実装されている。 2画面機能は[2画面]ボタンを押すだけで、その瞬間に表示が2分割される。先代から引き続き、映像を横に並べて表示するサイド・バイ・サイド(SBS)表示モードのみに対応している。ただし、リモコン最上部の[画面モード]ボタンを押すと左右に並べた2画面の大きさのバランスを変化させることはできる。前面接続端子パネルには2つのイヤホン端子があり、2画面機能で左画面、右画面のそれぞれ別の音声出力に対応している。これは家族の多い2画面機能徹底活用派には嬉しい機能だ。なお、PZ800はデジタルチューナを2基搭載しているので2画面で同時に別の地デジ放送が見ることができる。 VIERAは毎回、音質性能の向上にも力が入るが、今回のPZ800でもご多分に漏れず、改良を行なってきている。 スピーカレイアウトは前述したように基本的にはアンダースピーカーだが、高音再生用のツイータはなんと背面に実装されており、一度壁に反射した音像を聞くことになる。背面にはカーテンのような柔らかいものを避け、壁のような堅いものがあった方がいいだろう。ミッドレンジや、ウーファの音は画面下部の横長の開口部から出てくるような、最近、ちょっと流行っている「隠しスピーカー」タイプのアンダー配置となっている。 3ウェイ・ステレオスピーカーとなるわけだが、音の出力がやや変わっているため、音質がどうなのか心配だったのだが、なかなかどうして。一般的なテレビよりも格上の3ウェイらしい広帯域のサウンド出力をしてくれていて、クロスオーバーのところも変な混ざり方はしておらず、低音から高音までフラットな素性のよいクリアな音質になっている。 総出力が36W(18W×2ch)もあってテレビスピーカーとしては結構パワフルなので音楽番組も高い臨場感を持って楽しめると思う。実際にわざとボリュームをかなり上げてみたのだが、「ビビり音」もない。PZ800のスピーカーを5.1chサラウンドシステムのデュアルセンタースピーカーとして利用してサラウンドシステムを組むのも悪くないと思う。
■画質チェック
「42V型でフルHD(1,920×1,080ドット)」という孤高の存在のTH-42PZ800。画面サイズ十分にを大きくとれないプラズマのフルHDパネルでは、画素開口率を大きくとれないというハンデがあるだけに、その輝度は気になるところだろう。 実際に視聴してみた感じでは実用上は十分な輝度は取れている。ただ、同画面サイズ同解像度の液晶と横並びにしてしまうと、やはり若干暗い。天井照明が明るい部屋や昼間、外光が多く差し込むような部屋では暗いと感じるかもしれない。後述するように暗部表現のダイナミックレンジは拡大しているものの、ピーク輝度はあまり明るくないため、設置環境の照明をやや暗めにしておかないとTH-42PZ800の高画質性能をフル体験することは難しい。 「プラズマは眩しすぎない」はパナソニックが生んだ名言(?)だが、TH-42PZ800についていえば、ピーク輝度がちょうどよい明るさに見えるように設置環境の光量を調整する必要がある、ということだ。画調モードを「シネマ」にして映画を楽しむ場合などは、ほぼ暗室に近い状態にするとちょうどよいくらいだ。 公称コントラストはPZ750の1万:1から3万:1を実現したとしている。この3万:1という値は動的輝度制御を行なわないネイティブコントラストの値なのだから恐れ入る。 これは画素セル内の放電速度を高速化させる技術と、そして電荷保持電圧の低減化を達成したことで予備放電をPZ750時の1/3にまで減らせたことがブレークスルーとなっている。その結果、黒を徹底的に沈み込ませることができ、暗部階調表現も漆黒から始めることができるようになった。明るい方のピーク輝度がそれほど変わらないのにコントラストが劇的に向上できたのは、暗部の方のダイナミックレンジ拡大によるものなのだ。 実際に映像を見てみると、黒の表現力はすごい。周囲環境が薄暗い程度であれば、完全黒(RGB=0,0,0)の領域は、外周フレームの黒とほぼ区別が付かないレベルの黒さ。完全暗室だと若干違いは分かるが、映像内に明部が一カ所でもあれば、人間の視覚上、その最暗部の黒は部屋の暗さにブラックアウトして見える。 この部分においては、液晶に対して絶大なアドバンテージがあると思う。 階調表現はPZ750の内部16bit精度からPZ800では内部18bit精度に引き上げられたとのこと。16bitと18bitの差まではちょっと分からなかったが、グラデーション表現のアナログ感は素晴らしいの一言に尽きる。 プラズマ画素の階調生成は、その画素の明滅頻度を単位時間内で調整して行なう、いわゆる時間積分方式階調生成であり、持続的に同一画素を視覚しないと脳内で正しい色が知覚されない。そのため、プラズマでは長らく暗部の階調色がざわついてノイジーに見える弊害があったのだが、PZ800にはそうした見え方は全くない。驚くのが日陰の草木の黒に近い緑、軒下の木製ベンチの黒に近い焦げ茶色といった、“超”暗色領域付近であってもちゃんと、色味として感じ取れるのが感動的だ。ただ、暗部と明部とが同居できているコントラスト感だけで終わらず、暗部にちゃんと色表現が行える色ダイナミックレンジの広さがあるのだ。 発色もいい。赤、青、緑の純色が鮮烈で、それでいてクセがない。緑は艶やかで、青は深い。ブラウン管を見ているような素直な発色が好印象だ。プラズマの苦手な赤も、朱色感が押さえられており、鋭さと伸びがある。 最新のプラズマVIERAはここまで色がよくなったのかと感銘を受けた。 人肌は画調によってはやや黄色っぽさを感じるが嫌みはない。色深度が深いので色ディテール描写力が素晴らしく、人肌の陰影も克明に描き出してくれる。人肌の肌理や陰影はもちろんのこと、肌のハイライトの肌色から白に飛ぶまでの表現もリアルに見える。階調表現のダイナミックレンジの広さは暗部だけでなく明部にまで及んでいるという印象だ。 総じていえば、プラズマの自発光の強みを最大限に生かしてハイコントラスト表現と黒表現を際だたせ、液晶が得意としていたアナログな階調表現能力を極力再現することに努めた……、そんな画質になっていると思う。 一点、評価中に、ちょっと気になったところもある。それは動画性能について。 暗い背景を、動く明るい対象物を目で追うと色割れが強く知覚されるのだ。移動する物体の輪郭付近に、もう一つ黄と青の輪郭が知覚される。一番わかりやすいのはバラエティ番組などの終わり際に流れる、速く横スクロールする文字テロップを目で追ったときだ。 今回の評価では、PLAYSTATION 3でゲーム「メタルギアソリッド4」もプレイしたのだが、全方向3Dスクロールするこのゲームでは、視点を動かす際に顕著に知覚され、この問題に気がついた。一度、これに気がつくと地デジ放送、Blu-ray Discでも同様の局面で知覚される。一般的なカメラパンでは分からないレベルなのだが、アクション映画などの激しい動きでは分かる。特に3Dゲームでは顕著だったので、ゲームプレイには向かないかもしれない。 搭載される各種高画質化機能については、その効果も含めて、ほとんどPZ750と同じなのでそれらについてもTH-42PZ750編を参照して欲しい。ただ、1点、PZ800になって搭載された新高画質化機能があるのでこれについては触れておくことにする。 それは「カラーリマスター」システムと呼ばれる機能だ。 これは広色域規格であるデジタルシネマ・ワイドカラー「SMPTE RP 431-2-2007」に準拠した色域モードに対応させるもの。 ビビッド・カラー・クリエーションが記憶色志向に振るために配色を変調するのに対し、カラーリマスターでは「映像中のこの色は本来はこの色だったのではないか」という感じで色域を広げるので、映像のリアリティが向上する。 オン時は明色の色純度が増し、なおかつ中明部付近の色ダイナミックレンジがかなり向上する。特に赤はこれまでのプラズマでは見たことがない純度の高い赤を出してくれるので価値が高い。多少の好き嫌いはあるとは思うが、PZ800の特権的な機能でもあるのでオート、あるいはオンで使いたい。 なお、PZ800では、ハイビジョン色域(ITU-R BT.709,sRGBと同等)のカバー率120%を達成しており、さらに広色域規格のx.v.Colorに対応している。
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