今回のE3で、もっともニュースが多かったプラットフォームはXbox 360だろう。ゲームタイトルに関する話題ももちろんだが、むしろ筆者の琴線に触れたのは、この秋に公開を予定しているXbox 360の新ユーザーインターフェイス「New Xbox Experience」だ。 UI的に新鮮であるだけでなく、映像配信などのAV機能、そしてアバターを中心としたコミュニケーションと、非常に多彩な内容をもっている。 このユーザーインターフェイス開発の指揮をとった、マイクロソフト・LIVE担当コーポレートバイスプレジデントのジョン・シャパート氏にインタビューを行ない、その狙いと機能の詳細について聞いた。 ■ コンテンツの増大が「UI刷新」の理由。ソフトの力でXbox 360を「再発明」 -この時期に、UIの刷新を行った理由はなんですか?
シャパート:刷新を決めた理由は、「コンテンツを探すのが面倒だ」という問題が生まれていたからです。HDD内に、Xbox マーケットプレイスで買ったゲームやアイテムがあり、さらには映像がありますし。 Xbox 360の最初のローンチの際、我々はうまくやったと思っています。しかし、ここから「Xbox Live Party」やアバターシステムなど、様々な機能を追加すると、操作性の簡単さという意味において、エレガントではなくなると感じました。ですから、ソフトウエアの魔法を使い、Xbox 360を「再発明」(Re-Invent)する必要がある、と考えたわけです。 それに、ちょっと考えてみてください。MP3プレーヤーや携帯電話は、購入して数カ月もすると見た目に慣れ、たいくつなものに感じませんか? そして、「新しいのが欲しいな」と思う(笑)。 我々は、Xbox 360をソフトで「再発明」することで、新しい体験をお届けすることができるんです。よりビジュアルで、簡単に使えて、よりソーシャルな体験ができます。 UIのエレメントは、サーバーから送信することで簡単に、大きく変更することが可能です。アニメーションもできますし、それぞれの内容についても、よりわかりやすく表示することができるようになりました。明らかに、各コンテンツへのナビゲーションは簡単になったと思っています。 操作は、コントローラだけでなく、リモコンでもできます。また、「Scene it」に同梱のシンプルコントローラでも操作できますよ。 -確かに、ダウンロードしたい項目の詳細などが、これまでよりも遙かに簡単に、すっきりと確認できるようになっていますね。 シャパート:多くの人が、「じゃあブレードはどこにいったの?」というんですが、実はここにあるんです。(ここでシャパート氏は、Xboxボタンをおして、メニューを呼び出す)これまでのブレードはすべて、「Xboxボタン」を押すとポップアップするガイドの中に収納されています。これまでのガイドより、動作が高速で、遙かに機能的なものになっています。 -これだけの大きな変更を行なうには、かなりの時間が必要だったろうと思います。どのくらい前から開発を進めていたんですか? シャパート:確かに、非常に長い時間と労力をかけて実現したものです。我々は、レア社とともにアバターの開発を行ないました。社内では、デザインや各種機能の実装を行なっています。非常に大きなチームです。非常に多くのことをする必要がありました。このような形で公開できたことをうれしく思います。
Xbox 360の新しいUIは、デザインテイストがかなり変更されている。以前は、いかにもアメリカのティーンが好みそうな、緑や紫の蛍光色を主体としたテイストだったが、新しいものは、かなりシンプルなものだ。Vistaにも近い印象だが、むしろWiiやPS3のもつクールさに習ったもの、という感じもうける。 特筆すべきは、その動作のスムーズさだ。トレイラームービーの動きは決してフェイクではなく、現在の開発途上版でも非常にサクサク動いていた。 言葉は悪いが、「マイクロソフトの提示するUI」としては、もっとも一般受けし、しかも洗練されたものに仕上がっている、という印象だ。 なお、画像は公開されていないが、マイクロソフト担当者に確認したところ、現在のXbox 360同様、壁紙を使って自分好みにデコレートすることも可能である、とのことだ。
■ ゲームをインストールして「静か」にプレイ。NETFLIXでの同時視聴は「リモコン」まで共有
-ビデオマーケットプレイスとゲームのインストール機能が気になっています。どのような考え方で開発されたのか、教えていただけますか? シャパート:ビデオマーケットプレイスは、北米とヨーロッパでのみ利用できる機能です。新しい国々への展開は、現在検討しているところであり、まだ発表はできません。アメリカでのサービスには、NETFLIXとの提携に伴う機能も含まれます。 HDDのインストール機能についてですが、これは、コアユーザーからの要望の高かったものです。インストールを行なうことで、ゲームをより高速に、快適にプレイできるようになります。この機能は、これから発売されるゲームはもちろん、これまでに発売されたすべてのゲームで対応が可能です。 -HDDへのインストール機能を使うと、DVDはほとんど回転しない。すなわち、より静かにプレイできるようになる、ということですか? シャパート:ゲームを始める時には、ディスクがドライブ内に入っている必要があります。ですから、その確認のためにディスクは回ります。ですが、それが終わればすぐに止まります。ですから、ディスクの回転音もしませんし、動作もより高速になります。 マイクロソフト側の説明によれば、「あるソフトの場合、DVDでは25秒かかっていた読み込みが10秒にまで短縮された」という。動作音も、本体のファンだけとなる。まだ「非常に静か」とはいえないが、ゲームプレイ時に、最大の騒音源を動かさずに済むのはありがたい。 そうそう、ウェブからXbox マーケットプレイスへアクセスすることも可能になりました。Xbox 360内のマーケットプレイスも改良されていますが、ウェブ版の方が、より簡単にソートでき、快適に購入できます。そして、次にXbox 360の電源を入れると、それらのダウンロードが自動的に始まる、というわけです。 -それは、ウェブで購入した場合にはダウンロードのキューが蓄積され、Xbox 360でログインしたとき、初めてダウンロードされる、という理解でいいのでしょうか? シャパート:はい、その通りです。 -NETFLIXの機能について伺います。複数の人と一緒に映像を楽しめる、というのは、非常にユニークなアイデアだと思います。どのような発想から生まれたものなのですか? シャパート:このコンセプトは確かにすばらしいものなのですが、北米のユーザーのみのもの、ということをご了承ください。Xbox Liveのメンバーで、かつNETFLIXのユーザーであれば、自由に映像ライブラリーを楽しむことができます。 我々が「Live Party」機能を考えた時、様々なアイデアを検討しました。一緒にゲームをする、Live Arcadeで配布されているゲームをする……。それと同様に、「みんなで映画を見る」というのは、非常に優れたアイデアだと気がついたんです。私が映画を見始めたら、私のフレンドは、私が見ている映画に「Jump In」して、一緒に楽しむことができるわけです。 例えば、私が「一時停止」してトイレに行ったとしますよね。で、戻ってくると、誰かが勝手に「再生」してしまっている(笑)。でも、一緒に観る、ってそういうことですよね。 -再生操作の「リモコン」まで共有されているわけですね。映像を見ている時も、アバターやボイスチャットなどの機能は全部有効、ということですか? シャパート:そのとおりです。8人が同時に楽しめます。そして、ゲームから映画へと、「Experience」の間をスムーズに行き来できるのです。 -音楽のシェアはどうですか? シャパート:現在はできません。ただし、写真はシェアすることが可能です。 Xbox 360に限らず、動画配信サービスの充実ぶりは、日本のユーザーからみると非常にうらやましい限りだ。「レンタルでいい」という視聴形態をとるなら、オンライン配信は理想的な存在といえるからだ。専用STBでの視聴、という形も考えられるが、家庭に「すでに普及している」という意味では、ゲーム機はきわめて有望だ。SCEとマイクロソフトがこのジャンルに本腰を入れているのは、それだけ可能性が高い、と判断されているためだろう。 実際のところ、Xbox 360の「ビデオマーケットプレイス」は、日本での開始予定はまだない。様々な障壁もあり、実現は一筋縄ではいかないだろうが、やはり期待したいところである。 なお、このアップデートにあわせ、「DVDの再生クオリティに改善はあるか」という点も問い合わせたが、今回は明確な回答を得ることができなかった。 ■ 「現実のフェイク」でないアバターを用意。狙いは「ソーシャル体験」の強化 -アバターについて伺います。アバターを導入した理由は、ソーシャルな体験を強めるため、という理解でよろしいのでしょうか? シャパート:そのとおりです。これまで使っていたゲーマータグ・ゲーマーカードを拡張する形となります。ユーザーはゲーム内で使うペルソナ(人格、キャラクター付け)としてアバターを利用し、Xbox Liveの友人と「Live Party」を楽しむこともできるようになっています。また、ゲーム内のキャラクターをアバターとして使うこともできます。この機能はおそらく、まずはファーストパーティーのタイトルから利用されることになるでしょう。 -アバターのキャラクターのデザインをレア社に任せた理由はなんですか? また、アバターのデザインテイストをこのような形に決めた理由を教えてください。 シャパート:簡単な作業ではありませんでしたよ。非常に様々な判断のものとに、あのようなデザインを選んだのですが……。 レア社を選んだのは、我々のプラットフォーム向けに様々なゲームを作っており、経験豊富なデザイナーを抱えているからです。 デザインについては、あまり「現実のフェイク」にならないよう、それでいて、あまり子供っぽくないようなものを選びました。だって、(リアルなものは)外見がゾンビっぽくなるじゃないですか。立ちっぱなしで固まっているようで。 結局我々は、多少アーティスティックな感じに仕上げたつもりです。もっと「エッジ」なキャラクターにしたい場合には、カスタマイズしてみるといいでしょう。どう思います? -いいと思いますよ。私はOKです。ただ日本のユーザーからみると、「OK」と「NG」の境界上にある感じです。日本人向けには、もうすこし表情が豊かなもの、特に目が大きめで表情がはっきりしたものが必要かもしれませんね。 シャパート:なるほど。我々は、キャラクターをワールドワイドに展開するため、ある国専用のパーツ、というのは難しいかもしれません。ですが、そのアイデアは参考にさせていただきます。 -アバターは、どのくらいバリエーションが増やせそうですか? 様々なパーツの組み替えでバリエーションが広がるとは思うんですが……。 シャパート:数えてないですね(笑)。とにかく、たくさん、たくさんのバリエーションができますよ! 少なくとも秋のローンチの時には、十分に満足できるだけのバラエティをそろえてスタートする予定です。今後も、どんどんパーツを追加していきます。パッケージからも拡張できますし。将来的には、ゲーム内でアワードをうけると、Tシャツやパンツなどをもらえる、といった形のサービスも検討しています。 メガネや帽子といったものはもちろんですが、ギターをもたせたり、といったことも可能です。
-タトゥーはどうです? シャパート:あー、まだですね(笑) -アバターを使ったバーチャルワールドは考えていますか? シャパート:いまは考えていません。 なぜなら、我々がXbox Liveで考えているのは、様々なエンターテインメントへの「ゲートウエイ」になることです。Live Party機能で、ゲームを楽しみ、映画を楽しみ、写真の共有を楽しむ。それに、新しい友人を、Xbox Liveの中でみつけてもらうことです。いろんなところを歩き回るという要素は、そのためには適さないと考えています。ただ、コミュニティチャンネルの機能は、今後より拡張していく予定です。 ■ モバイルとの連携は「予定なし」。公開は秋、「できれば全世界」を予定 -これから、映画をダウンロードしたりゲームをダウンロードしたり、ということになると、HDDの容量はさらに大きなものが必要になると思います。どのように対処していくおつもりですか? シャパート:北米では、60GBのモデルも発表させていただいていますし、120GBのモデルもあります。ユーザーはドライブを購入し、入れ替えることができます。我々は、これからもHDD容量の状況を見据えて、どうすべきか、アップグレードの可能性も含めて検討していきたいと思います。 -モバイルとの連携について伺います。ソーシャルな体験を広げていくには、PCとの連携だけでなく、携帯電話などとの連携も重要になると考えます。アバターを携帯電話から見たり、ビデオマーケットプレイスで購入した映像を携帯電話にダウンロードして視聴したり、といった機能です。これらの可能性について、どう考えていますか? シャパート:非常に重要なアイデアだと思います。現在は発表できるような計画はありませんが、大切なアイデアとしてフィードバックさせていただきます。 -これらの機能は、いつから利用できるようになるのですか? シャパート:この秋からです。 -全世界で? シャパート:日本はまだ、いつからスタートするかは未定です。 ただし、さほど時間をおくことなく、順次世界中でスタートしたい、と考えていますので、ご安心ください。ワールドワイドでのスタートができるよう、期待しています。 ファームウエアの更新によってゲーム機が進化していく、という姿は、PSPとPS3が積極的に推し進めてきた路線である。Xbox 360も、スタート当初から「ファームウエア改良で機能追加をする」と宣言してはいたものの、今回ほど大幅な刷新を行なうと予想していた人は、ほとんどいなかったのではないだろうか。 AVクオリティの向上、という意味では、どうやら大きな変化はなさそうだが、それはマイクロソフトの狙うところではない、ということなのだろう。彼らが狙うのは、「Xbox Live」というコミュニケーション・プラットフォームを、Xbox 360最大の武器とすることだ。映像配信も、その中の1パーツとして組み込まれた形だ。マイクロソフトらしい強みを生かした、うまい戦略である。 ゲーム機の世代変化というと、グラフィックや演算能力、そしてコントローラという部分で語られがちだ。だが、3つのプラットフォームが三者三様に変化していく姿を見ると、実は、「ソフトの書き換えによって進化していく、ネットと連携したプラットフォームになること」こそが、この世代と一世代前のゲーム機を分ける、最大のポイントである、ということになると感じている。 とすれば、この世代のゲーム機は、いままでのゲーム機以上に、寿命の長い世代になる可能性もあるだろう。 □Electronic Entertainment Expoのホームページ(英文) (2008年7月18日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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