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第347回:多機能なノイズ除去ソフト「Audio Cleaning Lab」
~ 自動設定で簡単除去。波形編集/マスタリング機能も~



Audio Cleaning Lab

 9月半ばに、AH Software(AHS)から独MAGIXのノイズリダクションソフト「Audio Cleaning Lab」が発売された。9,800円と手ごろな価格ではあるが、ノイズリダクションソフトとしてかなり高性能であり、波形編集機能、マスタリング機能、DVD-Audioライティング機能など多彩な機能を装備している。

 実際、このAudio Cleaning Labがどの程度の性能を持っているのか、ノイズ除去の実験を行なった。



■ ダウンロード版は5,980円という低価格設定

オーディオケーブル付きのパッケージソフトが定価で9,800円

 MAGIXはDAWソフトであるSamplitudeやSequoiaといったプロユーザー向けのオーディオソフトを開発しているドイツのメーカー。これらのソフトは国内ではフックアップが扱っているが、コンシューマ向け製品も出しており、そちらはAHSが扱っている。以前にも紹介したMusic Maker Producer Editionがその代表だ。

 AHSが9月19日に発売したAudio Cleaning Labは、オーディオケーブル付きのパッケージソフトが9,800円、ダウンロード版なら5,980円という低価格な設定だが、使ってみると驚くほど高性能で多機能なソフトとなっている。対応OSはWindows XP/Vistaで、64bit版には非対応だ。

 実は、このAudio Cleaning LabをDigital Audio Laboratoryで扱うのは今回が2回目。すっかり忘れていたのだが、Webで検索したら、6年も前の第61回の記事で取り上げていた。その当時の名前は「MAGIX Audio Cleaning!」で、国内代理店も違うところだったが、見てみると確かにAudio Cleaning Labの前身のソフトであることがわかる。国内では、まだあまりポピュラーなソフトとはいえないが、海外ではMusic Makerと同様にかなりの実績があり、最新版がAudio Cleaning Lab 15とバージョンアップも重ねてきている。

 では、実際に今回発売されたソフトで、どんなことができるのかを紹介していこう。


■ 波形編集機能も備える

 まず、Audio Cleaning Labを起動すると比較的シンプルな画面が登場する。また初回においてはデモビデオの再生が可能になっており、約7分程度で一通りの使い方を紹介してくれるなど、なかなか親切な設計にもなっている。

Audio Cleaning Labの起動画面 初回起動時にデモビデオを再生できる。約7分で一通りの使い方を紹介してくれる

 さて、その起動画面の中央部分を見ると、以下の4つの項目がある。

  • 音声を入力
  • クリーニング
  • マスタリング
  • 音声を保存

 まさにこの4つがAudio Cleaning Labでできる要素となっている。順番に見ていこう。

CDからのリッピングはFreeDBに対応

 起動時に選択されている「音声を入力」では、画面下に大きな3つのアイコンが表示されているとおり、オーディオファイルからの入力、オーディオインターフェイス経由での録音、そしてCDからのリッピングの3種類がある。

 オーディオファイルからの入力では、WAV、MP3、WMA、AIFF、OggVorbisなど各種ファイルに対応している。また、CDからのリッピングにおいてはFreeDBに対応しており、楽曲情報なども取得できるようになっている。

 録音においては、録音用のダイアログが表示され、ここで録音を行なう。デフォルトの設定では録音フォーマットはWaveになっているが、MP3やOggVorbisも選択できるほか、Waveの場合はビット数を24bitにしたり、サンプリングレートを変更することもできる。ただし、サンプリングレートは最高で48kHzまでとなっているので、やはりコンシューマ用のソフトではあるようだ。なお、ドライバはWDMには対応しているものの基本的にMMEであり、ASIOには対応していない。


録音用のダイアログ ドライバは基本的にMMEで、WDMも選択できるが、ASIOには対応していない

 このようにして入力されたオーディオデータは画面の上に波形として表示され、再生できる。また、この画面で、一通りの波形編集も可能。ステレオ表示させたり、ノーマライズ処理をかけたり、ファイルを切り刻んだりといったことができる。

入力ソースは波形上に表示される ノーマライズ処理も可能 ファイルを切り刻める

 また、音量のエンベロープを描いたり、2つのオーディオを重ね合わせてクロスフェードさせるといったことも可能だ。ただ、やはり波形編集ソフトではないので、ある程度のことができるのであって、過度の期待は禁物だ。

音量のエンベロープが描ける 2つのオーディオを重ね合わせてクロスフェードが可能


■ メイン機能である「ノイズクリーニング」

 一方、メインとなる機能は次のクリーニング。その6年前から使っているオーディオ素材を利用して今回も実験してみよう。音楽素材として使わせていただいているのはAreareaというユニットの「愛のあかし」という曲で、ここにヒスノイズ、ハムノイズ、クラックルノイズを載せたものを試してみる。

【今回実験に使ったサンプル】
【オリジナル】
約468KB(original.mp3)
【オリジナル+ヒスノイズ】
約471KB(akashi+hiss.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約471KB(akashi+hum.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約471KB(akashi+cracle.mp3)
楽曲:Arearea / 愛のあかし

画面下に5つのメニューが表示される

 まずは、サーというテープによるヒスノイズを載せた素材から。これを読み込んだ後、画面中央の「クリーニング」を選ぶと、画面下側の表示が変わり、「DeClicker」、「DeCrackler」、「DeClipper」、「DeNoiser」、「Dehisser」という5つのメニューが登場する。ここには異なる5種類のノイズリダクションツールが存在するのだ。

 とりあえず、詳細はともかく、誰でも簡単に使える方法が用意されているので、それを紹介しよう。自動設定というメニューが用意されており、最適なツールとその設定が分析されるようになっているのだ。これを選ぶと、自動クリーニングアシスタントというのが現れるので、分析ボタンを押すと、自動解析され、どのツールを使うかが表示される。


「自動設定」メニュー 自動クリーニングアシスタントで分析。どのツールを使うかが表示される

 この解析の正確さにはなかなか驚かされる。後は適用ボタンをクリックすれば完成だ。この場合はDehisserが選択され、その結果、確かにヒスノイズは結構キレイに消えている。ただし、ノイズリダクションの効きすぎという感じもあり、ややキュルキュルした音になっている。

 その調整などの話は後におき、同じ自動設定を使い、ハムノイズ入り、クラックルノイズ入りのデータも同じような処理をしてみた。ハムノイズにおいては、「50Hzハム」と分析され、それなりに消える。さらにクラックルノイズにおいてはDeclicker、Dehisserの2つが有効になって、ノイズリダクション処理が行なわれる。

【ヒスノイズ】
Dehisserが選択された。適用ボタンをクリックすればクリーニング完成。ヒスノイズは結構キレイに消えている
【ハムノイズ】
「50Hzハム」と分析され、それなりに消える
【クラックルノイズ】
Declicker、Dehisserの2つが有効になって、ノイズリダクション処理が行なわれる
【音声サンプル】
hiss1.mp3(472KB)
【音声サンプル】
hum1.mp3(472KB)
【音声サンプル】
cracle1.mp3(474KB)


 このように自動で処理されるので、便利ではあるが、この音に不満があれば、さらに細かく調整ができる。先ほどの画面でEDITボタンを押すと、詳細の設定ができるようになっているのだが、DeClicker、DeCrackerは2つセットになったもので、レコード特有のクリックノイズ、クラックルノイズを取り除くもの。それぞれどの程度取り除くかの設定ができるようになっている。またDeclipperは、過大入力によるクリッピングノイズを除去するもので、クリップレベル、アウトプットレベルを設定するとともに、リミッタ機能も搭載されている。

DeClicker、DeCrackerは2つセット。レコード特有のクリックノイズやクラックルノイズを取り除く調整が可能 Declipperは、過大入力によるクリッピングノイズを除去する。クリップレベル、アウトプットレベルを設定するとともに、リミッタ機能も搭載している

 さらに、Denoiserは、周波数帯処理によりノイズ成分を差し引くことで、ノイズを取り除くというタイプのもの。ハムノイズやヒスノイズなど、よくあるタイプのノイズサンプルがあらかじめ登録されており、これを引くことで、ノイズリダクションを実現しているのだ。さらに、実際のノイズデータを元にして、ウィザード形式で、ノイズサンプルを追加することも可能。

Denoiserは、周波数帯処理によりノイズ成分を差し引くことで、ノイズを取り除く ウィザード形式で、ノイズサンプルを追加することも可能

 試しにこれを利用してヒスノイズ成分およびハムノイズ成分を取り除いたところ、先ほどより少し改善されたように思う。

【Denoiserで除去した音声サンプル】
【ヒスノイズ】
hiss2.mp3(約472KB)
【ハムノイズ】
hum2.mp3(約472KB)

ヒスノイズ専門のノイズリダクションツールのDehisser

 そしてもうひとつのノイズリダクションツールが「Dehisser」。こちらはヒスノイズ専門のノイズリダクションツールであり、設定を変えることにより、効果も変わってくる。DeNoiserとどちらがより有効かは微妙なところだが、いろいろと調整してみることで、より効果は高くなりそうだ。

 一方、これらとはまったく別のノイズリダクションツールとして、スペクトラルクリーニングというものがある。これは第337回で紹介した「iZotope RX」に搭載されていた機能に近いもので、横軸が時間、縦軸が周波数となっており、ここから不要なものを消すことで、ノイズを手動で取り除くというものだ。

 前回、「愛のあかし」のオリジナルデータにSDカードを机の上にカランと転がした音と、咳払いを混ぜた音を重ねたサンプル音を作って実験してみた。今回もそのデータを使ってみたところ、確かに、ノイズ源となっているものが視覚的にも確認できる。

 そこで、これを一つ一つ丁寧に削除してみたところ、かなりキレイに消えてくれる。とくに咳払い部分は周りの音が多少にごるものの、ほとんどわからない程度になっている。

 5種類のノイズリダクションツールと、このスペクトラルクリーニングを使えば、かなりいろいろなデータに活用できそうだ。

「モノが転がる音や咳の音」データを使って実験。ノイズ源が視覚的に確認できる ノイズを一つ一つ丁寧に削除していく。咳払い部分は周りの音が多少にごるものの、ほとんどわからない程度に
【元データ音声サンプル】
akashi+seki.mp3(約469KB)
【除去後音声サンプル】
seki.mp3(469KB)


■ マスタリング/音声保存機能

 さらに、前述のとおり、Audio Cleaning Labにはマスタリング機能、音声保存機能というものもある。これらについても簡単に見ていこう。

 まず、マスタリング機能はまさにマスタリング用のエフェクト処理機能であり、ステレオ感を増幅するためのStereoFX、イコライザ、MP3圧縮などによって削がれた高域を復元するためのBriliance、音質=周波数特性を別の曲データとそっくりにするためのSound Cloner、そして音圧を調整するDynamics、マルチバンドコンプレッサのMultimaxのそれぞれが用意されている。

 これらをラック表示することもできるのだが、これを見て、あぁ、と思った。そう、Music Maker Producer Editionに搭載されているものとほぼ同じものがここにも搭載されているのだ。さらに、マスタリングエフェクトというわけではないが、コーラス、ディエッサ、テープシミュレータなどが搭載されているほか、DirectX、VSTプラグインなども利用できるので、さまざまな加工が可能になっている。

 そして、最後にできあがったファイルを保存するのが、「音声を保存」という機能。ここでは、WAV、MP3、OggVorbisなどファイルとして保存ができるほか、音楽CD、DVD-Audio、さらにはMP3などのデータで焼くディスクを作成できる。ただ、DVD-Audioといっても24bit/192kHzなどの形で焼けるわけではなく、4chのデータで焼けるというものだ。

「マスタリング機能」には、StereoFX、Briliance、Sound Cloner、Dynamics、Multimaxが用意されている マスタリング機能はラック表示することも可能。Music Maker Producer Editionに搭載されているものとほぼ同じものがここにも搭載されている 「音声を保存」機能。WAV、MP3、OggVorbisなどファイルとして保存ができるほか、音楽CD、DVD-Audio、さらにはMP3などのデータで焼くディスクを作成できる


 ダウンロード版なら5,980円で買えるということを考えると、かなりコストパフォーマンスの高いソフトといえるだろう。自動設定でとりあえずはできるが、それに頼りすぎるよりも、自分で設定をすることによって、さらにいい音に仕上げられそうだ。簡単に使える一方、かなり奥深い機能まで持っているので、応用性も高くなっている。



□AH Softwareのホームページ
http://www.ah-soft.com/index.html
□製品情報
http://www.ah-soft.com/acl/index.html
□関連記事
【8月22日】AHS、ノイズカット可能な録音ソフト「Audio Cleaning Lab」
~ レコード録音時の各種ノイズを自動除去。編集機能も ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080822/ahs.htm
【8月11日】【DAL】M-AUDIOの“オーディオ修復ソフト”「iZotope RX」
~ 価格以上の強力なノイズ除去と復元機能 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080811/dal337.htm
【2002年7月8日】【DAL】機能充実のノイズリダクションソフト
~ MAGIX Audio Cleaning! ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020708/dal61.htm

(2008年11月10日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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