~PC接続で多彩な活用。特定パートを削除する「GXT」も~ |
JamVOXソフトウェア | JamVOXモニター |
外形寸法は240×160×122.5mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は2.4kgとデスクトップに置くサイズとしてはちょうどいい。個人的に使っているFenderのミニアンプ、DICEと比較しても一回り小さいサイズではあるが、それなりに存在感はある。
デスクトップに置くには「いいサイズ」 | FenderのミニアンプDICEと比較 |
このモニターには3インチのフルレンジ・スピーカーが2基搭載されており、0.75W×2chの出力が得られる。DICEが12Wの出力であるのと比較すると、かなり小さいことは確かだが、DTM用のギターアンプとしては十分すぎるほどの音量という感じだ。また横幅たった240mmのところにスピーカーが横に2つ並んでいるのだから、ステレオ感を得るといった感じではないものの、ギターアンプとして考えればまったく問題ないだろう。
JamVOXモニターの性能チェックは後で行なうが、最大音量に設定しても、音が割れることもなく、なかなか高音質。これまでのUSBスピーカーは、あまりまともなものが存在しなかったが、その点だけでも十分欲しいと思える製品だ。
■ 多彩なギターアンプとエフェクト機能
ただし、JamVOXの中枢部分はあくまでもソフトウェア。既存のバーチャル・ギターアンプと同様、多数の有名ギターアンプとエフェクターをソフトウェア上でシミュレーションするものなのだが、それ以外にもさまざまなボーカルキャンセラーならぬギターキャンセラーのような機能やWAV、MP3などのオーディオファイルのプレイバック機能、レコーディング機能、メトロノーム機能など、ギタリストにとって欲しい機能が満載。しかも、初めての人にとってもセッティングが非常に簡単で、ソフトをインストールして、JamVOXモニターとPCをUSBで接続するだけですぐに使えるのもうれしいところだ。
ドライバのインストール画面 |
多くのDTM関連ソフトでは、まずオーディオインターフェイスの設定などが必要となるが、JamVOXの場合、ドライバとアプリケーションのインストールおよびその設定がすべてセットで自動になっており、インストーラの指示にしたがって何回かOKをクリックするだけですべて完了してしまう。
ほかのオーディオI/Fでは利用できない |
逆にいうと、JamVOXソフトウェアと連携できるオーディオインターフェイスはJamVOXモニターのみであり、ほかのオーディオインターフェイスで利用することはできないし、そもそも起動すらしないのだ。
起動すると、画面上には、ギターアンプやエフェクターがずらりと並ぶ。これがひとつのプリセットであり、AC30TB Lead、Octave Crunch、UK Blues、Crunchなど、約50のプリセットから選択できる。
AC30TB Lead | Octave Crunch | UK Blues |
さらに、ユーザー登録すると、The BeatlesのDay Tripper、Pink FloydのMoney、AerosmithのWalk This Way、EaglesのHotel Californiaをはじめとする名曲の数々のギターサウンドを再現するプリセット集をダウンロードすることが可能になっている。
いずれかのプリセットを選択した状態で、JamVOXモニターのGUITAR INにギターを接続し、MONITOR LEVELを多少上げてギターを弾いてみると、「まさに」、という感じの音で鳴る。当然、オーディオインターフェイスであるJamVOXモニターのギター入力を通して、JamVOXソフトウェアで加工されて、再度JamVOXモニターで鳴っているわけだが、とくに音の遅れも感じず、快適に演奏できる。
では、そのプリセットの中身をもう少し具体的に見てみよう。たとえばAC30TB Leadの場合、左から順にTUNER、TRE.BOOST、VOX AC30、NOISE RED、VOLUME、GARAGEと並んでいる。マウスでTUNERを選択すると、画面中央部分には、TUNER=チューニングメーターのパラメータが表示され、リアルタイムにギターのチューニングが可能となっている。同様に、TRE.BOOSTを選べば、TREBLE BOOSTのパラメータが表示され、細かく音をいじることができる。
TUNERを選択。ギターのチューニングが可能 | TRE.BOOSTを選択。パラメータが表示され、細かく音をいじることができる |
一方、その上にはアンプであるVOX AC30TBのパラメータが表示されている。ここには常時、アンプのパラメータが表示されており、アンプの種類によってデザインが変わるようになっている。このパラメータの左側を見るとわかるとおり、アンプはアンプ部とキャビネット部の組み合わせとなっており、これを変更することも可能。クリックすると、アンプは19種類、キャビネットは12種類から選択できるようになっており、自在に組み合わせることができる。
アンプ部とキャビネット部を自在に組み合わせることができる |
このように選択可能なのはエフェクターも同様。ディストーションやファズ、またコンプレッサから、ワウペダルまでペダル系のエフェクターが18種類。コーラス、フランジャー、トレモロ、フィルター、ロータリーなどのモジュレーション系が12種類、さらに、BBDディレイやテープエコーといったアナログモノからデジタルディレイまでディレイ系が11種類、さらにさまざまなリバーブが12種類など、54種類ものエフェクターが装備されているのだ。
ペダル系のエフェクターが18種類 | モジュレーション系が12種類 |
ディレイ系が11種類 | リバーブだけで12種類 | エフェクターやアンプの順番を変更することもできる |
ペダル系のみ2つ、ディレイ系やモジュレーション系などほかは1つずつの計6つのエフェクターを自在に組み合わせて音作りをすることが可能だ。また、この際、エフェクターやアンプの順番を変更することもできるようになっている。
■ 特定の音を削除/強調する「GXT機能」
さて前述のとおり、JamVOXは既存のバーチャル・ギターアンプと異なり、さまざまな機能を搭載している。そのひとつが、音楽再生機能だ。画面下側にはエクスプローラ風な画面になっているが、ここで楽曲データを指定して、再生ボタンを押せば、WAV、AIFF、MP3、WMAなどのデータを読み込んで、再生することができる。また、単に再生するだけでなく、右側のパラメータを利用することでテンポを変更したり、ピッチを変えることもできる。
音楽再生機能を備え、MP3/WMAなどをサポートする | テンポやピッチのコントロールも可能 |
再生中にギター演奏すれば、両方の音がミックスされる |
もちろん、この再生中にギターを演奏すれば、両方の音がミックスされる。JamVOXモニターの入力には、ギター入力のほかにマイク入力もあるので、ボーカルを入れることもでき、それぞれの音量バランスは左側のミキサーでとることができる。
しかし、面白いのはここから。そのWAV、AIFF、MP3、WMAの再生時にギターを消してしまったり、ギターのみを強調することができるのだ。もちろん、ここでいうギターは、JamVOXモニターの入力端子に接続しているギターのことではなく、CDなどから取り込んだ既存楽曲のギターパートのことだ。
それを実現するのが、GXT(Guitar Xtraktion)機能というKORGが開発した新技術である。これまでもボーカルを消してカラオケのようにするボーカルキャンセリングという機能はあったが、それとはだいぶ異なる手法となっているようだ。ボーカルキャンセリングは左右チャンネルの信号を逆位相にして重ねることによって、センターに定位する音が打ち消しあって、ボーカルが消えるという比較的単純な手法が一般的だ。ただし、この場合、左右を単純に重ねるためにモノラル化してしまい、そもそも特定の音を消したり強調したりといったことは不可能である。
それに対してGXTは音を定位と周波数帯域によって立体的に特定し、それを調整可能なフィルタを用いて、消し去ってしまったり、強調したりする技術となっている。そのため、曲のステレオ感を損なうことなく、任意の音に狙いを定めてキャンセリングしたり、逆にそこだけを抽出することを可能にしているのだ。そのため、別にギターだけを狙うわけではなく、ボーカルやベースなど、さまざまな音をターゲットにすることができるのだ。
画面右下にGXTに関する設定パラメータが表示される |
たとえば、ある楽曲においてギターのみを消してしまえば、まさにマイナスワン演奏となり、そのパートを自分で弾くことが可能になる。反対にそこだけを強調すれば、聴き取りにくい演奏をしっかり聴けるので、耳コピーもしやすくなるというわけだ。さらにテンポもゆっくり再生させれば、より聴き取りやすくなるはずだ。
実際にGXTを使うにはGXTボタンを押すと、画面右下にGXTに関する設定パラメータが表示されるとともに、左下のエクスプローラ風のところにはGXTのプリセットが10種類ほど並ぶ。
最初、どのようにすればいいのか検討もつかなかったので、プリセットを使ってみたが、その効果は驚きだ。試しに手元にあったThe BeatlesのDay TripperのMP3ファイルを再生させて、「Sole(Right) Reduction」を選択してみたところ、完全にといっていいほどキレイにリードギターが消えてしまった。また、「Backing(Left-Hard) Reduction」を選択してみたところ、リードギターやボーカル、ドラムは出ているのに、リズムギターとベースが消えてしまった。
「Sole(Right) Reduction」を選択 | 「Backing(Left-Hard) Reduction」を選択 |
Extractボタンを押すと、そのパートのみが強調される |
何故こうなるのか、直感的には分からなかったが、これは画期的なすごい機能であるのは間違いない。さらに必要あれば、右側にあるパラメータをいじっていくことによって、ターゲットを絞り込んでいくことも可能なようだ。
また、10個あるプリセットはいずれもReduction、つまり消すことを目的にしており、Reduceボタンが押された形になっているが、ここでExtractボタンを押すと、そのパートのみが強調されるようになっている。
このDay Tripperに関していうと、オンラインユーザー登録するとダウンロード可能なギター音色プリセットに「Day Tripper Riff R」と「Day Tripper Riff L」という2つが用意されている。したがって、GXTでマイナスワン演奏させている状態で、これらのプリセットを選んでギターを弾けば、かなりホンモノっぽい音での演奏が可能になるのだ。
■ DAWとも組み合わせ可能
メトロノームを鳴らしてギターを演奏し、録音する使い方も |
このようにして演奏した音はJamVOXソフトウェアを使ってレコーディングすることもできる。もちろん、簡易的なレコーディング機能なので過度な期待は禁物ではあるが、先ほどのギター、マイク、音楽データの3つを組み合わせるミキサーの設定音量で録音することができる。
また、音楽データの演奏はさせずに、メトロノームを鳴らしてギターを演奏し、録音していくといった使い方もできるようになっている。
ただ、JamVOXのエフェクターやギターアンプを通した音を録音するのなら、DAWと組み合わせて使いたいという人もいるだろう。JamVOXはそうした用途にも対応できるようになっている。といってもVSTやAUのプラグインモードで動作するというわけではない。
DAW側のオーディオI/Fの設定をJamVOXに設定するだけ |
実はあらかじめJamVOXソフトウェアを起動させた状態で、DAWを起動し、DAW側のオーディオインターフェイスの設定をJamVOXに設定するだけでいいのだ。この状態で、ギターを演奏させるとエフェクトのかかった状態の音でレコーディングできるようになっている。
見ると分かるように、WindowsであればMME、WDMに加えて、ASIOドライバにも対応している。もちろん、MacではCoreAudioに対応している。ただ、ASIOドライバを設定した場合、ASIOコントロールパネルのボタンを押してもASIOコントロールパネルが表示されない。
あらかじめレイテンシーも小さいので、それほど調整する必要はないのだが、JamVOXソフトウェアの環境設定画面において、ハードウェアのレスポンス設定を変更することで、さらにレイテンシーを縮めることが可能だ。実際、SONARでサンプリングレート44.1kHzの状態でのレイテンシーを確認したところ、デフォルトの状態では2.9msecであったが、レスポンスをもっとも速い設定に変更したところ、1.1msecにまで縮まった。
レスポンス設定でレイテンシーを縮めることが可能 | デフォルトの状態からレスポンスが縮まった |
さらに確認してみたところ、JamVOXモニターはオーディオインターフェイスとしてみた際、サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzの3つに対応していることがわかった。JamVOXソフトウェアでは44.1kHzに固定の状態で使用されているが、DAWを使う場合は96kHzなどを選択することも可能だ。
測定はJamVOXモニターのリアのライン入出力から |
せっかくオーディオインターフェイスとしても扱えるので、いつものRMAA Proを用いた音質チェックを行なってみた。JamVOXモニターのリアには標準ジャックでのラインアウトとラインインがそれぞれ設けられているので、ここを直結しての測定だ。
結果は以下のとおりであり、まずまずのものとなっている。2IN/2OUTのオーディオインターフェイスであるので、幅広い利用はできないかもしれないが、ギター入力用兼モニタースピーカーと考えれば十分な機能、性能を持っているといえるだろう。
44.1kHz | 48kHz | 96kHz |
□KORGのホームページ
http://www.korg.co.jp/
□VOXのホームページ
http://www.voxamps.jp/
□製品情報
http://www.voxamps.jp/products/jamvox/
(2008年11月17日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。 |
[Text by 藤本健]
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