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第349回:「Inter BEE 2008」で新製品をチェック
~ VSTプラグインを単体で動かす箱や新PCMレコーダ ~



Inter BEE 2008

 先日、幕張メッセで開催された「Inter BEE 2008」。今年も例年通りの大きなイベントとなっており、プロオーディオ部門には100社強がブースを出展し、面積的にも結構な規模となった。

 業務向けの展示会であるだけに、大規模なコンソールやPAシステムといった展示が多いものの、DTM・デジタルレコーディング関連の機材、ソフトウェアもかなり多くあり、初登場の製品もいろいろ見つけられた。そうした新製品、参考出品製品を中心に紹介しよう。



■ VSTプラグインを単独で動かす「V-MACHINE」

「V-MACHINE」

 すでにこの秋・冬登場の新製品の多くが発表されていただけに、大物新製品というものはなかなかなかったが、今回のInter BEEで個人的にもっとも気になった製品は、フックアップでデモされていたオーストラリアのメーカー、SM PRO AUDIOの「V-MACHINE」というもの。

 副題にSTAND ALONE VST PLUG IN PLAYERとあるが、これはVSTおよびVSTiのプラグインをこれ単体で動かすことができるというユニークな機材。開発しているという話は数年前から聞いてはいたが、それがついに登場したわけだ。

 お弁当箱サイズ中には1GHzのCPUが入っているとのことだが、PCやMacからUSB経由でVSTのDLLファイルを転送することで、プラグインを動かすことができる。つまり、このお弁当箱そのものがVSTのホストになる。

 おそらく、動くプラグインと、動かないプラグインがありそうで、ドングルが必要なプロテクトのかかったプラグインなどは、なかなか対応は難しそうだが、オンラインソフトとして流通しているプラグインはたいてい動作するという。

 今回はオーストラリアからSM Pro Audioの社長であり開発者のDanny Olesh氏が来日し、デモを実演。エフェクトとシンセを複数起動して動かしていた。この際、PC用のソフトウェアを使うことで、ミキシングやパラメータの設定も実行していた。

SM Pro Audioの社長で開発者のDanny Olesh氏 PC用のソフトでミキシングなどの設定

 さらに、これをPCに接続したまま使うと、PC側のDAWのプラグインとしても使えるようになる、と説明していた。フックアップによると、年内には発売できそうで、標準価格が80,000円程度、実売65,000円程度になりそうとのことだった。入手次第、レポートする予定だ。なお今後もっとCPUパワーのあるラックマウント型のV-RACKという製品もリリースする予定である。

 同じフックアップブースで登場したのがACIDの新バージョン「ACID Pro 7」。ミキサーコンソール機能をさらに強化するなどよりDAW化したACID Pro 7はすでに開発は終わっており、海外ではリリースされているが、国内でのパッケージ販売は1月中旬の予定となっている。

「V-RACK」 「ACID Pro 7」


■ ProTools 8のサードパーティー

「ProTools 8」デモ

 DAW関連では、会場全体で多く目にしたのがやはりProToolsだ。すでに発表されているとおり、ProToolsは12月には新バージョンProTools 8がリリースされ、Mbox製品などにバンドルされているProTools LE、M-Audio製品とのセットで使うM-Poweredも新バージョンに切り替わる。

 今回、そのProTools 8がデモされていたが、パっと見の印象はかなりカラフルになるとともに、よりCubase、SONAR、LogicといったMIDIシーケンサからの転進組DAWに近づいた。

 とくにMIDI機能を強化し、1GBのサンプリングデータを持つピアノ音源を含め5つのソフトシンセを搭載、さらに数多くのプラグインエフェクトも追加されている。新バージョン登場前にPro Tools LE/M-Poweredを購入してユーザー登録すればProTools8へ無償アップグレードでき、FXpansion VST to RTAS Adapter2がもらえるキャンペーンを実施中とのことだ。このProTools LE 8も入手し次第レポートしたい。

「T-RackS3 Deluxe」

 Digidesignブースにはサードパーティー各社も集まっていたが、ここでも新製品が登場していた。まずメディア・インテグレーションではIK Multimediaのマスタリングソフト、T-RackSの新バージョン「T-RackS3 Deluxe」を発表。

 これは従来のバージョンにあったEQ、コンプ、マルチバンドリミッター、クリッパーの4つのモジュールに加え、真空管モデリングのコンプ/リミッター、真空管モデリングのEQ、リニアフェーズEQなど5つの新モジュールが追加されたというもの。さらに、より音圧を視覚的に捕らえられるPerceived Loudnessというメーターを装備するなど、本体機能も強化されている。

 またスタンドアローン版と、AU/RTAS/VSTプラグイン版を、1パッケージに統合。スタンドアローン版では、複数のソングの読み込み、フェード処理なども可能となった。標準価格は69,300円で12月中の発売が予定されている。またエントリー版として、従来のT-RackSと同じ4モジュールのモデルもT-RackS 3 Standardとして登場。こちらは標準価格で27,300円となっている。

「Alchemist」

 このメディア・インテグレーションでは、FLUXのマスタリングソフト、Alchemistもリリースする。これは従来Pyramix用のDSP上で動くマスタリングソフトとして実績のあるソフトだが、それがCPU上で動くネイティブ版として登場したのだ。

 動作環境はWindows、MacのVST、RTAS、AUのプラグイン。エフェクトの種類的にはEQ、コンプ、リミッタ、ダイナミックスなど9種類があり、それぞれ個別の単体としてリリースされるほか、パック化されたものも登場する。国内では12月上旬より発売という予定になっている。

「OVERLOUD TH1」

 Digidesignブース内、メディア・インテグレーションの隣では宮地商会がOVERLOUD TH1というギタリスト向けのソフトを発表した。画面を見ると分かるとおり、アンプやエフェクトを画面上に配置し、並べていくというもの。GuitarRigのソフト版といったところだが、アンプ、キャビネットそれぞれ別々に数多くのモデリングが用意されている。

 また、エフェクトのほうも、オーバードライブ、ディストーション、ファズといった歪み系からディレイ、フランジャー、コーラス、ワウ、リバーブ……とさまざまなものが用意されている。発売は12月、オープン価格で実売が37,800円程度になる見込みだ。

 ブースの中には初めて知った会社もいくつかあった。その中で興味深いソフトのデモを行なっていたのがアーニス・サウンド・テクノロジーズという東京都大田区のソフトハウス。同社は大阪大学と京都大学と共同で、3Dサウンドオーサリングツール「SoundLocus」というソフトを発表した。

「SoundLocus」

 これは一般のステレオやモノラルのWAVファイルをバーチャルサラウンド化するというツールで、5.1chのスピーカーなどは使用せず、2chのスピーカーやヘッドフォンだけで前後左右、そして上下に音を持っていくことができる。

 画面上には人間の頭を中心にした3D画面があり、音をどこから出すか、その音源位置をPLAYSTATION 3のコントローラを使って指定することで、リアルタイムにそこから音が出てくる。実際、ヘッドフォンで試してみたが、確かに前後、上下といった音の動きを感じられる。

 この動きはオートメーション記録・再生できるようになっているため、効果音、または音楽などを手軽に3D化し、動かしていくことができる。そして、出来上がった音は通常の2chのWAVファイルとして保存され、それを普通に再生すれば、3Dの動きをどんなプレイヤーでもそのまま再現できるのが特徴だ。

 同社はこれまでは社内で作ったこの3D化のツールを利用し、ゲームメーカーなどから3D化する加工作業を請け負っていた。しかし、社内利用に限らず、広く一般に広めたいということからソフトウェア製品としてリリースすることを決めたという。まだ詳細の発売時期や価格などは決まっていないが、発売は2009年の1~3月をメドに考えており、5万円台になりそうとのことだ。


■ そのほか「面白そうな」新製品など

「PROTRACK」はパンフレットのみの配布となった

 今回のInter BEEで個人的にちょっと見てみたいと思っていたのが、ALESISのリニアPCMレコーダー「PROTRACK」。これはiPod classicの第5、6世代モデルまたはiPod nanoの第2、3世代モデルを中央にセットするとレコーディングできるという製品。

 最高で16bit/44.1kHzとのことなので、それほど高性能というわけではなさそうだが、XY型のステレオマイクを搭載するなど、見た目にインパクトのあるものだ。ALESISの国内代理店であるプロ・オーディオ・ジャパンもInter BEEでの展示を予定していたらしいが、残念ながらモノが届かず、パンフレットのみの配布となった。

 一方、同じプロ・オーディオ・ジャパンが扱うAKAI Professionalからはウィンドコントローラ「EWIUSB」が新登場した。これは、その名前からも分かるとおり、USB接続の入力デバイスで、リコーダーはもちろんサックス、フルート、オーボエ、トランペットなど運指モードを持っている。

 USBからの電源供給で動作するため別途電源は不要で、610gと軽量になっている。WindowsおよびMacに対応しているので、これをDAWなどのMIDI入力デバイスとして利用できる一方、専用ソフトウェアARIAというものもバンドルされている。

 これはオーケストラ音源で定評あるGARRITANが開発したソフトで、管楽器音色82音を収録したソフトシンセだ。スタンドアロンおよびWindowsではVST、MacではVSTに加え、AU、RTASのプラグインとして動作するので、買って即楽器として利用できるわけだ。発売は12月中旬の予定でオープン価格(実売4万円前後)の予定となっている。

「EWIUSB」 専用ソフトウェア「ARIA」がバンドル

「TTM-128」

 エムアイゼブンジャパンでは、24bit/192kHzに対応したマルチトラックのBWFレコーダー「TTM-128」が参考出品された。これはパナソニックのTOUGHBOOK CF-19をベースにしたレコーダー。

 ここにRMEのオーディオインターフェイスを内蔵し、専用のアプリケーションを搭載した。アプリケーションもRMEで開発しているものであるが、あくまでもTTM-128専用で、一般に販売されるものではないとのこと。

 また製品としてはエムアイセブンジャパンのオリジナル品であり、とりあえずは国内でのみの販売となる。発売は来年というだけで未定。価格も未定ではあるが70~100万円程度になるとのことだ。


RMEのオーディオI/F、「HDSPe AES」「HDSPe RayDAT」

 そのRMEのオーディオインターフェイスの新製品も今回展示された。HDSPe AESとHDSPe RayDATのそれぞれで前者がAES/EBU用、後者がADAT用のPCI Expressカードとなっている。いずれも12月発売で価格は未定だ。

 Inter BEEは放送局またコンサートホールなどで使われる機材が多く扱われているだけに、MADIをはじめ1本のケーブルで多チャンネルのオーディオ信号をデジタル伝送するシステムがいろいろ展示されていたが、それらとはちょっと異なるお手軽ライブハウス機材がフォステックスのブースで参考出品された。

 LR16というこの機材、16in/4busの箱型デジタルミキサーと16chのアナログミキサー風のコンソールの2つから構成されるというもので、この機材間をEthernetケーブルで接続できるというのが特徴。最大50mも離すことができるので、ステージ側ですべての配線を行ない、ミキサーコンソールのみ客席側に設置されたブースに置き、この間ケーブル1本で完結というシンプルな運用ができる。

 ケーブル上はコンソールの操作情報のみが送られ、全チャンネルの音が送られてくるわけではないが、ミックスされた音は流れてくるので、モニターすることも可能だ。また、ステージ側の機材には80GBのHDDが搭載されており、ここにWAV形式で録音することも可能になっている。まあ、DAW的な編集機能はないので、あくまでも録るのみではあるが、16bit/24bit、44.1kHz/48kHzから選択が可能になっている。

 またレコーディングした後に、これをPCとUSB接続するとPCからはマスストレージデバイスとして見えるので、そのまま吸い上げて使うことが可能となっている。

 なお、この2つの機材は離さずにドッキングさせることも可能で、そうすると単純な16in/4busのデジタルミキサーに16トラックレコーダーを内蔵したものとなるわけだ。発売は2009年2月の予定で価格は180,000円になる予定だ。

16in/4busの箱型デジタルミキサーと16chのアナログミキサー風のコンソールで構成される「LR16」。Etherケーブルを使って両機を接続できる。

SoundFieldのサラウンドマイク「SPS200」

 最後にちょっと変わったマイクを2つ紹介しよう。ひとつはティアックのブースで参考出品として展示されたSoundFieldのサラウンドマイク「SPS200」だ。

 これはテトラポットのような形をしたマイクで5.1ch、6.1ch、7.1chまた8chといったサラウンドのレコーディングを可能にしたものだ。4つのマイクでどうやって5.1chなどを実現するのかというと、これはソフトウェア・コントロール・マイクというもので、付属のSurround Zone Softwareというものを用いて、5.1chなどに展開するのだ。

 ただし、オーディオインターフェイス機能はないため、このマイクから出てくる4つのライン信号を入力するオーディオインターフェイスを別途用意する必要がある。動作環境としてはProTools HDやVSTのマルチチャンネルをサポートしたものであればWindows、Macを問わず利用できるという。発売時期および価格のほうは未定だ。

 一方、もっと単純で便利なマイクがBEHRINGERがリリースしたC-1Uというもの。これは同社が発売している安価なコンデンサマイク、C-1にUSB端子を搭載したというもの。つまり、オーディオ接続、オーディオインターフェイス機能、ファンタム電源供給をUSB 1本で実現してしまうというもの。

 接続が面倒なコンデンサマイクが簡単に使えるという意味ではよさそうだ。ただし、PC側の標準ドライバで動くもののようだから、16bit/44.1kHzでの利用ということになりそうだ。これは12月中旬発売で、価格は10,395円となっている。

USB端子を搭載したBEHRINGERの「C-1U」。オーディオ接続、オーディオI/F機能、ファンタム電源供給をUSB1本で実現

 以上、Inter BEEで見つけたものをピックアップしてみたがいかがだっただろうか? 最初に取り上げたV-MACHINEをはじめ、面白しそうなものは製品が手元に来たら順次記事で取り上げていく予定だ。



□Inter BEE 2008のホームページ
http://www.inter-bee.com/2008/
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~ 中心はメディアではなくコンテンツ ~
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【2007年11月21日】【EZ】万人がHDの時代へ、Inter BEE 2007
~ 基本路線を維持しつつ、クリエイター向け製品も大量展示 ~
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【2007年11月20日】Inter BEE 2007が開幕。ソニーが有機ELビューファインダ
-42型マスターモニタも。松下は低価格AVCHDカメラなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071120/interb.htm


(2008年11月25日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部
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