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第354回:デザインと使い勝手が向上した「ProTools 8 LE」
~エフェクトやソフトシンセも強化~



ProTools 8 LE

 まだ店頭には並んでいないが、昨年末、ProTools LEの新バージョン「ProTools 8 LE」がオンライン上でアップグレード購入できるようになった。年末は各種DAWが揃ってバージョンアップをする時期であるが、今回のProTools LEのバージョンアップは、CubaseやSONAR、Logic、DigitalPerformerといったソフトをかなり意識した機能アップが図られている。

 まだ使い込んでいないので、ファーストインプレッションとして紹介する。



■ デザインを一新し、カラフルな作りに

 ご存知のとおりProToolsはプロのレコーディングの世界ではデファクトスタンダードとなっているDAWのシステム。音楽レコーディングスタジオにおいては、ほぼ100%がMacという環境で動作しており、DSPを搭載した専用のハードウェアを利用することで、CPUに負荷をかけることなくレコーディングやミキシングができるのが大きな特徴となっている。

 もっともWindows版も用意されており、ゲーム系のプロダクションやMAの世界などではWindows版も利用されているようだ。

 そのProToolsをDSPを使わずCPUのみで動かすのがProTools LE、およびProTools M-Poweredである。前者はMbox2シリーズやDigidesign 003などの製品にバンドルされるもの、後者はM-Audioのオーディオインターフェイスなどとセットで利用する別売ソフトウェアであり、機能的にはほぼ同じものだ。

 とくにMbox2シリーズはオーディオインターフェイスとProToolsLEがセットで非常に安い価格で購入できるため人気を集めている。たとえば、2IN/2OUTという仕様ながら、しっかりレコーディング、プレイバックの両方ができるミニマムのシステム、Mbox2 miniなら実売価格4万円弱で購入でき、Mac、Windowsの両方で使えるハイブリッドのソフトがバンドルされている。

ハードウェアのMbox2 mini

 LEという名称から機能的に、プロ用のProToolsソフトウェアと比較して劣るような印象を持つ人もいると思うが、DSPが使えるというハードウェア対応以外、編集機能などはほぼ同等のソフトウェアとなっている。

 実は筆者も昨年11月に、必要があってこのMbox2 miniを購入した。バンドルされているのはProTools 7 LEではあったが、すでにProTools 8が発表された後であったこともあり、ProTools 8 LEへの無償アップグレードができるという製品になっていた。

 実際、無償アップグレードするためには、オンラインでのユーザー登録が必要ということになっていたので、ユーザー登録をしたところ、12月18日にProTools 8 LEへのアップグレードに関する通知が届いた。


本体ソフトとループ素材集だけの容量は9.2GB

 今回はWindows版をダウンロードしてみたが、サードパーティーのサービス・アプリケーションを除き、本体ソフトとループ素材集だけで9.2GBという膨大なもの。しかし、光回線を引いていることもあり、ダウンロードは20分程度とあっけないほど短時間で終了した。さっそくまっさらなWindows Vista SP1のマシンにインストールしてみた。

 一応Mac上ではProTools 8 LEのデモなどは見ていたが、Windows上で動かしてみてちょっと驚いた。これまでのWindows上で見たProTools LEとはかなり変化しており、印象が異なる。Windows版として見てもMac版としてみても、デザインが一新し、またかなりカラフルになったのは、ProTools 8の大きな特徴となっている。


デザインを一新し、カラフルになった

 しかし、単にデザインということだけでなくWindowsのアプリケーションとして見たとき、違和感がなくなったのだ。これまでのProToolsはどうしてもMacからの移植ソフトという雰囲気があり、Windowsアプリケーションとして何かしっくり来なかった。

 もちろん2000年ごろの初期のProTools LEよりは6、7とバージョンアップを重ねるにつれてWindowsっぽくなってきており、ProTools 7 LEでは、立派なWindowsアプリケーションにはなっていたが、それでも、なんとなく違和感があった。それが、ProTools 8となって、そうした違和感をまったく感じなくなったのだ。

 またカラー化されただけでなく、画面表示もよりキレイになってきてる。たとえばオーディオの波形。従来は8bitで波形オーバービューの計算を行っていたそうだが、ProTools 8では16bitとなったため、波形をズームしたときの垂直方向の波形の解像度が高くなり滑らかとなった。さらにアウトライン表示機能というものが加わり、さらにクッキリと波形が表示できるようになっている。これはオン/オフが切り替えられるので比較してみるとよくわかる。

オーディオ波形などの画面表示もよりキレイになった。またアウトライン機能も備わり、クッキリとした表示が可能(右)


■ 使い勝手も向上。エフェクト類も強化

 このように見た目の印象が変わったとはいえ、ProToolsとしての使いやすさは健在。やはりオーディオのMTRソフトとして歴史あるProToolsだけに、起動したらすぐにレコーディングが開始できる操作性は抜群だ。

 キーボード・ショートカットも従来のものを引き継ぎ、さらに拡張しているとのことなので、これまでにユーザーもすんなり使えるのではないだろうか?

洗練されたデザイン

 とはいえ、SONARやCubase、Logic、DigitalPerfomerなどのMIDIシーケンサから発展してきたはDAWは、機能はもちろんデザイン面、ユーザーインターフェイスなど、これまでかなり向上させてきていた。

 たとえば、ミキサー画面などはかなりカッコイイものになっていたが、これまでProToolsは垢抜けないイメージがあった。今回は大きく変わり、かなり洗練されたデザインになり、使い勝手も大きく向上した。

 また、全体のプロジェクトを見渡し、現在表示している場所がすぐに確認できるユニバースビューというものが、トラックの最上段に設けられた。この辺もほかのDAWがすでに搭載していた機能ではあるが、ProToolsもその使い勝手を意識してきたようだ。

 さらに起動して、最初に出てくるのが「クイックスタート」画面。ここではテンプレートから新規セッションを選択できるなど、やはり、ほかのDAWと同様の使いやすさを実現している。

 もちろん、ProTools 8 LEの特徴はデザイン面や使い勝手の面だけではない。機能面としてはまずトラック数が増え、48トラックまで利用可能になった。またチャンネルごとのインサート数も倍増した。オーディオ、AUXインプット、マスターフェーダー、インストゥルメントの核トラックに計10のインサーション・エフェクトが使えるようになった。

 そのエフェクト自体もかなり強化されている。ProTools LEのエフェクトはRTASプラグインに対応したものとなっているが、これまでEQやコンプレッサ、リバーブなど比較的地味なエフェクトがバンドルされているに過ぎなかった。

 しかし、ProTools 8 LEでは、AIR(Advanced instruments research:Digidesign内のプラグイン開発チーム)が開発した20種類のエフェクトが追加されている。具体的にはDynamic Delay、MultiChorus、Fuzz-Wah、Frequency Shifter、Enhancer……と音はもちろん、デザイン的にもカッコイイ感じに仕上がっている。さらにギターアンプシミュレータのEleven Freeといったものまで標準で搭載され、エフェクトの数は約70種類にも及ぶ。

Dynamic Delay MultiChorus
Fuzz-Wah ギターアンプシミュレータのEleven Free

 そのAIRによるソフトシンセが数多く搭載されたのも今回のバージョンの大きな特徴だ。ProTools 7 LEでは、ソフト本体にはソフトシンセは入っておらず、インストールディスクにAIRのXpand!というサンプリング系の音源が入っていたのみだった。

 ProTools 8 LEにはソフト本体をインストールすると同時にXpand!の新バージョンであるXpand!2、TR-808/909風なドラムマシンであるBoom、ロータリー・スピーカー・シミュレーション装備のハモンドオルガン・エミュレータのDB-33、アコースティック・グランド・ピアノのmini Grand、モノフォニック真空管シンセサイザのVacuum、そしてサンプル・プレイヤーのStructure Freeと、これまでのProToolsのイメージを大きく塗り替えるように、数多くのソフトシンセがバンドルされているのだ。

Xpand!2 Boom DB-33
mini Grand Vacuum Structure Free

 ちなみに、その内部開発チームのAIRの母体となっているのは、ソフトシンセメーカーとして大きく注目されたWizooだ。以前はSteinbergと共同開発でマルチティンバー・ソフトシンセのHypersonicやアコースティックピアノ音源のThe Grandなどを開発していたが、現在はDigidesign(正確にはAvid)に吸収されてAIRとなっている。つまりXpand!2はHypersonicのRTAS版、Mini GrandはThe GrandのRTAS版と考えればいいのかもしれない。

 さらに、そのソフトシンセを使うべくMIDI機能もかなり充実した。ProTools 7 LEではMIDIトラックにピアノロールのインラインエディタ機能があるとともに、イベントリストウィンドウが用意されていたに過ぎなかったが、8 LEでは独立したウィンドウで表示できるピアノロールエディタが搭載されたのとともに、譜面機能までも搭載されてしまったのだ。もちろん、イベントリストのほうも機能強化されて搭載されている。

独立したウィンドウで表示できるピアノロールエディタが搭載 譜面機能を追加 イベントリスト

 このように多くのソフトシンセが搭載され、MIDI機能が充実したことで、従来のProToolsのイメージから大きく脱却したように思う。やはりCubaseやSONARをかなり意識して開発したのではないかと感じるが、SteinbergやCakewalkも戦々恐々としているかもしれない。


■ 動作速度が問題点

 ただ、使っていて1点大きい問題も感じた。それは動作速度である。ProTools 7 LEと比べて落ちたというわけではないが、CubaseやSONARのようなきびきびとした動きでなく、ソフトとしての反応が遅いのだ。

 使っていたマシンがCore 2 Duo 2.13GHzのCPUに2GBのメモリなので、高速なマシンではないが現時点では標準的なスペックではないかと思う。実際、これでCubase4.5やSONAR8を動かして快適な動作をするのに対して、ProTools 8 LEではかなり重く感じ、ちょっと動かすとCPU負荷が70~80%程度まで行ってしまうのだ。

 オーディオインターフェイスのレイテンシーを大きくすると、多少は改善するが、それでも動きは緩慢。慣れの問題というのはあるとは思うが、ぜひここは今後チューンナップを図ってもらいたいところだ。もっともCore i7などの最新CPUを使えばかなり改善すると思うので、「DSP無しなら高速なマシンを」ということなのかもいしれないが……。

 ともあれ、これだけの強力なDAWとオーディオインターフェイスがセットで4万円程度で買えてしまうというのは、すごいことだと思う。



□アビッド テクノロジーのホームページ
http://www.avid.co.jp/jp/
□Digidesignのホームページ
http://www.digidesign.com/
□製品情報
http://www.digidesign.com/index.cfm?navid=507&langid=100&itemid=35911
□関連記事
【2008年11月25日】【DAL】「Inter BEE 2008」で新製品をチェック
~ VSTプラグインを単体で動かす箱や新PCMレコーダ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081125/dal349.htm
【2005年11月14日】【DAL】ProTools LE 7.0がバンドルされた「MBOX2」
~ Windowsでの使い勝手も向上 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051114/dal212.htm


(2009年1月5日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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