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第355回:ボーカル編集機能が追加された新DAW「Cubase 5」
~ピッチ修正や空間シミュレーションリバーブも~



16日に行なわれたCubase 5の記者発表会

 1月15日~18日の間、アメリカ・カリフォルニア州、アナハイムで開催されているNAMM SHOW 2009に合わせ、各社から新製品の発表が相次いでいるが、YAMAHA傘下の独Steinberg Media Technologiesも新DAW、Cubase 5およびCubase Studio 5を発表した。

 国内においても16日、YAMAHAが記者発表会を開催してCubase 5のお披露目を行なったので、どんなDAWに進化したのか、その概要を紹介しよう。



■ ラインナップは「Cubase 5」と「Cubase Studio 5」

 現行のCubase 4が国内で発売されたのが2006年12月だったので、約2年ぶりのメジャーバージョンアップとなったCubase 5。ちょうど、Steinbergは今年設立25周年を迎えるとのことで、国内においても25周年イベントを企画しているという。同社がYAMAHA傘下に入って3年強となるが、今回のCubase 5は本当の意味でのYAMAHA、Steinbergのコラボレーション製品となっているようだ。

 現行のCubase 4シリーズは上からCubase 4、Cubase Studio 4、Cubase Essential 4そして、ハードウェア製品にバンドルされるCubase AI 4、Cubase LE 4と全部で5つのバージョンが存在するが、今回は発表されたのは、上位2製品の後継となるCubase 5とCubase Studio 5。

Cubase 5 Cubase Studio 5

 いずれもオープン価格であるが、実売価格で10万円前後、55,000円前後ということなので、価格的には現行製品と同程度となっている。発売は3月中旬が予定されているが、それまでの期間にCubase 4およびCubase Studio 4を購入すると無償でのアップグレードが可能になっている。

 実は、ヨーロッパ版に関しては1月28日に出荷される予定となっているが、1カ月半のタイムラグで日本語版が発売されるのは、Steinbergとしては過去最速。実際、今回の発表会でデモされたソフトは完全に日本語化されており、動作も非常に安定しているようだった。とはいえ、マニュアル作成が追いついておらず、発売まではもう少し時間がかかるということのようだ。

 WindowsとMacのハイブリッドでリリースされるという点でも従来と同様だが、対応OSはMacにおいてはMac OSX 10.5.5、WindowsにおいてはWindows XP SP2以降、Windows Vista 32bit版と64bit版とのことで、正式に64bit版にフル対応する。また、それに合わせてSteinbergのハードウェアであるMR816csx/MR816xおよびCC121のドライバもWindows Vista 64bit版のドライバがリリースされ、64bit環境において快適に利用できるようになる。

ミキサー画面も視認性向上を図っている

 今回の発表会において、Cubase 5のデモを見せてもらったが、ユーザーインターフェイス的には、Cubase 4のものをそのまま踏襲しており、さまざまな機能が追加されたという格好になっている。ただ、よく見るとミキサー画面など色合いがややモノトーン風に変化し、視認性は向上しているようだ。



■ 追加された機能

ボーカル編集ツール「VariAudio」機能

 では、その追加された機能を1つずつ見ていこう。

 まず最大の目玉ともいえるのが、ボーカル編集、ピッチ修正ツールだ。ボーカル編集機能としてはSONARには以前からV-Vocalという機能が搭載されており、単体ソフトとしてはCelemonyのMelodyneといったものがあったが、今回Cubase 5にはこれらと近いVariAudioという機能が搭載された。

 これはサンプルエディタが拡張される形となっており、インスペクターにおいてVariAudioを開くと、ピッチが自動解析されてピアノロール風に表示される。これに対してピッチクォンタイズをかけることで、ピッチの揺れを補正できる。さらに、ビブラートの揺れまでクォンタイズすることによって、いわゆるケロールサウンドが得られる。もちろん、MIDIのようにピッチを変更することもでき、別のトラックにコピーしてからピッチシフトさせることによって、1つのボーカルからコラースを生成するといったことも可能になる。

ピッチ修正ツールの「Pitch Correct」機能

 これとはまったく別にPitch Correctという機能も追加された。こちらはCubase Studio 5にも搭載されたのだが、YAMAHAが現在「Pitch Fix」(26,040円)という製品名で発売しているピッチ修正プラグインをCubase 5に最適化し、VST3プラグインにしたものだ。

 使うキーを決めれば、自動的にその音に補正してくれるなど、扱いはより簡単になった。またフォルマントのコントロールなども可能であるため、女性ボーカルを男性ボーカル風に変えるといったことも簡単にできる。なお、Pitch Correctはプラグインであるが、VariAudioは本体機能として埋め込まれているため、Cubaseとしての修正履歴が残り、Undo、Redoの実行ができるのも大きなポイントとなっている。

 上位版のCubase 5に追加されたもうひとつの注目がREVerenceというコンボリューション・リバーブの搭載。コンボリューション・リバーブとは、実際のコンサートホールやアリーナ、スタジアム、スタジオ……といった場所での反響音をサンプリングし、それを元に空間シミュレーションを行なうというタイプのリバーブで、畳み込み演算リバーブなどとも呼ばれるもの。

 YAMAHAでは2001年にSREV1という定価で500,000円、オプションのリモートコントローラとDSP拡張カードをセットにすると850,000円という高価なコンボリューションリバーブを発売していたが、Cubase 5に搭載されたのはこのSREV1をソフトウェア化したもの。

コンボリューション・リバーブの「REVerence」 2001年に発売されたSREV1。これをソフト化したのが「REVerence」

 各空間でサンプリングしたデータのことをインパルスレスポンス(IR)というが、REVrenceにはSREV1のIRを中心に計70種類以上が収録されているのだ。もちろん、インパルスレスポンスのインポートにも対応しているので、さまざまな空間のシミュレーションが可能となっている。

複数のループ素材からオリジナルなバリエーションを生成する「LoopMash」

 REVerenceのほかにもユニークなプラグインがCubase Studio 5に2本、Cubase 5にはさらにもう1本追加されている。まずCubase 5のみに追加されたLoopMashは複数のループ素材からオリジナルなバリエーションを生成するためのツールで、もともとYAMAHAの技術開発センターが進めてきた基礎技術を元にアプリケーション化したものだ。

 画面を見ると縦に8つのトラックが並んでいるが、ここにサウンドブラウザからWAVファイルなどをドラッグ&ドロップで持っていくと、自動的にスライスされるとともに、トラック上に展開される。さらに各トラックにサウンド素材を並べていくと同様に展開され、テンポに同期する形で再生される。

 それだけであれば、これまでも似たツールはいろいろあったが、LoopMashがユニークなのは、あるトラックを選択しておくと、各トラックのサウンドを解析して、似たサウンドを見つけ出すことにある。実は8つトラックがあるものの、同時発音数を1~4に設定できるようになっており、たとえば1とした場合、いずれか1つの音しか出ない。

 トラックの左側にはレベル調整のようなものがあるが、これはボリュームではなく優先度。これを動かすことによって、どのトラックを優先するかを決められるのだ。これによって、ベース部分だけを別のトラックに差し替えるといった面白い演奏が可能になる。デモを見ただけで、実際に使ったわけではないが、これまでにないユニークなツールとなっている。

 一方、Cubase Studio 5にも搭載されているのが、リズムトラックを視覚的に編集できるMIDIプラグイン形式のステップシーケンサであるBeat Designer、そして40種類以上のプリセットキットを標準搭載したVST3対応のドラム音源、GrooveAgent ONEだ。

 GrooveAgent ONEには16個のパッドと8つのグループボタンがあるので、16×8=128種類のサンプルを読み込むことができる。そしてBeat DesignerとGrooveAgent ONEを組み合わせることによって、簡単にドラムトラックを作り出せるようになっている。

リズムトラックを視覚的に編集できる「Beat Designer」 40種類以上のプリセットキットを標準搭載したドラム音源「GrooveAgent ONE」

 もうひとつ面白い機能として追加されたのがVST Expressionというもの。これはMIDIトラックのインスペクタにメニューが追加され、キーエディタやスコアエディタなどで入力できるというものなのだが、たとえばバイオリンのボウイング奏法やピッチカート奏法といった指定をするだけで、そうした演奏ができるようになっている。

MIDIトラックのインスペクタにメニューが追加され、キーエディタやスコアエディタなどで入力できる「VST Expression」

 実際聴いてみて驚いたのは、単にMIDIのデュレーションを変更しているだけでなく、バイオリンの音がピッチカート奏法による音色に変化していること。ただし、どんな音源でもできるというわけではない。

 現在はCubase 5およびCubase Studio 5に入っているVSTインストゥルメントのサンプリング音源、HALionOneにおいて追加された14音色にのみ適応している。これらの音色は音色切り替えが可能な形になっているために、実現できる機能なのだ。

各トラックを別々のWAVファイルとして出力する「マルチチャンネル書き出し」機能

 そのほかにもNUENDOに用意されていたのと同じオートメーション機能を搭載したり、拍子トラック・テンポトラックを搭載されたり、またエクスポート機能として、各トラックを別々のWAVファイルとして出力するマルチチャンネル書き出し機能など、さまざまな機能が追加されている。

 また、Windows版においてはASIOのほかにWindows Vista SP1以降で利用可能になったオーディオドライバ、WASAPI(Windows Audio Session API)にも対応するなど、システム面でも気になる点がいろいろある。こうした詳細については、また改めて実際のソフトを使ってレポートする予定だ。



□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□steinbergのホームページ
http://www.steinberg.net/
□製品情報(Cubase 5)
http://japan.steinberg.net/jp/products/music_production/cubase5.html
□製品情報(Cubase Studio 5)
http://japan.steinberg.net/jp/products/music_production/cubase_studio5.html
□関連記事
【2008年5月12日】【DAL】Cubaseの廉価な新ラインナップ「Cubase Essential 4」
~ Win/Macハイブリッドで25,800円のエントリー版 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080512/dal325.htm
【2006年11月13】【DAL】ブラウザ追加などで効率化した「Cubase 4」
~ 「SoundFrame」搭載。ヤマハ傘下入りで変化は? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061113/dal258.htm


(2009年1月19日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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