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第353回:オンキヨーのオーディオネットトップPC「HDC-1L」
~価格を抑えた新モデル。リモコンでiTunes操作も可能~



HDC-1L

 オンキヨーから、SOTECブランドのデスクトップ型PC「HDC-1L」が12月3日に発売された。

 「music Nettop」と題されたHDC-1Lは、高品質なオーディオ再生ができるのが最大のウリ。見た目にもミニコンポというデザインだ。実際どんな性能を持ったオーディオ機器なのか試した。



■ Atom採用で低消費電力化を実現

 HDC-1Lは、オンキヨーとしては第3代目のオーディオPCとなる。初代の2007年3月にリリースされた「HDC-1.0」、今年2月にリリースされた「APX-2」に続くもので、今回は傘下に収めたPCメーカー、SOTECのブランドでのリリースとなった。

 フロントの見た目は初代のHDC-1.0とそっくり。横幅が205mmでオンキヨーのミニコンポ「INTEC 205シリーズ」と一緒に置いてデザインマッチするようになっている。大きなポイントは、当時21万円と高価だったHDC-1.0と比較し、1/3以下の59,800円と安くなっていること。さすがに21万円だと簡単には手が出ないが、5万円台となるとかなり魅力も増してくる。

Mac miniと比較

 非常にコンパクトなPCではあるが、Mac miniと比較すると、2まわり程度大きい感じではあった。では、実際どんな機材なのだろうか?

 まず、PCとしてのスペックをチェックしてみよう。これはCPUにATOM 230を搭載し、メモリが1GB、HDDが160GBといういわゆるネットトップPC。OSはWindows XP Homeが搭載されており、スペックは抑えられているが、メールやWebを扱う分には不自由なく利用することが可能なマシンだ。

 ビデオ出力はミニD-Sub15ピンのアナログ出力のみで、DVIやHDMIなどは搭載されていないが、価格帯からすればそんなものだろう。個人的にも他メーカーのAtom 330マシンを使っているが実感的にはそれほどスピード差もない。

 また、Atom搭載マシンだけに消費電力の低さは注目のポイントだ。スペック上では「最大時/約55W、標準時/約35W、省電力時/5W未満」となっているが、ワットチェッカーを用いて計測してみると、周辺機器を接続しないで使用すると通常で29W~32W、スタンバイモードでは1W~2Wと極めて省電力なPCとなっていることがわかる。

消費電力の低さが特徴。ワットチェッカーを用いて計測してみると、通常で29W~32W(左)、スタンバイモードでは1W~2W(右)という結果に


■ 独自のVLSC回路を搭載したオーディオディバイスを採用

リアパネル

 では、オーディオ機器としてみるとどうなるのだろう?

 まずはハードウェア面から見てみよう。リアパネルを見ると、左上にステレオのアナログ音声出力(RCA)がある。これが、HDC-1Lのメイン出力だ。APX-2のようにアンプは内蔵されていないので、ラインレベルの-10dBuでの出力となる。

 左下にも3つのステレオミニジャックが並んでいるが、こちらはマザーボード上にあるRealtekのHD Audioの入出力だ。つまり2つのオーディオデバイスが搭載されているわけだが、当然、Realtekのほうは、オーディオとして評価するに値しないので、ここでは割愛する。ただし、入力においてはRealtekのほうしか用意されていないので、HDC-1LはオーディオPCとしては、基本的に再生専用マシンであると割り切ったほうが良さそうだ。

 オーディオデバイスは、オンキヨーがHDC-1L専用に開発したもので、最高で24bit/96kHzに対応している。これまでのWAVIOシリーズと同様、オンキヨー独自のVLSC(VECTOR LINEAR SHAPINGCIRCUITY)2回路によって高音質化を実現している。基板を見ても主要部分が左右対称のシンメトリック構造になっており、右チャンネル、左チャンネルそれぞれが独立した回路となっていることがわかる。

 そして、DAC部分にはAPX-2と同様、TIのBurr-Brown PCM1796を各チャンネルに採用しており、オーディオ回路としては結構贅沢な仕様となっている。

オンキヨーがHDC-1L専用に開発した再生専用のオーディオデバイス DAC部分にはTIのBurr-Brown PCM1796を各チャンネルに採用

Windowsのデバイスマネジャーでも確認できる

 ちなみにHDC-1.0のDACはWolfsonのWM8716が採用されており、PCI接続された回路的にもSE-90PCIに近い設計となっていたが、HDC-1Lのものはかなり違うものとなっている。またこの基板にはいくつかのケーブルがつながっているが、PC本体とはUSB接続されている。

 このことは、Windowsのデバイスマネジャーを見ても確認することができる。また、コントロールパネルのサウンドとオーディオのところを見ると、デバイス名的にはHDC-1L Audioとなっており、Windowsのミキサーを使っての音量調整はできないようになっている。

付属品のリモコン


■ 使い勝手の良いリモコンと、操作ソフト「PureSpace」

 使い勝手のキーとなるのがリモコンだ。従来機種と同様、HDC-1Lにもリモコンが標準で付属しており、これを使うことで、マウスやキーボードを使わなくてもオーディオに関する操作は一通りできてしまう。

 PCの電源のオン/オフはもちろん、プレーヤーアプリケーションの起動、プレーヤー内での選曲、そして再生、停止、早送り、巻戻しといった操作まで全部リモコンだけでできる。個人的には液晶付きで、リモコンを見るだけで再生中の曲名や、現在状況などが確認できるHDC-1.0のリモコンが気に入っていたが、こちらはAPX-2.0のと近い通常のリモコンとなっている。

 このリモコンで「プレーヤー」ボタンを押して起動するのが、オンキヨーのオリジナルソフト「PureSpace Ver1.1」。基本的にはHDC-1.0に搭載されていたPureSpace Ver1.0と同じものであり、全画面モードで使うことが前提の10フィートUIに対応したプレーヤーとなっている。CDの直接再生ができ、Gracenote CDDB対応しているので、曲名やアーティスト名も確認できる。またCD/DVDドライブがスロットイン・ローディング方式になっているので、使い勝手も抜群だ。

オリジナルソフトのPureSpace Ver1.1。10フィートUIに対応したプレーヤー CD/DVDドライブはスロットイン・ローディング方式を採用

 あらかじめ登録しておいた楽曲ライブラリの中から、アーティスト、アルバム、ジャンルといった検索ができるようになっているが、その登録機能自体はPureSpaceには装備されていない。実はライブラリはWindows Media Playerと連携されているため、ライブラリ登録はWindows Media Playerで行なうようになっており、登録すると自動的にPureSpaceにも反映される。

PureSpaceへの直接登録機能は備わっていない ライブラリ登録はWindows Media Playerで行ない、登録するとPureSpaceに反映される

 このPureSpaceの設定で、オーディオ出力先をRealtekのほうに切り替えることも可能になっているが、通常その必要性はまったくないだろう。

 機能的にはWindows Media Playerで代用できそうだが、ほかのアプリケーションにはないメリットもある。それが、PDAP(Pure Direct Audio Path)テクノロジーというオンキヨー独自の技術だ。同社ホームページの解説によると、PDAPを使うことで、Windowsのサウンドミキサーを介さずにサウンドデバイスから音を出すため、音質の向上が図れるという。

 また、PureSpace起動中はほかのアプリケーションやWindowsのすべての機能がシャットアウトされるため、メールの着信音やその他の操作音が鳴る心配もなく、大きな音量で音楽が楽しめるのが魅力となっている。

オーディオ出力先を切り替えることが可能 オンキヨー独自のPDAP技術を使うことで、Windowsのサウンドミキサーを介さずにサウンドデバイスへ音質の向上が図れるという


■ iTunesもリモコン操作可能

 ところで、オンキヨーのPCやサウンドデバイスでは、これまでデジオンと共同開発のプレーヤーソフト「CarryOn Music」がバンドルされていたが、このHDC-1Lにはそれがない。

 その一方で、iTunesが標準でインストールされ、リモコンで操作できるようになっている。すべての音楽データをiTunesで管理している人も少なくないだろうから、そうしたユーザーにとってはなかなか便利なところだ。

iTunesをリモコンで操作するためには、プレーヤーをPureSpaceからiTunesへ切り替えておく必要がある

 ただ、iTunesをリモコンで操作するためには、あらかじめ設定ツールを使って、プレーヤーをPureSpaceからiTunesへ切り替えておく必要がある。これによって、iTunesの起動から各種操作までをリモコンでできるようになる。ただし、iTunesを利用した場合は前述のPDAPは使用できないため、音質的にはやや落ちてしまうことになる。

 同じ曲をPureSpaceとiTunesで聴き比べてみると、PureSpaceの音が格段にいい。その点を確認するためにちょっとした実験を行なってみた。それぞれでサイン波を鳴らしてみて、その波形に違いが出るかというものだ。

 手順しては、まず24bit/44.1kHzのフォーマットで-3dBの1kHzの波形を作成する。これをそれぞれで再生させるとともに、別のPCに接続したRolandのUA-101で24bit/96kHzで録音。それをWaveSpactraで解析するという方法だ。

 結果は歴然だった。キレイに1kHzだけが立っているのがPureSpace、3kHz~20kHzまでのノイズが入っているのがiTunesだ。

同じ曲をPureSpaceとiTunesで聴き比べる。WaveSpactraで解析すると、キレイに1kHzだけが立っているのがPureSpace(左)、3kHz~20kHzまでのノイズが入っているのがiTunes(右)

 PureSpaceでも2kHz、3kHzの高調波が少し入っているが、まあこれは仕方のないところである。Windowsのミキサーは最大=0dBになっているので、いくらミキサーを通しているとはいえ、理論的には音質変化はないはずなのだが、やはりいろいろと悪さをしているのだろう。

 Windowsの内部ミキサーであるカーネルミキサー(K-Mixer)をバイパスするという考え方自体は別に新しいものではなく、手法は昔からある。それがASIOであり、WDM/KSというドライバを利用する方法だ。

 オーディオデバイスそのものが粗悪な場合、いくらカーネルミキサーを通さなくても、あまり大した音にはならないが、オンキヨー製品のように、しっかりと作られたデバイスであれば大きな効果を発揮する。

 HDC-1L自体はASIOドライバやWDM/KSドライバを持っていないので、PDAPを利用したPuraSpaceでの再生が唯一の方法ではあるが、ここでもうひとつ実験を試みた。通常のMMEドライバにしか対応していないデバイスをASIO化してしまう「ASIO4ALL」というフリーウェアを使ったらどうなのか、という実験である。

通常のMMEドライバにしか対応していないデバイスをASIO化してしまうASIO4ALLというフリーウェアを使って再生する実験

 理論どおりにいけば、PureSpaceでの音と同じ音が出るはずだ。ASIO4ALLとともに、フリーのプレーヤー「foobar2000」をインストール。foobar2000はプラグインでASIO対応するため、ASIO4ALLを使って、先ほど使ったサイン波を再生させてみた。その結果、予想通り、PureSpaceの場合とほぼ同じものとなったのだ。なお、プレーヤーでの再生だけであるため、ASIO4ALLでのレイテンシーの設定は大き目にしておいた。

フリーのプレーヤー「foobar2000」をインストールし、サイン波を再生 その結果、PureSpaceの場合とほぼ同じものとなった

 もうひとつ別の実験も行なってみた。本当に24bit/96kHzでの音が出ているのかを確認するというものだ。実は、HDC-1Lにはサンプル曲として24bi/96kHzのWindows Media Audio 9.2によるロスレスデータがいろいろと入っているので、これを出力させた結果と、CDをWAVでリッピングした音で波形の違いを比べてみた。

 この結果もキレイに出た。CDでは22.05kHzでしっかり落ちており、それ以上の高調波なども出ていない。それに対してまったく別の曲ではあるが、24bit/96kHzの曲では、高域までの音が確認できる。

CDでは22.05kHzでしっかり落ちており、それ以上の高調波なども出ていない(左)。それに対し、24bit/96kHzの曲では高域までの音が確認できる(右)

 しかし、いくつかの曲を鳴らしてみると、いずれも25kHz~35kHzあたりの音が出ていないのだ。なぜなのか気になって、オリジナルのWMAデータを解析してみたところ、データ自体がその辺りの帯域が欠如していた。つまり、ハードウェア的にはなんら問題ないようだった。

 以上、HDC-1Lについて検証したが、下手なミニコンポよりも遥かにいい音質で、この価格、このサイズでれば十分に満足いく。個人的にはS/PDIF入出力も備えておいてくれるとさらに使い勝手がよかったように思えるが、お勧めできる「買い」の製品だ。



□オンキヨーのホームページ
http://www.jp.onkyo.com/
□ニュースリリース
http://www.jp.onkyo.com/sotec/topics/2008/1202-hdc1l.html
□ソーテックのホームページ
http://www.sotec.co.jp/
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(2008年12月22日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部
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