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第111回:International CES特別編
CESで見るプラズマ最新事情
~革新を続けるパナソニックと追い上げる韓国勢~


 昨年のCESでリアプロテレビをあまり見かけなかったが、今年は新製品がほぼ皆無状態で、一部3D Readyの立体視用途としてDLPリアプロが置いてある程度となった。プラズマディスプレイ/テレビも今年のCESでは絶対数を減らしているが、今回はPDPのCES最新事情をお届けしよう。


■ パナソニックは「NeoPDP」をアピール

パナソニックブース。中央の大型パネルが150V型PDP。右下が厚さ2.54cmの54V型「VIERA Z1」

  日本メーカーでPDPに最も力を入れているパナソニックのブースでは、「NeoPDP」がキャッチコピーとなっている。これは、'09年モデルから採用される新世代PDPのブランド名だ。北米におけるNeoPDP採用製品のラインナップは、厚さ1インチの極薄タイプ「Z1シリーズ」、チューナ一体型で厚さ2インチの「V10シリーズ」、コストパフォーマンス重視の「G10シリーズ」、「S1シリーズ」が挙げられる。

 日本でもこの「NeoPDP」を採用したモデルが投入される予定だが、「NeoPDP」とは一体なんなのだろうか? 同社技術スタッフによれば、3つの新しい要素から成り立っている新世代パネルを指すという。

 1つは「新しい画素セル構造」、2つ目は「新素材と新しい製造プロセス」、3つ目は「新しい駆動方法」だ。この内、1つ目の新画素構造と2つ目の新素材と新製造プロセスは深い関係にある。順を追って解説していこう。

NeoPDPの3つの新要素技術とは?

 フルHD世代のPDPには、高解像度化の弊害で、液晶に比べてどうしても開口率が小さくなるという弱点がある。これがフルHD世代になって暗くなってしまった要因で、「プラズマは眩しすぎない」というキャッチコピーを生むことにもなった。ただあのコピーに甘えることなく、さらなる改善が行なわれていた。

 開口率が構造的な制約で変えられない以上、明るくするためには発光効率を上げるしかない。そこで着目したのが画素セル内に封入してある希ガスのレシピ変更だ。従来、プラズマ画素セル内にはネオンガスとキセノンガスの比率を9:1に混合させたものを活用していたが、NeoPDPでは新たな発光ガスレシピの開発に成功。発光効率を劇的に高められたのだ。

 ただ、ここでやっかいな問題に直面する。新レシピのガスでは駆動電圧が上がってしまうのだ。ただでさえPDPは消費電力が高ので、この問題解決に取り組む必要がある。PDPの画素セルは、大まかに見ると表示面側の前面ガラス基板と、背面ガラス基板のサンドイッチ構造になっているが、このうち画素セルの表示面の前面ガラス基板側にはプラズマ放電の際の電圧を下げる役割を果たす保護膜層がある。

消費電力1/3で従来パネルと同程度の明るさ

 開発陣は駆動電圧を下げるため、新たな保護膜層素材の開発に取り組んだ。保護膜には、従来のPDPでは酸化マグネシウム(MgO)素材が使われるが、NeoPDPでは新開発の別素材を適用。新ガスの駆動電圧の上昇を抑えることに成功したのだという。新ガスの新レシピ、新保護膜素材についてはまだ非公開だが、こうした経緯でNeoPDPは完成。最終的には従来比で発光効率を3倍にまで高めることが出来たという。

 こうして誕生したのが、日本でも「NeoPDPeco」として発表されたパネルだ。ただ、現状では乗り越える問題がいくつか残っているため、今期のNeoPDPは発光効率は2倍、使用比電力は30%減(従来比2/3)となっている。しかし、非常に近い将来、発光効率3倍、消費電力1/3NeoPDPecoを採用した製品が登場するだろう。

左が従来パネル、右がNeoPDPeco。従来パネルの消費電力パーセンテージを100%として、右のNeoPDPを異なる消費電力パーセンテージで駆動させるデモ。100%同士だとNeoPDPでは明るすぎで撮影した写真が白く飛んでしまう NeoPDPecoは66%でもまだ明るい。発光効率の良さが現れている 30%前後でやっと同程度の明るさに

 3つ目の新駆動法だが、これはサブフィールド駆動を従来の480Hzから600Hzに引き上げたことを意味している。PDPは階調を明滅頻度で時間積分的に生成しているが、フルカラー表現は、RGBの各サブピクセルの明滅頻度で表現されるため、動く映像を目で追うと、液晶の残像感とは違う、独特な色がずれが「色割れ」現象として知覚されることがある。この明滅頻度をさらに高頻度化(明滅の高速化)して、その制御精度を高めることで、PDPの階調表現、カラー表現、動画性能を高めることに成功したのだ。

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【1月8日】パナソニック、消費電力1/3のプラズマ「NeoPDPeco」を開発
-8.8mm厚の50型。消費電力半減のNeoLCDecoも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20090108/pana1.htm


■ NeoPDPecoは厚さ8.8mm

 パナソニックのブース内では、このNeoPDPを採用した製品の展示と、パネルの実力をわかりやすく見せるためのデモを展開。最新テクノロジを体感できる、ちょっとした万博的ゾーンとなっていた。その中でも、'09年版NeoPDPの象徴的な製品は、厚さわずか1インチ(2.54cm)のVIERA Z1「TC-P54Z1」(北米型式名)だ。

 画面サイズ54V型で、チューナは別体型でディスプレイ部とはワイヤレス接続される。ワイヤレス接続技術に関してはSiBEAMとの共同開発したもので、1080pのフルフレームレートをロスレスで伝送できる。電波帯は60GHz帯のミリ波伝送を使用している。

NeoPDP採用の厚さ2.5cmのフルHDプラズマTV「VIERA Z1」

画質も素晴らしい。北米モデルのVIERA Z1「TC-P54Z1」は2009年6月発売予定。価格は未定

 前述のようにVIERA Z1以外にもV10シリーズ、G10シリーズ、S1シリーズがNeoPDP採用モデルであり、画面サイズなどの違いはあるが、基本的に表示性能は全て同等だ。共通スペックとして謳われるのは、4万:1のネイティブコントラスト。PZ800系では画素セル内の放電速度を高速化させ、さらに電荷保持電圧の低減化を達成したことで予備放電を極限まで低減。その結果、黒を徹底的に沈み込ませることに成功していた。ピーク輝度が2007年とそれほど変わらずに、コントラストを1万:1から3万:1にまで高められたのは、暗部階調表現も漆黒から始めることができるようになったからだ。

コントラスト比較デモ。左が従来のVIERA。右がNeoPDP。左の暗部階調レベルに合わせて撮影すると、NeoPDPは高輝度部が白飛びしてしまう。つまり、ピーク輝度が向上している

 '09年のNeoPDPでは、さらにピーク輝度も高められたため、4万:1にまで向上したのだと思われる。なお、動的コントラスト表現ではコントラスト比200万:1を実現できているとのこと。  もう一つの注目の共通スペックは動画解像度が従来の900ラインからフル解像度の1080ラインへと向上した点。これは、サブフィールド駆動の600Hz化が功を奏した結果だ。

 実際に映像を見てみたが、漆黒の黒と鋭いピーク輝度が同居するコントラスト感はさすがの一言。また、発色も非常に魅力的になっており、プラズマ画質の抱えていた問題はほぼ全て解消されたと言っていいと思う。特に暗部階調の不自然さは微塵もない。また、動きの激しい映像を目で追っても色割れは知覚されなかった。

 ちなみに今世代のNeoPDP採用モデルは全てTHX社が提唱する民生向けのディスプレイ高画質基準「THX Certified Display Program」の認証をうけている。同認証を受けた日本メーカーの他社製品としては、AQUOS-Tシリーズがある。

 そしてブース内には、将来のNeoPDPeco採用製品のコンセプトモデルも展示されていた。50V型の極薄フルHD PDP試作機で、厚さは1/3インチ(8.8mm)。パネル世代的には'09年のNeoPDPとなり、画質性能的にはVIERA Z1に準ずるものだとのこと。日本のPDPは、パナソニックがいる限り、まだまだ進化が止むことはなさそうだ。ちなみに、今世代のNeoPDP関連技術はパイオニアのPDP開発技術陣が合流する前からのものであり、パナソニック独自技術だという。元パイオニアPDP開発陣との技術コラボパネルの登場は次世代以降となりそうだが、そちらも楽しみである。

スクロールする映像を見せて動画性能の違いを体験 APDC(次世代PDP開発センター)が提唱する動画解像度測定方式で、フル解像度値の1080ラインを達成 ここ数年のVIERAシリーズの動画解像度進化の推移
次世代のNeoPDP採用製品のコンセプトモデル。厚さは驚きの8.8mm。だが、画質は2009年モデルのNeoPDPと同等で、薄くなったことによる画質への妥協は無いようだ


■ 日立は最薄部35mmのセミHDプラズマを展示

 日立では、昨年のCEATECで公開された最薄部35mmの50V型PDP試作機を展示していた。解像度はフルHDではなく1,280×1,080ドット。かつてALIS方式のパネルで一世を風靡した日立だが、現行の薄型テレビのラインナップは液晶が中心となっている。


■ サムスンも画質改善。チューナ一体型では最薄モデルも

サムスンブース

 日本のテレビ市場からは撤退してしまったので、日本のユーザーからするとテレビメーカーとしての印象が薄まっているサムスンだが、依然PDPの進化には意欲的に取り組んでいる。同社の'09年PDPでホットトピックとなっているのは「チューナ一体型として世界最薄」を謳う8シリーズだ。

 チューナー別体型ではパナソニックのZ1シリーズの厚さ1インチ(2.54cm)が世界最薄だが、一体型としてはサムスンの8シリーズの1.1インチ(2.8cm)が世界最薄というわけだ。8シリーズは50V型の「PN50B850」と58V型の「PN58B850」の2製品がラインナップされており、北米では3月の発売が予定されている。価格は未定。

PDP、8シリーズは50V型のPN50B850(手前)と58V型のPN58B850(奥)の2製品がラインナップされており、北米では3月の発売が予定されている。価格は未定 厚さ1.1インチ(2.8cm)はチューナ一体型としては世界最薄のプラズマ。薄いだけでなく、画質レベルも良好

 同社もPDPのサブフィールドの更新周波数を引き上げたことで動画解像度の向上に成功。APDC測定法で、従来モデルが900ラインだったものが、今世代PDPでは1080ラインのフル解像度スペックとなっている。
サムスンPDPも動画解像度が1080ラインのフルスペック解像度に到達

 また、ブース内に次世代PDPの一例として63V型の超高解像度の試作パネルを公開していた。解像度は4,096×2,160ドット。これは業務用シネマ規格DCIで規定された4K2K解像度に相当するもの。1,920×1,080ドットの4倍である「4x Full HD」(3,840×2,160ドット)解像度とは異なっているのが特徴だ。パナソニックの世界最大の150インチPDPも、このDCI規格の4K2K解像度だった。

 ドットピッチは0.339×0.363mm(H×V)。60V型クラスのフルHD PDPのドットピッチが大体0.7mm前後なので、その半分以下と言うことになる。サムスンのPDPも、発光効率の改善によって明るい高解像度パネルが実現可能になったと見られる。なお、PDPは2009年1月現時点において一般公開されたパネルとしては、世界一ドットピッチが高精細なパネルとなる。実際に映像を見てみた感じでは、高解像度PDPゆえの暗さはほとんど感じられず、画質の品質も良好であった。サムスンも、まだまだPDP技術をあきらめてはいない。

63V型の大きさで4K2K解像度を詰め込んだ超高精細プラズマ。画質も良好


■ LG電子も600Hzサブフィールド駆動パネルを投入。次世代型の薄型PDPも展示

LG電子ブース

 もう一つの韓国勢、LG電子も新世代PDPの研究開発に注力し続けている。LG電子も、PDPの各画素セル内の予備放電を低減させる改良を施し、黒レベルのさらなる低下を実現している。また、蛍光体の改良、表示面ガラスコーティングの工夫により外光反射を2008年モデルと比べて20%低減することで視覚上の輝度を向上させている。

 今年のPDPのトレンドなのだろうか。申し合わせたようにPDP製造メーカー全体がサブフィールドを480Hzから600Hzへと向上させ、階調表現の改良、そして動画解像度の向上へと結びつけている。

 従来の480Hzサブフィールドでは1フレームあたり8サブフィールドによって時間積分的な階調を生成している。表示フレームレートが60Hzなので8f×60F=480Hz、毎秒480フィールド駆動だったというわけだ。これに対し、新世代パネルの600Hzサブフィールド駆動では1フレームあたりを10サブフィールドで駆動し10f×60F=600Hz、毎秒600フィールドとなる。

発光効率改善に成功したLG電子製PDPにはUltra Bright Panelというブランド名が付けられた 600Hzサブフィールド駆動が今世代PDPのトレンドに

 PDPの階調特性改善にはサブフィールドの輝度レベルを時間軸方向に表示中心時刻から前後に平均化させる方法や、表示面方向に誤差拡散させる工夫などが常套手段であったが、今世代のPDPでは、根本的なサブフィールド増量方向での改善がPDP業界全体で始まったと言うことなのだろう。

600Hzサブフィールド駆動により階調特性と動画解像度が劇的に改善した今世代のPDP

 LG電子はこの新世代PDPを、'09年のプラズマテレビモデルに採用する。フルHDモデルとしてはネット機能ありの「PS80シリーズ」と、省略した「PS60シリーズ」があり、画面サイズはどちらも60V型と50V型が用意される。THX Certified Display Programの認証を受けている高画質モデルであり、LG電子の薄型テレビラインナップ全体としてもハイエンド製品に位置づけられる。

 次世代PDPの展示では、LG電子も流行の超薄型PDPを展示。厚さはわずか1インチ(2.54cm)で、パナソニックの「VIERA Z1」と同等。ただし、こちらはあくまで試作機であり発売時期や価格は未定。

2009年のLG電子製PDP製品は600Hzサブフィールド駆動対応のUltra Bright Panelを採用する LG電子も超薄型PDPの開発に名乗りを上げた。薄さ1インチを謳うが、接続端子が突き出るので実測的には1インチ以上になっているようだ 超薄型PDPでも画質は良好

 それにしてもサムスン/LG電子、共に韓国勢のPDPの画質は以前と比べてかなり向上したと感じる。以前までの画質は今一歩という印象で、大画面戦争のためだけの存在というイメージを抱きつつあったのだが、パナソニックの150V型PDPで大画面戦争に終止符が打たれたあとは、画質改善が著しくなった。今世代PDPは階調表現、発色、コントラスト感、そして動画性能も非常に高いレベルでまとまっていると思う。

 ディスプレイパネルのシェア的には、いまや、液晶の1/7しかないPDPだが、このPDP製造メーカーの一丸となった性能/画質向上の成果により、果たして、状況は打開されるのだろうか。2009年のCESで、プラズマ関連の展示がどうなっているかが非常に興味深い。

□2009 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
【2009 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2009ces.htm

(2009年1月13日)

[Reported by トライゼット西川善司]


西川善司 大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。

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AV Watch編集部

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