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第325回:Cubaseの廉価な新ラインナップ「Cubase Essential 4」
~ Win/Macハイブリッドで25,800円のエントリー版 ~



Cubase Essential 4

 Cubase4シリーズに新たなラインナップ「Cubase Essential 4」が加わった。従来からあるCubase Studio 4の下位バージョンに位置づけられるDAWだが、YAMAHA製品にバンドルされているCubase AI 4や、TASCAM製品、ZOOM製品などYAMAHA以外の製品にバンドルされているCubase LE 4との違いはあるのだろうか? Windows Vistaにインストールして試した。


■ 25,800円の手ごろな「Cubase」

Cubase Essential 4

 SONARやLogic、Digital Performerなどと異なり、CubaseはMacでもWindowsでも使えるハイブリッドであるのがひとつのウリ。1つのパッケージを購入すれば、両方の環境で使うことができるのだが、ほかのDAWと比較すると金額的に高いのがネックになる。特にCubase4は実売11万円程度と、59,800円のLogic Studioの倍近い価格だ。Logic Studioとの同価格帯にCubase Studio 4があるが、これからはじめたいというエントリーユーザーにとってはそれでも敷居が高いかもしれない。

 そんな中、登場したCubase Essential 4は25,800円とかなり手ごろだ。前世代のCubase SE3の後継という位置づけで、スペック的には最高で24bit/96kHzまで扱え、オーディオトラック数は64、MIDIトラック数、インストゥルメントトラック数ともに無制限とほとんどのユーザーにとって十分なものとなっている。バージョンはCubase 4やCubase Studio 4と同様の4.12なので、Vistaでも問題なく使え、サンプルエディタでインスペクターが使えるなどより使いやすいものとなっている。

バージョンはCubase 4やCubase Studio 4と同様の4.12 サンプルエディタでインスペクターが使える

 ただ気になるのはCubase AI 4やCubase LE 4との関係だ。最近、YAMAHAのDTM系機材を購入すればCubase AI 4がバンドルされており、TASCAM、ZOOMといったメーカーの製品にはCubase LE 4がバンドルされている。AI 4とLE 4の大きな違いはAIエンジンと呼ばれるYAMAHA製品との深い連携機能があることで、細かく比較すると、VSTプラグインの数など違いはあるが、基本的な機能はかなり近いものとなっている。

 さらに、ZOOMのギターエフェクトシステムのZFXや、TASCAMのUSBオーディオインターフェイスのUS-122Lなど2万円以下のハードウェア製品にもCubase LE 4がバンドルされているから、Essential 4と大きな機能差がないとしたら、バンドル品を購入するほうが圧倒的に有利ということになる。今回は、この辺を中心に比較した。


■ プロ御用達機能として評価の高い「Apogee UV22HR」も搭載

ソフトサンプラー「HALionOne」

 まずは先ほども紹介した主要スペックだが、AI 4/LE 4とはここにも大きな違いがある。24bit/96kHz対応という点では同様であるものの、オーディオトラック数はAI 4/LE 4は48トラックなのに対してEssential 4は64トラック。さらに大きいのがインストゥルメントトラックの数だ。

 インストゥルメントトラックとは、ソフトシンセを組み込んだトラックのことだが、AI 4では16、LE 4では8までと制限されているのに対して、Esseintial 4は無制限であるため、CPUパワーがある限り、数多くのソフトシンセを起動させて、同時に多くの音色を鳴らすことができる。最初は8トラック程度で満足できるかもしれないが、MIDIで曲を作りこんでいくとどうしても物足りなくなってくるので、無制限というのは大きいポイントだろう。

 ちなみにEsseintail 4に入っているソフトシンセはAI 4/LE 4と同様にソフトサンプラーのHALionOneのみ。Cubase 4にあるSpectorやMysic、Prologueといったものは入っていないが、VSTインストゥルメントのプラグインでいくらでも追加できるから、やはりインストゥルメントトラック無制限の恩恵は大きい。
フリーズ機能に対応

 さらにAI 4/LE 4との大きな違いとして挙げられるのが、フリーズ機能への対応だろう。フリーズ機能とは、ソフトシンセをリアルタイムに鳴らすのではなく、トラックが完成させたら、それをオーディオデータ化してしまうことで、再生時のCPU負荷を大きく軽減するというもの。

 もちろん、フリーズ解除すれば、再度エディットすることは可能だから、インストゥルメントトラックの数が増えてきたときには大きな威力を発揮してくれる。AI 4やLE 4にはこれがなかったので、あまり大きな規模のトラック編成ができなかったが、Essential 4はフリーズ機能に対応しているので、かなり余裕を持って使うことができそうだ。

AmpSimulatorも搭載

 強力になったプラグインはソフトシンセばかりではない。エフェクトのVSTプラグインの方も、充実しており、AI 4やLE 4にないプラグインが数多くある。そもそもVSTプラグインがAI 4よりも少ないLE 4と比較すると格段に充実している。とくに注目したいのがCubase 4、Cubase Studio 4で定評のあるAmpSimulatorが搭載されている点。これだけでも十分買う価値があるというものだ。

 さらに、プロ御用達機能として評価の高い「Apogee UV22HR」が搭載されているのも大きなポイントだろう。これは24bitデータとして完成されたサウンドを、CD用の16bitに変換する際に発生する量子化エラーのために発生するノイズをなくすためのディザーと呼ばれるツール。UV22HRのためにCubase 4やCubase Studio 4を購入するという人も少なくないため、見逃せない点だ。そのほかにも特定周波数のゲインをあげるフィルター「ToneBooster」なども追加されている。

「Apogee UV22HR」も搭載 「ToneBooster」も追加されている


■ 各種MIDIプラグインも装備

 また、Cubase 4、Cubase Studio 4にあって、AI 4やLE 4にない機能にMIDIプラグインがある。MIDIプラグインはVSTプラグインほどポピュラーなものではないが、MIDIデータに適用することで、アルペジオを生成するArpache 5や、コードを生成するChorder、ステップシーケンサを実現するStep Designerなど、かなり便利なツールがいろいろある。

 そのMIDIプラグインが、Esseintial 4には搭載されている。Cubase 4と比較すると、Arpache SXおよびContext Gateの2つがないだけで、それ以外はすべてが備わっている。

Arpache 5 Chorder Step Designer

メディアベイにも対応

 そして、もうひとつの目立つ違いが、Cubase SX 3からCubase 4に進化した際の目玉機能であったメディアベイに対応していることだ。AI 4/LE 4もVST3のプリセットには対応していたものの、メインであるメディアベイには対応していなかったが、Essential 4ならこれが使えるので、Cubase 4シリーズとしてさまざまな恩恵が得られそうだ。

 さらに、マルチポートの入出力を持つオーディオインターフェイスをフル活用しようとしたときに効いてくるのがオーディオ・デバイスの入出力端子にアサインできるバスの数だ。これが、AI 4は16あるものの、LE 4では4つしかないため使い方に制限を感じてしまう。しかし、Essential 4では32までアサインできるので、通常の使用であれば、ほぼ十分といえるだろう。

 最後にもうひとつAI 4/LE 4との決定的な違いがコピープロテクションだ。ともにSyncrosoftのシステムを使っているのだが、AI 4/LE 4はオンラインでオーソライズする方式をとっているのに対してEssential 4はCubase 4やCubase Studio 4と同様にUSBのドングルを使用している。どちらがいいかは、一長一短あるが、このドングルさえ持っていれば、どこの環境でも利用できるというのは大きなメリットといえるだろう。


■ AI 4、LE 4から16,800円でアップグレード可能

 AI 4/LE 4とEssential 4の機能差のみをピックアップしたが、やはりその価格の価値は十分ありそうだ。これだけの機能があると、Cubase 4やCubase Studio 4を買うまでもない、という気もしないでもないが、ソフトシンセやエフェクトなどのプラグインのラインナップや、より高度な編集機能を装備している点など、違いはいろいろある。ただし、エントリーユーザーであれば、Essential 4があれば十分なようにも思う。

 また、まずEssential 4からスタートして、物足りなくなったら上位版へアップグレードするという方法もあるので、安心して使うことができそうだ。このアップグレードに関しては、すでにAI 4やLE 4を持っている人にとってもメリットがある。というのも、AI 4、LE 4さらには従来バージョンであるCubase LEからもEssential 4へのアップグレードパスが用意されているのだ。YAMAHAの特約店への申し込みが必要とはなるが、いずれのバージョンからでも16,800円でEssential 4を購入することができる。意識していなくても、探してみると、何かにCubase LEがバンドルされていた、という人も少なくないと思うので、これをうまく利用すれば安く買えそうだ。



□スタインバーグのホームページ
http://www.steinberg.net/714_0.html
□製品情報
http://www.steinberg.net/1619_0.html
□関連記事
【2007年8月27日】【DAL】YAMAHA製品専用バンドルソフト「Cubase AI4」を検証
~ Cubse 4ベースの実用性の高い無償ソフト ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070827/dal294.htm
【2006年11月13日】【DAL】ブラウザ追加などで効率化した「Cubase 4」
~ 「SoundFrame」搭載。ヤマハ傘下入りで変化は? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061113/dal258.htm
【2007年11月19日】【DAL】アップルのDAW「Logic Studio」を「Leopard」で試す ~ その2:「MainStage」など豊富なユーティリティソフト ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071119/dal304.htm
【2007年10月29日】【DAL】アップルのDAW「Logic Studio」を「Leopard」で試す
~ その1:インターフェイスを一新。ドングルも不要に ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071029/dal301.htm

(2008年5月12日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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