【バックナンバーインデックス】



第358回:Roland/Cakewalk/EDIROL/BOSSの新製品をチェック
~ 「V-Piano」などNAMM2009出展モデルを国内初公開 ~



 2月6日、ローランドが春の新製品発表会を行なった。今回発表されたのは、主に1月にアメリカ・カリフォルニア州で開催されたNAMM SHOW 2009でお披露目された製品で、Roland、BOSS、Cakewalk、EDIROLの各ブランドの製品だ。

 その目玉は「V-Piano」というまったく新しい音源方式の電子ピアノで、楽器業界における久々の大物新技術といえるもの。価格も60万円と、簡単に手が出せるものではないが、このV-Pianoを含め、どんな新製品が登場したのか、紹介していこう。

2月6日行なわれたローランド 春の新製品発表会



■ バーチャルアコースティックをリアルタイムで実現する「V-Piano」

新製品のV-Piano

 まずは、そのV-Pianoから。ローランドではこれまでV-Drums、V-Accordion、V-Guitar、V-Bass、V-Synthなど、実際の楽器をモデリング技術などを用いてシミュレーションして鳴らす独自技術の電子楽器をリリースしてきた。そのVシリーズに新たに追加されたのがV-Pianoだ。Rolandでは10年以上の研究開発を続けた結果、ようやく製品化されたとのことだが、これはまさにアコースティックピアノをデジタル演算によってモデリングした楽器だ。

 アコースティックピアノは鍵盤を叩くと、フレームに張られた金属弦をハンマーが打ち、その音はほかの弦も共鳴させながら、駒から響板へとつたわり、ピアノ各部やホールに響き渡っていく。また、その弦も低音部では太い銅巻き弦が1~2本、中音部および高音部ではスチール弦が3本という構成になっているが、そうした弦の素材や本数なども含め、すべてシミュレーションして音を出しているのだ。

 これまで電子ピアノ、ピアノ音源といえばサンプリングが基本となっていた。また最近は、そのサンプリングをGB単位で行うものも増えてきており、その音色競争が激化してきているが、V-Pianoはサンプリングとはまったく異なるアプローチのピアノ音源なのだ。

 実際、弦、ハンマー、響板、ダンパーなどピアノ音を生み出す各コンポーネントの複雑な相互干渉までも再現しており、実際その音はまさにアコースティックピアノという音がする。その仕組み上、ちょっとユニークなのが最大同時発音数という考え方がなく、代わりに最大発音仮想弦数というものがあり、最大264弦による独立した弦の響きを実現している。

 このような、バーチャルアコースティックをリアルタイムで実現するには、かなりの演算能力を必要とするが、ここにはローランドのフラッグシップシンセサイザ、Fantomに搭載されている独自DSPが採用されている。そして、そのDSPを使った各パラメータの設定は、接続したPCの画面上でもいろいろと変えられるようになっているのだ。

Fantomに搭載されている独自DSPを採用。そのDSPを使った各パラメータの設定は、接続したPCの画面上でもいろいろと変えられるようになっている

 その結果、これまでのサンプリング方式のピアノではできなかった、さまざまなことが実現している。分かりやすいのが調律。V-Pianoではユーザーが各弦を自由に調律できるため、アコースティックピアノ同様、自分だけのピアノを作り上げることができる。たとえば、高音部での3本あるスチール弦のそれぞれのチューニングを変えるなど、本当に自在なのだ。

 さらに、世の中には存在しないような豪華なピアノを作ることができるのもV-Pianoの大きな特徴。たとえば、全弦の素材を銅よりも重く柔軟な材質であるシルバー巻線にしてしまう、といったことができる。この場合、銅より重くしなやかな銀に対応するため、ハンマーも大きく硬いものにする必要がある。もし、これを実際のピアノで作ろうとすると、莫大なサイズになってしまうそうで、実現はほぼ不可能。それをモデリングによって実現できるというわけだ。

 発売は3月下旬の予定で、実売価格が60万前後になる見通しだ。

Fantomなどに搭載可能な拡張音源ボード「ARX-03」

 V-Pianoほどではないが、やはり新技術の音源として驚いたのが「ARX-03」というFantomなどに搭載する拡張音源ボード。オプション製品という意味では地味な製品なのだが、なかなかすごい。

 まずこれは以前にも紹介したSuperNATURALテクノロジーという技術をつかったブラス・セクションの音源。トランペット、トロンボーン、ソプラノサックス、アルトサックスなど主に8種類の音が出せる。そして各楽器のパラメータの設定することによって、それぞれのプレーヤーの個性を設定できるのが面白いところ。具体的には演奏の正しさ、目立ちたがり度といったものを設定するのだ。これによって、微妙なタイミングのズレやピッチの違い、他パートより音を伸ばして目立とうとするなど、人間味あふれるプレイが可能となるのだ。

 ここで、たとえば3つの音色を選択した状態で、鍵盤で3和音を弾くと、それぞれの鍵盤に別々の音色が割り振られて演奏される。どの鍵盤に何を割り当てるかはARX-03が自動的に判断し、不自然な演奏にならないようになっている。また3音を割り当てた状態で4音、5音弾いても、すべて鳴ってくれるのも、かなかな賢く便利なところ。従来の鍵盤楽器では不可能だった、ブラスのアンサンブルを簡単にできてしまうのは画期的といっていいだろう。このARX-03は2月の発売で実売価格が5万円前後だ。


■ そのほかのRolandブランド新製品

 Rolandブランドのキーボードとしてはほかに「VP-770」、「AX-Synth」、「V-Synth GT Verision 2.0」のそれぞれが登場した。まずVP-770はそれこそ1970年代からあるボコーダー、VPシリーズの最新モデル。直近ではVP-550の後継となるものだが、もちろん、昔のボコーダーとはだいぶ違う。歌いながら鍵盤を弾くことで、ボコーダーサウンドはもちろんのこと、聖歌隊やゴスペルの合唱、ポップスやロックのバック・コラースなど、明瞭な歌詞や抑揚表現でのボーカル演奏が可能となっている。

VP-770 AX-Synth V-Synth GT Verision 2.0

 一方、AX-Synthは49鍵のショルダーキーボード。単なるマスターキーボードではなく、内部にSuperNATURALを含む高品位なシンセサイザ音源が搭載されているため、別途音源を用意することなく、これ1台で演奏できてしまう。グリップ部に多彩なコントローラーが搭載されており、さまざまなパフォーマンスが可能。ニッケル水素電池×8本で駆動し、USB端子経由でPCとの連携も可能となっている。

 V-Synth GT Version 2.0は従来のV-Synth GTをファームウェアアップデートし、ウェーブデータ、トーンエフェクト、リバーブなどを大幅に追加したもの。USB経由でWAVファイルのインポートが可能になったのも大きな特徴となっている。

 VP-770は今春発売、AX-Synthは7月発売でいずれもオープンプライスだが実売価格は未定。またV-Synth GT Version 2.0は1月よりアップデータが公開されており、アップデートされた製品が発売されている。こちらは実売価格が35万円前後となっている。

 Rolandブランド製品としてはもうひとつのVシリーズとしてV-Drumsの新製品として、「TD-4K-S」および、その音源部である「TD-4」が登場している。

TD-4K-S TD-4

 25のドラムキットを装備するとともに、チューニングボタンおよび、マフリング(ミュート)ボタンを装備。これによって、スネアやタムなどを個別にチューニングしたり、ミュート具合いを設定することが簡単にできるようになり、よりアコースティックドラム感覚で利用できるようになっている。

 また9種類のアンビエンス・エフェクトを搭載するほか、演奏を瞬時に録音できるQUICK REC機能、さらにタイムチェックやテンポチェックをパーセント表示できるトレーニング機能なども搭載している。ドラムセットであるTD-4K-S、音源部のTD-4ともに2月6日発売で、オープン価格。実売価格はそれぞれ110,000円前後、40,000円前後となっている。

 V-Drums関連では、一昨年発売されたエントリーユーザー向けのV-Drums lite HD-1のオプションとして、Windows用のチューターソフト「DT-HD1」が登場した。これはHD-1でのドラム練習を効果的に支援してくれるというもので、付属のUSB-MIDIインターフェイス経由でPCと接続することで利用できる。お手本パターンや楽曲に合わせてドラムが叩ける「ドラム譜画面」とゲーム感覚で叩ける「ゲーム画面」の2種類の画面でトレーニング可能となっている。こちらは3月中旬に発売でオープンプライス(実売価格8,000円前後)となっている。

DT-HD1「ドラム譜画面」 こちらは「ゲーム画面」

 そのほかRolandブランドからは80Wのギターアンプ「CUBE-80X」(2月15日発売、42,000円前後)、320Wのステレオキーボードアンプ「KC-880」(3月発売、105,000円前後)といったものがリリースされている。

80Wギターアンプ「CUBE-80X」 320Wステレオキーボードアンプ「KC-880」


■ ブランド変更があったCakewalkとEDIROLの新製品

DTM/コンピュータミュージック関連は今回からすべてCakewalkブランドに統一された

 今回ブランド変更があったのが、EDIROLとCakewalk関連。これまでDTM、コンピュータミュージック関連はハードウェアがEDIROLブランド、ソフトウェアがCakewalkブランドと混在していたが、今回からすべてCakewalkブランドに統一された。すでにSONARを中核とした業務用レコーディングシステムともいえるSONAR V-STUDIO 700はハードウェア部も含めてCakewalkブランドとなっていたが、今回コンシューマ向けのオーディオインターフェイスやMIDIインターフェイスもCakewalkとなったのだ。

 まずは、現行のEDIROL UA-1EXの後継となる24bit/96kHzのUSBオーディオインターフェイス「UA-1G」。こちらは基本性能はそのままだが、ハイインピーダンス対応のギター入力端子を装備するとともに、フロントに大型のインプットボリュームを装備。さらに、クリップを知らせるピークインジケータが搭載された。

UA-1G

 また従来は波形編集ソフト「Sound it! 3.0LE」がバンドルされていたが、今回からはCakewalkの波形編集ソフト「Audio Creator LE」に差し替えられている。そのためオーディオインターフェイスとしてはMacでも問題なく使えるものの、アプリケーションはWindowsのみの対応となった。なお、このAudio Creator LEはバージョン1.5へとアップデートされており、ギャップレスCDの作成なども可能となっている。この1.5は後日ネットからアップデータがダウンロードできるようになるとのことなので、既存のAudio CreatorおよびAudio Creator LEのユーザーにも恩恵があるようだ。

 USB-MIDIインターフェイスのほうも、一新した。これも従来のEDIROLブランドのUM-1EX、UM-2EX、UM-3EXのそれぞれが、Cakewalkブランドの「UM-1G」、「UM-2G」、「UM-3G」に置き換わった。基本的にはブランドと色、ラバーコーティングによる質感の変更といったところだが、従来1IN/2OUTであったUM-2EXは2IN/2OUTへと変更されている。

UM-1G UM-2G UM-3G

 UA-1Gは3月中旬に発売でオープンプライス(実売価格12,000円前後)。UM-1G、UM-2G、UM-3Gはいずれも2月下旬発売で、オープンプライス。実売価格はそれぞれ4,300円前後、5,500円前後、8,000円前後となっている。

 では、EDIROLブランドはどうなるかというと、映像関連製品のブランドとして残る。そのほかにもリニアPCMレコーダのR-09HRやデジタルミキサーのM-16DXなどがEDIROLブランドとして残ることになる。

モニターヘッドフォン「RH-ED1」

 今回そのEDIROLブランド製品の発表は1点のみ。R-09HR用のモニターヘッドフォン「RH-ED1」だ。

 R-09HR専用というわけではないが、デザイン的にもR-09HRにマッチさせているほか、デジタルレコーダのモニタリング用としてチューニングされており、ワイドレンジをバランスよくカバーできるようになっている。また、3種類のイヤーチップが同梱されており、キャリング・ポーチも付属している。これは近日発売予定で、価格は未定となっている。



■ BOSSは楽器用チューナやエフェクタをラインナップ

ギター用マルチエフェクタ「ME-70」

 最後に紹介するのがBOSSブランド。BOSSブランドからはギター用のマルチエフェクタ、チューナなどが登場しているが、まずはギター用マルチエフェクタ「ME-70」から。ME-70はコンパクトエフェクタ感覚で使えるシンプルなユーザーインターフェイスのMEシリーズの最新モデル。左からコンプレッサ/FX、オーバードライブ/ディストーション、モジュレーション、ディレイという流れで、すぐに活用できるエフェクタてっている。

 今回新たに開発したDSPを搭載。このDSPを利用し、ローランドの独自モデリング技術COSMによるリアルな6タイプのプリアンプ・モデリングを搭載したのが最大の特徴。一般的なアンプと同様にBASS、MIDDLE、TREBLEのつまみを装備しているので、音質の補正も簡単にできる。さらにプリアンプをEQモードとすると、4バンドのパラメトリックEQとしても使うことができる。2月15日の発売で、オープンプライス(実売価格35,000円前後)となっている。

 そして、チューナ=チューニングメーターが一挙に4機種も発表された。それぞれ簡単に紹介すると「TU-12EX」はギター/ベース用チューナの定番モデルTU-12の新バージョン。針式メーターとLEDチューニング・ガイドによる分かりやすいユーザーインターフェイスはそのままに、チューニングがジャストになると「ピピッ」と音で知らせるアキュピッチ機能や基準音発音機能などを装備している。

 「TU-12BW」は管楽器ユーザー向けに設計されたクロマチック・チューナ。広い測定範囲えさまざまな管楽器に対応し、より正確なチューニングが行えるようにクリップ式のコンタクト・マイクを同梱している。

ギター/ベース用チューナ「TU-12EX」 管楽器ユーザー向けのクロマチックチューナ「TU-12BW」

 ホワイトとブラックの2色が用意された「TU-88」はギタリストの練習用アイテムとして最適なメトロノーム機能搭載のマイクロモニター/チューナ。ヘッドホンアンプ機能を備えているので、ギターやベースと直結した音をそのままモニターできる。

 そして、ステージ用のギターおよびベース用のチューナとして登場した大型の「TU-1000」は大型・高輝度LEDメーターを搭載しているため、暗いステージや明るい野外などでも利用可能。同梱された7PパラレルDCケーブルを使用することで、コンパクトエフェクタに対し電源を送ることも可能となっている。

 TU-12EX、TU-12BW、TU-88は2月15日発売でいずれもオープンプライス。実売価格はそれぞれ8,500円前後、9,500円前後、6,500円前後となっている。またTU-1000は2月19日発売でオープンプライス(28,000円前後)である。

メトロノーム機能搭載のモニター/チューナ「TTU-88」 ベース用のチューナ「ベース用のチューナ」

 今回の発表でV-PianoやSuperNATURALなど、面白い技術もいろいろと登場したので、機会があれば、より詳しくチェックしたい。



□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□EDIROLのホームページ
http://www.roland.co.jp/DTMP/index.html
□Cakewalkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□BOSSのホームページ
http://www.roland.co.jp/BOSS/index.html
□関連記事
【2008年2月12日】【DAL】Roland/EDIROL/BOSS/Cakewalkの新製品をチェック
~ NAMM2008出展のPCMレコーダやキーボードを国内初公開 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080212/dal313.htm


(2009年2月9日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部
Copyright (c) 2009 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.