~ Sonnox Oxfordのプラグイン3種類を試す ~ |
ノイズリダクション機能を追加 |
昨年末、Singer Song Writerなどを開発するインターネットから「Sound it! 5.0 Noise Reduction Pack for Windows」のパッケージ版が発売され、1月29日からは割安なダウンロード版も発売された。2006年7月に発売されたSound it! 5.0にノイズリダクション機能を追加した製品だが、実際そのノイズリダクション機能がどの程度のものなのか使ってみた。
■ Sonnox Oxfordのノイズリダクションプラグイン
パッケージ版のSound it! 5.0 Noise Reduction Pack for Windowsの標準価格は17,640円。従来からのSound it!も併売されており、こちらは10,290円なので、差額は7,350円。その差額がノイズリダクション機能というわけだ。ほかにオマケとして3.5mmステレオミニのケーブルと、RCAステレオピンプラグと3.5mmステレオミニの変換ケーブルの2本が入ってはいるが、ごくありふれたケーブルで特殊な加工が施されたものというわけではなさそうだ。
Sound it! 5.0 Noise Reduction Pack for Windows | RCAステレオピンプラグと3.5mmステレオミニプラグのケーブルの2本が付属する |
ご存知のとおり、Sound it!は波形編集ソフトであり、これまでWindows版、Mac版のそれぞれがバージョンアップを重ねてきた。今回、Noise Reduction Packとして登場したのはWindows版のみで、ここにはSonnox Oxford社のノイズリダクションが3種類追加されている。
Sonnox Oxfordについて簡単に紹介すると、同社はもともとSony Oxfordという社名でイギリスにあるソニーのグループ会社だった。独自の技術で開発したミキサーコンソール、SONY OXF-R3は非常に評価の高い、高級機であった。
それと同時に、ProToolsのTDMプラグインをはじめ、VSTやAU、RTAS用などにEQやコンプレッサ、リバーブなどの高級プラグインを開発してきたメーカーでもある。評価の高いOxford EQをはじめ4種類のプラグインが、VAIOのSonicStage Mastering Studioにも搭載されているため、ご存知の方もいるかもしれない。
波形編集ソフト「Sound it!」 | VAIOのSonicStage Mastering Studioにも搭載されている |
ただ、独自の路線を歩んでいたためか、2007年4月にソニーグループから独立し、現在の社名Sonnox Oxfordになった。現在でも数多くのプラグインを発売しており、国内ではメディアインテグレーションが扱っている。
そのSonnox Oxfordのプラグインを3種類、Sound it!に取り込んだのが今回の製品というわけだ。具体的にはハムノイズ除去のための、DE-BUZZER、ヒスノイズ除去のためのDE-NOISER、クラックルノイズやポップノイズ除去のためのDE-CLICKERの3つ。調べてみるとSony Oxford時代には、これらのソフトもリリースされていたようだが、現行製品としてはラインナップしていないようだ。
では、実際どのように組み込まれたのかを見てみよう。Sound it!を起動し、波形を読み込んだ後、「加工」メニューを見ると、「Sonnoxノイズリダクション(N)」というメニューが追加されているのがわかる。これを選択すると、4段のラックが登場し、ここに各プラグインが組み込めるようになっている。
波形を読み込んだ後にSonnoxノイズリダクション(N)というメニューが追加されている | 4段のラックが登場し、ここに各プラグインが組み込めるようになっている |
■ ノイズ除去の効果は?
さっそく、ハムノイズの入った素材を読み込み、ハムノイズ用のプラグインであるDE-BUZZERを組み込んで、試聴ボタンを押してみたが、あまり効いている感じがしない。そこで設定ボタンを押すと、DE-BUZZERの画面が出てくる。そのデザインは確かにSonnox Oxfordという感じのカワイイ?色合いであるが、そこに並んでいるパラメータは結構難解だ。
素材を読み込み、ハムノイズ用のプラグインであるDE-BUZZERを組み込んで、試聴ボタンを押してみる | DE-BUZZERのパラメータ |
一応、パラメータを解説したヘルプも付いてはいるものの、それぞれのパラメータが解説されている程度で、具体的にどのような設定にすればいのか、といった紹介はない。またプラグインの多くに用意されているプリセットもまったくなく、一度触ると、デフォルトの設定がどうなっているかもわからなくなってしまうのも戸惑うところだ。
まずは適当にパラメータをいじってみたが、いまいち効果が上がらないため、一度、ハムノイズだけの素材を読み込み、各パラメータを調整してみた。重要になるのが中央にあるFrequency、左のSensitivity、右のAttenuationの3つのパラメータだ。Frequencyがハムノイズの周波数を意味しており、最低20.0Hzから最高420.0Hzまで調整できるようになっている。
またFine Adustボタンを押すことで、さらに精度の高い周波数での調整ができるようになっている。一方、Sensitivityはノイズ検出の感度を設定するもので、Attenuationは減衰量、つまり検出したノイズをどのくらい取り除くかを設定するものとなっている。
このハムノイズは、もともと筆者の手元で電源系のノイズを音声ケーブルに絡ませて混入したものなので、50Hzのものではあるが、正確にそれが50.0Hzなのか、50.2Hzなのかといったあたりまではわからない。しかも、電量系統の周波数だから揺れもあるかもしれない。
そこで、まずはFrequencyを50.0Hzに設定して、Sensitivityを100%にしてみると、中央にあるLockというレベルメーターが振れだした。これがノイズを検知していることを表す目印なのだ。さらにFine Adustにして適当に動かして49.95Hzにしたところ、もっともレベルが大きく振れる。どうやらこの電源ノイズは49.95Hzという周波数らしいということがわかる。
また、Track、Freezeという切り替えボタンがあり、Trackにすると自動的に周波数の微調整を行ない、Freezeにすると、設定した周波数ドンピシャになるようだ。
Fine Adustボタンを押すことで、精度の高い周波数での調整が可能 | Fine Adustにして適当に動かして49.95Hzにしたところ、もっともレベルが大きく振れる |
ここではTrackモードに設定した上で、ヒスノイズだけの素材に対して、これをかけてみたところ、確かにノイズは大きく軽減しているが、取り除かれたのはあくまでも49.95Hzの低音だけであり、その高調波については除去されていないため、「ジー」という明らかなノイズが残ってしまう。実際、使用前と使用後の波形を比較しても、レベル的には、それほど大きくは変化していなかった。
使用前と使用後の波形を比較しても、レベル的には変化はあまりない |
ためしに、もうひとつDE-BUZZERを立ち上げて100Hz前後、150Hz前後を取り除いてみたものの、ハッキリとした効果は得られなかった。おそらく、この残りについては、次に紹介するDE-NOISERを使って除去すべきもののようだが、それでもキレイには取り除くことはできなかった。
この設定を元に、音楽にハムノイズを乗せたものを取り除いた結果を聴いてほしい。確かに、それなりに取り除くことはできているが、高級プラグインのSonnox Oxfordに対する思いからするとやや期待はずれな感じもする。なお、実験自体はWAVファイルで行なっているが、ここに掲載した音声データはダウンロードしやすくするため、Sound it!の機能でMP3の128kbpsで保存したファイルだ。
【今回実験に使ったサンプル】 | |||
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【オリジナル】 約468KB(original.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約471KB(akashi+hum.mp3) |
【オリジナル+ヒスノイズ】 約471KB(akashi+hiss.mp3) |
【オリジナル+クラックルノイズ】 約471KB(akashi+cracle.mp3) |
楽曲:Arearea / 愛のあかし |
【ノイズ除去した音声サンプル】 |
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【ハムノイズ】 hum.mp3(472KB) |
次に、試してみたのはヒスノイズだ。こちらも使い方はDE-BUZZERと同様であり、自分でパラメータを設定していく必要がある。パラメータ的にもFrequencyがないだけで、SensitivityとAttenuationで設定するという点でも同じ。また、自動的に微調整を行なうTrackモードと固定してしまうFreezeモードがある点でも同様だ。
DE-NOISERの場合、画面上部に取り除く周波数特性がグラフで表示され、Sensitivityを高くすればグラフが上のほうに、低くすれば下のほうにズレる。また試聴したり、実行すると、このグラフにFFT解析された実際の音が表示されるが、これをTrackモードで実行すると、ノイズとして取り除かれる黄色いラインも実際の音に追随する形で変化するようになっている。
ヒスノイズを試す。自分でパラメータを設定する必要がある | 周波数特性がグラフ表示される |
HP Limitはハイパスの上限周波数を設定するもの |
また、中央にはHP Limitというものがあるが、これはハイパスの上限周波数を設定するもので、高域の音に対してノイズリダクションをかけたくない場合には、これが設定できるようになっている。ここでは、とくに高域でのノイズリダクションを切る必要もないので、設定せずに使ってみた。
これも、以前からずっと使っているヒスノイズ入りの音楽素材に対して実行してみたので、結果を聴いてほしい。できるだけ原音を損なうことなく、ヒスノイズが結構取り除かれるように、調整してみた結果だ。DE-BUZZERのLockのように視覚的に確認できるものはなく、あくまでも聴きながら調整した結果ではあるが、ほかのヒスノイズ用ノイズリダクションと比較しても、わりあいよく取れているように思う。レベルの小さい前半部分では残留ノイズも目立つが、他製品だと、キツめに取り除くと、キュルキュルした副産物的な音が入ってきてしまうが、そうした傾向も見られなかった。
【ノイズ除去した音声サンプル】 |
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【ヒスノイズ】 hiss.mp3(472KB) |
最後に、試したのがDE-CLICKER。これはレコードのプチプチしたノイズを取り除くためのものだが、この設定画面を見ると、DePop、DeClick、DeCrackleと3つのパラメータが用意されている。
つまりこのプチプチノイズをポップノイズ、クリックノイズ、クラックルノイズと分類した上で除去しようというもののようだ。いずれもデフォルトでは50%に設定されているのだが、さっそく試してみたところ、それぞれのパラメータの横にあるDetectというレベルメータがノイズの検知状態を表示する。これを見ると、ポップノイズが主なノイズ要因として分析されており、強くブチッと入るとクリックノイズ、クラックルノイズと認識されるようだ。
プチプチしたノイズを取り除くDE-CLICKER。DePop、DeClick、DeCrackleと3つのパラメータを用意 | パラメータの横にあるDetectというレベルメータがノイズの検知状態を表示 |
デフォルトのままでも、そこそこ取り除くことができたが、より検出度合いの高いポップノイズのみを強めに設定したところ、結構キレイに取り除くことができた。もちろん、完全に消えるわけではないが、波形を見ても、冒頭部分のノイズが取り除かれていることがハッキリと確認できる。
波形を見ても、冒頭部分のノイズが取り除かれていることがハッキリと確認できる |
しかし、やはりキツメのノイズ、つまりDE-CLICKERが認識するところのクリックノイズは取り除かれていないため、波形を見ながら、その部分を選択した上で、今度はクリックノイズだけを強めに取り除いてみた結果、全自動でないための成果なのか、かなりいい効果を発揮することができた。
【ノイズ除去した音声サンプル】 |
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【ヒスノイズ】 cracle.mp3(472KB) |
以上が3つの追加されたノイズリダクション機能だが、初心者ユーザーが多いSound it!のユーザー層を考えると、とくにDE-BUZZERあたりはなかなか使うのが難しい機能といえそうだ。とはいえ、DE-CLICKERは比較的わかりやすく、効果も高いので、レコードノイズの除去を目的としている人にとっては、強力なツールとなりそうだ。
それぞれのプラグインのaboutコマンドを使うと、クレジット表示がされる |
ところで、それぞれのプラグインのaboutコマンドを使うと、クレジット表示がされる。これには「Version:1.0.0.87 for VST Native」とある。「Sound it!はVSTプラグイン非対応だったはずだが……」と思ったが、やはりあくまでもこのSonnoxのプラグインにのみ対応したのであって、一般のVSTに対応したわけではないようだ。
□インターネットのホームページ
http://www.ssw.co.jp/index.html
□製品情報
http://www.ssw.co.jp/products/sit/win/sit50w_nr/index.html
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(2009年2月2日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。 |
[Text by 藤本健]
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