「ハイエンド製品」のイメージが色濃かったLCOS(Liquid Crystal on Silicon)プロジェクタの価格破壊を行なったのが、2008年最後の大画面☆マニアで紹介したソニー「VPL-HW10」であった。 ソニーは、あくまでLCOSプロジェクタの画質を広く普及させるためにVPL-HW10をリリースしたのであって、同社のLCOS「SXRD」(Sony Crystal Reflective Display)をローエンド製品向けに方針転換したわけではない。最高画質にこだわりたいホームシアター・ユーザーのために、2008年冬モデルとして、追加したのが今回紹介する「VPL-VW80」だ。
■ 設置性チェック ~縦長ボディをリファイン。光学系と光源ランプはVPL-HW10と同系設計
ソニーのSXRDプロジェクタのハイエンド機というと、2007年冬発売の「VPL-VW200」があるが、光源にキセノンランプを採用しており、これが下位モデルとは決定的に違う部分となっていた。今回のVPL-VW80の標準価格は756,000円で、実売で50万円を超える高級モデルだが、光源ランプは超高圧水銀ランプを採用している。 「VPL-VW60の後継製品」と捉えられなくもないが、VW80は標準価格ベースでVPL-VW60(441,000円)の約1.7倍の高額商品であり、後継というより上位機種といえる。 写真では伝わりにくいが、筐体サイズもVPL-VW200クラスの大型筐体で、外形寸法は470×482.4×179.2mm(幅×奥行き×高さ)と、VW60(395×471×174mm)よりも一回りは大きい。見た目にもハイエンド機の風格がある。 デザインは従来のVPL-VWシリーズを大まかには継承しているが、筐体は新規デザインで、細かく見ていくと結構違うことに気がつく。これまでのVPL-VW60/100/200は縦長の奥行きの長いデザインだったが、VW80では奥行きをギュッと詰めたデザインとなったのだ。
これにより、実際の設置時に接地する前側の脚部と後側のゴム足の距離は約25cmとなり、本棚の天板の設置は行ないやすくなった。 このデザインの根本変更はエアフロー設計にも影響を及ぼしている。VW200までは前面吸気、後面排気だったため、設置時に本体後部のクリアランスを十分に確保する必要があったが、VW80では、後面吸気、前面(前両側面)排気と逆になった。
実際の設置時には壁に寄せて設置するケースが多いため、後面側が狭くしてしまいがちだ。VPL-VW200の評価時には「高音警告」の表示が出たことがあったが、今回の評価では後面にそれほど大きなクリアランスを設けずに連続10時間以上の使用でも問題はなかった。これはあくまでテストのためであり、一般ユーザーは設置仕様書に従ってほしいが、とにかく、VW80では、この部分の不安材料が取り除かれたことは間違いない。 なお、排気口スリットは本体前面の側面に配されており、横幅のあるデザインが功を奏して排気風が投射面を横切ることはない。なかなかよく考えられている。 騒音レベルは公称約20dB。ランプモードを高輝度にした場合はもうちょっと大きくなるようだが、それでも設置位置から1mも離れれば耳を澄まさない限りは分からない。VPL-VWシリーズの静粛性は相変わらず優秀だ。
天吊り設置金具は、角度調整ヒンジ機構付きの「PSS-H10」(80,850円)と天井からの吊し位置が15cm~30cmの範囲で可変な「PSS-610」(52,500円)が利用できる。PSS-610はWebサイト上での記載はないが対応しているとのこと。この両取り付け金具は歴代VPLシリーズに通して対応してきたものであるため、買い換え派にとっては流用が可能だ。地味だが嬉しい配慮だ。 本体重量は約12kg。これはVPL-VW60とほぼ同じで、VPL-VW200が約20kgと比べるとかなり軽量化されている。常時設置が基本となる製品だが、この重さならばやろうと思えば移動もできる。 投射レンズは1.6倍電動ズーム/フォーカス/シフト機構対応レンズ(f18.5-29.6mm/F2.50-3.40)を採用。VPL-VW60/200では1.8倍だったが、2008年モデルではHW10とVW80ともに1.6倍へと引き下げられている。 ただし、レンズリングを回して遠目に見える映像を見ながら調整するHW10と違い、画面に近づいた状態で最高の合焦状態が得られるのは電動リモコン制御レンズ搭載機の特権だ。さらに、VW80には、電源オフ時にレンズを保護する電動開閉シャッター機構が搭載された。この電動づくしはさすがはソニーといったところだが、さらに欲を言えば、4:3映像と16:9映像のそれぞれを最適な状態で見るために、レンズ設定状態を記憶するレンズメモリー機能も欲しい。ちなみにパナソニックのTH-AE3000にはこれが搭載されている。
100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m(3,072mm)、最長投射距離は約4.6m(4,664mm)とHW10と同じだ。これはVW60/200と比較すると最短投射距離はわずか、最長投射距離は70cmほど縮められたことになる。 「約3mで100インチ」は昨今のホームシアター機では標準的なスペックであり、一般家庭内での使用は問題ない。VW60からの置き換えもほぼ問題なく行なえるはずだ。ただ、大きな部屋の後方に設置して投射距離を長めにとって小さく投影していたような設置ケースでは置き換えがうまくいかない可能性があるので、設置ケースではシミュレーションを入念に行ないたい。 レンズシフトもHW10と同等で、上下±65%、左右±25%とSXRD機としては歴代トップレベルのシフト量を身につけている。VW60/200でのシフト量は上は65%まで、左右は±1mmのレンズ移動(100インチで±15cm相当)という限定的なものだったので、この点についてはトップエンド機のVW200を上回る設置自由度を獲得したことになる。 光源ランプは、超高圧水銀系ランプを採用する。ランプは出力200Wの「LMP-H201」(36,750円)となり、これは実はHW10と兼用だ。エントリー機と同じ光源ランプを採用していることに驚かされるが、それだけ、今回の光源ランプは素性がいいと言うことなのだろう。 以前、ソニーでVW60とVW200の比較投影を見せてもらったことがあるが、色に関して、キセノンの表現色域が広いのは比べれば分かったが、VPL-VW60単体で見た場合にはもはや不自然さは感じられなかった。 ただ、VPL-VW100/200のユーザーは依然とキセノンランプの広色域性能の優位性は保たれる。消費電力は320Wで、VW200の650Wの半分以下だ。VW80オーナーとしてはハイエンド機ながらローエンド機と同等のランニングコストで済むことこそがアドバンテージとなる。
■ 接続性チェック ~2系統のトリガ端子でアナモーフィックレンズを連動制御
基本的な接続端子のラインナップはVPL-VW60と大きな変更はない。
デジタル入力端子としてはHDMI端子を2系統を装備。他のHDMI機器との連携が図れるHDMI-CEC機能だけでなく、ハイダイナミックレンジモードのDeep Color、広色域モードのx.v.Colorにも対応する。 アナログビデオ入力端子は各種類を1系統ずつ備え、とてもシンプルな構成だ。 具体的には、コンポジットビデオ、Sビデオ、コンポーネントビデオの各端子が1系統ずつだ。コンポーネントビデオは、RCAのみでD端子は実装されていない。 PC入力端子として、アナログRGB入力に対応したD-Sub15ピン端子を1系統備えているが、こちらはVPL-VWシリーズを通して「INPUT-A入力」と命名された兼用端子となっており、専用の別売り変換ケーブルでもう一系統のコンポーネントビデオ入力端子としても利用できる。ちなみに、筆者のNVIDIA GeForce GTX280の環境では、このD-Sub15ピンのアナログRGB接続では1,920×1,080ドットのドットバイドット表示できず、1,024×768ドットと誤認されてしまっていた。 DVI端子は持たないが、市販品のDVI-HDMI変換ケーブル/アダプタを利用することで、PCとのデジタルRGB接続は可能だ。ちなみに、筆者の環境でもDVI-HDMI変換接続では1,920×1,080ドットでのドットバイドット表示を確認している。 ただ、PCとDVI-HDMI変換接続したときの、VPL-VWシリーズの問題点として、PC用の階調(0-255)ではなく、ビデオ用の階調(16-235)と誤認されてしまう現象がVPL-VW80でも確認された。これは、VPL-VW50以来ずっと残された課題で、このままだとPC映像の最暗部付近が黒に潰れてしまうのだ。競合他機種では0-255か16-235かを明示指定できるので、VPL-VWシリーズにも早くこの機能が欲しいところだ。D-Sub15ピン端子を未だに実装するくらいPC接続に配慮するVPLシリーズだけに、なおさら搭載してほしいと思う。
HW10でカットされてしまったトリガ端子だが、VW80では、興味深いことに2系統も実装されている。TRIGGER1はこれまで通り、本体稼働中にDC12Vを出力するもので、電動シャッターや電動開閉スクリーンと連動させるための物になる。TRIGGER2は、投射アスペクトモードを「アナモーフィックズーム」と設定したときにDC12Vを出力する物で、これは市販のアナモーフィックレンズを電動着脱させるメカニズムに応用するときに活用する。この2系統トリガ端子はVPL-VW100/200にもなかったVW80のみの特典機能となっている。 PCからのリモート制御や、またはユーザー独自のガンマカーブを作成するためのPC接続手段として活用されるRS-232Cインターフェース(DSub9ピン)端子はVPL-VW80にも搭載されている。
■ 操作性チェック ~リモコン・デザインを一新
VPL-VW100の時にそれまでのローエンド機種と同じリモコンを採用したことでユーザーから少々不評を買ったため、続くVW200では、かなり見た目にゴージャスなリモコンへと様変わりした。この流れは、VW80でも続いているようで、VW200のものとも違う新デザインのものが提供された。 底面にはくぼみがあり、ここに人差し指をあてると[MENU]ボタンや十字キーが親指に来るエルゴノミックデザインや、ボタン形状、ボタンレイアウトといった基本デザインはVPL-HW10やVPL-VW60のリモコンとよく似ているが、全長が3cm以上も延長され、より縦長感が強くなった。また、リモコン本体を黒色基調とし、さらに[LIGHT]ボタンを押してほぼ全てのボタンが青色にライトアップされる感じも、ハイエンド機用のリモコンである風格を感じる。 さて、この縦長になった最大の理由だが、実は、これはブラビアリンク関連の操作ボタンが搭載されたことによる。ブルーレイ機器やビデオカメラなどをVW80にHDMI接続した際、このリモコンでそうした機器の各種再生制御が行えるようになったのだ。まさに、HDMI-CEC機能の有効活用といったところで、VW80を中核にしたホームシアターシステムを構築している場合には役に立つ機能となるだろう。
その他、ボタン関係で目を惹くのは、動画ボケ改善技術「モーションフロー」に関連したパラメータ調整用のショートカットボタンが搭載されたところ。[FILM PROJECTION]、[MOTION ENHANCER]の二つのボタンがそれで、メニュー階層を潜ることなく、スピーディにモーションフロー機能の効き方を変えられる。 あとは、VPL-HW10/VW60のリモコンとボタンラインナップは変わらない。使用頻度の高い入力切換やプリセット画調モード、ユーザー画調モードの切換ボタンを上にまとめ、それ以外の画調パラメータ調整用ボタンを下にまとめており、配置をより最適化したという手応えは感じる。アスペクト切り替えボタン[WIDE MODE]のボタンが小さく、画調パラメータ調整用ボタンと同じエリアにまとめられているところに違和感はあるが。 電源オンボタンを押して、HDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約59.0秒。VPL-HW10とほぼ同じ遅さ。VPL-VW60/200と比較すると2008年冬モデルはだいぶ遅くなってしまった。 入力切換は[INPUT]ボタンによる順送り切換式。コンポーネントビデオ→HDMI1で約4.5秒、HDMI1→HDMI2で約4.5秒。未接続の端子をスキップする「入力オートサーチ」機能を有効にした場合、HDMI2→コンポーネントビデオの切換速度は約3.0秒。最近の機種としてはやや遅い部類。ゆえに入力オートサーチ機能は積極的に活用したいところだ。 アスペクト比切換も[WIDE MODE]ボタンで順送り式に切換方式。切り替え所要時間は約1.5秒で、平均的な早さといったところ。用意されているアスペクトモードは以下の通りだ。
HW10ではカットされていたアナモーフィックズームモードは、VW80で復活を遂げている。モード名は難しいが、機能的には「BDやDVDに記録された映像をアスペクト情報を無視してパネル全域に表示する」モードになる。 シネスコ記録された映画ソフトは16:9画面でも上下に黒帯付きで表示される。これは誰にでも経験があるだろう。これは映像データ自体は1,920×1,080ドット解像度で記録されているのにもかかわらず、アスペクト比がシネスコ2.35:1(2.40:1)に設定されているため、表示時にはアスペクト補正がかかって縦解像度が817(800)ドット程度に圧縮されて起こっている現象だ。この「アナモーフィックズーム」モードでは映像をアスペクト設定を無視して、とにかく1,920×1,080ドットで表示し、シネスコ2.35:1のアスペクト補正をアナモーフィック(歪像)レンズで光学的に行なうものだ。解像度情報が圧縮消失しないので、通常表示時より263ドット(=1,080-817)分の解像感の高い映像が得られるという算段だ。 前述したようにアナモーフィックズームモード時にはTRIGGER2端子からDC12Vが出力される機能も備わったことで、レンズの自動着脱が効率よく行なえるようになったわけだが、ソニー純正のアナモーフィックレンズの設定はなし。現状で人気の高いのはPANAMORPH製ものになるが、OEMでもいいので純正オプションとしての設定が欲しいところ。 画調モードの切り替えは[DYNAMIC]、[STANDARD]、[CINEMA]の個別ボタンを行なうことでダイレクトに切り換えられる。切り替え所要時間は約1.5秒で標準的な速度。
調整可能な画調パラメータは「コントラスト」、「明るさ」、「色の濃さ」、「色あい」「色温度」「シャープネス」といったラインナップで、並び順も歴代VPL-VWと同じ。 この他、アイリスやランプ輝度モードに関連した「シネマブラックプロ」、映像エンジン側の振る舞いの調整が行える「エキスパート設定」も用意されている。 シネマブラックプロ、エキスパート設定、RCP(Real Color Processing)機能、ユーザーメモリ関連機能、についてはHW10と同等となっているので、本稿では省略する。詳細はVPL-HW10の回を参考にして欲しい。 ほとんどHW10と同じなのだが、VW80ならではの点を挙げるとすれば、エキスパート設定の項目に「フィルムモード」(Dynamic Detail Enhancer:DDE)の設定が復活した点。これは映画ソースにおけるIP変換、フレームレート変換に関係した設定で、「オート1」「オート2」「切」の設定が選べる調整項目で、オート1が毎秒24コマ表示(フレームレート変換なし)設定、オート2が2-3プルダウンによるフレームレート変換を行なう設定となるようだ。VW80は1080/24pモードにネイティブ表示に対応しているのでオート1設定にしておけばいいだろう。 VPL-VW200にあったソニー独自の倍密化回路「DRC」(Digital Reality Creation)は搭載していない。まぁ、DRCは主にアナログ/SD映像ソースのための機能だったのでそれほど問題はないと思う。 VW80の特徴である「モーションフロー」の設定項目はHW10にはなかったものだが、これについてはインプレッションも含めて後述する。
■ 画質チェック いろいろな面で共有化がなされているVPL-HW10とVW80だが、コア部分の映像パネルについては、HW10よりも新しい世代のSXRDパネルを採用しており、いってみればここがVW80のもっとも上位機らしいアドバンテージとなっている。 VW80に採用されている新SXRDパネルは、製造プロセスを0.25μmにシュリンクしており、パネルサイズがVPL-VW60/HW10と同じ0.61型。ということは、理論上、画素開口率が向上していることになる(開口率の数字自体は非公開)。 また、新SXRDパネルでは液晶画素のセル厚を2μm以下に薄型化することに成功しており、これが応答速度の高速化へと結びついている。VW60、VW200、HW10のSXRDパネルの製造プロセスは0.35μmで、公称応答速度は2.5msであったが、VPL-VW80ではこれが2.0msへとさらに高速化されたとしている。 SXRDパネルだけで言うと、VW80のものは、VW200よりも世代が新しく応答速度が高速で、高開口率ということになるのだ。モーションフローの倍速120Hz駆動への追従応答速度もVW80のSXRDパネルの方が余裕があるわけで、素性としての倍速駆動時の画質のキレはVW80はVW200を上回っているということになる。 公称最大輝度は800ルーメン。HW10の1,000ルーメンよりも低いことになるのだが、体感上の差は感じない。VW60と比較しても優るとも劣らぬ明るさがある。プリセット画調モードを「ダイナミック」に設定すれば蛍光灯照明下でもデータプロジェクタ風に使えてしまうほど明るい。800ルーメンという輝度スペックに不安を感じる必要はないと断言できる。 公称コントラストは動的絞り機構のアドバンスト・アイリスを有効にした状態で60,000:1を謳う。これは同条件のHW10の30,000:1の2倍に相当する。体感上、2倍のコントラスト感があるかどうかは個人差があるだろうが、全黒表示時は部屋が真っ暗になるほどであり、黒の暗さに関しての「異質感」は第一印象から気づく。ピーク輝度はHW10、VW60と大差がない感触だが、絶対的な明るさではなく、黒の沈み込みの方でコントラストを稼ぐチューニングがなされているのだ。なお、洋画視聴時などは、黒い背景に浮かぶ字幕の白い文字が、目に突き刺さるほど明るく感じる。 歴代VPL-VWシリーズのプリセット画調モードの「シネマ」は、ピーク輝度が抑えられ、ダイナミックレンジが物足りない印象を持つことが多かったが、VPL-VW80の場合は、ピーク輝度が抑えられていても最暗部がとてつもなく黒いため、暗室での視聴時ならば必要十分なダイナミックレンジが得られている。総じていうならば、このコントラスト感に関しては、歴代のどのVPL-VWシリーズよりもいい。もちろんVPL-VW200よりもだ。 階調表現も良好。漆黒から無段階に階調がリニアに立ち上がる感じはお見事で、映像の暗部の情報量が多く、暗いシーンでも映像表現としてリッチな手応えを感じるほど。 発色は水銀系ランプらしからぬ、高純度な原色がでていて、特に赤が朱色感が少なく、鋭く発色していることに感銘を受けた。青にも深みがあり、緑の最明部にも黄緑感がなくナチュラルだ。
色深度も優秀で、暗い色もグレーに落ち込まず、ちゃんとその色味が感じられる表現が出来ている。暗いシーンでも、立体感と臨場感が強いのは、階調性能だけでなく、この色深度の深さも一役買っているからなのだろう。 人肌表現も水銀系ランプ特有の黄緑感はなく、キセノンランプの肌色を思い起こさせるほど自然な色合い。肌のハイライト部分の白色からの肌色へのグラデーションもなめらかで、透明感のある肌の質感表現もいい。肌へのライティング結果で生じる陰影表現も絶妙に描き出してくれている。 たしかに、ここまでの色表現が出来れば、「約3倍も高価なキセノンランプでなくてもいい」という判断が出たのも頷ける。 投射レンズは、ARC-F(オール・レンジ・クリスプ・フォース)の名に恥じないクオリティが実現できている。レンズシフトに対応した割にはフォーカス性能はかなり優秀で、画面中央で合わせれば画面外周まできっちりと合ってくれていた。 ただ、画面全域にわたって色収差が出ているのは気になった。約1ピクセル分の色ズレが出ていたHW10よりはまだマシな印象だが、VPL-VW60/VW200よりも強く出ているのは間違いない。新設計となったVPL-HW10/VW80の光学系の特有の問題なのかもしれない。
なお、この色ズレは、HW10の時と同様に、「設置設定」メニュー階層下の「パネルシフトアライメント」を活用することで低減が可能だ。このパネルシフトアライメントの動作原理についてはHW10の回で解説しているのでそちらを参照して欲しいが、もともと1ピクセル分だった情報を複数ピクセルに分配して実現するものなので、解像度情報は幾分か損なわれることになる。出来れば活用はしたくない機能なのだ。この色ズレ特性については次期モデルではリファインを期待したいところである。 そして、VPL-VW80特有機能のモーションフローについて触れないわけにいかないだろう。モーションフローとはいわゆるソニーの残像低減技術の総称で、ソニーの液晶テレビ「ブラビア」シリーズの倍速駆動技術をSXRDプロジェクタに応用したものになる。2008年秋冬のブラビアW1シリーズでは世界初の4倍速駆動技術を実用化したが、VW80に搭載されるのはVW200と同世代の2倍速駆動だ。 VW80のモーションフローは、映像表示をブラウン管ライクに疑似インパルス表示する「フィルムプロジェクション」機能と、表示フレームと表示フレームの間の中間フレームを算術合成する「モーションエンハンサー」の、2つの機能項目から成り立っている。 前者、フィルムプロジェクションは、液晶テレビで言うところの黒フレーム挿入に相当するものであり、切、モード1、2、3が選択可能となっている。モード1が明フレーム表示期間が短くて黒挿入期間が長い"暗い"モード、モード3が明フレーム表示期間が長くて黒挿入期間が短い"明るい"モードになる。そしてモード2はその中間的な位置づけの設定だ。 古い映画などは映写機の雰囲気が出て味わいがあるのだが、最近の映画を見た際には明滅によるちらつき感の方が気になってしまい、あまり積極的に活用したいと思わない。筆者であればフィルムプロジェクションは「切」を常用する。 後者モーションエンハンサーは切、弱、強が選択できる。強は算術合成した中間フレームをはっきりと表示するモードで、弱は中間フレームを元フレームにブレンドしつつ控えめに表示するモードだ。 ブルーレイの「ダークナイト」の冒頭シーンでいろいろと設定を変えて視聴してみたが、00:00:53のビル群を飛ぶシーンでは、強だと壁のモールド模様に補間フレームエラーによるちらつきが出てしまっていた。かといって切だと点滅しているように見えるので、その意味では弱がベスト。続く00:01:39のケーブルを伝ってスライドするシーンでは、強だと滑り渡る人物の動きはスムーズに見えるが、終盤、その人物周辺に強いモスキートノイズのようなモヤモヤが現れる。これも補間フレームのエラーによるものだ。弱だとこれがない。 全体として、強では、中間フレームが成功したときのスムーズさと、うまくいかなかったときのカクカク感とエラー表示との落差が大きく、なんか落ち着きのない映像に見える。映像を通して安心して見られるのは弱だ。常用は弱だろう。 VPL-VWシリーズ伝統の黒浮き低減支援機能として「黒補正」「アドバンスト・アイリス」の機能があるが、VPL-VW80では、SXRDパネル自身のポテンシャル向上があったため、これらの機能がほとんど無用の長物となってしまった。
黒補正は有効にすると逆に黒が潰れて、もはや不自然以外のなにものでもない。 アドバンスト・アイリスは動的絞り機構を司る機能でオート1が絞り幅=大、オート2が絞り幅=小となる設定だが、VPL-VW80は絞り開放の切にしていても黒が十分黒いため、オート1、オート2の設定時の恩恵が小さい。オート1、オート2設定時は黒浮きが低減されることよりもピーク輝度が下がることの方が残念に思えてくるので、よほど暗いシーンばかりが続く映画を見るときでなければ切設定でいいだろう。 ビクターのD-ILAプロジェクタがネイティヴコントラストに自信があったことから動的絞り機構を頑なに搭載しなかった経緯があるが、ソニーのSXRDプロジェクタも、VW80の世代となって、ネイティヴコントラストが優秀になりすぎて、搭載されている動的絞り機構が意味をなさなくなりつつあると感じる。
VW80では、ガンマ補正のプリセットガンマカーブが、HW10の倍の6種類に増えているので、そのインプレッションも触れおこう。 ガンマ1がもっともピーク輝度を明るく取っており、ガンマ2、3と行くにつれて控えめになっていく。ガンマ4は中明部以下を暗めにチューニングして明暗差を際立たせてコントラストを稼ぐモード。ガンマ5はマット系スクリーンに最適化したガンマカーブだとのことで暗部階調をやや持ち上げ気味にしたモード。ガンマ6は明部階調を明るく強調したモードという説明がなされているがガンマ補正なしの切設定とほとんど変わらない見栄え。通常は階調バランスの取れたガンマ3でいいが、明るさ重視、あるいは暗部情報量重視ならばガンマ1かガンマ5を選ぶのもいい。コントラスト感重視ならばガンマ補正なしの切設定だ。
■ まとめ
最近はホームシアター機の平均価格が下がっていることもあるが、VPL-VW80は、価格帯からすれば、文句なく高級機に分類される製品だ。 ただ、コストパフォーマンスを考えると、2007年モデルのVPL-VW60がよくできていたこと、そしてLCOS機の価格破壊を成し遂げた下位モデルのVPL-HW10のインパクトが大きすぎるせいで、VW80の良さが目立たってこない。これは実に不幸なことだ。 VW80は厳し目に見ても歴代SXRDプロジェクタのなかでも最高のコントラスト性能があるし、Deep Color、x.v.color、HDMI-CECといった最新フィーチャーにも対応しているし、モーションフローにも対応している。とても優秀な製品であり、買って損のないモデルだ。なのに、どうしても高価に感じてしまう。 これは「VPL-VW60からの差分」という視点で見たときに、細かい点を抜きにすると、「VW60を最新HDMI規格に対応させ、モーションフローを追加したバージョンアップ・リファインモデル」として見えてしまうからだろう。「その割には、価格が1.7倍も高い」と感じてしまう。この価格も「キセノンランプ採用」となっていれば「安い!」という評価も得られたのだろうが……。 個人的には新設計の投射レンズの色収差の多さは、パネルシフトアライメントでごまかすべきではなく、根本的に改善されるべきだが、それ以外の点でVPL-VW80に死角はなく、性能面では文句なくお勧めできる製品だと思う。ただ、“売れ筋”商品となるには、実勢価格で50万円台を切ってほしいところだ。 □ソニーのホームページ (2009年2月13日) [Reported by トライゼット西川善司]
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