「フロント・プロジェクタ」というと、現行製品では液晶プロジェクタとDLPプロジェクタに大別されるが、液晶プロジェクタはさらに「透過型液晶プロジェクタ」と「反射型液晶プロジェクタ」に分けられる。 明暗/階調を作り出すのに液晶分子の力を借りる点は同じだが、液晶画素内での光の導き方の違いで透過型と反射型に分かれる。 「反射型液晶」はそのパネル形成様式からLCOS(Liquid Crystal On Silicon)と呼ばれる。その画質性能や製造コストなどの理由から、LCOSは常に透過型液晶プロジェクタの上位製品というイメージが築き上げられてきたが、2008年秋、ソニーは意欲的なLCOSプロジェクタ製品を発表した。 それが今回取り上げる「VPL-HW10」だ。実勢価格にして約25万円前後。もはや透過型液晶プロジェクタとの価格差はほとんどない。2008年最後の大画面☆マニアは、低価格LCOSプロジェクタの魅力に迫った。
■ 設置性チェック ~デザインと投射レンズを一新。電動レンズ調整機能は省略
VPL-HW10は、2007年発売の「VPL-VW60」の後継となる製品。2008年のソニーのプロジェクタは、VW60より低価格化したHW10と、上位機種で120Hz駆動対応の「VPL-VW80」を用意するという新しいラインナップ構成をとっている。 VPL-VW60の発売時の実勢価格が35万円前後で、VPL-HW10の現在の実勢価格が約25万円前後。登場時期が違い、基本設計や商品コンセプトも微妙に違うのでスペック的に同列に比べられないため両者の優劣は付けがたい。しかし、価格面ではVPL-VW60が登場したとき以上のセンセーションを起こしているといえる。
さて、VPL-HW10はVW型番ではなくHW型番としたことで新シリーズという位置づけになり、筐体デザインはVPL-VW60のものとは違うものになっている。とはいうものの縦長なフォルムと、投射レンズを本体中央に据えた基本デザインは踏襲されており、SXRDベースのVPLシリーズであることの主張は感じられる。 本体サイズは、407.4×463.9×179.2mm(幅×奥行き×高さ)となり、VW60(395×471×174mm)と「ほぼ同じ大きさ」という印象。本体重量は約10kg。それなりに重く、台置き設置やオンシェルフ設置からの移動程度ならば一人でも行なえるが、天吊り設置は一人では難しい。全長が長いのでオンシェルフ設置を行なうには天板の奥行き方向の確保が必要になる。 天吊り設置の場合の取り付け金具は、VPL-HSシリーズ時代から使える「PSS-H10」(80,850円)。投射レンズの倍率がVPL-VW50/VW60から変更されているので、そのまま無調整で交換設置できるとは限らないが、金具が流用できるのは、買い換え検討派にとっては大きな背中の一押しとなることだろう。 投射レンズは前述したように新設計のもの。これに伴ってスペックもVPL-VW50/VW60から変更されており、VPL-HW10の投射レンズは手動式の1.6倍ズームレンズ(f18.5-29.6mm/F2.50-3.40)となり、ズーム倍率がVPL-VW60の1.8倍から1.6倍へと引き下げられている。
100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m(3,072mm)、最長投射距離は約4.6m(4,664mm)となっており、VPL-VW60と比較すると最短投射距離はわずかに、最長投射距離は約70cmほど縮められたことになる。8~12畳程度の中小規模の部屋での投射には問題がないが、大きな部屋、あるいは会議室や宴会場のような設置ケースでは少々難易度が上がったといえるかもしれない。もっとも、100インチ最短投射距離はより短くなっているので、一般家庭での使用ではむしろ改善されたというとらえ方でいいだろう。 改善されたといえば、レンズシフトの自由度。VPL-VW50/VW60に対して大きく向上した。 VPL-VW50/VW60では上方向に65%で下方向シフトはなく、左右シフトはプラスドライバで±1mmレベルの微調整に対応できるのみであった。対して、VPL-HW10では、上下±65%、左右±25%の上下左右レンズシフトに対応することとなった。具体的に100インチ(16:9)時で限定して考えると、横シフト最大時はスクリーン中央から約55cm左右にずらすことができ、縦シフト最大時は光軸から映像を約80cm上下に移動できる。 シフト量だけで比較すると前回紹介した「EH-TW4000」の半分程度だが、それでもレンズシフト幅の拡大は多くのユーザーに歓迎されることだろう。 レンズ関連でVPL-VW50/VW60からグレードダウンしたところもある。それはズーム、フォーカス、シフトといった調整が、リモコンによる電動式から手動式になってしまったという点。リモコンによるレンズ調整機能は、コストダウンの結果として削られてしまったようだ。映画ソフトのシネスコサイズ映像、16:9の通常のワイド映像、まだまだ多い4:3映像などをそれぞれ、同じ投射位置、あるいは最大サイズで見たいときなどはやはり電動レンズ制御は便利なので、これがカットされたことは個人的には残念に思う。 筐体デザインと光学系が一新されたことで、光源ランプも一新。ランプの種類自体は先代と同じ超高圧水銀ランプだが、型番は「LMP-H201」へと変更され、価格は36,750円となった。これは先代よりも10%も安い価格設定となり、ランニングコストの改善が見られたことは高く評価したい。 ランプ出力が変わらないこともあって消費電力はVPL-VW60と変わらず、最大300W。これは、最近のホームシアター機としては標準的な消費電力だ。 吸気は前後の底面、そして背面から行ない、前方側面から排気を行なうエアフローデザインとなっている。前後左右に吸排気スリットがあるので、設置時のプロジェクタ周囲のクリアランスは十分に確保したい。オンシェルフ設置などで周辺にものを置くのは厳禁だ。 騒音レベルはランプ輝度モードによらず22dBを達成しており、本体に近づかない限りは動作音はほとんど気にならない。ソニーVPLシリーズの、静粛性能は相変わらず素晴らしい。なお、冷却に不安を抱える設置ケースでは、冷却ファンの回転を強化する「冷却設定」を「強」とすると、ファンの音は比較的大きくなる。通常のホームシアター設置ケースでは「標準」の22dBモードで使用しても問題はない。
■ 接続性チェック ~Deep Colorとx.v.Colorにも対応。トリガ端子は省略
VPL-HW10の接続端子パネルはVPL-VW50/VW60と同じく、側面下部にレイアウトされる。接続端子は、ほぼVPL-VW60と同じだが、細かく見ていくといくつかの差異に気がつく。
HDMI端子は2系統を装備。VPL-VW60ではHDMI CEC(Consumer Electronic Control)をサポートするもののDeep Colorやx.v.Colorには対応していなかったが、VPL-HW10ではDeep Colorとx.v.Colorに対応、もちろん1080/24pにも対応する。CECにも対応しているので、BD機器やAVアンプなどと接続して電源の「ワンタッチプレイ」「システムスタンバイ」が可能だ。 アナログビデオ系入力端子としてはコンポジット、Sビデオ、コンポーネントビデオ(RCA)を各1系統ずつを備える。D端子はなし。コンポーネントビデオ端子はD4入力にまで対応し、D5入力以上はHDMI接続が必須だ。 PC入力端子としては、アナログRGB接続に対応した「INPUT-A」入力がD-Sub15ピン端子として用意される。INPUTA-Aは専用変換ケーブルを利用することで別系統のコンポーネントビデオ入力としても利用可能だ。 DVI端子はないが、HDMI端子を用いることで、PCとのデジタルRGB接続でドットバイドット表示も可能だ。ただし、VPL-VW60と同じく、階調範囲のビデオ用(16-235)とPC用(0-255)の切換が明示的に出来ないため、場合によっては黒レベルがおかしくなる可能性がある。筆者のNVIDIA GeForce GTX280を搭載したWindows Vistaベースの評価PCでは、やはり、ビデオ信号と認識され階調は16-235として処理されてしまい、暗部階調がPCでは潰れてしまっていた。やはりここは競合他機種のように階調範囲を明示的に設定できる機能が欲しいところだ。 PCからリモート制御するためのRS-232C端子は引き続きVPL-HW10に搭載されているが、電動スクリーンや電動シャッターとの連動制御に用いるDC12Vのトリガ端子は省略されている。
■ 操作性チェック ~リモコン、メニューともによりシンプル化
コスト重視のバリュークラスLCOS機ということで、リモコンはVPL-VW60とほぼ同一のデザインで、ボタンが削減されている。 VPL-VW60のリモコンからSHARPNESSの[+][-]ボタンがカットされているところが最も目立つポイントだが、実はVW60のリモコンで[COLOR SPACE](カラースペース)、[COLOR TEMP](色温度)、[BLACK LEVEL](黒レベル)だった部分は[FREEZE]、[APA]、[PIC MUTING]という聞き慣れないコマンドボタンに入れ替わり、また、VW60のリモコンにあった[GAMMA CORRECTION](ガンマ補正)、[ADVANCED IRIS](アドバンスト・アイリス)、[LENS](レンズ制御)のボタンの列は省略されている。 ちなみに、テストした限り、VW60のリモコンはHW10でも活用でき、HW10側に対応機能のない[LENS]ボタン以外は全て正常に動作していた。 [FREEZE]、[APA]、[PIC MUTING]はそれぞれ、表示映像の一時静止、PC入力の自動補正、ブランク画面の表示に対応する。機能としてはデータプロジェクタのようだ。ここはホームシアター向けコマンドを並べて欲しかった気がするが、もしかしたらデータプロジェクタとしても訴求したのかもしれない。 電源オンボタンを押してHDMI入力の映像が出てくるまでの所要時間は約55.0秒。VPL-VW60よりも遅くなってしまった。 入力切換は[INPUT]ボタンによる順送り切換式。入力切り替え所要時間はコンポーネントビデオ→HDMI1で約4.0秒、HDMI1→HDMI2で4.0約秒で、こちらもVW60よりも遅くなった。なお、「入力オートサーチ」機能を有効にしておくと未接続端子をスキップして切り換えられ、HDMI2からSビデオ、コンポジットビデオをスキップしてコンポーネントビデオへ切り換えた場合の切換所要時間は約2.0秒であった。 アスペクト切換も[WIDE MODE]ボタンを押して順送り式に切り換える方式。切り替え所要時間は約1.0秒で、こちらは標準的な速さとなっていた。用意されているアスペクトモードは以下の通り。
アスペクトモードのうち、VPL-VW60/VW200に搭載されていた、アナモーフィックレンズ向けのアスペクトモードの「アナモーフィックズーム」は省略された。 画調の切換はリモコン下部にある[DYNAMIC]、[STANDARD]、[CINEMA]の個別ボタンを押すことによって対応する画調へ直接切り換えられる。切り替え所要時間は約1.5秒でまずまずの速さ。 調整可能な画調パラメータは「コントラスト」「明るさ」「色の濃さ」「色あい」「色温度」「シャープネス」といった一般的な項目に加え、「シネマブラックプロ」機能に関連したパラメータ調整、さらに映像エンジン側の振る舞いまでの調整に関与する「エキスパート設定」がある。
VPL-HW10の「シネマブラックプロ」機能としては動的な絞り制御機構の「アドバンスト・アイリス」、そしてランプ輝度モードの調整に相当する「ランプコントロール」が提供されている。 アドバンスト・アイリスは映像の平均輝度に応じて絞り機構を開閉するものだが、設定値が「オート1」「オート2」となっており、わかりづらい。 オート1は映像輝度に連動した絞り開閉の幅を広く取るもので、オート2は浅く取るもの。具体的には暗くなったり明るくなったりしてもオート2はあまり絞ったり開いたりはせず、オート1は大胆に開閉する、という意味合いになる。前からこの名称だが、ここはもうちょっとイメージのしやすい名前を付けて欲しいところだ。 オート1、オート2を設定時は、さらに開閉応答速度を「遅い-通常-速い」から選択できる。これは明暗の移り変わりが激しい映像のときに絞り機構を映像の変化にどのくらい早く同期させるかを設定するもの。リアルタイム性を重視するならば「速い」なのだが、明るさが変わるのがわざとらしく気に障ることもあるので、どう設定するのが最適かは好みによる。あまり、明暗がパッパッと変わるのが気になる場合は「オート2」の「通常」応答速度にするか、あるいは「オート1」の「遅い」応答速度にするのがお勧めだ。 なお、絞り具合は「手動」の0(最大絞り)~100(最大開放)の固定設定にすることも可能だ。 ランプコントロールは暗い「低」か明るい「高」が選べるが、もともと輝度は1,000ルーメンと過度に明るい機種でもなく、黒浮きも多くないので、通常は「高」設定でいいだろう。
「エキスパート設定」階層下はVPL-VW60から微妙に変わっている。モスキートノイズやブロックノイズの低減フィルタ「MPEG NR」の設定、暗部の沈み込ませレベルを補正する「黒補正」、3種類のプリセットガンマカーブから好みの階調特性を選べる「ガンマ補正」などはVW60と共通だが、VPL-HW10にはここに色空間モードを切り換えられる「カラースペース」の設定がレイアウトされている。 VPL-VW60までは「カラースペース」は、別タブの「画質詳細設定」の階層下にあって「RCP」(Real Color Processing)と並んでいたのだが、エキスパート設定側にまとめられた。これにより、画調パラメータの一環としてカラースペースが取り扱われることになり、ユーザーメモリにも当然記録されることになった。これは理にかなった改善だと思う。 ただ、そうなると、「画質詳細設定」メニュータブの階層下にはRCPの設定項目しかなくなり、もはや「画質詳細設定」メニューをルートに掲げておく必要性が見あたらない。RCPを活用する人はリモコン上にある[RCP]ボタンを押して呼び出すはずなので、RCPメニューもエキスパート設定側に入れてしまってもよかった気はする。 ソニーのプロジェクタのメニュー設計は、先代機種のメニュー設計の都合が痕跡として残ることが多く、これが「使いにくさ」につながることがしばしばある。ここは毎回残念に思うところだ。
もう一点、VPL-VW60にないエキスパート設定は「x.v.Color」の設定項目だ。現在はビデオカメラでの対応が中心のx.v.Colorだが、そうした機器との接続時には「入」設定として映像を再生するとよりリアルに映し出すことが出来ることになる。 なお、VPL-HW10の「エキスパート設定」には、VW60にあった「DDE」(フィルムモードの設定)、VW200にあった「DRC」(Digital Reality Creation)の項目はない。よって、2-3プルダウンの認識等は映像エンジンである「ブラビア・エンジン2」(BE2)による自動認識で行なわれると見られる。 ユーザーメモリはVPLシリーズ伝統の、各入力系統ごとに個別の3つが記憶される方式を採用。プリセット画調モードは「ダイナミック」「スタンダード」「シネマ」の3つが用意され、それぞれはユーザーエディットが可能となっている。エディットした内容は電源オフ後も記憶され、さらにこれは各入力系統ごとに個別に記憶されるので、プリセット画調モードをユーザーメモリ的に活用することも可能だ。「画質設定」メニューの「標準に戻す」を実行すればいつでも工場出荷状態に戻すことが出来るので気軽にプリセット画調モードをベースとした画調調整が楽しめる。
特定色を選択式に調整するVPLシリーズのユニークな画調調整機能「RCP」はVPL-HW10にも搭載されている。RCPとは赤、マゼンタ、青、緑、シアン、黄色の6色の代表色を手がかりにして、実際に表示中の映像の中から調整したい色を選択して、その色調を調整する機能だ。調整結果は、前述の画調パラメータのユーザーメモリとは別管理の3つのRCPユーザーメモリに保存することができる。なお、このRCPユーザーメモリは、全ての入力系統から共有利用される点に留意したい。
■ 画質チェック 上位機種のVPL-VW80は映像パネルに製造プロセスを0.25μmにシュリンクした新世代ソニー製LCOSパネルのSXRD(Sony Crystal Reflective Display)を採用しているが、VPL-HW10ではVW60と同世代の0.35μmプロセスの0.61型フルHD対応のSXRDパネルを採用している。
SXRDの開口率は約90%もあるため、画素格子は相変わらず細く、150インチ程度まで拡大してもほとんど粒状感を感じない。大画面投影に関しては依然とLCOS機のアドバンテージは生き続けている。 投射レンズは手動調整式というコストダウンの影響を受けているが、VPL-HW10にもARC-F(オール・レンジ・クリスプ・フォース)レンズが採用された。実際、フォーカス力は、この価格帯を考えるとかなり優秀だ。画面中央で合わせると、画面外周でもそれほどぶれていない。1画素1画素がクリアに映し出されており、優秀で、VPL-VW60に優るとも劣らない。 しかし、色収差は画面全域にわたって約1ピクセル分のズレがあり、これはVW60からは見劣りする部分だ。しかし、対策できないわけではない。 それは「設置設定」メニュー階層下にある「パネルシフトアライメント」を活用すること。VPL-HW10はパネルシフトアライメントの設定をうまく行なわないと、せっかくのフルHDパネルの高解像感が得られないと思う。 パネルシフトアライメントとは、各R、G、Bのサブピクセルをデジタル画像処理的なアプローチで垂直/水平方向に1ピクセル以下の精度で“擬似的”に移動させる手法。物理的に固定されたR(赤)、G(緑)、B(青)の各SXRDパネルを動かすことは出来ないので、あくまで擬似的な手法だ。 詳しく解説しよう。たとえば赤(R)255のドットが黒0のドットに挟まれて「0,R255,0」のように並んでいたとする。実際にはそうした映像を表示したいのに投射レンズの色収差等の影響でR255が左に半ドットずれて映ってしまっていたとしよう。この場合、R255をデータ上で右に半ドットすらせば擬似的に表示映像のつじつまを合わせることが出来る。そこで、「0,R255,0」を「0,R128,R127」のように表示する。つまり、R255の値のうち、半分を右に分配してやるのだ。なお、VPL-HW10では、この手法でGを基準にRとBを垂直/水平方向に移動させることができるようになっており、これを行なうと劇的に画質が改善される。 ただ、これは誤差拡散とかアンチエイリアスなどとよく似たデジタル画像処理の結果であり、もともと1ピクセルだった情報を複数ピクセルに分配するので解像度情報を犠牲にしていることには留意すべきだ。最近はデータプロジェクタにしか採用が見られなくなったデジタルキーストーン補正(デジタル台形補正)などと同種のアプローチだ。 VPL-VW60にもパネルシフトアライメントは搭載されていたが、「切」設定で満足の行く画質が得られていた。ここはコスト削減の結果と言うことなのだろう。パネルアライメントを突き詰めていったところ、VW60に近いくらいのピクセル投射が得られるようになった。VPL-HW10ユーザーは設置完了後、フォーカスを合わせたら、パネルアライメントを実行したい。
アイリス開放時の公称最大輝度は1,000ルーメンで、VPL-VW60と同等。実際の体感的な明るさ自体もVW60と同じくらいであった。 公称コントラストは動的絞り機構のアドバンスト・アイリスを有効時で公称30,000:1を謳う。VPL-VW60がアドバンスト・アイリス有効時に35,000:1だったので、若干及ばないということになるが、実際に映像を見比べてみると、大差はない。ネイティブコントラストも、実質的にはVW60と同等と思ってもらって間違いない。 黒の再現性も立派だ。漆黒表現はVPL-VW60の方が若干上と感じるが、LCOS機らしい非常に暗い黒はVPL-HW10でも十分に再現できている。暗部階調もごまかしなしのリニアリティが確保されていて、映像の暗部の情報量が驚くほど高い。この暗部の描写力の的確さはVPL-VWシリーズの遺伝子がそのまま受け継がれている印象を持った。
アドバンスト・アイリスは今回も使いどころが難しい。たしかにオート1、オート2はいずれも振る舞いに違和感はなく、黒浮きの低減も素晴らしいのだが、ピーク輝度がどうしても暗くなりダイナミックレンジ感が乏しくなる。個人的にはネイティブコントラストはVW60に負けていないと思うので、アドバンスト・アイリスをオフにしてピーク輝度の豊かさを取った方が満足度が高いと感じる。
発色も素晴らしい。赤、青、緑の純色のパワーバランスも素晴らしく、水銀系ランプとは思えない純度の高い原色が搾り取れていると思う。 緑は最明部まで黄に飛ばずにクリアな発色だし、青には深みがある。赤は朱色感がなくとても鋭い。 人肌も水銀ランプ特有の黄緑感は感じられず、非常に自然に見える。白い肌の透明感、ほのかな血の気、ハイライト付近の白から肌色のグラデーションなどもとてもリアルに描き出してくれている。 水銀系ランプの色もここまで来たのかと感心させられる。VPL-VW60と比較した場合も全く見劣りしない。同等だ。
色深度も深く、二色混合グラデーション、明色から暗色へのグラデーションも非常にスムーズで違和感がない。黒浮きの徹底低減により暗部階調表現が優秀なこととの相乗効果で、最暗部にもちゃんと色味が残っているのにも感動させられる。 特に、カラースペース設定をワイドにした広色域モードでは赤、緑、青の発色純度がさらに高まり、色深度の深さと相まって色ディテール表現がさらに向上する。特に広色域モード時のマゼンタの発色の深さは素晴らしい。単なる記憶色再現画調とは違った、リアリティ向上の方向に働く色表現の拡大なので、VPL-HW10ユーザーは是非とも活用して欲しい機能だ。
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