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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第37回:DVDを楽しむならコレ! AVチェア「TR-1000」
~ 体で感じる重低音の威力!! ~


■ AVチェアとは何か

ぱっと見はイスにスピーカーが付いているだけのようだが……

 今回のElectric Zooma!のお題は、イスである。「イスかよ」、「イスだって」、「ネタないのかよ」、「終わったな」などと噂する声がちまたからヒソヒソ聞こえてくるようだが、もちろんそこはZooma!なのでタダのイスではない。オンキヨーリブ株式会社が販売するAVチェア「TR-1000」なのである。

 何がどうAVチェアなのかというのは写真を見てもらえば言うまでもないことだが、前後左右にスピーカーが付いている。お尻の下にはサブウーファまで付いている。いい感じですな。しかしここまでならばただの「サラウンドイス」である。TR-1000はさらに、低音に反応して振動するユニットをイス内に埋め込んだ、「サラウンドボディソニックイス」(筆者が勝手に命名)なのである。

 このようなボディソニックシステムは、AVの世界でも古くから存在した。あんまり古くて資料がないのだが、筆者は20年ほど前にレーザーディスクに繋いでボディソニックが楽しめるイスの展示を見たことがある。もちろんボディソニック技術自体はそれ以前から存在したことだろうが、そのイスはヘッドレスト部分にスピーカーが内蔵され、背中とお尻に振動ユニットがあった。おそらくこのシステムは、パイオニアが製造していたのではないだろうか。今でもパイオニアでは、ボディソニックシステムを販売しているようだが、もう忘れてしまったのかページには画像すら出てこない。

 と、書いたら、読者から、「ボディーソニックは、パイオニアから分かれたボディーソニック社に販売が移行して、現在ではオメガ・プロジェクト株式会社の一事業部となって、製品もそちらから販売されています」との情報を頂いた。お詫びして訂正させていただく。

これが振動ユニット。それほど大きなものではない

 そうなのだ。ボディソニックってのは結構古くからあるものの、現在ではかなーり廃れてしまったシステムなのである。現在オーディオの花形は5.1chサラウンドであり、DTSなどでは6.1chとか言い出している。しかしイタズラにスピーカーばっかり増やしてもその効果が劇的に上がるかというと、そこはちょっと疑問だ。やはりこれ以上システムとしてステップアップするのであればバーチャルの原点、ボディソニックなのである。いや若干展開に無理があるのを承知でそういうことにしといてくれタノム。

 TR-1000を販売しているオンキヨーリブと言う会社は、オーディオでおなじみONKYOの関連会社で、リラテックエレメント(加振器)の製造に関して20年以上のノウハウを持つ会社であるという。つまりボディソニックに必要な振動ユニットを作っている、ボディソニックの大元締めのようなところなわけですな。

 ではその振動の大家が作った音に合わせてブリブリ振動するイス、TR-1000を早速試してみよう。


■ セッティングはかなり大変

オプションを全部そろえるとこれだけのパーツになる

 まず製品の概要を見てみよう。まず基本となるTR-1000のセットでは、振動ユニットを内蔵したイスとそれに付属するフロントスピーカー、そしてサブウーファまでになる。つまりこれだけだとリアスピーカーがない。気軽にボディソニックを楽しみたい場合、あるいはソースが音楽CDやビデオテープといった2ch音源が中心の場合は、この構成になるわけだ。

 サラウンドを楽しむためには、オプションの「SR-1000」が必要である。これはデコーダーとリアスピーカーのセットだ。さらに別オプションとして、デコーダとイス間を赤外線で飛ばす「コードレス光伝送システム」もある。これらを全部展開すると、右の写真のような感じである。ものすごいパーツ量だ。なんかもうちょっとまとまりませんか。気合いを入れて全部借りたが、後でよくよく考えてみると赤外線ユニットはいらなかったよーな気もする。

 まあいいや、そのあたりは後述するとしてだな、とりあえず編集部員2名を動員してWatch編集部から会議室までえっさえっさとイスそのほかもろもろを運搬、セッティングである。こういう接続は順番にやっていかないとワケわかんなくなるので、音の入力方面から攻めていくことにする。まずDVDプレーヤーから光ケーブルを使ってデコーダに接続する。うわデコーダー安っすい作りですな。ポコポコの樹脂製である。

見た目安っぽいデコーダ。しかし機能は結構多い フロントとサブウーファチャンネルをまとめる変換アダプタ まとめた信号を飛ばす赤外線ユニット

 背面の出力はRCAピンでちゃんと6つ出ているので、先バラケーブルを使って1本にまとめてイスに送る。このケーブルでまとめられるものは、フロントのL、C、Rとサブウーファチャンネルだ。これをミニジャックのやけに端子が多い特殊ケーブルでイスまで伝送する。なお赤外線で飛ばす「コードレス光伝送システム」は、この特殊ミニジャックケーブルの代わりに使用するというものである。

信号分配器を兼ねたサブウーファーユニット

 それでこのミニジャックの反対側はというと、イスの下にセッティングするサブウーファに接続する。うわサブウーファーもこれまた安っすい作りですな。デコーダと同じくポコポコである。まあデコーダは音が出るわけじゃないのでまだいいとして、実際に音が出るユニットでこ~れ~は~。そして、正面には電源兼用ボリュームと、バス用ボリュームがある。

 このサブウーファは例のミニジャック特殊ケーブルで伝送された信号をバラす構造になっていて、背面に振動ユニットとフロントのLRスピーカーを接続する。ここでやっと音の出口まで来た。いや文章で読むとたいしたことないようだが、付属品として謎の変換ケーブルがたくさんあるため、それをどこにどう使ったもんか悩みまくったりしていたので、ここまでくるだけでとても時間がかかっているのである。

作りはシンプルながら、なかなか座り心地のいいイス

 まだリアスピーカーの接続があるのだがとりあえずそれはおいといてですな、イスの作りを先に見てみよう。イスそのものとしてはそれほどゴージャスな作りではない。金属のフレームに布張りというシンプルな構造である。

 しかし座ってみた感じはなかなかいい。生地の中にウレタンが入っており、ある程度厚みがあるため、よくあるキャンプイスみたいなものとは全然違う。背もたれの角度などまったく変えられないが、長時間座っていても疲れない、いい角度になっている。そして肝心の振動ユニットは、足の腿のあたりと、肘掛けの下に埋め込まれている。

 さて、話をずずっとバックしてリアスピーカーの接続だ。さっきも書いたがここまでの設定は、ケーブル接続かもしくは赤外線で行なうことができる。フロントスピーカーとサブウーファ、振動ユニットで1つのセットだからだ。しかしリアスピーカーはオプション扱いになるので、別途結線が必要になる。これがなんと力ずくな、RCAピンケーブルの長ーい長ーいやつで繋ぐのである。せっかく赤外線でかっこよく音を飛ばしたところまではよかったが、オプションを付けるととたんにヒモ付きになってしまう。むう、それだったらフロントも赤外線にしなくても……。1本でも有線で繋がったら、もう2本でも3本でもかんけーねーよって感じなんですけど……。


■ 効果はものすごい

TR-1000体感中。このとき編集部員は誰も声かけてこない……

 ま、そんなこんなでどうにか繋がったので、いよいよ試聴である。映像の方はどうするかというと、先週の新製品プレビューであつかったオリンパス「Eye-Trek FMD-220」がまだ編集部にあったので、それだそれだそれで全身バーチャルだ、ということになった。なんだか気分は力ずくのアミューズビジョンライドである。もっともアミューズビジョン自体誰も知らん、という話もあるが。

 筆者の個人所有DVDはほどんど音楽ものなのであるが、その中でもこれは効くにちげえねえとにらんで持ってきたのが、YES 「The Union Tour Live」である。'91年に行なわれた奇跡の6人YESのライブだ。

 さっそくプレイ。おおーぅ、こっこれは! 効っくぅ! ツインドラムのキックと、やはりクリス・スクワイアのベースがズドドーンと効く。最高最高! マジ最高ッスよ! まるでライブ会場にいるかのよう、いや、それより派手に揺れてる揺れてる。手の下にあるユニットはやや弱めだが、腿の下にあるやつがブリブリくる。しかしこれを端から見ると、サイバーを通り越してむしろアブナイヒトという感じはする。いやこれはどっちかというとEye-Trekのせいか。

 視聴するソースは、映画よりも音楽もののほうが効果的だろう。というのも音楽では常にビートがあるので、振動が効きやすいのだ。地味な映画だと、最後までタダのイスで終わってしまう可能性もある。

 音に対する振動のズレはほとんど感じられない。さすがそのあたりはこの道20年のキャリアであろう。ただ、耳で聞いて低音だと思っているような帯域でも、案外振動しないところもあった。おそらく振動ユニットに通す帯域というのがシビアに決まってると思うのだが、その辺もユーザーが調整できると面白いのに、と思った。

サテライトスピーカーユニット。前後左右同じものが4つ

 全体的なサウンドの聞こえ方だが、やはりサテライトスピーカーの力不足から、ちょっと癖のある音だ。再生周波数特性に山があったり谷があったり、という感じ。やはりここはアミューズメント的に楽しむべきだろう。

 リアのセパレーションはスピーカーの位置がいいのか、なかなか良好だ。スピーカー自体はイスに座ると後方下に位置するが、その方向からは聞こえず、ちゃんと耳の後あたりから聞こえる。一見てきとーな作りに見えるが、その実かなり計算された設計なのかもしれない。

 一方フロントの方は、やはりまともに耳の方を向いてるだけあって、今ひとつキレが悪いのを感じてしまう。特にセンタースピーカーがないので、映画のセリフ定位などでチャンネルセパレーションに濁りがあるのが残念だ。センタースピーカーをイスに着けようと思うとどこにも付けられないが、別途ちょっとしたスタンドを立てて付けてもいいかな、とも思った。

 サブウーファは、低音域を別に出すというよりも、サテライトの特性をカバーする感じで鳴っている。そのあたりが全体的な特性の癖として出ているようだ。しかしそれよりも振動ユニットのほうが効くので、あんまり重低音再生用として効かなくてもあまり問題ない。

 ここは結構ポイント高いのではないだろうか。最近は非力なサテライトをカバーするために鳴るのが当たり前のようなところがあるが、サブウーファー元々、音にならない低周波の空気振動を起こすという目的も持っている。それによって人の体全体をドライブさせようというわけだ。従って本当にサブウーファの威力を体感するならば、ある程度の音圧にしなければならない。ところがそういった低周波の振動というのは、床材を通じて遠くまで伝わりやすいのである。床にコンクリートを流しこめるような一戸建て住宅にお住まいの方は別として、集合住宅ではこのような本物の体感を味わうのは夢のまた夢である。

 しかし振動ユニットならば、低域の振動が直接体に伝わってくるし、振動自体はほとんど無音である。また振動ユニットは布地に挟まれているので、イスを通して振動が床に伝わることもない。今までは単にキワモノっぽい扱いをされてきたボディソニックであるが、マルチチャンネル時代を迎えてようやくその真価が発揮できる時が来たと言えるのではないだろうか。


■ 総論

 ボディソニックの真価は、あまり音量を上げずに振動を得られるというところにある。現在の住宅事情で大迫力のコンテンツを楽しむためには、このようなボディソニックシステムは、これから面白くなる分野なのではないだろうか。まず、効果としては十分にある。さらにあんまり目を付けてる企業がない。そしてサラウンドソースは昔とは比べものにならないぐらい、いくらでもあるのだ。

 ただこの製品、TR-1000にのみ限定するならば、なんだか「実験ユニットでうまくいったのでちょっと体裁整えてみました」ぐらいに感じてしまうのが実に残念だ。サテライトスピーカーもさほど指向性が高くないので、周囲にも結構音が聞こえる。また価格的にも基本システムで店頭予想価格53,000円前後という線はまあまあいい感じだと思うが、リアとデコーダのオプションを入れると9万円近くになってしまうので、そこまではちょっとつらい。ケーブルやユニットをもっと整理して、イスも折り畳めるものにするなど、製品としてもうちょっと洗練されてくると、その価格でも納得できるのだが。

 もっともオンキヨーリブという会社にしてみれば、リラテックエレメント(加振器)のデモンストレーションとしては最高であろう。これを足がかりにして、ユーザーにダイレクトに接する商品としてもっと魅力的な形に作り込めるメーカーと、優秀な家具屋さんとコラボレーションできれば、実にいいシステムができあがると思う。ぜひがんばってもらいたいジャンルである。

□オンキヨーリブのホームページ
http://onkyoliv.onkyo.co.jp/
□関連記事
【10月20日】オンキヨーリブ、サラウンドに発展可能な低音振動チェア
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011029/onkyol.htm

(2001年11月28日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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