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第56回:新感覚ビデオレコーダ「SONY CSV-S55」
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■ 久々のSONY製HDDビデオレコーダ
ビデオレコーダと言えば、最近の家電業界ではもはやVHSの出番ではなく、HDDやDVDレコーダが華やかだ。しかしDVDが絡むと各社いろいろな思惑があって、DVD-RAMを普及させたいPanasonicや東芝は当然DVD-RAM(/R)単体か、HDDとのハイブリッドだし、PioneerはDVD-RW(/R)のみでHDDとのハイブリッド機はまだ。
そしてSONYは早くからHDDレコーダは出しており、PioneerからのOEMだがDVD-R/RWレコーダも発売している。しかし、ハリブリッド機は今日まで出ていない。SONYが自社開発のコンシューマビデオレコーダに積むのはDVD-RWか、それともDVD+RWになるかは業界でも注目されるところだが、今度のレコーダもまた、DVD系を搭載していないモデルだ。
5月11日発売の新型HDDビデオレコーダ「CSV-S55」は、ハードウェア的に見れば同社のHDDレコーダシリーズ、「Clip-On」の後継機と見えなくもない。しかし、その実態は「チャンネルサーバー」という名称が表わす通り、若干違ったコンセプトの製品となっている。SONYはClip-Onをビジネス的には失敗と見ているのか、後継機種が出ないまま製造中止という状態がしばらく続いていたが、この時に培われた技術で新たにチャンネルサーバーというシリーズで展開するつもりなのかもしれない。
なにはともあれ、久々に出たSONYのビデオレコーダ「チャンネルサーバー CSV-S55」の試作機を、いち早くお借りすることができた。さっそく試してみよう。
■ ハードウェアはシンプル
まずはハードウェア的な特徴から見ていこう。筐体はサイズ的にも一見Clip-Onに似ているが、前面パネルは上下対称の作りではなく、中央が凹んだイメージのみが継承されている。本体ボタンも大きくなり、かなりはっきりとした日本語表記がされている。これだけ見ても、Clip-Onがライフスタイルにおいてデザインを重視する傾向のユーザーをターゲットにしていたのと違って、もっとエンドユーザー層にターゲットを向けていると感じられる。
フォルムはなんとなくClip-On似 | ボタン類は大きめの日本語表記 |
またCSV-S55では、Clip-Onの側面にあった排熱スリットがなくなり、背面にあったファンもなくなっている。ボディ全体で放熱しているようだ。そのため動作音は非常に静かで、HDDの回転音などは周りが静かになった深夜になって気が付くといった程度となっている。
背面はアナログBSチューナがなくなったので、かなりシンプルになった。RFのインとスルー、ビデオ入力2系統、ビデオ出力2系統、それからモデム用のモジュラージャックがある。
アナログBSチューナがなくなったことについては賛否両論あろうかと思うが、現在放送はデジタル化に向けて大きな転換期を迎えており、チューナ部は衛星・地上波複合型を始め、これからいろいろなタイプが登場してくると思われる。個人的には、現時点の製品として、末永く使うために最初から外部チューナの使用が前提であってもいいと思う。
リモコンは、メニュー操作用の上下左右キーと中央の決定ボタンがある。ビデオレコーダ用としては、再生やストップといったボタンが小さく、目立たない。またチャンネルをダイレクトに選局する数字キーがないため、やけにすっきりした印象だ。
背面パネルはモジュラージャックがある以外はオーソドックス | リモコンにはダイレクト選局用数字キーがなく、すっきり |
■ コンセプチュアルなソフトウェア
CSV-S55すなわちチャンネルサーバーの特徴は、そのソフトウェアに現われている。
まず番組予約システムだが、従来のClip-On同様、EPGに大きく依存している。チャンネルサーバーで採用しているEPGは、TBS系列で放送している「bitcast」(システムはGガイド)だ。テレビ朝日系列のADAMSに比べると番組付帯情報は豊富。受信を1日に2回しかない(なお、現在関東圏では1日4回更新されている)のが難点だが、毎日使用していれば勝手に受信されていくので、実際の運用にはそれほど支障はないだろう。
なお、Clip-Onでは、EPG受信用チューナが搭載されていたようだが、CSV-S55は番組用のチューナと兼用になっている。そのため、EPGの受信時間になると自動的にTBS系にチャンネルが変更される。もちろん、その時に違うチャンネルを見ている場合は、変更していいかどうかダイアログが出るのだが、こんなところにも、コスト削減の結果が見てとれる。
番組表は3種類の見方ができる。これはチャンネル別表示 | 時刻別番組表。左には広告と、放送中のチャンネルが表示される | ジャンル別番組表。キーワード別に番組をピックアップ表示する |
もう1つbitcast(Gガイド)のデメリットは、番組表が比較的短期で、だいたい明後日ぐらいの分までしか載っていない。これでは予約するのに不便ではないか、と思われるかもしれないが、そこがチャンネルサーバーの勝負どころなのである。
ジャンル、キーワード、時間帯で番組を絞り込む |
すなわちユーザーが見る、見ないにかかわらず、とりあえず録る。録ったものから見たいものだけ見れば? というスタイルが、チャンネルサーバーの基本的な考え方なのである。録られた番組は、7日間で自動的に消えるようになっているので、ほっといてもHDDが一杯になって身動き取れない状態になることはない。もちろんこの設定はユーザーが自由に変更可能だ。
この視聴スタイルを「My Cast(マイキャスト)」というらしい。どうでもいいが最近のSONY、コンセプトとかいろいろなものに名前付けすぎである。もう覚えきれなくなってなんだかだんだんどーでもよくなってきているので、そのあたりもっと要点を絞った方がよろしかろう。
これはある意味贅沢な録り方だが、しかし我々の生活を考えてみると、そうそういつもテレビ番組のことばっかり考えて生きているわけではない。特に忙しい社会人にとっては、毎朝新聞のテレビ欄で今晩の見たい番組をマメにチェックしてビデオ予約、などという悠長なことをやっている暇はないのである。
プリセットされているキーワードは24種。シーズンにあわせて更新される |
まあこれは余談だが、放送の映像からメニューに変わるときや、メニュー間の移動時には白フェードしたりアイコンがズームイン・アウトしたりと、他社製品とはちょっと違った演出が施されている。このあたりの余裕もSONYらしい。
■ これがユビキタス・バリュー・ネットワーク?
もう1つコンセプチュアルな機能として、電話回線を使った録画予約サービスがある。
簡単にしくみを説明すると、まずWEB上にある専用ページ(http://www.jp.sonystyle.com/mycaster/)にパソコンかケータイでログインし、番組予約をスケジューリングしておく。チャンネルサーバーにはモデムが内蔵されており、これに電話線を繋いでおくと、1日に2度サイトにダイアルアップして、予約スケジュールをダウンロードして自分の予約に加える、というシステムである。
このようなリモート録画機能というのは、古くからいろいろな形で存在する。筆者が昔使っていたNECのビデオデッキには、やはり電話線を繋いでおき、留守番電話のような感じで自宅に電話して録画予約するという機能が付いていた。また先日レビューした「ロクラク」は、メールを出すことで録画予約を行なう機能があった。
このようなサービスを、今どきLANではなく電話線でやろうというところでも自ずと想定しているユーザー層が想像できようというものだ。ビデオサーバーがかける電話代はSONYが負担するものの、ケータイ使用料はかかるし、このサービス利用料金として月300円かかるそうである。
有料サービスということも引っかかるが、仕組みが大げさな割には、結果は単に録画予約するだけというのでは「大山鳴動して鼠一匹」のようにも思える。まあ、SONYとしても、今後の展開も考えているとはいうのだが……。
SONYの提唱する「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」って電話線でダイアルアップかよ! というツッコミが1億2,000万人ぐらいから聞こえてきそうだが、「すべての家庭で可能で、かつサービスでお金を取る仕組み」を考えると、現状の落としどころとしては案外こんなことになっちゃうんだろう。
■ 画質
【ビットレートと録画時間】 | ||
モード | ビットレート | 録画時間 |
SP | 6.0Mbps | 約25時間 |
LP | 3.7Mbps | 約40時間 |
EP | 2.8Mbps | 約55時間 |
最後に画質について触れておこう。チャンネルサーバーの録画モードとしては、SP、LP、EPモードの3種類がある。
Clip-Onでは11.5Mbpsで録れる高画質のHQモードがあったのだが、チャンネルサーバーのコンセプト的に、見るも見ないも関係なしにわーっと録るというところがキモなだけに、容量を食うHQモードは見送られたということだろう。
筆者が使ってみた感じでは、通常の使用にはやはりSPモードは譲れない。動きの少ないところではまずまずの画質だが、それでも動きの激しいところではかなり画質は悪いと感じた。どうもMPEG-2エンコーダの動き検索精度があまり良くないようだ。
LPモードではVHSの3倍モード以下、動きのおとなしいシーンでも、コントラストが強い部分などにブロックノイズが目立つ。EPモードでは、おそらく解像度を半分にしているのであろう、全体的に画質が甘い感じになるが、ブロックノイズは目立たない。漫然と見ている分には、LPモードよりもEPモードのほうが見やすいようだ。
あいにくチャンネルサーバーには映像をデジタル的に取り出す手段がないので、サンプルとしてS出力をキャプチャした静止画をアップしておく。
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なおチャンネルサーバーは、HDD増設サービスも展開される予定になっている。80GBのHDDを増設する(つまり容量が2倍になる)のに、費用が45,000円かかる。Clip-OnのHDD交換や増設サービスもこの金額であったので、サービス料として固定金額なのかもしれないが、元々本体はストリート価格で9万円台とされているので、本体価格の半額近くさらに払うわけである。せっかくこれだけの金額を出すのであれば、HDD倍増に伴ってHQモードの追加などもやって欲しいところ。
■ 総論
チャンネルサーバーはClip-Onから比べれば、アナログBSチューナやHQ録画モード、編集機能などがカットされているが、その代わり店頭予想価格は9万円前後と、従来製品よりも大幅に買いやすくなっている。DVD系ドライブやテープデッキもないので、本体が薄く、スタイリッシュ。静音性が高いのもなかなかいい。またこのコスト削減による機能低下を、番組一気収集というコンセプトによって補おうとする努力は評価できる。
例えばテレビを見るシチュエーションとして、特に映画などはタイトルはまったく知らないが、ちらっと見始めたら面白くなって、いつの間にか腰を落ち着けて最後まで見てしまう、ということも多いのではないだろうか。知らない映画で面白いものに当たると、なんだか得したような気分になるものだ。こういった視聴スタイルが、録画機で可能になるわけである。
購買ターゲットとしては、古くなったVHSなどからのリプレースということになるだろう。ビデオで録画している人でも、そのほとんどは録画した番組テープを保存するということは希で、ほとんどは一度見たら上書きしているはずだ。そのような使い方であれば、まったくチャンネルサーバーで問題ない。
しかし人間とは面白いもので、実際に保存はしないにしても、なぜか「欲しければとっておける」という逃げ道があるだけでなんとなく安心してしまうものだ。このあたりをすっぱり割り切って「見たら終わり」という意識に変えていくには、気の利いたプロモーションなどの後押しが必要なのではないか。あるいはSONYとしては、すでに人々はそういう意識で動いている、という読みなのかもしれない。
いやしかしそれよりも、一度見ただけで映像の内容をいくらでも覚えてしまう人間の脳ってすげえ、と改めて思ってしまう。なんだか録画家電も、人間の脳や本能との勝負になってきているようだ。
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/CSV/
□関連記事
【4月15日】ソニー、実売9万円のモデム内蔵80GB HDDビデオレコーダ
―地上波EPG対応、携帯電話からの録画予約も可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020415/sony.htm
(2002年4月24日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp