■ ホグワーツ2年目、華々しく始業式
2002年4月に発売された第1作目は、「マトリックス」、「千と千尋の神隠し」と並び、国内DVD普及の立役者となった。ワーナー・ホーム・ビデオは発売後、国内DVDで最速・最高の「1週間で100万本販売」と、その勢いを発表している。 個人的にも、DVD普及前夜の当時、店頭に山のように詰まれた同タイトルを見て「本当にDVD? ひょっとしてVHSでは?」と、手にとって確認した思い出がある。続いて発売された「千と千尋」には及ばなかったものの、稀に見る大ヒットとなったのは間違いない。 今回のDVD版「秘密の部屋」も、信じられないくらい大々的なディスプレイが行なわれているようだ。新宿と秋葉原の量販店を回ってみたところ、各店ともハリー・ポッター1色といった雰囲気。「史上最多の封切り時858スクリーン」、「初日で100万人動員」など、第1作を上回るヒットとなった「秘密の部屋」だけに、ワーナー・ホーム・ビデオと販売店の期待は大きいに違いない。 ケースはごく一般的なアマレー・ダブルで、中身は本編ディスクと特典ディスクの2枚組。加えて、封入物としてチャプタリストと特典ディスクの解説を兼ねた2つ折のガイドが入っていた。前作同様シンプルだ。 ディスクは2枚ともピクチャーディスク。本編ディスクに描かれているのは、もちろん主役の仲良し3人組(ダニエル・ラドクリフ、リパート・グリント、エマ・ワトソン)だ。一方、特典ディスクは、撮影後に亡くなったリチャード・ハリス(アルバス・ダンブルドア校長役)を大きくあしらっている。リチャード・ハリスは、「戦場の七人」、「ナバロンの要塞」、「パトリオット・ゲーム」などに出演した名優。DVDコレクターなら、超高画質ディスク「グラディエーター」の先代皇帝役でもおなじみだろう。次回作での後継者は未定らしいが、重要なキャラクターだけに、誰が演じるのか気になるところだ。 なお、今回も前作同様、ケースの表紙側に特典ディスク、後ろ側に本編ディスクが入っていた。アマレー・ダブルケースは、開けたときに1枚しか見えない。そのため、購入者に特典ディスクの存在を知らしめるための配慮から、表側に特典ディスクを配置したのだろうか。また、各ディスクには間違えないよう、「Disc1」、「Disc2」の表記が入っているものの、文字が細くて見えづらい。こんな間抜けは私だけかもしれないが、今回もまた、おもむろに特典ディスクから再生してしまった。入れ替えれば済むことだが、素直に表紙側を本編ディスク、後ろ側を特典ディスクにしてもらいたい。これからも1年に1回、同じ間違いをするのかと思うと憂鬱だ。
■ 強化されたVFXと子役の成長に感無量 キャスト、スタッフは前作とほとんど同じ。ただし、撮影監督がジョン・シールから、「バットマン」、「未来世紀ブラジル」のロジャー・プラットに代わっているのが見どころかも。舞台が移動するごとにクレーンショット風のCGによる視点移動が多用されるなど、前作では控えめだった派手な見せ方が観客を引き付ける。視覚効果に関しても、前作のニック・デイビスに加え、「スリーピー・ホロウ」、「ジュラシック・パーク3」のジム・ミッチェルが参加。それらのせいか、前作の楽しげな雰囲気が鳴りを潜め、ハードなアクションよりの作品になった。前作でショボさを指摘されたCGも、今回は金をかけた大作らしい完成度を楽しめる。 また、相変わらず美術の仕事ぶりにはため息が出る。原作世界の描写はさらにマニアックになった。1作目と同じ場所なのに、妙に恐ろしげな雰囲気になっている場面があるなど、1作目からのファンをあきさせない工夫も多い。極端に低い色温度も健在だが、月明かりによる青白いシーンが増えたのも大きな変化。そのため、前作になかったおどろおどろしい雰囲気が良く出ている。 しかし、撮影、VFX、美術が強化されている分、説明不足な脚本が残念だ。原作を読んでいないとストーリーを追いきれないのではないだろうか。あれだけの原作の分量を纏めるのには、高度なセンスが求められるのだろう。特典ディスクでは、原作者のJ・K・ローリングとともに、脚本のスティーブ・クローブスがその苦労を語っている。もっとも、特典ディスクには未公開シーンも数多く収録されているので、編集のピーター・ホネスの時点で省略されたディテールも多いのだろう。 一番驚くのは、主役3人の成長振り。ダニエル・ラドクリフとルパート・グリントは声変わりし、演技も落ち着いたものになった。ハーマイオニー役のエマ・ワトソンもちょっと背が高くなり、微妙に大人っぽく成長。相変わらず濃い演技が微笑ましい。 シリーズもののキャスティングの場合、子役の成長による変化がネックになる。しかし、この作品の場合は、製作、ストーリー進行ともに1年単位なので、観客が違和感を感じることはそれほどないだろう。観客としては、3人の成長をリアルタイムで見守っているようで楽しい。むしろ、前作と同じ声質の日本語吹き替えが、奇妙に感じられる(やっぱり棒読みだし)。
■ 驚異のエンコードマジックで、画質は大きく向上
約152分という収録時間もあり、前作の画質は今ひとつだった。極端に低い色温度も影響していたのだろう。まるで、テレビ放送を基にした片面1層のドキュメンタリー作品のようなシーンが多かった。今作ではさらに収録時間が伸びているため、購入前から画質面への期待はなかった。 ところが、本編を再生してみて驚いた。暗部のノイズも少なく、階調性も豊か。最近のディスクにほとんど引けをとっていない。とりわけ、ダニエル・ラドクリフを中心としたシーンは高画質。メガネのフレームの周りに浮いていた擬似輪郭もなくなった。収録時間を考えると、エンコードクオリティの向上はかなりのものだと思う。もちろん、全シークェンスを通して美しいわけではなく、一部のシーンには、ノイズや階調不足などのロービットによる弊害も確認できる。平均ビットレートは6.1Mbpsだった。なお、前作は6.13Mbpsでほぼ同等。
音声は、前作と同じく英語、日本語ともドルビーデジタルEXを採用。今回はアクションシーンが多いため、6.1chによるサラウンドもたっぷり楽しめるだろう。また、「聴くと2、3時間は気絶する」というマンドラゴラの悲鳴など、特殊な効果音も聴き所だ。 私の環境だけかもしれないが、ドルビーデジタルEXのタイトルは、通常のドルビーデジタル5.1chのソフトに比べ、超低音が大き目のレベルで入っているように感じる(使用できる帯域は同じはずだが)。何せ、劇中のドアが閉まるだけで床が震えるのだから。環境によっては、サブウーファのレベルを下げたり、振動対策を行なう必要があるだろう。そういう意味では、きっちり再生するのにテクニックが必要なタイトルかも知れない。
■ 1作目を継承しながら進化した特典ディスク 特筆すべきは、未公開シーンがすぐ見られるようになったことだ。前作では様々なクイズやゲームをクリアする必要があったが、今回は初期メニューから選択できる。収録数は全部で19。原作では重要だった場面も多く、編集にあたったピーター・ホネスの苦労がしのばれる。 「ホグワーツの裏側」というコンテンツでは、主役3人や原作者J・K・ローリングに加え、トム・フェルトン(ドラコ・マルフォイ役)、ケネス・ブラナー(ギルデロイ・ロックハート役)、リチャード・ハリス、マギー・スミス(マクゴナガル先生役)など、主要登場人物へのインタビュー映像を収録している。前作ではクリス・コロンバス(監督)のインタビュー、というより、次回作の宣伝しかなかったので、ファンにはうれしい配慮といえる。また、撮影風景も収めれられており、撮影の合間に見せる子役3人の生き生きした姿が微笑ましい。 クイズやゲームが無くなったかといえば、そうでもない。「呪文テスト」など、マニアックなクイズは健在だ。ただし、原作を読まないとほぼ意味不明だった前作とは異なり、今回の出題範囲は映画の範囲内。また、分岐を指定するだけの簡単なゲームも入っており、子供は大喜びだろう。 前作に比べ、全般的に遊び心が薄味になってしまった印象だが、内容自体は原作・映画の両ファンに楽しめるものになっている。 なお、新キャラクターのギルデロイ・ロックハートについては、「ロックハート先生の教室」というコンテンツが特別に用意されている。ケネス・ブラナーといえばロックハートにうってつけの3枚目ナルシスト俳優。本人も特典の中で「おいしい役だった」と告白している。個人的には、原作より大幅に出番が少なくて残念だった。まあ、削るとすれば、真っ先に削られるキャラクターではある。 DVD-ROMコンテンツもあり、PCでロードすると自動的にInterActual Player 2.0が専用スキンで立ち上がる。内容は、ゲームや通販コーナーなど。しかし、映画の公式ページで遊べるものと同じなので、無くても問題なかったかもしれない。
■ 原作ファンなら間違いなく必携。DVDとしての質も高い しかし、映像化への興味が薄れた第2作目は、第1作目を上回る魅力を提示できていただろうか。アクション作品としての質は向上したものの、新鮮味という点で第1作を上回れないのは致し方ないところだろう。説明不足の脚本がこれに輪をかけ、映画作品としての完成度はさほど高くない。 もっとも、子供をはじめとする原作のファンにとっては、「おなじみのキャラクターが原作通りに振舞ってくれれば、それで良し」といったところか。説明不足の脚本も、原作を読んでいれば問題なし。個人的にも非常に楽しめた。1作目よりもテンポの良い編集を楽しめる。次回作以降もこの調子で映画化してほしいものだ。 ただ、気になるのは主役3人の契約が3作目までだということ。すでにダニエル・ラドクリフはハリー・ポッター役を退く決意を表明しているし、監督も3作目で交代。第1作目で作り上げた世界を、これからどう維持していくのか興味深い。 一方、DVD版は画質が向上し、持っていて損はないタイトルになった。これだけの画質、音質、話題性で、2,980円は安い。日本語音声もドルビーデジタルEXなので、家族で観るソフトとしても推奨できる。分厚い原作を一生懸命読んだ良い子に、ぜひ高度な再生環境で見せてあげたいものだ。 といっても、前作より怖いシークェンスが増えており、クリス・コロンバスも「7歳以下の子供には向いていない」と警告を発したとか。実は大人でも結構怖い思いをするので、「どうせ子供向けだろ」と甘く見ないほうが良いかも知れない。サブウーファにもよるが、重低音に思わず飛び上がることは間違いない。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2003年4月30日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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