※12月初旬に予定されていた発売が延期されました。製品版とは画質が異なる可能性があります。
■ 設置性チェック~電動フォーカスとレンズシフトでトップクラスの扱いやすさ
投写モードはフロント、リア、天吊り、台置きの全ての組み合わせに対応。天吊り金具は「ELPMB17」(45,000円)が純正オプションで設定されており、天吊り設置への対応も万全だ。また、高天井の部屋に設置するために、高さ調整のためのオフセットパイプ「ELPFP07」(1万円)も用意されている。ただし、天吊り金具とEMP-TW500の総重量は10kg近くになるため、設置の際に天井補強は欠かせない。 さて、プロジェクタ導入が具体化してくると、まず思い描くのは「できるだけ大画面にしたい」ということだろう。大画面を獲得するためには、投写距離を長くすればいい。そこで、部屋が狭い場合は「部屋の最後部に設置したい」と思うようになる。 しかし、ソファなどに座って視聴するとなると、プロジェクタは自分の座高よりもさらに高い位置に設置しなければならない。だいたい床からレンズの中心を120~130cmに持ってくる必要がある。 ところが、プロジェクタのほぼ全てが視聴者の前方、ソファテーブルなどへの台置き設置にも対応するため、レンズ中心よりも上向きに投写する設計になっている。そのため、部屋の最後部の床下から120~130cmの高さで投写した場合、映像はスクリーンをはみ出し、天井にまで投写されてしまう。「台置き設置で部屋の最後部、高さ120~130cmから投写する」というのは、比較的ありがちな要望ながら、これに対応できるプロジェクタは意外に少ない。
EMP-TW500なら、こうした要求にも応えられる。それが、本体を一切ずらすことなく、上方向1画面分、下方向0.5画面分、左右0.5画面分に投写映像を移動できる「レンズシフト機能」だ。また、左右のレンズシフトを活用すれば、スクリーン中央からずれた位置に本体を設置する、いわゆる斜め投写も可能となる。 本体の大きさから常設が基本となるだろうが、1画面分も上方向に映像をずらせるので、やろうと思えば「使いたいときにだけ、背の低いリビングテーブルに置いて使う」といったカジュアルな運用も可能だろう。
投写レンズは光学1.5倍ズームレンズを搭載。最近の製品としては標準的な焦点距離で、最短3.01mで100インチ(16:9)を投影する。 レンズシフトは本体上面に設置された2つの回転スイッチで行なう。フォーカス調整(ピント合わせ)とズーム調整は、このクラスでは珍しく、リモコン制御による電動式を採用している。地味な機能だが、設置時の調整の負担を劇的に軽減してくれる。 というのも、レンズリングを回す手動フォーカスの場合、数m離れた画面を見ながら最良のフォーカスを得るのは難しい。これに対し、リモコンによる電動フォーカスタイプでは、ユーザーがスクリーンに密着した状態で、画素形状そのものに目を凝らしながらフォーカシングができる。画質を気にするマニアには実にありがたい機能だ。 ランプは高圧水銀系の200W UHEランプ。交換ランプ「ELPLP28」は4万円と、このクラスとしては標準的なランニングコスト。 ファンノイズはランプパワー「High」ではやや離れた位置に設置しても聞こえてくるほど大きい。しかし、ランプパワーを「Low」にした場合は明るさが控えめになる代わりに、ファンノイズも格段に小さくなる。この時のファンノイズの大きさはプレイステーション 2(SCPH-30000、以下PS2)と比べてもだいぶ小さく、映像鑑賞中に気になることはほとんどない。 光漏れは皆無といっていい。前面左側の排気スリットの奥にほのかに見える程度で、投写映像への影響はほとんどない。
■ 接続性チェック~今のところHDMIの出番は少ない
PC系入力については、設定メニュー側で切り替えることで、コンポーネントビデオ入力端子をアナログRGBとして兼用でできる。しかし、D-Sub15ピンのアナログRGB入力端子やDVI-I端子などは実装されていない。 コンポーネント入力端子は2系統ともRCA端子(ピンプラグ)なので、一般的に市販されているBNCアナログRGBケーブルがそのまま使えない。本機でアナログRGB入力を行いたい場合は、BNCアナログRGBケーブルの他にBNC-RCA変換コネクタを用意しなければならない。この変換コネクタはセットには同梱されておらず、別途買い求める必要がある。ちなみに、専門店でないと比較的入手は難しいようだ。ホームシアター機ではあるにしても、データプロジェクタでシェアの高いエプソン製品ということもあるし、DVI-I端子くらいは実装して欲しかった。 映像入力系端子としては、この他、HDMI端子が実装されている。HDMIとはHigh Definition Multimedia Interfaceの略で、デジタルHDTV映像信号とデジタルオーディオ信号を1本のケーブルで伝送する新しいAV信号の伝送方式だ。HDMI端子を実装する機器同士を接続すれば、映像と音声をデジタル伝送でき、高画質、高音質が期待できる。しかし今のところ国内では、HDMI出力端子を実装したAV機器がほとんど存在しない。DVDプレーヤーではパイオニア製「DV-S969AVi-N」があるくらいだ。現時点では、先行投資的な視点で認識しておいた方がいいだろう。 また、HDMI端子は映像信号の伝送に限定すれば、DVI端子との相互変換が可能だ。しかし、海外ではHDMI-DVI変換ケーブルが入手できるが、国内での入手は現在のところ絶望的といっていい(編注:EMP-TW500にも同梱されない)。
PCの映像出力の敷居は高いが、PCとの連携するための通信インターフェイスは充実している。搭載されているのは、Ethernet(RJ45)、USB端子、RS-232C端子(D-Sub9ピン)の3種類。PCとこれらの端子いずれか1つを使って接続すれば、EMP-TW500標準添付ソフトの「Cinema Color Editor」(以下CCE)を活用できるようになる。
CCEの最大の魅力は、プロジェクタの設定データをPCで管理できるという点。その時点でのプロジェクタの調整値をPC側にバックアップする用途でも使えるし、独自に作り込んだ画調パラメータを、EMP-TW500の18メモリという仕様制限を超えてPC側に保存しておき、必要応じて適宜使い分けるといった活用もできる。 設定ファイルは1設定につき、PC上で独立した1つのファイルとして管理されるため、これをインターネット上で交換することも可能だ。従って、たとえば、あるユーザーが特定の映画タイトルに最適な設定を作り込んだとする。これをメールなどで添付して送ってもらい、自分のEMP-TW500へ転送して適当なメモリバンクへ登録。設定メモリを呼び出して同じタイトルを見れば、そのユーザーと同じ調整状態の設定で見られるのだ。 また、作り込んだ設定には(アルファベット限定だが)CCE上から名前を入力することができ、これがちゃんとEMP-TW500のユーザーメモリ切り替えメニューにも反映される。つまり無味乾燥な「Memory1」、「Memory2」ではなく、「STARWARS」、「ANIME」といった具体的な用途を連想できるメモリ名として表示されるのだ。 なお、本体だけで行なえる操作、調整は全てCCE上でも可能で、調整後、即座にEMP-TW500に反映される。EMP-TW500の電源が落ちていてもコンセントに接続されていれば、EMP-TW500側のLAN機能は動作しているので、CCEを使いLANを通じての電源オンも可能だ。 EMP-TW500は中級機らしく、簡易再生スピーカーなどは実装されておらず、音声入力端子はない。また、電動開閉スクリーンなどと連動させるための、EMP-TW500作動中にDC12Vが出力されるトリガ端子がある。
■ 操作性チェック~リモコンは自照式。起動、切り替えは遅め 電源投入後、「EPSON」ロゴが表示されるまでが12.3秒(実測)、入力映像が投写されるまでが34.5秒(実測)かかった。最近の機種としてはやや遅めだ。 リモコンは「スティック状」といいたくなるほど細長く、曲線基調のデザインになっている。ボタンは1つを除いて全てが自照式。電源ONボタンが緑、OFFボタンが橙、それ以外は赤と色分けされて発光する。リモコンのボタンを点灯させるボタンは唯一自発光しないが、蓄光式となっている。リモコン最下部のエッジにレイアウトされており、暗がりでも探しやすい。 入力切り替えは、ソース個別に対応した独立ボタン方式で、ダイレクトに希望するソースへの切り替えが可能だ。入力切り替え所要時間はSビデオ→コンポーネントビデオで6.0秒、コンポーネントビデオA-コンポーネントビデオBで4.5秒(いずれも実測)。最近の機種としてはこれは随分遅い。
画調モードの切替は[Color Mode]ボタンを押してサブメニューを出し、上下カーソルキーで行なう。キーストロークが多いので、[Color Mode]ボタンを押すだけで順送りに切り替わる方が良かったのではないかと思う。なお、モード切替の所要時間は内蔵する光学シネマフィルターの切替プロセスありのケースで約3.9秒、無しのケースで約3.3秒だった(共に実測)。これも遅い。 アスペクト比切替の操作系も同様に、[Aspect]ボタンでサブメニューを開き、上下カーソルキーで選択する。切替所要時間はほぼ0秒で、これは速い。なお、コンポジットビデオ端子、Sビデオ端子入力、D4端子入力、HDMI端子入力では、EIAJ規格に準拠したアスペクト比判別信号を判断することにより、オートに設定しておけば自動的にアスペクト比が切り替わる。便利なので積極的に活用したいところ。なお、コンポーネントビデオ端子はEIAJの仕様としてアスペクト比を判別できない。 この他、調整用のクロスハッチやグレースケールなどを表示する[Pattern]ボタン、投写映像を隠す[Blank]ボタン、ズーム倍率制御を行なう[Zoom]ボタン、フォーカス調整を行なう[Focus]ボタンが独立して配置されている。 [Blank]ボタンはボタンを押した瞬間に映像が消えるが、その他のボタンは、やはりサブメニューを開いて項目を選ぶ操作系を採用する。なお、ズーム倍率制御、フォーカス調整は設定値を本体電源をオフにしても維持されるが、パラメータ(数値)として本体ややPCに記憶させておくことはできない。
▼画質チェック~粒状感の強さを高いコントラストと色再現性、階調性でカバー
ランプパワー「High」モード時は非常に明るく、蛍光灯照明下でも映像の全容ががちゃんと見えるレベル。バラエティ番組やスポーツ中継のような画質にあまりこだわらない場合は、テレビ的な活用も十分可能だと思う。 採用する透過型液晶パネルは解像度1,280×720ドットで、720pにリアル対応する。720pパネルの採用自体は、20万円台の機種で採用例があるほどなので、今ではそれほど珍しくない。しかし、EMP-TW500に採用されているのは自社開発の最新パネル、第四世代のD4(Dream4)パネルというところが注目される。 D4パネルは下位モデルのEMP-TW200にも採用されているが、EMP-TW500では、マイクロレンズアレイ(MLA)を組み合わせている。MLAとは、画素単位に微細な光学系を配置させて、ランプからの光を画素の開口部へ集光させる仕組みのことで、数年前から実用化されている。同じく720pパネル採用の現行モデルでは、松下電器「TH-AE500」、三洋電機「LP-Z2」などもエプソン製パネルを採用していることが知られている。 注目のD4パネルの実力だが、やはり透過型液晶の宿命、画素単位で見ると画素1つ1つの格子隙間が結構ある。100インチでの投写を行なった際には、この画素隙間が視認され、アニメなどの単色領域が多い映像では、結構な粒状感を感じる。 ただし、光学系が優秀なこともあってか、色収差による色ずれは比較的少なく(無いわけではない)、ぼやけを感じない。フォーカスあわせが決まった状態では、かなりクリスピーな解像感が得られる。公称コントラスト比は1,200:1。しかも調整次第では3,000:1以上も実現可能という。 確かに透過型液晶方式としては、随分と黒浮きが抑えられており、明部との輝度差格差もあって、かなりのコントラストが感じられる。DLP方式や反射型液晶方式に迫りつつあるという感触があり、数年前の透過型液晶方式の映像を知る者であればショックすら受けるかもしれない。「スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」の宇宙戦闘シーン(チャプタ28)では、バーニアからの噴射される閃光のまばゆさと漆黒の宇宙の同居感が感動的ですらある。 階調性も優秀で、暗部階調、明部階調共に正確だ。黒い服の陰影、黒い車への映り込みなどの映像表現を見てみると良い。その材質の感触が伝わってくることだろう。これは暗部階調の正確性を裏付けるものだ。明部階調についても同様で、明るい空の中に見える雲の立体感、強い光を浴びている人物の頬のグラデーションを見ることでその正確性が実感できる。ハイコントラストと正確な階調の両立は、EMP-TW500に搭載されている「黒白伸張回路」による信号処理レベルの工夫と、アイリス(絞り)による光学系の工夫、双方の相乗効果によるものだろう。 色再現性についても良く調整されており、原色の発色もまずまず。赤にもうちょっと鋭さが欲しいところだが、高圧水銀系ランプを採用する機種としては、良く出ている方だと思う。人肌の表現についても、高圧水銀系ランプ採用機の青緑が強く出る傾向を上手く抑えて自然に見せている。内蔵された光学のエプソンシネマフィルターの効果もあるのだろう。 続いて、プリセットで用意されている画調モード(カラーモード)における各機能の設定状態は下図のようになっている。
なお今回は、HDMI-DVI変換ケーブルやHDMI出力を装備したプレーヤーを入手できなかったため、HDMI接続やPC接続での評価は行っていない。
■ 総評
エプソンのラインナップ中では上位機になるわけだが、レンズシフト機能による設置自由度の高さ、リモコンでフォーカス調整ができる利便性は、中上級者はもとより、初めてホームシアター構築に挑戦する初心者にもお勧めしたい。
ただ、気になる点もいくつかある。例えばリモコンはデザイン自体には文句はないし、機能や設定の自由度は上々だが、実際に使ってみると操作感があまり良くないことに気づく。
理由の1つは、カーソルの十字キーが小さくて押しづらいことと、ボタン操作認識の感度があまり良くないところにある。また、メニューの操作系にも癖があり、たとえば「右に開くサブメニューにカーソル動かそうと思って、右ボタンを押してもカーソルが右に行かない」など自分の直感が裏切られることが多い。
画質に関しては、粒状感が強いのはマイナスポイントだが、解像感が高く、階調性やコントラスト性能も文句なし、色再現性も及第点ということで、全体の画質としては合格点には達していると思う。
ただし、前回のTH-AE500の評価の時にも指摘した縦縞状の薄汚れが、EMP-TW500でも良く見える。広範囲な明るい単色領域を含む横方向に動く映像で顕著に現れ、たとえばサッカー中継などでグリーンのフィールドが横にパンするときなどによくわかる。まるで擦り傷の付いたガラス窓を通して景色を眺めているような感じに見える。
液晶パネルの製造プロセスでは、液晶素子を配向膜に定着させる際に、配向膜を傷つけるラビング処理を行なうが、この傷が模様として視認されてしまうのが原因……という説があるが定かではない。既にDreamパネルを採用した他社製品でも同様の指摘がユーザーからなされており、今やユーザー間でその意見交換も盛んなようだ。
もしかすると画素落ちと同様に「製造上の特性」という言葉で片づけられてしまうかもしれないが、そうなると、これはDreamパネルの「弱点」として自ら認めることにも相当する。パネルメーカーとしてのエプソンがどういう対応をするのか注目されるところだ。
□エプソンのホームページ
(2003年12月12日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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