■ レコーダ群雄割拠の幕開け? 今年は夏期オリンピックイヤーということで、各家電メーカーとも、テレビやレコーダの特需を見込んだ製品投入が相次いでいる。デジタル放送も始まってはいるが、まだベッドタウンにまで視聴可能エリアが届いていないということもあって、とりあえずレコーダのバリューゾーンはアナログ放送がメイン、というスタンスとなっている。 三菱電機といえば、VHS時代はかなり評判のいいメーカーであり、MPEGに関してもプロ~業務用エンコーダなどをリリースしている。そんな関係で、ハイブリッドレコーダ市場参入を望む声もあったことだろう。だがそんな三菱が本気になっちゃうと、「DVR-DS10000」のようなとんでもない機能と価格になっちゃうわけで、一般ユーザーとしてはもうちょっと手加減して貰えまいか、と思っていたわけである。 そんなおりもおり、今年3月の発表で、同社がリーズナブルな路線の製品を投入することが明らかになった。そしてその新ブランド「楽レコ」シリーズが、この5月から市場に投入される。あとは三洋がモノを出せば、ハイブリッドレコーダ市場でもこれで一通り、VHS時代に製品を出していたメーカーの顔が出揃うことになる。
ではさっそく、ハイブリッドレコーダ市場では後発組である「楽レコ」の最上位機種「DVR-HE700」の実力を検証してみよう。
■ 意外にあっさりした外見 最初に外観から見ていこう。全体的に非常に薄型で、高さ72mmは立派。数字的には、薄型が売りのパイオニアDVR-x10H-Sシリーズの69mmにはわずかに及ばないが、ほぼ同じ程度と言っていいだろう。
フロントパネルはシルバーを基調に、立体的に透明アクリルをあしらった、すっきりしたルックス。ここのところ各社とも、アルミヘアライン仕上げやミラー張りといったデザインが増えているが、アクリルを使った例はあまり見たことがない。手法としては斬新だが、高級感には繋がっているかという点ではちょっと微妙だ。演出にもう少し工夫の余地があるだろう。 ボタン類はシンプルだが、サイズが揃っていて落ち着いた印象を受ける。ただボタン名のプリントがアクリル表面に成されているため、やや上から見たときなど、ボタンのために開けた穴やボタンの厚みと重なって、認識性は良くない。正面左下には外部入力端子が、右下にはいくつかの補助ボタンが隠されている。
DVDドライブの書き込み速度はDVD-Rが6倍速、DVD-RWが4倍速と、昨今のレコーダとしては高速。だが既にPC用ドライブでは今年の始めから8倍速が現われており、そう言う意味ではビミョーに中途半端な速度である。また楽レコはデジタル放送のアナログ録画に対応しており、HDD録画からDVD-RWのVRモードへのムーブも可能だ。HDDはシリーズ最大の250GB。下位モデルとの差は、HDD容量とBSアナログチューナの有無である。
背面にまわってみよう。薄型ボディだが、端子類がみっしりという感じもなく、すっきり整理されている。地上波入力とスルー、BS入力とスルーが右側、あとはアナログAV入力が背面に2系統、前面に1系統で計3系統。出力はAVが2系統のほか、D2出力と光デジタル音声出力が各1系統ある。構成としては至ってオーソドックスだ。
リモコンも見てみよう。ボタン類を小さめにして隙間を空けたレイアウトで、ボタン名の表示にも余裕がある。また押しやすさという面でも、隙間が空いているのはメリットがある。 中央部の目立つ位置に、HDDとDVDの切り替えボタンが配置されている。ビデオコントロール系もボタンが小さめだが、再生、停止、早戻し、早送りボタンに対して十字キーライクに傾斜が付けられており、慣れれば手元を見なくても操作できる。
メニュー操作の十字キーの四隅にメニューや機能ボタンが配置されているのも、作りとしてオーソドックスだ。ただリモコン本体はやや厚ぼったい感じがする。
■ レガシーな部分を残す環境設定
では実際に使ってみよう。すべての機能は、リモコンの「機能一覧」ボタンで表示されるメニューからアクセスできる。もちろん番組表や予約など、よく使う機能はリモコンにダイレクトボタンがある。 まずチャンネル設定だが、自動設定するにもマニュアルに書いてある地域番号を入力しなければならない。他社の場合は自動でスキャンしたり、地域名がメニューから選べだり、ちょっと変わったところでは市外局番を入力するという方式もある。かつてのVHSには地域番号入力が普通であったが、ハイブリッドレコーダでは久しぶりに見たような気がする。
なお、Gガイドのホストチャンネルは、自動で設定されるが、手動で変更する必要がある場合には、マニュアルの別の一覧表を見ながら変な番号を入力しなければならない。ここは、普通に「6」とか、「4」とかチャンネル数で設定できた方がわかりやすいように思う。
予約システムは、Gガイド以外にGコードも使える。他社では以前のモデルでGガイドを採用していても、新モデルでGガイドを採用したらGコードは止めるところが多いのだが、両方使えるのは珍しい。 番組表表示は、左側が広告エリア、番組表の上には選択した番組の詳細情報が表示される。リモコンの「青ボタン」を押すと、「番組表」、「ジャンル検索」、「トピックス」、「キーワード検索」に切り替えることができる。ただこの青ボタンは、リモコンには「A-B」と表記されており、リピートのA-B間指定ボタンだったりする。
そのほかの操作では「リピート」と書いてある緑ボタンを使ったり、「詳細」ボタンを使ったりと、番組表操作に関してはボタン名と実際の機能が違う操作を強いられる。このあたり、頻繁に使うボタンを単に色分けしただけで、機能名は表示せずに済まされるものなのか、ユーザーインターフェイスの面でもう少し練り込みが必要だったろう。IT化、GUI化の進む家電業界において、もはや機能と操作性の関係は、「できりゃいい」ってレベルではないのである。
録画予約した番組に対して、「録画スキップ」の設定ができるのはなにげに便利かもしれない。これは予約情報を削除せずに、録画を保留するための機能だ。普段録画しているレギュラー番組よりも、今週だけ特番を優先したいときなどにはありがたいだろう。
このレコーダの特徴として、電源を入れて1.5秒で録画開始可能という機能がある。実際に電源入れると、しばらくは左上に「起動中...」という表示が出続けるものの、すぐに映像が出てきて、なおかつチャンネルも変えられる。電源投入後、すぐ録画しなければならないような用途がどれぐらいあるものかは疑問だが、ユーザーを待たせない軽快な操作感というイメージに繋がっている。
■ ややチューナ部が弱いか さて次は実際の画質評価ということになるのだが、筆者の見たところ、デフォルト状態では録画前の映像もS/Nが悪く、輪郭も甘めだ。入力するRFレベルが低いとS/Nが上がってこないタイプのチューナようで、筆者宅のように6分配もしているような環境ではあまり良い結果にならない。急遽ブースタを買ってきて繋いだところ、まずまずの画質になった。 さらにデフォルトは録画NRや再生NRがOFFになっているせいもあり、まあ正直といえば正直と言えるのだが、自分である程度踏み込んで設定していかないと、思うような品質にならないだろう。
今回は都合の悪いことに、映像のサンプルも録画することが出来なかった。いつもはDV録画したサンプル映像を、DVデッキ(WV-DR5)のRFコンバータ経由でレコーダに録画するのだが、このレコーダはデジタル放送対応が仇となったか、どうやっても録画できないのである。録画サンプルをお見せすることができないのに、S/Nなどを指摘するのは心苦しいのだが……。
では気を取り直して、セットアップにある録画設定を見てみよう。スポーツ延長対応として、延長時間の設定ができるのは便利だ。これを「あり」に設定しておけば、EPGで録画予約をしたとき、その時間よりも前に野球放送があれば、延長機能を使うかどうかを問い合わせてくれる。
「録画予約オートカット」の設定は、カタログなどで「オートカットプレイリスト」として説明されている機能だ。これは録画時に音声のモノラル(音声多重でも可)とステレオを検知して、モノラル部分だけのプレイリストを自動的に作ってくれるというもの。録画自体はフルで行なって、プレイリストだけCMカットしたものを作ってくれるわけだが、うまく条件にハマれば便利な機能だ。だが当然ステレオ番組では働かないし、野球などで放送時間がずれて、ステレオ部分が8分以上連続で録画された時には、働かないようになっている。 録画時のNRは強、弱、切の3段階、3次元Y/C分離はあるが、GRはない。録画NRの効きは、強にすると輪郭が甘くなるぐらいまでかかる。東芝RDなどの絶妙なかかり具合と比較すると、かなりおおざっぱである。
録画モードは4段階。それに加えて、DVDメディア1枚に収まるようレートを自動調整する、AUTOがある。各モードのビットレートなどは公表されていないようだが、DVDに書き出して調べてみたところ、下記のようになった。すべてVBRなので、ビットレートは平均値である。厳密には実際のスペックと異なるかもしれないが、だいたいこんなところだと思っていいだろう。なおXPモードのみ、音声がL-PCMに切り替えることができる。
面白いのは、各モードで録画したときの画質シミュレーションができる、「画質チェック」機能があること。リモコンの「AVセレクト」ボタンで選択したモードの画質が確認できる。
■ 編集機能は今ひとつ
次に録画後の機能だ。録画番組のリストは、番組名と録画日が表組みとなるスタイル。選択した番組の動画サムネイルが、画面上部に表示される。この部分は2倍速で、音声はなしである。
再生時の画質設定は、「ノーマル」「シネマ」の2プリセットのほか、ユーザー設定が3つ登録できる。設定できる項目は、ブライトやコントラストのような一般的なものから、ディテールやガンマ、3次元DNR、ブロックNRなどのレベルが決められる。ただ3次元NRとガンマは、D端子出力をプログレッシブに設定すると効かなくなる。なぜそんなことになるのか、ちょっと疑問だ。
DVD書き込み機能も見てみよう。そのまま番組を丸ごと書き込めばいい場合は、番組を再生させてからワンタッチダビングボタンを押すだけと、非常に簡単。もう少しこだわるならば、自分でプレイリストを作ってCMカットなどを行なうことになる。
プレイリスト作成は、まず作成画面内にシーンを登録し、さらにそのシーンからプレイリストに登録したいものを選ぶ、という2段階になっている。シーンの登録は、番組丸ごと登録する「全体をシーンに登録」か、部分的に抜き出しながら登録する「一部をシーンにする」の2通りが使える。
編集を行なうには、「一部をシーンにする」を選択する。すると映像のIN、OUTを設定する編集画面になる。連続して複数範囲の指定ができるなど、編集としては一般的なスタイルだが、映像を早送りや早戻しするときに、今何倍速で進んでいるのか表示がないので、使いづらい。ちなみに通常再生時の早送り早戻しでは、5段階の表示が画面左上に出る。 期待した「録画予約オートカット」による自動生成プレイリストだが、動作精度は7割ぐらいといったとこか。間違って作られたチャプタ部分を修正しようと思っても、修正方法がないのはイタイ。プレイリストの再編集機能を使っても、自動生成されたプレイリストでは「全体をシーンに登録」しかできないので、編集できないのである。このあたりのトラブルシューティング操作は、やはり経験を積まないと出来てこないところなのだろう。
■ 総論 ハイブリッドレコーダをスペックだけ見れば、数字で競うポイントとしては、DVDの書き込み速度とHDD容量になる。だがそれが実際の使用において、万人に対して有効なのかは、疑問が残るところである。録画したものをマメに見て消す人は、HDD容量はさほどバカでかくなくても平気だろうし、キッチリ編集して再圧縮ダビングするタイプの人には、高速DVDドライブがあってもあまりありがたみはないかもしれない。 「楽レコ」を見ていると、それこそ後発ならではの後出しジャンケン的なメリットもあっていいはずなのだが、どうもそれを感じることが出来ない。唯一とも言えるユニークなポイントは、起動後すぐに録画できることぐらいだろうか。1.5秒ではドライブは安定しないだろうから、バッファを多めに取ってレコーディング開始するのだと思われる。 だがそういう機能って、そんなに使うものだろうか。今我々の生活サイクルは、それほどテレビ放送の時間帯というものに縛られなくなりつつある。それもまた、録画と再生が別個で行なえるデジタルレコーダの恩恵なわけだが、そのデジタルレコーダに旧体制な機能をくっつけて、ほーら便利でしょうと言われても困っちゃわないか? 今回の「楽レコ」では、一応一通りのことができるものは我々にも作れます、ぐらいのアピールしか感じられないのが残念だ。船井電機と協業したり、香港DIGITECで製造したりという割には、価格的にもバカ安というわけでもない。せめて半年前に出していれば、そこそこの評価は得られただろうが、もはや他社のレコーダは次のレベルへ行ってしまった感がある現在では、「これぞ三菱」的なところが欲しかった。
□三菱電機のホームページ
(2004年5月19日)
[Reported by 小寺信良]
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