■ 刈り取りへと構造変化するレコーダ業界
家電レコーダ市場は、長らくVHS安定期であったわけだが、DVDレコーダの登場で、メーカーの棲み分けとか評価といった部分が完全にチャラになった。パイオニアはそんな状況を上手く作り、かつ上手く入り込んだメーカーである。 他社にはVHS時代の資産があるが、LDの技術資産や、フラットディスプレイのテレビ技術、DVDドライブ製造技術、そしてほとんどの人が忘れていると思うが、一瞬AppleのOEMマシンを製造したPC技術などをうまく組み合わせ、DVDレコーダメーカーとして名乗りを上げたのである。 昨年前半あたりまでは、まだまだDVDレコーダはマニアのためのものであったが、もはや普通のオジサンオバサンが使うものとして変わってきた。むろんマニアが喜ぶラインナップもブランドイメージとしては必要だが、普通の人が気軽に使っても、マニアが享受している面白さと便利さが味わえる難しさに、各メーカーともに直面していると言えるだろう。 そんな状況でパイオニアが繰り出してきたキーワードが、「選んでポン」である。とにかくボタンを押していけばなんとかなる、という操作性とはどんなものなのか。早速チェックしてみよう。 ■ 薄型を極めたボディ
まず本体を見て驚くのが、その薄さである。前作の「DVR-710H」などを見たときも相当インパクトがあったが、今回のシリーズはそれよりもさらに1cm低い59mm。見た目はほとんどDVDプレーヤー並みである。 シルバーのプロントパネルは樹脂製で、金属部品はボタン類のみ。前モデルでは、アクセントとして金属素材やアクリルなどを使用して色気があったのが、コストの問題か、そう言った凝った部分は減少している。 また前モデルは、フロントパネルの印象が凸型であったのに対し、今回のラインナップは凹型という印象になっている。このエグレ具合も徹底しており、DVDドライブのフロントベゼルから表示部のアクリルまで、すべて同じカーブでエグレている。 前面左側に電源ボタンとHDD、DVDの切り替えボタン、外部入力端子がある。HDDは250GBと、今年の大容量トレンドとしてはややもの足りないか。中央部のドライブは、「DVR-A07」をベースにしたもので、DVD-R 8倍速、DVD-RW 4倍速の書き込みが可能。A07といえば、DVD+R/RWの読み書きとDVD-RAMの読み出しに対応したことで人気のあるドライブだが、本機ではDVD-RAMの再生には対応していない。このあたりは、DVR-A07と同等ではないことになる。
右側にはステータス表示部と、操作ボタン類がある。DV端子はコネクタ部の高さを考えてか、一段奥まった位置に着けられている。操作部は前モデルでボリュームノブを採用するなど、マニアックなスタイルであったが、それも普通の+/-ボタンになった。ボタン類は下あごの出っ張った部分にあり、ボタンの先端も、その面に合わせて斜めにカットしてあり、押しやすくなっている。
背面に回ってみよう。アンテナ入力は、アナログ地上波のみ。アナログBSがないのは、前モデルのDVR-710Hもまだ併売されるということで、差別化だろう。AV入力3系統、出力は2系統に、D端子と光オーディオ出力がある。背面で特徴的なのは電源ファンで、静音化のためか、それとも排気口が塞がれたときの用心のためか、若干奥まった位置にファンが着けられている。 リモコンは基本的なテイストは変わらないものの、今回からEPGを搭載したと言うことで、番組表ボタンが新設され、番組表操作用として、音声や字幕切り替えのボタンが4色に色分けされた兼用ボタンとなっている。
■ 独特のEPG操作
ではまず、操作系をチェックしていこう。今回のラインナップではやはり、EPGの搭載が大きい。既に昨年秋モデルでも他社は多くのEPG付きモデルをリリースしており、それが差別化でもあった。パイオニアには今までEPG搭載モデルはなく、そう言う意味ではEPG後発組だ。 パイオニアが搭載したのはGガイドだが、他社の見せ方とは若干違っている。まず番組表ボタンを押して表示される時刻別表示だが、縦軸が放送局、時間軸は横にスクロールするようになっており、他社のEPG番組表の構成とは縦横逆になっている。 だがこの並び方なら放送局が7局表示できるので、東京近郊を例にとれば、NHKからテレビ東京までの民放がすべて同時に表示できるというメリットがある。ADAMSに対してGガイドではこういう表示の仕方はないものと思っていたが、やり方はあるようだ。 その反面、1画面が30分区切りなので、番組の長さや、正時からスタートしない番組編成などが、一別しただけでは判別できない見通しの悪さもある。この辺りは放送局一覧性とのトレードオフの関係にある。 表示切り替えボタンを押せば、そのほかチャンネル別、ジャンル別に切り替えられる。チャンネル別では、今度は時間軸が縦に並ぶわけだが、正時で始まらない番組編成もわかるようになっている。 ジャンル別表示では、地上波映画、ドラマ、スポーツ、音楽、バラエティ、アニメの6ジャンルに分けられる。それ以外のジャンルを探すときは、検索機能を使うことになる。
キーワード検索では、入力のしやすさがイイ感じだ。文字の入力は画面を見ながら上下キーでもいいのだが、携帯電話などと同じく10キーで入力できる。変換などのボタンもリモコンのボタンとして割り振られており、画面内を右往左往する必要はない。また連文節変換も備えており、文章っぽい番組タイトルも一撃で変換できる。検索したキーワードは履歴も残るので、一時的な検索ではなく、自分流のジャンル別番組表としても使えそうだ。
録画された番組は、「ディスクナビ」ボタンで一覧表示できる。ここで選んだ番組は、サムネイル状態でも音声付きで再生されるため、番組名が全部表示しきれなくても、内容がわかるようになっている。 再生時の特徴は、オートCMスキップ再生ができることだ。これはリモコンのCMスキップボタンを長押しすると、このモードになる。録画時に音声モードの切り替わりポイントでチャプタが自動的に打たれているので、再生時にはCMを勝手に飛ばして再生してくれるというわけだ。 また今回から、1.5倍早見再生にも対応した。ただ実用的かどうかは微妙で、アクションものなどセリフが少ないものには有効だが、しゃべりが多いものに関しては、マトモに1.5倍速で音声を聞いて理解するのは、ほとんど無理だ。 筆者は以前、三洋電機のVHSデッキで早見機能を使ったことがあるが、あれは単純に音声を1.5倍速にするのではなく、ある程度ちゃんと聞ける速度(1.2~3倍ぐらいか)で再生し、セリフのなさそうなところで音声をスキップして映像に追いついていくというアルゴリズムになっていた。もちろん運が悪ければセリフの途中で飛んでしまうのだが、そういう工夫は必要だろう。
■ ダイナミックに追従するVBR 次に画質を見てみよう。元々パイオニアのレコーダは、3次元YC分離やデジタルフレームTBC、3次元DNRなどの機能を全部1チップに収めたレコーダエンジンを前モデルのときに開発しているので、それらの機能は全機種に搭載されている。ただしGRがないところを、どう考えるかだ。 画質設定はFINEからSLPまでの5段階。そのほかDVD1枚に収めてくれるAUTOと、32段階のマニュアル設定がある。画質設定でのウリは、やはりオリンピックを狙ってか、従来のEPモードからビットレートをさらに約0.4Mbps下げたSLPモードの新設である。 このモードを使って8倍速DVD-Rに書き出すと、最大ダビング速度は55倍速となるそうである。まあダビングが速いということを言いたいのはわかるが、最低画質のダビング時間で、いたずらに何倍速という数字をいじくり回すという宣伝手法はどうだろうか……? これに他社も対抗してくると、もう何でもアリアリの状態になってしまう(すでにその兆候はあるが)のではないかと思うのだが。 各画質モードと、動画サンプルを掲載する。またFINEモードでのみ、録画時のVNR(Y/C両方のNR)のON、OFFの状態も比較した。デフォルトではOFFになっており、各画質サンプルもOFFで録画している。
映像のエンコードはすべてVBRであるため、上記の数値はこの映像での動作値である。Bitrate Viewerでビットレートの推移を見てみると、FINEではすでに平均値が高いため、VBRといってもビットレートの変動はほとんどない。そのかわり、真ん中のラベンダーのカットではQレベルが上昇し、それでクオリティをフォローしているようだ。 全体的にレートの変化を俯瞰すると、平均ビットレートはモードに応じて変わっているが、ピーク値はかなり大きい。特にFINEからLPモードまでは、ピークで7Mbpsを超えるなど、かなりダイナミックにビットレートを変動させているのがわかる。
画質に関しては、FINEはもちろん問題ないレベル。SPは、映画をDVDに収めようとするとこれぐらいのモードになるところだが、ここでも破綻なく、十分な画質だろう。 LPは横の解像度が半分になっており、やはり輪郭のキレが甘くなる。ラベンダーのカットでは、速い動きでもブロックノイズが少ないのは評価できるが、次の空撮では、海面のゆっくりした動きに破綻が出るようだ。SPでも若干その傾向が感じられることから、動き検索精度のチューニングが速いほうに振ってあるということかもしれない。 さて新搭載のSLPモードだが、オーディオの圧縮率も下げて全体的なレートを下げていることもあり、録画時間の増加率の割にはEPモードとの差が小さく、よく頑張っていると言えるだろう。ただやはり海面の破綻具合は、EPモードよりも大きいようだ。
■ 自動化されたCMカットダビング
EPG搭載で録画予約は確かに「選んでポン」だが、編集機能もかなりそれに近い。以前から搭載されているワンタッチダビング機能は、保存したい番組の再生中にボタンを押すことで、DVDへのダビングができた。だがそれはCMなども含めて録画されたもの丸ごとであり、それらをカットするには、ダビングリストを作る必要があった。 今回はこの部分に手を入れ、オートCMスキップ再生中にワンタッチダビングボタンを押せば、CMカットされた状態でダビングできるという機能を付けた。もちろん音声切り替えによるCM検知なので、うまくいく番組もあればそういかない番組もあるだろう。だが操作自体が簡単なので、めんどくさがりな人でもトライしてみる価値はある。
チャプタ編集に関しては、かなり割り切った仕様になっている。多くのDVDレコーダでは、番組録画の本体であるタイトルと、それとは別に再生順を管理するプレイリストという考え方を持っている。CMカットしてのダビングでは、本体のタイトルをいきなり切った貼ったするのは危険なので、通常はCMカットしたプレイリストを作る。さらにそこからダビングのためのダビングリストも作ったのち、DVDなりにダビングするという三重構造になっている。 本機の場合は、プレイリストが使えるのはDVD-RWのVRモードだけで、HDDではプレイリストを使わずに、チャプタ編集という名目で、いきなり本体のタイトル編集を行なうようになっている。タイトルそのものを分割したり、部分削除したりという機能はその上のステップにあるので、チャプタ編集は、内部的にはプレイリスト編集と同じような機能だろう。ただ考え方としてプレイリストという1ステップがないぶん、作業の流れが単純化され、ダビングの考え方としてはわかりやすい点は評価できる。 チャプタ編集画面は3×3のサムネイル表示から、必要なものを消去していく。チャプタポイントの編集するには、左のメニューで[分割]を選択したのち、右の画面に移動する。消去と分割を使い分けるには、いちいち左側のメニューに戻らなくてはならないが、[消去]はリモコンの[クリア]ボタンで可能なので、常に[分割]モードで使えばいい。 チャプタ分割時のコマ送りなどのレスポンスは、なかなか高速だ。本機で自動的に付けられるCMポイントのチャプタは、番組ブロックの先頭は正確だが、終わり部分はCMが数フレーム残っていることが多い。きっちり編集するなら、終わり部分に注意して分割し直すといいだろう。 ただ、ここで間違って必要なチャプタを消してしまっても、やり直せるわけではないので、失敗すると割とイタイ。初心者はワンタッチCMカットダビングを使えばいいが、自分でやりたい人は根性を据えてHDD上でやるか、慎重派はDVD-RWにダビングしてプレイリスト編集するかという選択になる。
■ 総論
パイオニアに限らず、どのメーカーでもこれから目指すターゲットは、量が捌ける一般層である。すなわち、「キカイに詳しい人」じゃない層に向かって、こんな複雑な装置を売っていかなければならないという局面にさしかかっている。では機能を少なくして単純化すればいいかというと、そうでもない。多少の選択はあるにしても、今までマニア向けにアピールしてきた便利機能が減ることは、許されないのである。 そういうバランスの中で、DVR-620Hの機能は作られているようである。EPGの使いこなしは言うまでもなく、オートCMスキップ再生や、オートCMスキップダビングなど、極力ユーザーが望む動作を自動化していこうという試みが成されている。うちの10歳の子供でも、「とにかく全部SPで録っとけ。ダビングするときは再生してこのボタンな」と教えとけば、破綻することはないという安心感はある。今後多くのレコーダも、このような方向に向いてくるだろう。 現ラインナップでは、前モデルの最上位機710Hの後継機種が空席のままである。高画質化、大容量化、BSチューナ搭載はあるにしても、DVD-Rの2層記録をどのタイミングでやるのか。そして互換性が懸念されているDVD+Rの2層記録に対して、ドライブメーカーとして-Rをどう舵を取っていくのか。パイオニアの方向性は、いろいろな点で我々のAVライフに大きく影響してくる。 □パイオニアのホームページ (2004年6月23日)
[Reported by 小寺信良]
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