DVカメラに関していろいろなメーカーさんのお話しを伺う機会も多いのだが、それらの話を統合すると、どうも去年あたりからDVカメラは新しい顧客層の開拓に成功したようだ。 今までビデオカメラと言えば、もう子供撮るためと相場が決まっていたわけだが、小型DVカメラの低価格化と静止画機能強化のおかげで、未婚の若い層が旅行や飲み会などのイベント、あるいは友人、恋人、ペットを撮るという用途で購入しているのだという。単なる記録から、撮影そのものを「遊び」として楽しむようになってきているということだろう。 さて、先日のキヤノンビデオカメラ新製品発表会では、オリンピックにちなんで「メダル獲得宣言」が成された。ビデオカメラ市場では現在第4位のキヤノンが、今年こそは3位入賞を目指すそうである。スキャナ、プリンタ、一眼デジカメ、コンパクトデジカメなど、イメージ製品ではことごとくシェアNo.1を獲得している同社としてみれば、デジタルビデオカメラだけが唯一負け越している部分なのであり、本気になれば気合いの入れ方も違ってくる。 そんなシェア奪還の目玉となるのが、今回取り上げる「IXY DV M3」(以下M3)だ。昨年発売された「IXY DV M2」の後継となる同機は、どんな実力を見せてくれるのだろうか。さっそくチェックしてみよう。 ■ 派手さはないが作りはいい
まずはいつものように外観から。M2よりも高さが約10mm低くなったということで、確かに背は縮んだのだが、その代わり横に太った印象がある。ベルト部にホールドグリップを付けたところなど、イメージとしては以前ソニーが出していた「DCR-PC9」を彷彿とさせる。
ボディカラーは、M2の渋いシルバーグレーから、かなり明るめのホワイトシルバーとなった。また前面が鏡面仕上げになっているなど、全体的にキラキラした作りだ。個人的には、ビデオカメラは限りなくインビジブルであるべきだと思っているのだが、地味なボディカラーは販売店がイヤがるのだという話を、以前聞いたことがある。まあ販売店では、店頭で派手に目立つモノは目に留まりやすいし売りやすいというところなのだろうが、購買層が未婚の若年層までターゲットになってくると、オッサン臭ぁーいカラーよりは、派手なほうがいいのだろうか。
レンズは、ボディの割には口径の大きな、光学10倍キヤノン ビデオレンズ。高屈折率ガラスモールド非球面レンズを使用し、スチルカメラでも定評のあるスーパースペクトラコーティングを採用している。2.2メガピクセルのCCDは1/3.4型。もちろんキヤノンお家芸のRGB原色フィルターを採用している。手ぶれ補正は電子式だ。 また光学部でもう一工夫されているのが、新NDフィルターだ。このクラスのカメラでは、手動でNDを入れたり切ったりすることができないわけだが、従来のNDは入れるか出すか、つまりONかOFFの状態しかなかった。明るい場所では、NDが入れば絞りが開くのだが、そこからちょっと暗いところへ振ったりするといきなりNDが抜け、めいっぱいアイリスが閉じることになる。これがいわゆる「小絞りボケ」をひきおこしていたわけだ。 だが新NDフィルターでは、グラデーションの付いたNDフィルターを採用しており、オートでありながら、徐々にNDが抜けたり入ったりするという動作が作れるようになった。これにより小絞りボケを低減できるわけだ。写真の世界では、小絞りボケは問題視されているが、ビデオカメラではまだ気にしているメーカーは少ない。 前面には静止画用フラッシュと、LEDライトがある。今回のモデルの特徴はこのLEDライトで、内部への無駄な光漏れをレンズの工夫で集光し、従来の4倍の明るさとなった。ビデオ時でも静止画でも、手動で点灯できる。さらにもう1つ面白い機能があるのだが、それはあとでご覧頂こう。
右側面には、プリンタとダイレクトに接続できるイージーダイレクトボタンと、ナイトモードボタンが外側に出ている。液晶モニターは2.5インチで、内部には操作ボタン類がある。VTR操作部は控えめにして、撮影時の便宜を図ったボタンの比重が増えているようだ。
後部には電源・モード切替兼用スイッチと、撮影ボタン。マニュアル撮影用として、フォーカス、露出ボタンがある。メニュー操作は、レバー式だ。 ボディ左側には、プログラム・オート切り替え、オーディオレベル、ライトのボタンが並ぶ。意外にもかなりマニュアルで使うことを意識してボタン類を多く持っている点は、好感が持てる。
ズームレバーは指の角度に合わせたスライド式で、フォトボタンはフォーカスロック用の2段押し仕様となっている。またテープとSDメモリーカードの切り替えスイッチは、出っ張りを大きくして操作しやすくなった。切り替えの堅さも増して、移動中などに簡単に切り替わらないように変更された。 実際にホールドした感じは、やっぱり以前「DCR-PC9」で感じたように、あまり良いとは思わない。カメラの下をちょっびっとだけ握っているようで不自然だし、すべての重さが親指の付け根部分に集中する感じがする。また重心が高くなるので、手首が負担がかかり、ブレやすくなる。キッチリホールドするなら、左手を下から添えるべきだろう。ではなぜ下の写真でそれをやってないかというと、左手でまさにこの写真を撮ってるからだ。なんもかんも一人でやるのって、大変なのである。
ビデオカメラも一時は世界最小競争に燃えた時期があったが、その後沈静化したのは、あんまり小さすぎても持ちにくいというところに気づいたからだったろう。筆者としては、高さが短くなって太ったボディなら、手のひら全体でワシッと掴める横形が望ましいと思うし、縦型でやるならむしろ、薄く細くなったほうが、インパクトがあるように思う。 ■ 撮れる絵はスゴイ
では撮影してみよう。キヤノンのDVカメラの良さは、やはり自社製レンズの味だ。M3は無理にズーム倍率を上げず、収差のない綺麗な絵作りを目指したカメラだと言えるだろう。 ビデオ撮影時は、4:3でワイド端48.9mm(35mm換算)と、若干狭め。ただ今回も高解像度ワイドモードを備えており、さらに手ぶれ補正をOFFにすることで、撮影画素数が最大1,632×918ピクセル、ワイド端は41.8mmとなる。これはぜひワイドモードで撮りたいカメラだ。
以下の実写画像は、雨上がりの夕方6時半頃と、かなり暗い。それでもレンズの明るさやCCDの感度に助けられて、かなり明るく撮影することができた。S/Nの面でも問題ないレベルだ。ただ傾向として明るめに行きすぎるときがあるので、白飛びなどが起こらないようAEシフトで少し絞り目にしたほうが、しっとりしてちょうどいい絵柄となるようだ。
低照度時のS/N対策としては、ノーノイズ信号処理IC(早い話がノイズリダクション)を加えるとともに、「AUTO SLOW SHUTTER」機能を搭載している。これは低照度時にシャッタースピードを1/30まで自動的に落とす機能で、デフォルトでONになっている。メニューでOFFにすると、1/60以下に落ちない設定となる。 ズームは光学10倍と、数値的にはもの足りない気がするかもしれないが、その代わりテレ端での解像感は十分満足のいくものだ。原色フィルターと相まって、ビデオでも発色の強いパリッとした絵が楽しめる。
光学系はコーティングがいいのか、逆光でもフレアはかなり押さえられる。だがスミアはいったん出るとかなり派手だ。本機には逆光補正機能がないので、強い光源入れ込みの絵を綺麗に撮るのはなかなか難しい。 撮影日は雲がイイ感じだったので、定点撮影してみた。サンプルの動画は、45倍速にしたものである。あと数分で完全に夕焼け終了というところだったのだが、途中でバッテリ切れとなってしまったのは残念。
■ デジカメに迫ってきた静止画機能 今回のM3で注目したいのは、静止画機能だ。早くからキヤノンは、動画と静止画の画像処理を別々のアルゴリズムで行なうという機構を取り入れ、本格的な静止画を追求してきた。M3の静止画機能は、さらにデジカメのそれに近くなっている。
まず自動的に露出を3段階にずらして撮ってくれるAEB(Auto Exposure Bracketing)は、デジカメでも既にお馴染みの機能だ。さらに連写機能も「通常」と「高速」の2段階あり、秒間2コマから5コマまで変化する。連写速度や連写枚数は、解像度や被写体の明るさなどとの兼ね合いで、かなりフレキシブル。解像度を最低に落として明るい被写体を撮れば、高速60連写とかまで可能だが、高解像度でフラッシュ発光アリだと速度や連写枚数が落ちる。
だがカタチ的にはいかにも小型ビデオカメラでありながら、フラッシュ連続でビカビカビカビカビカビカビカビカビカアッと光らせながら迫ってくるヤツってのは、かなり異形である。アレゲなイベントとかでこれをやらかしちゃうと、そもそもイベントで集まった時点で一般からは引かれているのに、さらに同じ種であるまわりのニンゲンまで引くと思うので、そのへんはものすごく注意が必要だ。 前作M100では、0.7倍のワイドアタッチメントレンズが標準装備され、ワイド端のカバーに大きく役立った。そうなると、M3の付属品が気になるところだ。 今回M3に付属するのは、ワイドアタッチメントではなく、マクロリングライトアダプタなるもの。これはM3搭載のLEDライトをリング状に光を巡らすというもので、レンズ前にカチッとはめ込めばOKだ。
そもそもリングライトとは何かというと、レンズの周りにライトを配置することで、近距離の被写体の影が出にくくするという性質のライトだ。つまり撮影光軸と光源をほぼ同じ直線上に配置することで、影が被写体の真後ろに出るため、レンズからは見えないというわけ。さらに光源としては、電球やLEDを使った点光源ではなく、面光源となる。例え影が出来たとしても、多方向に分散されるので、くっきりとした影にはならないというメリットもある。 このリングライトアダプタ、LEDライト部分から光を持ってきてグルッと巡らすわけだが、これもキヤノン独自の技術が使われている。素人目にみれば、LED部分から左右に光を回しているように思えるが、実際は反時計回りという一方向だけでこれを実現しているのだ。均等に光を配分するために、複雑な形状のプリズムを新たに開発したという。 これによる効果は、やはり小さいモノを近くで撮るような場合がベストだろう。別途照明もせず撮影してみたところ、リングライトの効果が如実に表われた。
付属品とは言ってもいわゆるオマケであるが、このオマケにキヤノンならではの光学技術が投入されており、マニアックな機能を簡単に体験できて実に面白い。同じようなスペックの製品と迷っていた場合などは、これが決め手になるケースもあるだろう。ぜひ、今後の製品にも継続して欲しい部分だ。 ■ 総論
M3は、マニュアル撮影を好むようなマニア向けのカメラではない。だが、たかだか高さ10cm程度のミニサイズカメラでこれだけの絵が撮れれば、大抵の人は満足するだろう。筆者は結局前モデルのM2を触らずじまいだったのだが、スペックだけ比較すれば、M3はマイナーチェンジのようにも見える。だが細かいところで、手動で点灯可能なLEDライトや、スイッチの形状を直したりといった、使い勝手を改良してきている。 また、IEEE 1394と同じようにUSBでキャプチャを実現する機能も搭載された。静止画の転送ともどもUSB1本でビデオ転送までできるというわけである。既に他社も同機能を搭載したモデルが発表されており、今後この機能は、ビデオカメラでは標準化されていくだろう。 ハードウェアとしては、今回のM3はM2から半年間という時間を費やして、よりコンパクトにまとめる方向で進んできた。キヤノンの掲げる大目標がシェア獲得にあるとするならば、あんまりヘンなモノ作って冒険は出来ないし、ここは一つ無難に無難にまとめていこうということなのであろうか。 売れていけば、それだけ予算も沢山付くから、いいものができる。それはわかるのだが、ハイエンドモデルも、2002年夏の「XV2」以来ご無沙汰だ。筆者としてはそろそろ売れ筋モデルの強化だけでなく、もっと全然違ったアプローチのカメラが見てみたい気がするのだが。 □キヤノンのホームページ (2004年6月16日)
[Reported by 小寺信良]
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