~ オーディオメーカーの高音質化アプローチとは? ~ |
SE-U55GX |
オンキヨーからUSBオーディオインターフェイス「SE-U55GX」が7月15日に発売される。名前からもわかるとおり、「SE-U55X」の後継機種で、約2年ぶりにリニューアルされた。カラーリングがシルバーからブラックに変わったことを除いて、見た目にはあまり違いは感じられない。
しかし、内容は大きくグレードアップしている。まず、対応入出力が従来の16bit/48kHzから、24bit/96kHzまで対応したほか、設計そのものも抜本的に見直されている。また、非常に興味深いのはその設計が、先々週に紹介したRoland「UA-25」とまったく異なるアプローチをとっているということだ。
■ 端子類も変更され、使い勝手が向上
SE-U55GXは、USB 1.1対応のオーディオインターフェイス。同社ではUSBオーディオインターフェイスに「SE-U55シリーズ」、「SE-U33シリーズ」という2ラインナップがあるが、SE-U55GXは上位SE-U55シリーズの最新機種だ。なお、USBオーディオインターフェイスで24bit/96kHzに対応している製品は現在では珍しくなくなっているが、オンキヨーとしては今回の製品が初対応モデルとなる。搭載している入出力端子は以下の通り。
端子部 |
前モデルでは、光デジタル入出力が各2系統、同軸デジタル出力が1系統だったのが、ちょうど入出力が逆になった格好となっている。また、同時に複数の入力があった場合は、フロントからの入力が優先され、次がリアの光、最後がリアの同軸という設計となっており、使い勝手も向上している。
しかし、24bit/96kHzに対応したことや、入出力端子が変わったということに留まらず、様々な点でSE-U55Xと仕様が変わっている。まず使ってすぐに気づくのが、SE-U55XがUSBバス電源供給だったのに対し、SE-U55GXがACアダプタを必要とすること。
これによって音質が向上しているとのことだが、この点については後ほど詳しく触れる。また、ACアダプタを使うことによってスペック的な向上がある。それはPCの電源がOFFの状態でも、外部からの入力を受けてヘッドフォン出力したり、また外部スピーカーなどへの出力可能になったということ。
つまり、SE-U55GXをオーディオ入力セレクターとして利用可能になった。アナログを受けるのか、デジタルを受けるのかはフロント上部のスイッチで切り替えることになる。複数のオーディオ機器を1つのスピーカーセットで聞きたいというような人にとってはなかなか便利な機能だ。
なお、入力切り替えスイッチの書かれている表記はSE-U55Xと同じ「DIGITAL」、「LINE」、「USB」、「MIC」となっているのだが、その役割も微妙に異なっている。従来機種ではどのポジションにあっても入出力が同時に行なえた。しかし、SE-U55GXでは基本的に再生はUSBのポジションで行なうことになっており、DIGITALおよびLINEでは入力を行なうようになっている。つまり、一方通行だ。
ご存知の方も多いと思うが、USB 1.1ではバンド幅が狭いため、24bit/96kHzは入力、または再生のどちらかしか行なえない。そのためSE-U55GXも、そうした仕様になっている。もう一方のMICはというと、48kHz固定となっており、入出力が同時にできる。ただし、MICへの切り替えを行なうと、ドライバを切り替える必要があるため、SE-U55GXの再起動が必要となる。実際に動作中に切り替えてみると、通常、緑に点灯しているインジケータがオレンジと緑に交互の点滅状態に入り、音が出なくなり、一旦電源を入れなおす必要がある。
■ 高音質化のためのアプローチ
さて、ここで設計的な話に入ってみよう。SE-U55GXでは高音質化のための様々な工夫が施されているが、1つ目はUSBとA/Dコンバータ、D/Aコンバータの配置関係。従来は、モジュールの内部的にUSB HUBが設けてあり、そこから分岐する形で、各種制御を行なうUSBマイコンと、USBオーディオの2つにわかれていた。入力部分ではAC97コーデックを用いていたので、AC97チップが搭載されていた。ただし、再生にはオンキヨーオリジナルの回路を使っていたため、DACが2つ搭載されているにも関わらず、AC97のDACは未使用という状況だった。それがSE-U55GXでは、24bit/96kHzに対応したということもあって、AC97コーデックが廃止されるとともに、マイコンとオーディオが1つにまとまり、途中のHUBもいらなくなっている。
従来モデル | SE-U55GX |
こうした専用ICを搭載することにより、再生時で110dB、録音時で106dBのS/Nを実現したという。さらに面白いのが前述したとおり、USBバス電源供給ではなく、ACアダプタからの電源供給となったこと。かといって、消費電流が大きくなったわけではない。実際、消費電流は300mAとUSBでも十分供給可能な範囲にある。
なぜ、不便なACアダプタを採用したのかというと、先ほどのPCの電源がOFFの状態でも使えるという理由とともに、音質向上という目的があったという。ACアダプタであれば安定化した電源供給が可能となって音質がアップするという理由である。さらに同社では、オーディオクロックを従来はUSBから受けていたものを、SE-U55GXでは本体内にクリスタルを内蔵し、これでオーディオクロックを作っているためジッタ値を大きく低減できるとする。
UA-25 |
ここで思い出すのが、Rolandの「UA-25」。というのも、UA-25ではUSBから電源もオーディオクロックも供給を受けながら、その精度を高めるというまったく逆とも思える方法をとっているのだ。同じ時期に発表された近いスペックの製品で、ここまで違う手法をとっているのも興味深い。
もっとも、UA-25は再生とともに、レコーディングという部分に非常に力をいれた製品であるのに対し、オンキヨーはオーディオ機器メーカーということもあり、再生環境に注力している。その結果として、アプローチが異なったのだろう。
■ さっそく実験開始、しかし……
「UA-25 vs SE-U55GX」として、いつものテストを実施しようと思ったのだが、ここで問題にぶつかった。前述のように、SE-U55GXの入力切り替えスイッチをDIGITAL、LINE、USBのポジションでは入出力を同時に行なうことができないのだ。これでは、今までの実験が行なえない。MICにすれば可能ではあるが、入力がマイク端子に限られてしまい、これでは本来の性能を測ることができそうにないので、残念ながら諦めることにした。
ジッタ測定機「Audio Precision」。お値段は数百万円で、ちょっと個人が買えるものではない |
しかし興味があるのが、ジッタ値が本当に小さくなっているのか、ということ。オンキヨーの担当者に話を聞いたところ、開発部門にはジッタを測定するための「Audio Precision」という機材が置いてあるという。
調べてみるとやはり300~400万円もする機材とのことなので、残念ながら購入は断念。オンキヨーに、SE-U55XとSE-U55GXでどの程度ジッタ値が違うものなのか、調べてもらった。その結果、SE-U55Xでは212.5mUIだったものが、SE-U55GXでは6.951mUIと、1/30程度のジッタ値となっているのが確認できた。ようやくSE-U55GXは、一般のデジタルオーディオ機器と同程度の精度になったといえるだろう。
SE-U55Xのジッタ値 | SE-U55GXのジッタ値 |
なお、オマケの実験として、Audio Presision側が発生させたサイン波を録音した結果、SE-U55XおよびSE-U55GXでどうなるのか、WaveSpectraを使っての波形表示をしてもらった。これを見ても、確かにS/Nがぐっと向上していることがわかる。
SE-U55Xのサイン波 | SE-U55GXのサイン波 |
CarryOn Music Ver4.00 |
もう1つの特徴がバンドルソフトだ。以前にも紹介した「CarryOn Music Ver4.00」を同梱している。詳細は割愛するが、ここにはGracenoteのMusicIDが搭載されているため、アナログを取り込んだ曲でも、その曲名やアルバム名、アーティスト名などを認識できるようになっている。
これだけの機能、性能を持って、標準価格23,100円で、実売2万円を切るというのだから、十分購入を検討する価値のある製品だといっていいのではないだろうか。
□オンキヨーのホームページ
http://www.onkyo.com/jp/
□ニュースリリース
http://www2.onkyo.com/jp/what/news.nsf/view/se-u55gx?OpenDocument
□関連記事
【6月21日】究極のUSB 1.1対応インターフェイスとなるか?
~ EDIROL「UA-25」を検証する ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040621/dal150.htm
【5月27日】オンキヨー、24bit/96kHz対応USBオーディオインターフェイス
-MusicID対応「CarryOn Music」付属。水晶クロック内蔵
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040527/onkyo.htm
(2004年7月5日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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