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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第162回:身近になった300万画素DVカメラ「DCR-PC350」
~ オキテ破りの新コンパクトスタンダード ~


■ 1年で後継機が出る売れ線ライン

 DVカメラで「メガピクセル」の言い出しっぺであるソニーが、いち早く300万画素CCD搭載のDVカメラ「DCR-PC300K」を発売したのが昨年の9月。発表時にはこれもレビューしなきゃと思っていたのだが、バックナンバーを見ると、なんかスルーしてしまっている。

 そんなPC300の後継機「DCR-PC350」(以下PC350)が、早くも8月6日にリリースされるという。300よりもコンパクトでありながら、下位モデルではなく後継と名乗るところから、300は早くもディスコンということだろう。

 思えば筆者が買った初めてのDVカメラが「DCR-PC7」であった。それがもう350。いや、そのあいだに343台あったわけではないが、縦型モデルもずいぶん進化したものだ。

 本来ならば前モデルPC300と比較しながらというのが正しいのだろうが、何せ前モデルを全く触っていないので、新たな気持ちでのレビューである。「ダメじゃん」とか言うな。早速PC350の実力を検証してみよう。


■ すっきりして質感が高いボディ

 ではいつものようにボディから見ていこう。PC350にはブラックとシルバーの2色があるが、今回はシルバーモデルをお借りした。デザインテイストは、前モデルのPC300が黒を基調とし、レンズがガガーンと目立つルックスであったのに対し、PC350は起伏部を押さえたスマートなカタチとなっている。特にシルバーモデルは、全体のカラーが一定のトーンで、全体的にスルッとしたまとまり方が印象的だ。

全体的に起伏を押さえたまとまりあるデザイン レンズはカールツァイス バリオゾナーのT*コーティング

 レンズはお馴染みカールツァイス バリオゾナーのT*コーティング。フィルター径は30mmとなり、PC300の37mmから小さくなっている。レンズ径は実測で21mm。動画では35mm換算で45~450mmの光学10倍ズームだが、静止画ではレンズとCCDの兼ね合いなのだろうか、35mm換算で44~374mmの光学8.5倍ズームと、若干変則的な仕様になっている。

 CCDは1/3型の331万画素、有効画素数は動画で205万画素、静止画で305万画素と、スペック上はPC300と同じになっているが、 感度向上とノイズ低減を図った新開発のものだという。フィルターは引き続き原色だ。

 液晶モニターは2.5型で、透過型と反射型両方として使えるハイブリッド仕様。メニュー操作はタッチスクリーンで行なう。モニターのフレームには録画ボタンと、ズームボタンがある。今まではバックライトのON/OFFスイッチがあった場所だが、ズームを持ってきたのは新しい試みだ。

液晶モニター横にズームボタンが付いた モニターのヒンジ下には電源とS端子

 バックライトのボタンは液晶内部に移動し、そのほか「DCR-HC1000」でも採用されたバッテリーインフォボタンも装備されている。液晶モニターのヒンジ下にはS映像端子とDC-INがある。バッテリはやや小型のFシリーズとなった。

 背面は比較的シンプルだ。録画ボタンと電源/モード切替スイッチ、その下にはボタン一発でフルオート撮影になる「シンプル」ボタンがある。このシンプルボタンは、今までPC109やHC40/30のようなローエンドモデルに付いていた機能だ。3メガピクセル機もそのぐらいお気軽に、ということだろうか。そのほかマイク端子と、メモリースティックDuoスロットも背面だ。

背面はシンプルにまとめた 一発でフルオートになる「シンプル」ボタン

 ビューファインダは、引っ張り出せないタイプになった。開口部もセンターから若干ズレており、メインで使用するというよりも割とオマケというか名残っぽい扱いになってきているあたり、そろそろコンシューマー機では役目を終えつつあるのかなという気配を感じる。

 左側にボタン類が多いのも、本機の特徴だろう。フラッシュ切り替え、逆光補正、フォーカス、ナイトショットボタンがある。フォーカスはレンズ周りのフォーカスリングでマニュアル調整可能。フォトボタンは押しやすいように、斜めにせり出している。ズームレバーは凹みが大きくなり、操作感が良くなっている。

ビューファインダは開口部がセンターからズレている 左側にもボタン類が多い

 端子類は、アナログAV出力とLANC端子が隠されている。端子といえば、本体にi.LINK端子がないのは思い切った判断だ。USBともども、デジタル系の接続はクレードルでやってねということだろう。

 グリップベルトは、後ろのほうが外れて、ストラップとしても使用できるようになっている。また撮影時もわざわざ取り付ける必要はなく、手首に通してホールドできるという。ブラブラ歩きながらハンディで撮るときは、このスタイルがいいだろう。

グリップベルトは手前側が外れるようになっている 意外に深く握れるので、ハンディでも安定感はある

 実際にホールドしてみると、小型になったとはいえある程度長さというか高さがあるので、深く握れる感じだ。重心も低めだし、安定感はある。

 クレードルのほうも見てみよう。シルバーの土台に半透明アクリルのホルダーが乗っかったスタイルで、清涼感がある。背面にはUSB、i.LINK、電源、S映像、アナログAV出力端子があり、こいつにドッキングすれば充電から転送まで全部OKで、接続がすっきりする。USBに関しては、いわゆるUSBカメラとしても使えるため、サイドにON/OFFの切り替えスイッチがある。

クレードルの付属で、家での取り回しが楽になる 充電や転送まで、すべてのコネクタが揃っている


■ 安定した発色が特徴

 では実際に撮影してみよう。機能上の本機の特徴は、30P、すなわちプログレッシブ撮影モードが付いた点だ。ただしこの機能は、ワイドモードでは使えない。したがって今回は、4:3での撮影を中心に行なっている。

撮影モードと焦点距離(35mm判換算)
モード ワイド端 テレ端
4:3
(45mm)

(450mm)
16:9
静止画
(44mm)

(374mm)

 静止画ではCCDの有効画素数が100万画素ぐらい多くなっているのに、画角には大してそれが現われてこないというのは、ちょっと損したような気になる。やはり高解像度の静止画がウリであれば、ワイド端では30mm台が欲しいところだ。

 ただ静止画の解像感はさすが3メガピクセル機で、ビデオカメラとは思えない。画像を等倍で見ても、ピクセルに破綻がなく、色の発色や階調もしっかりしている。

色の階調表現も悪くない テレ端での解像感もいい

 新開発のCCDは感度は高いのだが、スミアはいったん出るとかなり派手なので、極力アングルで逃げる必要がある。無理矢理フレアも出してみたが、かなり狙ってワザとやらないかぎり、ここまで派手には出ない。実用上は問題ないだろう。

スミアは出るとかなり強烈 フレアはかなり出にくい

微妙な構図のフォーカスは、スポットフォーカスのほうがてっとり早い

 本機にはフォーカスリングがあるのだが、フォーカスをマニュアルに切り替えるボタンが後ろから見て右手側にあるので、撮影中にアングル決めて構えて「あーフォーカス来ないなー」と思っても、なかなか操作しづらい位置にある。むしろタッチスクリーンの液晶で、「スポットフォーカス」を使った方が早い。

 この点については逆光補正も同様で、いったんカメラをひっくり返して「えーと」と左手でボタンを押さなければならない。構えてみて初めて必要かどうかがわかる機能が右手側にあるというのは、あんまりよろしくないような気がする。

 そういえば本機も、こないだレビューしたHC1000と同じく、好きなメニューを好きな順番に並び替えられる「パーソナルメニュー」を搭載している。むしろタッチスクリーンを使った調整をメインに考えるべきかもしれない。

 ただ、前回のHC1000はスクリーンの指紋がほとんど気にならなかったのだが、なぜか本機は指のあとが残りやすいような気がするんだなぁ。液晶面にもコーティングの違いなどがあるか、それとも筆者がこの2週間の暑さでみっちり汗っかきになったか……。今となっては確認できないので、製品が出たら2台をちょっと店頭などで比べてみてくんないか?

 液晶横のズームボタンは、ハンディで撮るときよりも、三脚に乗せたときに便利だ。通常右手はパン棒を握っているので、左手でサイズを決められる。ただ、いままでこういう機能がここに付いたカメラが他になかったので、ついついそこにズームがあることを忘れてしまうのが難点か。それも慣れれば解決するだろう。

 改善されたと言われているオート露出補正だが、若干明るめに合わせてしまうようで、落ち着いた絵作りにはやはり、AEシフトなどを使って絞り気味にした方がいいようだ。

今回も「パーソナルメニュー」は健在 水面の微妙な照り返しなどを表現するため、AEシフトでいっぱいに絞っている


■ 標準となるか、プログレ撮影

動画サンプル
プログレッシブ撮影の動画サンプル。前半がプログレッシブ、後半がインターレースになっている
 さて、本機の特徴であるプログレッシブ撮影も試してみた。コマ割りとしては60fpsが30fpsになるわけだから、液晶モニターを通じても、その違いはわかる。ただし被写体が動いているか、自分が動かない限りわからない。

 一応動画サンプルを掲載するが、おそらくパソコン上で再生しても、よくわからないかもしれない。PCのモニターは、もともとプログレッシブだからだ。画像をポーズ状態にして見れば、プログレッシブ撮影のほうがブレコマが少ないので、多少違いはわかるかと思う。

 違いをちゃんと認識するには、いったんDVDなどに焼いてブラウン管のテレビとかで見るしかないかもしれない。もっともそれは従来のインターレース状態を確認するためなわけだから、ものすごく後ろ向きなことをしているような気もするが。

動画サンプル
シャープネス動画サンプル。ノーマル、ミニマム、マックスの順になっている
 プログレッシブ撮影では、絵の生々しさが消えて、情緒的な感じになる。最近、パナソニックがやっているように、ガンマまでいじれるわけではないが、テレビもそろそろ液晶やプラズマが多くなってきていることだし、家庭用ビデオもプログレッシブのほうが有利な面も少なくないだろう。プログレッシブ撮影は、今後コンシューマーではトレンドとなるかもしれない。

 もう1つ、これはHC1000にもあったのだが試していなかった機能、シャープネスも試してみた。めいっぱい下げてもさほど甘々にはならないが、Maxではかなりギチギチの絵になる。輪郭の立ち具合は好みが分かれるところだが、ソニーのプロ機、特にデジタルベータカムあたりでは、デフォルトで輪郭がかなり立ち気味に設定されており、ソニーの絵作りの特徴となっている。

静止画のシャープネスのサンプル
標準 ミニマム マックス


■ 総論

 PC350は、いろんな意味でコンシューマービデオカメラのパラダイムシフトを象徴する存在なのかな、という気がする。331万画素という高解像度CCDを搭載しながら、それ以外の部分はローエンドモデルで評価の高かった機能を搭載するという、高低ミクスチャー機なのだ。

 クレードルの標準装備もそうだし、i.LINK端子の本体非搭載、シンプルモードの実装もそうだ。これからのビデオカメラは、高解像度静止画当たり前の世代に突入するとの、無言のメッセージを感じる。またソニーコンシューマー機としては、プログレッシブ対応に乗り出してきたのも新しい動きだ。もっともこれは、Wideモードでも対応して貰えれば完璧だったが。液晶横のズームボタンも新機軸だ。

 まったく同じ仕様で、横型の「DCR-HC88」をリリースするというのも、事業として新しい展開である。大型バッテリを使いたい人、横型派の人も同スペックの撮影を楽しめる。クレードルは付属しないが、多少価格が安いというのはポイントだろう。

 光学系では、静止画で画角やズーム倍率が正攻法でなかったところに、若干のぎこちなさを感じる部分もある。だがまあ、ファミリーカメラとしては破綻がないよう、安全にまとめたということだろう。

 デザインがおとなしいので革新的な感じはしないが、横型のHC88と並んで優等生っぽい存在として、地道に人気が上がっていくモデルなのかな、という印象を持った。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200407/07-0706/
□関連記事
【7月6日】ソニー、クラス最小ボディの331万画素CCDハンディカム
-同スペックの横型モデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040706/sony.htm
【2003年7月31日】ソニー、331万画素CCD搭載のDVカメラ
-カールツァイスレンズやリモートカメラ機能を搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030731/sony.htm

(2004年7月14日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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