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今年末に発売されるDAWソフトのレビューの2本目は、1本目の「Logic Pro 7」に続き、Cakewalkの「SONAR 4」を取り上げる。このソフトは昨年末に日本語版の「SONAR 3」が発売されたばかりで、まだ1年も経たないうちでのメジャーバージョンアップされた。SONAR 2からSONAR 3で大変身したSONARシリーズだが、今回のバージョンアップで何が強化されたか検証した。
■ 競い合うSONARとCubase
SONAR 4 |
あくまでも筆者の印象であるが、SONARの初期バージョンが登場したときは、「強力なオーディオ機能は搭載されているが、どうも垢抜けない野暮ったいソフト」というイメージだった。それがSONAR 3へと進化する過程でかなり見栄えも操作性もよくなり、感覚的には「Cubase SXのテイストをSONARへ反映したソフト」になった。非常に良いソフトへと進化したと言えたのだが、Cubase SX2と比べると物足りなさを感じる点もいくつかあった。
まず、マスタリング時におけるディザリング機能。24bit/96kHzで完結させるのであればいいが、CDに焼く際にダウンコンバートする時、Cubase SXはApogeeのUV22を搭載していたが、SONARにはそうしたものがなかった。また、トラック編集時にフォルダトラックを用いて、まとめて管理するということができなかったのもネックであった。
また、Cubase SXはVST System Linkなど分散処理機能を利用することで、1台のマシンの負荷の軽減が可能であったが、SONARにはそうしたものがない。さらに、Cubase SXはサラウンドに対応していたが、SONARはあくまでもステレオでしかオーディオを扱うことができなかったのだ。
もちろん、Cubase SXに対して優位な点として、ACIDライクなループシーケンス機能を持っていたり、Cakewalk時代から引き継いできた強力なMIDI機能、さらにはWDMとASIOの両方のドライバが利用できることなどいろいろあったのだが……。
こうした状況に対して、今回のバージョンアップで、Cubas SXより劣っていた点をすべて埋めてきたというのがSONAR 4の実態といえそうだ。もちろん、それに留まるだけでなく、独自の進化もいろいろ遂げてのメジャーバージョンアップである。というわけで、実際にどんな点が強化されたのか、その新機能を中心にSONAR 4を見ていくことにしよう。
なお、実際の機能紹介の前に、SONAR 4のラインナップを紹介しておこう。SONAR 4には、上位の「Producer Edition」と普及版の「Studio Edition」の2種類があり、形態としてはSONAR 3と同じ。ProducerとStudioの主な違いは、サラウンド機能の有無と搭載エフェクトの数、そしてディザリング機能とタイムコンプレッション機能の有無といったところだ。
価格はどちらもオープンプライスだが、前者は実売で87,000円前後、後者が5万円前後となっており、SONAR 3のときより微妙に高くなっている。価格帯としてはProducer EditionがCubase SX3と完全に同じところにあるので、ここでは、新機能をいろいろと搭載したProducer Editionにフォーカスを当てる。
■ マルチチャンネルの編集が可能に
さて、実際に使うかどうかは別にして、やはりもっとも派手なバージョンアップポイントはサラウンド機能への対応だろう。5.1chはもちろん、4chや7.1chなど合計30種類以上のサラウンド・フォーマットを幅広くサポートし、1トラックで複数チャンネルを同時に扱えるようになった。これを利用する上で最もわかりやすいのがサラウンドパンの存在。ジョイスティックを利用したコントロールも可能になっており、気軽にサラウンドサウンドの制作が楽しめる。もちろん、ミキサーもサラウンドに対応している。もっとも、どのようにサウンドを定位させれば、結果がよいのかといった定説がまだほとんどないので、あくまでも使い方はユーザーの手探りということになる。
サラウンドパンの設定画面 | ミキサーもマルチチャンネルに対応している |
一方、このサラウンドに対応するエフェクトを搭載したのも大きなポイントだ。具体的には、SONAR 3でも非常に脚光をあびたLexiconのリバーブがサラウンド対応した「Lexicon Pantheon Surround Reverb」というものが標準でバンドルされている。また「Sonitus Surround Compressor」というサラウンド用にデザインされた9チャンネル対応のコンプレッサも非常に強力だ。では、従来のステレオのエフェクトがサラウンド用に使えないかというとそうではない。「SurroundBridge」というアダプタが用意されていて、これを使うことで、既存のエフェクトも活用できる。
Lexicon Pantheon Surround Reverbを標準で搭載 | 9チャンネル対応のコンプレッサも備えている |
■ ディザリングにPOW-r、タイムコンプレッションにMPEX
もうひとつ、SONAR 4の目玉といえるのが、先ほども触れたディザリング機能だ。24bit/96kHzでのレコーディング/編集が当たり前となった現在、やはりクオリティーの高いCDを作成するためにディザリング機能は必須といえるが、SONAR 4ではディザリングに「POW-r(Psychoacoustically Optimized Wordlength Reduction)」を採用した。このPOW-rは、POW-R Consortium LLCが開発した技術でLogicやSamplitudeなどに搭載されているが、それと同等のものがSONARにも搭載されている。一方、タイムコンプレッション、エクスパンジョンに「Prosoniq MPEXタイム・スケーリング」が搭載された。これはCubase SXも以前から採用していた技術だが、これを利用することで、非常に高音質のまま尺を伸ばしたり、縮めたりすることができる。
ちなみに、SONAR 4には「ビデオ・サムネイル・トラック」というトラックが新設され、ビデオをオーディオと同期させる際のスクロール表示を容易にしている。ここで画面を確認しながらオーディオを配置することができるのだが、微妙にタイミングが異なるような場合、MPEXを利用して尺をあわせれば、スムーズな作品作りが可能となる。
ディザリングに「Psychoacoustically Optimized Wordlength Reduction」を採用 | ビデオをオーディオの同期もスムーズに行なえるようになった |
曲全体を見渡せるナビゲーションビューが追加された |
さらに、トラックフォルダが利用可能になったのも便利なところ。つまり複数のトラックを1つのフォルダにまとめられるわけだが、リズム系をひとつにまとめるとか、コラース系をひとつにまとめることができ、それを同時にミュートしたり、ソロ演奏させたり、場合によってはアーカイブもできるようになっている。
また、フォルダでまとめてエフェクトをかけるなどすれば、CPUパワーの削減につながるが、もっと抜本的にCPUパワーの節約に活用できる機能も搭載された。それが「フリーズ機能」である。
Cubase SX2やLogicなど多くのDAWソフトには以前から搭載されていたものだが、これはソフトシンセやエフェクトを活用しているトラックをあらかじめレンダリングによってその出音をオーディオデータ化するというもの。こうすることで、ソフトシンセやエフェクトをリアルタイムに動かす必要がなくなるので、大きくパワーを軽減することができる。
■ レベルメーター表示の自由度も高くなった
一方、細かな機能だが、とても見やすくなったのがトラック上のレベルメーター。正確に言うと、単に見やすくなったというよりも、いろいろな表示が可能になった。従来は、各トラックに縦型のレベルメーターがあったため、トラックの幅を広げないと、非常に小さくしか表示できなかった。また、トラックの幅を広げると、1画面に表示できるトラック数が少なくなるという問題もあった。それが、SONAR 4になり、カスタマイズでレベルメーターの横表示が可能になった。さらに、単に横表示するというだけでなく、表示内容をPeak、RMS、Peak+RMS、プリフェーダー、ポストフェーダー、プリフェーダー & ポストFXから選択できたり、dBの設定も変えることができる。またライズ、フォール、ディケイなどのパラメータが設定可能となっているので、自分の好みに合わせて自由にメーターが表示できる。
レベルメーターを横表示にするカスタマイズ機能を追加。さらに、表示項目の設定も任意にカスタマイズできるようになった |
さらに、これまでどのDAWでもありそうでなかった「クリップミュート機能」が追加された。これは、トラック丸ごとをミュートするのではなく、各クリップごとにミュートの設定ができるという機能だ。使ってみると結構便利で、複数テイクがある場合、ベストなものをつなぎ合わせたいときなどに活用できる。操作的には、ミュートツールでドラッグするだけでOKで、ミュート解除も同様にできるからいたって簡単だ。
アシッタイズされたACIDデータの編集機能も強化されている |
こうした機能はプラグインで同梱されている「Cyclone DXi」でも可能であったが、従来「グルーブクリップ・ウィンドウ」という名前だったウィンドウが「ループ・コンストラクション・ビュー」と名前を変えるとともに、そうした操作ができるようになった。これにより、ループデータをプロジェクトに合わせて自由自在に操ることが可能となり、応用の幅が大きく広がっている。
■ バンドルするソフトシンセはダウングレード?
TTS-DXi |
SONAR 3の「Producer Edition」では「VSampler 3.0 DXi」という非常に高機能なサンプラーがあった。またSONAR 2 XLでは「DR-008」というドラムサンプラーがあったが、これらはいずれも無くなってしまっている。
その代わりに、正確にはEDIROL VSCに変わって「TTS-DXi」というものが搭載された。これは、RolandとCakewalkが共同開発した新音源で、GM2に対応したもの。中身的には「HyperCanvas」に近いもののようだが、「VSampler」のような面白さがないことは確かだ。もちろん、GM2音源でオールマイティーに使えるので、便利ではあるが、この点だけはダウングレードしたといっても過言ではないだろう。
先日紹介したAppleのLogic Pro 7が非常に強力なソフトシンセを豊富に取り揃えていることに比較すると、ソフトシンセの面では大きく見劣りすることは事実。Windows用とMacintosh用ソフトなので、直接比較するべきものではないが、ぜひ今後この点を充実してもらいたいところだ。
SONAR 4の発売は11月末とのことだが、Cubase SX3とのシェア争いがどうなっていくのか楽しみである。
□EDIROLのホームページ
http://www.roland.co.jp/DTMP/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/SONAR4/
□関連記事
【11月8日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証
~ 「Logic Pro 7」にGarageBandからステップアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041108/dal167.htm
【2003年12月1日】【DAL】大幅機能強化した「SONAR3」
VST対応や各種プラグインを同梱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031201/dal124.htm
(2004年11月22日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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