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第158回:野太い声のハリーが贈るサスペンス |
怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。 |
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 特別版 |
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価格:3,129円 発売日:2004年12月17日 品番:DL-28445 仕様:片面2層2枚組み 本編収録時間:約142分(本編)/約88分(特典) 画面サイズ:16:9シネマスコープ(スクイーズ) 音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch) 日本語(ドルビーデジタル5.1ch) 字幕:日本語/英語/吹替用 発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ |
もはや説明不要の人気ファンタジー映画「ハリー・ポッター」シリーズ。1作目の「賢者の石」と2作目の「秘密の部屋」は、日本の映画興行史の歴代の動員記録5位の中に2作品ともランクインするなど、その人気はまさに桁外れのモンスターシリーズだ。
最新作である第3弾「アズカバンの囚人」は2004年6月の公開だが、早くもDVDとして発売された。今回の見所はなんといってもクリス・コロンバスがメガホンを取った前2作から、メキシコの若手アルフォンソ・キュアロンに監督がバトンタッチしたことだろう。
原作付きの作品なので、監督の交代による影響はそれほど大きくないかもしれない。しかし、家族そろって楽しめる、正統派ファンタジーという前作までのイメージとは異なるという評判も耳にする。このあたりの変化は楽しみなところだ。
変化という意味では、主演のダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの3人の成長ぶりも凄い。DVDを手に取った時、ジャケットに写る3人を見て驚いてしまった。第1作では「可愛いおこちゃま」というイメージだったダニエルは、もはや少年を通り越して青年と言ってもおかしくない。「他人の子供の成長は早い」などと言うが、「メチャクチャ大きくなったなぁ~、おまえ」と、妙な感慨を覚えしまった。
エマは小さい頃から大人びた、出来上がった風貌の少女なのでそれほどイメージに変化はないが、手足がうらやましいほどスラリと伸びた。ルパート・グリントも成長しているが、ジャケットの情けなく、とぼけた表情は健在。シリーズ3作品のDVDを並べて眺めてみると、一貫して自分の役割を理解し、実行している彼の姿勢には頭が下がる。名画には名脇役が必要なようだ。
さっそくDVDの再生を開始したが、画面に表示されたのはフル3DCGで描かれた、寝室で眠る男の子の映像。一瞬、「あれ? モンスターズインクのディスクと間違ったかな?」と焦ってしまったが、これは11月末から公開された「ポーラー・エクスプレス」のトレーラーだった。昨今はこうした仕様のDVDが増えているが、購入したディスクの冒頭に宣伝映像が入っているというのはあまり良い心地がしない。
■ 最新作は大人向き?
ボグワーツ魔法学校の3年生になったハリー・ポッター。新学期も始まり、親友のロン、ハーマイオニーと共に学校に戻ったハリーだったが、魔法世界では、脱出不可能と言われた牢獄アズカバンから脱走した凶悪犯シリウス・ブラックの話題で持ちきりだった。そして、彼こそがハリー両親を死に追いやった男だという。
「シリウス・ブラックがハリーを探している」という噂が飛び交う中、魔法学校のダンブルドア校長は子供たちを守るため、アズカバン牢獄の看守・ディメンターを見張りに立てる。そして、魔力に対する防衛術を教える教師ルーピンも着任。用意は万端に思えた。だが、ブラックの影は着実に近付き、ハリーは両親の死に隠された意外な真実を知ることになる。
鑑賞中に最も感じたのは、これまでの作品との雰囲気の違いだ。前作までは魔法世界の様子や、子供たちの学業などの生活面を明るく、楽しいイメージで描くことが多かった。しかし、今回の作品は全体的にダークで、魔法世界に常に暗雲が垂れ込めている……といった感じ。「どこから凶悪犯が入り込んで来るかわからない」という恐怖を演出するためだと思われるが、イメージの違いに若干戸惑ってしまった。
画面的にも曇りや夜のシーンが多く、子供たちにも笑顔が少ない。皆恐怖を感じているようだ。また、その雰囲気を象徴しているとも言えるのが、アズカバンの看守・ディメンターだ。ボロ布を頭からすっぽりとかぶり、表情は見えず、ゆらゆらと暗い空を飛び回るその姿は、まさに「お化け」そのもの。音も無く近寄り、人間の口から魂を吸い出そうとする。はっきりい言って怖い。子供にはかなりショッキングな光景であり、気の弱い子なら夢に見てしまいそうだ。なお、このディメンターは字幕では「吸魂鬼」と翻訳されている。
ストーリーの方は、人物関係が複雑に絡み合い、どんでん返しも加わり、若干難解な印象を受けた。また、シリウス・ブラックとハリーの両親との関係や、誰が手引きして彼を魔法学校の中に出入りさせているかなど、サスペンス的な要素も加わっている。原作を読んでいればすんなり理解できるのだろうが、小説でじっくり書かれるのと違って、テンポの速い映画では気を抜かずに観る必要がある。登場する名前や、細かな伏線を見落とさないように観賞すると良いだろう。
このように、前作までと若干テイストが異なる作品に仕上がっているが、ストーリーの中心にあるのは「ハリーの成長物語」であることに違いはない。今回は両親の死の真相が明らかになると同時に、彼の中に巣食う不安や、両親を殺した相手への憎しみ、そして不幸な過去についても触れられる。魔法の上手下手の問題ではなく、そうした自分の内面と向き合い、心の壁を越えて大人になっていく姿が印象的だ。さしずめ、「精神的な面の成長物語」といった位置付けだろうか。
それに伴い、新任教師ルーピンという「父親」を感じさせるキャラクターが登場するのも面白い。彼はハリーに身を守る術を教えるだけでなく、自らの不安や恐怖の制御の仕方も指南し、良き理解者として、時に彼を叱ってもくれる。そして、両親の知り合いだったルーピンに対し、ハリーは特別な親近感を覚え、慕っていく。2人が会話するシーンは父と子のそれをイメージさせ、感動的だ。
また、ネズミ、ネコ、狼男など、様々な動物が登場するのも好印象。その中でも前半身が鷲、後半身が馬というキメラ「ヒッポグリフ」が素晴らしい。ギリシャ神話に登場する架空の生物だが、動きはリアルそのもので、気高く、そして愛らしい。ハリーを乗せて自由に飛び回るシーンは最も楽しめたところだ。
全体としては、膨大な原作の情報量を、そつなく2時間にまとめられているという感想を持った。もう少し盛り上がりが欲しい気もするが、ストーリー的に仕方のない部分もあるのだろう。1つだけ気になった点を挙げるとすれば、それはハリーの声だ。いつものように視聴は英語のドルビーデジタル5.1チャンネルで……と思ったのだが、変声期を終えたばかりの彼の声は、野太く、常時かすれ気味で、男らしくはあるが、聴きづらい。
ヒッポグリフの背中に乗って空を飛び「イヤッホー!!」と気持ちよく叫んでいるつもりなのだろうが、高い声が出ないので息苦しい叫びに聞こえてしまう。仕方がないと言えば仕方がないことだが、試しに聴いてみた日本語吹き替え音声の方が、個人的にはイメージに近かった。違和感を感じてしまう人は、吹替えに切り替えてみても良いだろう。音質的には若干英語(448kbps)が有利だが、日本語(384kbps)と大きな違いはない。
■ ゲームが熱い特典ディスク
DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは6.16Mbps。最近のDVDにしては低めだが、第1作目が6.13Mbps、2作目が6.1Mbpsなので、ほぼ同等と言える。前述の通り暗いシーンが多く、暗い森の中で月明かりだけというシーンも多々あるため、条件としては厳しい。しかし、画質はかなり健闘している。暗部の階調性もそれなりに残っており、暗闇の中でも表情が判断できる。コントラストの激しいシーンではノイズが目につくが、擬似輪郭やブロック/モスキートノイズは少ないため、視聴中に違和感を感じることは少ないだろう。
音声はドルビーデジタル5.1chで、英語を448kbps、日本語を384kbpsで収録。BGMが秀逸で、楽器やコーラス隊がリアチャンネルに割り当てられるなど、楽しいサウンドデザインが印象的だった。
DVD Bit Ratge Viewerでみたの平均ビットレート |
特典ディスクはサービス満点。「トレローニー先生の水晶玉」というコーナーでは、未公開/未完成シーンが楽しめる。未公開シーンというのはよくあるコンテンツだが、クロマキー合成前の映像が混じる未完成シーンというのは珍しい。ボツになったアイデアの数々を知ることができ、試行錯誤の制作現場が垣間見える興味深い内容になっている。
メイキングではキュアロン監督と原作者のJ.K.ローリングへのインタビューが面白い。監督は「製作陣は全員、原作のしもべになることを決意した上で、自分なりの見せ方を探っていこうと考えた」と、撮影開始当時の心境を振り返る。また、セットが完成した際にはローリングさんを招待し、彼女の頭の中にある魔法世界と違う部分がないか、チェックしてもらったという。なお、セットを作る際、ローリングさんはわずか数分で魔法学校の詳細な地図のメモを描き、スタッフに渡したという。原作者が、自ら創造した世界を正確に把握し、そこに破綻がないことがわかるエピソードだ。
主演の3人は、インタビュー中も笑いが絶えず、本当に仲が良さそう。役から離れて冗談を言い合っている最中でも、ルパートがボケ役、エマが優等生的な回答をするなど、キャラクターの役割関係とそっくりな点が面白い。また、世界で最も有名な16歳以下の少年少女として、街中でファンに目撃された時の反応などの体験談も披露。中でもダニエル君は裸の女性ファンからアピールされたり、求婚されたりと、かなり大変(?)な日々を送っているようだ。
映像コンテンツも多数入っているが、ゲームも充実。中でも「スキャバーズを捕まえよう!」が面白い。画面に表示されるヒントに従ってリモコンの左右上下ボタンを押すという単純なものだが、ネズミを追いかける3Dタイプのゲームになっており、障害物に当たる前にキーを押さなければならないというアクション要素も含まれている。「所詮子供向けのゲームだろう」と侮っていたが、キーを押す制限時間が短く、かなり難易度が高い。ついついリモコンを握る手に力が入ってしまった。鑑賞後に、家族でゲームを楽しむというのも面白いだろう。
■ 変化していくハリポタ
大作のハリウッド映画は3作品で終了するイメージがあるが、ハリー・ポッターシリーズはまだまだ終わらない。第4作目「炎のゴブレット」では、また監督が交代してマイク・ニューウェルが、第5作目の「不死鳥の騎士団」ではデビッド・イェーツがメガホンを取ることが決定している。また、第5作目では、脚本家もこれまでの4作を手がけたスティーブ・クローブスから、マイケル・ゴールデンバーグにバトンタッチするという。今後のハリポタが「子供向けのファンタジー」からどのように変化していくのか楽しみだ。
そういう意味では、今回の「アズカバンの囚人」は、シリーズの転換期に当たる作品なのかもしれない。暗いシーンが多く、ストーリーも入り組んでいるため、主な視聴者である子供にとっては「前の2作の方が楽しい」と感じるかもしれない。ただ、観客の子供達もハリーと共に大きくなっているわけで、「新しい気持ちで観賞したい作品」といえそうだ。
●このDVDについて |
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□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ
http://www.whv.jp/index2.html
□製品情報
http://www.whv.jp/database/database.cgi?cmd=dp&num=2559
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(2004年12月21日)
[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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