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第189回:ASIO 2.1がSACDのフォーマット「DSD」に対応
〜 対応チップ搭載VAIOで、DSDという選択肢を提供 〜




 3月にドイツ・フランクフルトで行なわれた楽器や音楽制作機器関連の展示会「MusikMesse」で、Steinbergがオーディオインターフェイスのドライバ規格ASIO(アジオ)の新バージョン、「ASIO 2.1」を発表した。このASIO 2.1は従来のPCMに加え、DSDをサポートした規格であり、SuperAudioCD(SACD)と同様の1ビットオーディオの信号をPCで扱えるようにしたものだ。

 この新ASIOを開発する背景にはソニーが絡んでおり、実際、近い将来VAIOにDSDのオーディオインターフェイスが搭載されるという。そこで、このASIO 2.1およびDSDのオーディオインターフェイスについて、ソニーの製品企画担当者である宮崎琢磨氏に詳細を伺った。



■ VAIOでDSDを一般ユーザーに

ソニー株式会社 ITCNC VAIO事業部門 企画部の宮崎琢磨氏

藤本:今回MusikMesseでSteinbergが発表したASIO 2.1という規格について、先日Steinberg Japanの担当者に話を聞いてみたところ、ソニーが持ちかけたもので、DSDをサポートしていると聞きました。詳しい情報があまり出ていないため、想像ばかりが膨らんでしまうのですが、実際ソニーとしてはASIO 2.1という規格について、どのように絡んでいるのですか?

宮崎:本当はASIO 2.1と当社製品を同時に発表したいところだったのですが、当社が出すハードウェアは具体的な発売日は未定なため、現時点で正式にアナウンスするには早すぎるということで、ドライバ規格単独の発表となってしまいました。このことからもおわかりいただけるとおり、今回のASIO 2.1はわれわれがSteinbergにお願いして作ってもらったものなんです。

藤本:そのASIO 2.0とASIO 2.1の違いはDSDをサポートしたことの1点、という理解でいいんですよね?

宮崎:そのとおりです。DSDについてご存知ない方もまだまだ多くいらっしゃいますが、DSDというのはDirect Stream Digitalの略で、SACDに採用されているデジタルオーディオの方式です。従来のPCM方式とはまったく異なるもので、音声信号の大小を1ビットのデジタルパルスの濃度(濃淡)で表現する方式です。DSDの最大の特長は、回路構成がとてもシンプルに実現できること。そして極めて音質がいいということです。とにかく生の音を忠実に録音する上で、DSDがいいことは、広く知られるようになりました。実際、SACDの音を聴いていただければ理解いただけると思います。

藤本:DSDは、つい最近TASCAMが民生用のレコーダーを出したということで話題になりましたが、これまでSACDという再生手段はあっても録音というのは、ごく限られたスタジオで行なわれているだけで、一般のユーザーが使うことはできませんでした。また、PCで扱うという手段はまったくなかったと思います。

宮崎:そうですね。だからこそ、多くの人に使ってもらいたいと思って、なんとか製品化を目指しているところなのです。DSDの音がいいのは知られているけれど、それが使えないというのは社会貢献的にもよろしくない。いいものを作ったのに出さないのは道義的問題になるますから、DSDを世の中に出して、とりあえず使えるようにしたいと思っているんです。

藤本:これで、PCM vs DSDの規格戦争勃発、という感じですか(笑)?

宮崎:いやいや、決してそうではないんです。とにかくDSDを扱うための「一つ目」を世の中に出したいという動機で今回の企画がスタートしましたが取り回し、音質などを考えてPCM、DSDを適材適所で使い分ける時期がしばらく続くのではないでしょうか?
 その意味でPCMを淘汰することが狙いではないので規格戦争というわけではなく、VAIOを高性能な音楽マシンとしても使用していただくために、現時点で最も高音質と言われているDSDという選択肢もユーザーに提供したかった、ということなんです。
 もちろん担当者としては、DSDでの録音や編集がスタンダードになり、我々をとりまく音楽のクオリティが向上すればとてもうれしいことですが……。


■ 汎用PCにも搭載できるDSDデコード/エンコード用チップを開発

藤本:単刀直入にソニーは、ASIO 2.1で使えるDSDのオーディオインターフェイスを発売する予定なのですか?

宮崎:実は、単体のオーディオインターフェイスを出すというわけではなく、VAIOに組み込むことを計画しています。実際、先日のMusikMesseでは現行のVAIO type Rを改造してDSDオーディオインターフェイスを組み込んだものを展示しました。

MusikMesseでのSteinbergブース DSDオーディオインターフェイスを組み込んだVAIO type R

藤本:実際、計画しているDSD搭載モデルというのはtype Rの後継機種ということになるのでしょうか?

宮崎:詳細は未定ですが、できれば大半の機種に搭載したいと思っています。

藤本:ということは、SonicStage Mastering Studioのように、すべての人が使うかどうかはわからないけど、とにかく搭載してしまうということですね。

宮崎:まあ、その通りですが、DSDにすることで、オーディオまわりの回路を大きく見直し、全体的に高音質化させたため、PCMで利用する人にも大きなメリットがあるんです。だから、これからのVAIOの音質は格段に向上するというわけです。

ASIO 2.1対応のSonicStage Mastering Studio Version 2

藤本:なんとなく、わかったような、わからないような……。そもそもDSDとPCM、そしてASIOの関係がどうなっているんでしょう? また、ASIO 2.1がDSDに対応したということは、VAIO搭載のDSDのオーディオインターフェイスを利用して、CubaseやNUENDOなどのDAWでDSDレコーディングが可能ということなのですか?

宮崎:この辺を少し整理しないとわかりにくいですね。まず結論からいうと、現状のDAWはPCMにしか対応していないので、DSDのレコーディングは不可能です。現在DSDのレコーディングが可能なのは、会場で同じく開発発表させていただいたSonicStage Mastering Studio Version 2(SSMS2)のみで、このSSMS2がASIO 2.1に対応するというわけです。

 またVAIOに搭載しているオーディオインターフェイスはDSDとPCMの両方に対応しており、ソフトウェア的に切り替えることが可能になっています。そして、そのいずれもがASIOに対応しているので、次のVAIOは世界初のASIOレディーのメーカー製PCということになるのです。そういう意味では、DAW用のPCとして最適ともいえるのではないでしょうか。

藤本:つまり、DSDを利用する組み合わせは、VAIOのオーディオインターフェイスとSSMS2のみである、と。そうだとすると、現状においてドライバをASIOにする意味というのはそれほどありませんよね?

宮崎:確かに、ドライバは何でもいいといえば何でもいいのですが、ここで独自のものを作ると、その後の応用が利かなくなります。それよりも、現在オーディオ用ドライバのデファクトスタンダードであるASIOに対応するほうが、将来的メリットが大きいだろうと考えてSteinbergにお願いしたのです。

藤本:次にどうやって、VAIOでDSDを実現させたのかをお伺いしたいのですが。

宮崎:当社では、DSD用のチップを開発しており、それをVAIOに搭載するということです。DSDのエンコード、デコードすべて1チップでできるようにし、音質をよくするさまざまな工夫をした結果、かなりいいS/Nに仕上げることができました。そのチップ自体もMusikMesseで参考出品しました。

藤本:ここで、気になるのはソニーとして、このチップを他社へも供給するのかということです。もちろん、他社製PCに搭載ということもありますが、他社へ供給すれば周辺機器としてのDSDオーディオインターフェイスが登場する可能性も出てきますよね。

宮崎:現時点においては、外へ出すことを検討してはいません。ただ、一つ言えるのは、このチップは汎用PCへ簡単に搭載できる設計になっていることです。

藤本:汎用PCに簡単に搭載できる? ということは……。

宮崎:そこから先は、まだ発表していないことなので、ご想像にお任せします。


■ DSDとPCMはほぼ無劣化で相互変換可能

藤本:とりあえずはVAIOに搭載されるのが第1弾ということのようですが、せっかくのDSDオーディオインターフェイスであっても、PC内蔵のものとなれば、端子の問題やその他の影響などから、本来の音質が発揮できないのではないでしょうか?

Pentium 4 3GHzレベルのCPUでも、編集はカットとフェード処理が精一杯

宮崎:おっしゃるとおり、DSD本来の性能は完全には発揮できないでしょう。そこに矛盾があることは十分認識はしています。まずはDSDを知っていただきたい、DSDを使ってみていただきたいというのが第一にあります。

 とはいえ、VAIO搭載のものでもDSDの雰囲気は十分に味わえるはずです。よくPCMは“写生”のようなものと言われています。それに対してDSDは“写真”。別の言い方をすればDSDではメガネではなく、裸眼でみるような違いといった感じでしょうか。音質の違いというよりも味の違いを実感できるはずです。

藤本:では、次にソフトについてお伺いしたいのですが、今回使えるようになるというSSMS2では、DSDオーディオに対してどんなことができるのですか?

宮崎:録音、再生および編集ということになりますが、実際のところPentium 4 3GHzレベルのCPUだと編集はカットとフェード処理が精一杯というところであるため、ここまでとなっています。

藤本:ということは、SSMSの売りであったWAVESのプラグインなどをDSDオーディオに対してかけることはできないんですね。

宮崎:そのとおりです。コンセプトとしては、アナログの音をとにかく一番キレイに取り込むという用途で使っていただきたいのです。まさに完全保存版のマスターとして。各種加工は、DSDマスターからしていただければと考えています。そこで、PCMデータへのコンバートも可能にする予定なので、各種プラグインでの編集などは、その後やっていただき、必要あれば、再度PCMからDSDへ変換するという方法論を実現しています。

DSDとPCMの相互変換はほぼ無劣化で行なえる

藤本:DSDとPCMは相互変換できるんですか?

宮崎:そうですね。基本的にほぼ音質劣化のない形で相互変換が可能です。実際DSDとPCMは非常に相性がよく設計されており、DSDで使われている2.8MHz(2822.4kHz)というのも44.1kHzと48kHzの公倍数になっているんです。

藤本:なるほど、そういうことだったんですか。PCMへ変換さえできてしまえば、あとはDAWでも何でも利用可能ですからね。ちなみにDSDはPCMでいうどのフォーマットに相当するんですか?

宮崎:32bit/192kHz以上といわれています。また理論上は量子化誤差も存在しません。ただし、ビットレート的には4Mbpsですから24bit/96kHz相当です。つまりデータ効率がいいということになります。

藤本:DSD自体はもう何年も前に発表され、実際SACDなどが商品化されていますが、どうしてこのタイミングでモノが出てくるんでしょうか? 今までは隠していたってことですか?

宮崎:いいえ、これまでのPCではそもそもパワー的に処理ができなかったんです。それがPentium 4 3GHzクラスになって、ようやくカットなどの処理ができるようになってきたというわけです。従来、DSDは専用の業務用機材で行なっており、これを使えば動いたのですが、PCではなかなか厳しかったのです。


■ DSDのファイルフォーマットも近く公開予定

藤本:次にユーザーとして気になるのは、DSDで録音したとして、それをどうするかです。PCMの世界と同様に、録音したものを編集し、それをCDに焼いたりDVDオーディオに焼くことで、どこでも再生可能になるのであれば、かなり魅力は出てきます。つまりDSDで録音したものを元にSACDを個人が焼けるようになる可能性というのはあるのでしょうか?

宮崎:残念ながらそれは将来的にも無理でしょう。やはりSACDのメディアの特性上難しいということと、暗号の問題、もっといえば産業上の構造というか……。

藤本:でも、そうだとしたら、VAIOで録音して、VAIOで再生するしか道がないということですよね。これでは、あまりにも狭い世界で魅力もなくなってしまうように思いますが……。

宮崎:現時点ではそういうことになりますが、ユーザーの声さえあれば、いろいろな展開もできるとは思っています。また、ASIO 2.1のSDKはすでに公開されていますし、DSDのファイルフォーマットなども近いうちに公開する予定です。そうなれば、第三者がSSMS2とも互換性のあるプレイヤーを作ったり、録音ソフトを作ったりということも可能になります。このファイルフォーマットには、妙なプロテクトをかけたりしませんから、極端な話フリーウェアで登場するなんてこともあるかもしれません。

藤本:ところで、TASCAMが先日DSDの録音再生機材を出していましたが、これとの互換性というのはどうですか?

宮崎:現状のソリューションとしては、まだ用意できていませんが、データコンバータなどを作っていきたいと考えています。つまり、SSMS2で録音したDSDのデータをDVDに焼いてしまうというわけです。SACDはできないけれど、こういうものができれば、新たな世界が広がる可能性も出てくるのではないでしょうか?

藤本:著作権管理を施したのがSACDで、一般ユーザーが読み書きできるのが、DSDデータを書き込んだDVDだ、と。両方が再生可能なプレイヤーなども出てくると、面白そうですが、そうした世界にたどり着くには、まだまだ時間もかかるかもしれませんね。

宮崎:そうですね。まずは、DSDをPCで扱えるようにするというのが第一歩です。あとは、ユーザーのみなさんの声にかかっています。そうした声があれば、次の行動がとれます。もちろん、われわれとしても、既存の機器などと親和性の高いものを作る用意があります。また既存のAV機器との連携なども視野にいれているので、ぜひ期待していてください。

※SSMSの画面写真は開発中のため、実際の製品では変更される可能性があります

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□Steinbergのホームページ(英文)
http://www.steinberg.de/Steinberg/defaultb0e4.html
□関連記事
【4月7日】Steinberg、DSD入出力に対応した「ASIO 2.1」を発表
−音楽製作機器でのDSDフォーマットの普及へ促進へ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050407/stein.htm
ティアック、DSD録音が可能なDVD+RWオーディオレコーダ
−189,000円。SACDやDVDオーディオマスタリング向け
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050303/teac.htm
【4月4日】【DAL】第185回:波形編集ソフトの定番がバージョンアップ
〜ASIO/VSTに対応した「Sound Forge 8.0」〜
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050404/dal185.htm

(2005年5月9日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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