~ MIDIのLAN伝送に対応。CoreAudio/MIDIの未来は? ~ |
Mac OS X 10.4 “Tiger” |
Mac OS X 10.4、いわゆる“Tiger”がリリースされて1カ月が経過した。Mac関連の雑誌を見ると、SpotlightとかDashboard、iChat AVといった新機能については、いろいろと紹介されているが、オーディオ/MIDI関連についてはほとんど書かれていない。
しかし、CoreAudio、CoreMIDI関連で非常に強力でユニークな機能が追加されてるのだ。そこで、Tigerで強化されたCoreAudio、CoreMIDIにのみスポットライトを当てて紹介する。
設定画面にあるNetworkアイコン(右端) |
それよりも、システムの整理をかねて、一度HDDを完全にフォーマットしてからTigerをインストールしたため、前の環境のバックアップ作業や各種アプリケーションの再インストール作業などで、ゴールデンウィークをつぶしてしまった。バックアップ用HDDとしてiPodは役立つななどと感心していたのだが、この大掃除でマシンは非常に快適にはなった。
一方で、Tigerになって、オーディオ/MIDI関連について強化されたという情報を、某サイトで読んで、初めて知った。確かにCoreMIDIの設定画面に見慣れないNetworkというアイコンがあってちょっと気になっていたのだが、この辺については1、2行で触れられているのみで、詳細情報はない。
またAppleサイトでも最初は何も触れられていおらず、Webで検索してもほとんどヒットしないという状況だった。その後、AppleサイトでCoreAudioに関するページがアップされたが、イマイチ具体的でなくてハッキリしない。ただ、こうした情報を統合すると、以下のような機能が追加されているようだった。
従来のCoreAudioドライバでは、通常1つのアプリケーションで同時に利用できるオーディオインターフェイスは1つに絞られ、せっかく2つ持っていても活用することができなかった。それはWindowsのASIOなどでも同様であり、仮想的に1つのオーディオインターフェイスに見せかけられれば、とても便利である。
オーディオ/MIDI設定のユーティリティで設定するのだろうとは思ったが、どうもやり方がわからない。ここのヘルプを見ようと思ったが、そもそもヘルプのリンクが切れているのか、何もない。画面中を見渡しても、それらしい設定項目やアイコンが存在しない。
頭を抱えていると、メニューの中にようやく発見。オーディオメニューに「機器セットエディタを開く」というものがあり、これを選択すると、仮想的なドライバ名をつけるとともに、そのドライバに設定するオーディオインターフェイスを選択できる。ここでは、FA-66とFA-101の2つをセッティングし、16IN/16OUTのドライバを作ってみたが、もちろん内蔵オーディオも一緒にして、18IN/18OUTにすることも可能だ。
その後、オーディオ/MIDI設定の画面をみると、ここで作ったドライバが追加されていることが確認できる。また、DAWをはじめとする各種アプリケーションでも、新ドライバが追加され、設定できることが確認できた。実際使ってみると、確かに2つのオーディオインターフェイスが一緒に利用できる。
「機器セットエディタ」でオーディオインターフェイスを選択 | オーディオ/MIDI設定で追加されたドライバを確認できる | 他のアプリケーションでも、新ドライバが設定可能 |
ドライバのプロパティ画面に、クロックの設定とリサンプリングのチェック項目がある |
ただ、ここで気になるのはクロックだ。複数のオーディオインターフェイスを共存させた場合、それぞれが別クロックで動作するため、長時間動作させていると、タイミングが狂う可能性がある。しかし、Tigerは賢く、そうした問題もリサンプリングという手法で解決していた。先ほどの設定画面、もしくはこの新たなドライバのプロパティを見ると、クロックの選択とリサンプリングのチェック項目がある。
つまり、まずはどのオーディオインターフェイスをクロックのマスターとして使うかを確定させた上で、リサンプリングによって完全な同期を取る。これは、なかなかよく考えられた便利な仕組みだ。もっとも、FA-66とFA-101のサンプリングレートそのものを44.1kHzと48kHzのように違うクロックに設定すると、さすがに同期をとることができないためか、マスタークロックに設定したオーディオインターフェイスのドライバしか見ることができなかった。
まず、オーディオ/MIDI設定のMIDIの画面を見てみると、これまでにはなかった、Networkというアイコンが存在している。この状態では、そのままルーティングできるわけではないのだが、ダブルクリックすると、ネットワークの設定画面が出てくる。
ここでは、LAN上にある、複数台のTigerをお互いに認識できるようになっている。まずはセッションというものを作り、その上で、ネットワーク上の別のマシンを見つけ出し、接続ボタンをクリックすると、双方がMIDI接続される。最初、その接続がうまくできなかったが、まず左側下の「接続を許可するコンピュータ」が「すべてのコンピュータを許可しない」になっていたのを「すべてのコンピュータを許可する」もしくは「自分のディレクトリ内のコンピュータのみ」に変更。
さらに接続相手のマシンのIPを入力したら簡単につながるとともに、もう片方のマシンからも、接続したことを確認することができた。なお、試していないが、グローバルIPが割り振られていれば、インターネット越しでの接続も可能だという。
ネットワーク設定画面 | セッションを作成後、「接続」ボタンクリックでMIDI接続が可能 |
まあ、つながったのはいいが、実際にはどうやって使うのだろうか? 気になるのは、この画面右下のライブルーティングというところ。この絵のニュアンスからすれば、上の段は、キーボードなどをリアルタイムに入力し、それをネットワーク先のマシンへそのまま伝送するということのようだ。また、下の段は反対にネットワーク先から届いた信号でリアルタイムに外部音源を鳴らすということなのだろう。
そこで、まずは試しにMac miniの入力にEDIROLのUSBキーボード、PCR-30を、PowerMacの出力に同じくEDIROLのMIDI音源SD-90を接続して、PCR-30を弾いてみたのだが、反応なし。次に、PowerMacでReasonを起動するとともに、入力のMIDIインターフェイスを見ると、先ほど作った「Network セッション1」という名前が確認できる。
これを設定してみたところ、今度はあっさり鳴ってくれた。弾いたのと、実際の発音のタイムラグはほとんど感じられない。感覚的には5msec程度あるかどうかといったところで、実用上まったく問題ない。
Mac miniの入力はUSBキーボード「PCR-30」に設定 | PowerMacの出力にMIDI音源「SD-90」を接続 | 入力のMIDIインターフェイスに「Network セッション1」が表示された |
しかし、SD-90が鳴らなかったことが、どうも釈然としない。いろいろやってみても、わからなかったため、Appleに問い合わせたところ、「Mac miniでシーケンサを動かして、MIDIトラックを再生すれば、SD-90が鳴るはず」との回答が得られた。その通り試してみたら、ようやく動いてくれた。なるほど、リアルタイム入力と、シーケンサの出力にはドライバの扱いの差があるようだ。
次にPowerMacでCubase SXを起動し、そのMIDIトラックの出力先に「セッション1」を設定してみた。その結果、みごとにMac miniに接続されたUSBキーボードを弾くと、同じくMac miniに接続したSD-90がなってくれる。あまり意味はないが、目の前の音源を鳴らすのに、一旦ネットワークを介し、MIDI信号が往復しているわけだ。が、それでもレイテンシーは10msecない感じなので、MIDIケーブルを使うのとほとんど差はない。
なお、先ほどのセッションを作る画面にあった、MIDIのレイテンシーを設定する項目を用いることで、レイテンシーの調整できる。リアルタイム演奏に対しては、レイテンシーを縮める効果はないが、シーケンスデータに対してなら、レイテンシーをマイナスにすることだって可能なのだ。
それはAudioUnitとして搭載されており、オーディオの送り元がAUNetSend、届き先がAUNetReceiveとなる。AUNetSendは、AudioUnitのエフェクトとして搭載されているため、GarageBandなどで確認することができる。一方、AUNetReciveについては、Tiger登場のタイミングで新たに導入されたAudioUnitのGeneratorというタイプのデバイスとなっているため、まだ対応しているアプリケーション自体が少ない。
AUNetSend | AUNetReceive |
Instrumentのようなものではあるが、やや異なるため、手元にあったLogic 7.01では対応していなかった。7.1だと対応しているのかもしれないが、アップデートキットを入手していないので今のところ確認できていない。
では、そのGeneratorに対応しているアプリケーションはと探してみたところ、オンラインソフトであるAudio HiJack Proが対応していた。これは、アプリケーションの出す音をキャプチャするアプリケーションなのだが、それでAUNetRecieveを試してみたところ、GarageBandの音をあっさり受信することができた。感覚的には10~20msec程度のレイテンシーがあるようにも思えたが、GarageBandをキーボードで弾いた音がリアルタイムに出てくるのは面白い。
あまったMacがあれば、そこでソフトシンセを鳴らすことができるメリットはあるが、ホストアプリケーションがまだほとんど対応していない状況を考えると、今のところはVST System LinkやFX Teleportのほうが実用的かもしれない。
とはいえ、Apple純正の仕組みということで、今後各種ソフトが対応してくると、非常に面白くなる。もし、可能であれば、このMIDIやオーディオのプロトコルが公開され、Windowsでも利用可能になったりすると、さらに世界は広がるので、今後の取り組みに期待したい。
【お詫びと訂正】記事初出時、オーディオデータをLAN上でやり取りできないとの記述がありましたが、実際には行なえます。お詫びして訂正します。
□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□Mac OS X 10.4 “Tiger”
http://www.apple.com/jp/macosx/
□関連記事
【4月13日】アップル、Mac OS X 10.4 "Tiger"を29日発売(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0413/apple.htm
(2005年5月30日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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