~ 「DV-RA1000」でDSD録音は浸透するか? ~ |
DV-RA1000 |
以前から気になっていて、一度触ってみたいと思っていたのが3月に発売された、TASCAMのDSD対応レコーダ「DV-RA1000」。
個人的にはDSDのレコーダに触れるのは初めてだが、このDV-RA1000がどんなもので、何ができるのか、そして今後の発展性なども含めてレポートする。
最近よく話題になっていたのが、3月にTASCAMが発表した「DV-RA1000」というデジタルレコーダ。2Uのラックマウントタイプの機材だが、いわゆるDAWなどとは異なり、2chの入出力にターゲットを絞ったオーディオ機器。最大の特徴はなんといってもDSD(Direct Stream Digital)方式に対応したレコーダである、ということだ。
DSDについて、ここで詳しく紹介しないが、簡単にいえばSACDに採用されているオーディオの仕組みであり、CDやDVD-Audioをはじめ、デジタルレコーディング方式の標準といえるPCM方式とはまったく異なる。「1bitオーディオ」などとも呼ばれている。
これまで、DSDのレコーダというと、Pyramixシステムなど完全な業務用の機材で、一般の人の手の届くレベルのものではないというイメージが強かった。確かにTASCAMでは、比較的安い機材として、「DS-D98」というHi-8に録音するDSD対応の機材を出していたが、それでも1,260,000円とかなり高価だった。
それが今回、189,000円と一気に下がって登場したのだから、革命的ともいえるほどのインパクトだ。DSDでのレコーディングというものに興味を持っている人なら、誰でも気になる存在である。
ただし、このDV-RA1000でSACDが焼けるというわけではない。単にDSDでレコーディングしたものをデータとしてDVD+RWに記録できる、というだけだ。もちろん、そのDVD+RWはDV-RA1000自身で再生できるが、現時点においては、それ以外に再生させる術はない。そう聞いた途端に、興味を失ってしまう人もいるかもしれない。実際、周りでも「面白そうではあるけど、で、どうすんの? 」という反応が多い。
実際に触るまでは、「借りたはいいけど、単に録音できました、再生できました、では記事にならないのでは……」といった不安もあったが、触ってみるとなかなか面白い機材であることがわかってきた。
まず、このDV-RA1000という機材を使っていく上で重要になるのが、記録メディアだ。具体的にはCD系としてCD-RとCD-RW、DVD系としてDVD+RWに対応しているのだが、CD-R/RWを入れるか、DVD+RWを入れるかによって、動作が大きく変わってくる。まずCD-R/RWの場合だが、これは普通の音楽CDレコーダとほぼ同等のものといってもいいだろう。つまり16bit/44.1kHzのPCMで、入力端子から入ってきたものを、そのまま記録し、音楽CDを作成できる。
コピープロテクトの形式も選択可能 |
ただし業務用機ということで、一般の音楽CDレコーダと比較すると、いろいろと自由度はある。まず、そのメディアだが、いわゆる「音楽用」と呼ばれる私的録音・録画補償金制度に対応したメディアである必要はない。ごく普通のPC用のCD-R/RWメディアにそのまま音楽を録音することができる。それは、アナログ入力の場合はもちろん、デジタル入力においても同様だ。
さらにSCMS(シリアル・コピー・マネジメント・システム)についても、コピーを禁止しないFree、1世代まで可能とする1GENERATION、コピー禁止のPROHIBITという3つのモードが、どれを選択するかによって、できあがるCDのコピープロテクトモードが変わってくる。
また、録音時にエフェクトを掛けることができるのも、DV-RA1000の特徴。イコライザ系のエフェクトと、ダイナミックス系のエフェクトがそれぞれ用意されており、掛け録りができる。また、デジタル入力で、分解能が24bitのデータの場合、ディザリング機能をオンにしてCDを焼くことができるなどかなり業務用の雰囲気の味わえる機材となっている。
録音時にエフェクトを掛けられる | イコライザ系のエフェクト | ダイナミックス系のエフェクト |
さて、ここからが本題。DVD+RWを入れると、CDの場合とはだいぶ異なり、本当に単なる記録メディアとして機能し、実際に録音する前に、Projectというものを作っておく必要がある。このProjectを作るにあたって決めなくてはならないのが録音のフォーマット。DV-RA1000はDSDのレコーダではあるが、それと同時にPCMのレコーダでもあり、どのモードで動作をさせるかここで決める必要がある。具体的な選択肢は以下の7種類だ。
DSDに興味を引かれるが、DVD-Audioの最高レベルと同等の24bit/192kHzにも対応しているのが気になるところ。なお、1つのディスク内に複数のProjectを作ることは可能で、それぞれのProjectによって異なるモードを設定しても構わない。
ここで1つProjectを作成すると、あとは簡単。普通にテープレコーダと同様の要領で録音ボタンを押して録音するだけだ。1回目の録音でトラック1、2回目でトラック2……と、そのProject内に複数のトラックを作っていくことができる。そして再生ボタンを押せば、いま録音したものを再生することができるので、とっても簡単に使える。
背面 |
リアパネルを見るとわかるとおり、アナログ入力はアンバランスのRCA端子とバランスのキャノン端子がステレオで用意されており、どちらかを切り替えて使う。また、PCMのデジタル入力においてはAES/EBUとS/PDIFのコアキシャルのそれぞれがある。さらにワードクロックシンクなども用意されている。
ProjectをDSDにした場合でも、アナログ入力をする際には、PCMの場合と同様で、単に録音すればいいだけだ。今回は音質の評価などはしないが、実際DV-RA1000で録音して、ヘッドフォンでモニタしてみる限り、非常にピュアなサウンドだ。24bit/192kHzと比較して違いがわかるかといわれると、どっちも変わらないというのが正直なところだが、とにかくDSDで録音できるというだけで嬉しい。
PCM/DSDのモードはLEDで表示する |
ちなみに、現在がPCMのモードなのか、DSDのモードなのかは、LEDを見ればすぐに確認できるが、どちらのモードかによってその動作は何点か異なってくる。まずデジタル入出力端子について。前述のとおり、PCMの場合はAES/EBUかS/PDIFとなるが、DSDの場合はDSD専用のデジタル端子、SDIF-3が用いられる。現状この接続先の機材を持っている人は少ないと思うが、将来的には、いろいろ使える可能性も出てくる。
また、DSDの場合は、このように接続して、録音・再生ができるということだけだが、PCMの場合は前述のエフェクトを利用できたり、フェードイン/アウトがあったりと、いろいろな機能がある。こうした機能が使いたければ、PCMを使うほかはない。
ところで以前、ソニーのDSDチップとASIO 2.1ドライバについてのインタビューをした際に、DSDの処理には非常にパワーが必要という話があった。このDV-RA1000にエフェクトがないのは、やはりそれをリアルタイム処理するだけのパワーがないことや、そもそもDSD用のエフェクトのプログラムライブラリ自体がなかったためなのかもしれない……。
ここまでの操作は主に、付属のリモコンを使って行なう。リモコンといっても、普通のテレビやオーディオ機器のように無線でのリモコンではなく、有線のリモコン。そもそも、それほど複雑な操作があるわけではないので、これで快適に操作できる。
ただし、Project名の入力やトラック名の入力となると、さすがにこれでは入力しづらい。入力方式が携帯電話互換であれば、多少は入力しやすいかもしれないが、独自方式なので、かなり大変。そんなときに便利なのが、フロントパネル右下にあるKEYBOARD端子。ここにPCのPS/2キーボードを接続すれば、普通にキーボードで文字の入力ができる。
リモコンは有線 | PCキーボード入力用のPS/2端子を前面に搭載 |
さらに、DV-RA1000にはUSB端子が搭載されており、メインメニューをUSBモードにすると、PCとDV-RA1000間がUSB 2.0で接続され、お互いやり取りが可能となる。といっても複雑なことをしているわけではなく、DV-RA1000のCD/DVDドライブをUSBマスストレージとして見えるようにしているだけだ。
PCとUSB接続すれば、USBマスストレージとして認識される |
作ったProjectがフォルダとなって表示された |
DVD+RWにどのように書き込まれているのか、ルートディレクトリを見てみると、先ほど作ったProjectがフォルダとなって並んでいる。Projectをリネームしていると、このフォルダ名が変わるようになっていた。
この例ではProject_01とProject_02がDSD、Project_03が24bit/44.1kHz、Project_04が24bit/48kHz、Project_05が24bit/96kHzとなっているのだが、まずPCM側から覗いてみた。
フォルダ内に作成されたWAVファイル |
Project_04の場合、3回の録音を行なったためトラックが3つできているはずだが、フォルダの中身を見ると、WAVファイルが3つあり、Windowsでそのまま読めるWAVファイルになっていた。
マニュアルによると、正確には単なるWAVではなくBWF(Broadcast Wave File)と呼ばれる放送局などの業務用のレコーダなどに使われているフォーマットで、開始時刻、制作者名、コメントなどの付加情報が記録できるようになっているもの。
24bitであるため、Windows Media Playerではそのまま再生させることは難しいが、DAWや波形編集ソフトなら、そのまま読み込んで再生させることができた。
DSD記録の場合、DSDIFF_file3.dffというファイルが作成された |
気になるDSDのほうはというと、「DSDIFF_file3.dff」という見慣れない拡張子のファイルが存在している。これが、DSDのファイル形式のようなのだが、調べてみるとこのDSDIFFというファイル形式はソニーとフィリップスによって規定されているもので、公開されているもの。ソニーにASIO 2.1のインタビューをした際にもDSDIFFへの対応も検討しているという話だった。
現状においては、このファイルはDV-RA1000でしか再生できないが、今後、広がる可能性はあるし、ファイル形式を見る限り、それなりにオープンな規格にのっとった仕様になっているようである。
ちなみに、このDSDIFFの時間に対するファイルサイズだが、PCMと比較するとわかりやすいので、参考のために以下に紹介しておこう。ここに掲載したのは1枚のDVD+RWに収録できる長さ(単位は分)。もちろんPCMはすべて24bitだ。
これを見る限り、DSDIFFはファイルサイズ的にPCMの96kHzよりやや大きい程度。一方で、一般にDSDの音質は24bit/192kHz程度もしくはそれ以上という説を信じるならば、記録の効率はよさそうだ。
今後、VAIOのDSD対応モデルなどが出てくると、DSD環境も大きく変わってくるかもしれない。現時点ではあまり現実的ではないが、DSDを使ったオーディオの将来像というのが描けないことはない。つまり、市販の音源のメディアはSACD、一般ユーザーが録音するメディアはDVD+RWなどのDVDメディア、そして、その双方を再生できるプレイヤーが広く普及するというシナリオだ。
さらに、DVDで記録したものをプレス会社に持っていけばSACD化でき、そのSACDのプロテクトは完璧で、コピーなどはできないようになっている……という世界である。
本当はPCでSACD再生ができるドライブが登場し、DSD対応のオーディオインターフェイスなどがいろいろ出てくるともっと面白いのだが、これからどうなってくるのだろうか? すぐにDV-RA1000の競合になるようなものが登場するとは思えないが、まずはソニーがVAIOをどのように仕立てて製品を出してくるのか期待したい。
□ティアックのホームページ
http://www.teac.co.jp/
□TASCAMのホームページ
http://www.teac.co.jp/tascam/
□製品情報
http://www.teac.co.jp/tascam/products/dvra1000/index.html
□関連記事
【3月3日】ティアック、DSD録音が可能なDVD+RWオーディオレコーダ
-189,000円。SACDやDVDオーディオマスタリング向け
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050303/teac.htm
【5月9日】【DAL】第189回:ASIO 2.1がSACDのフォーマット「DSD」に対応
~ 対応チップ搭載VAIOで、DSDという選択肢を提供 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050509/dal189.htm
(2005年6月20日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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